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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
A,C, 3■/03/■■ 家族に送るのです
933/934

A,C, 3■/03/■■ 



 深い”森”の奥深く。赤い髪を長く伸ばした少女が歩いている。その少女は、一冊の本を見つけた。


「なんだろ、これ。何か古い」


 少女はそれを持ち上げると、ぱらぱらと捲る。そして最後のページに挟まれたある物を見て、納得といった表情で冊子を閉じ、”森”を後にした。



「お母さん」


 少女は赤い髪の女性に冊子を渡した。


「どうしたの? 四花(よつば)

「森でひろった」

「入れたの?」

「うん」


 四花と呼ばれた少女が森に入れた事が不思議みたいだ。あの森に入れるのは、()()だけのはずなのだが。


「写真入ってた」

「え?」


 女性が写真を見つけ、手に取る。そして直に電話をして、家中駆け回った。


「お母さん!」

「どうしたの、()()。もう年なんですから、落ち着きを」

「立花から手紙……日記が!」


 落ち着きを、と言っておきながら、()()も勢い良く立ち上がった。年を感じさせない動きだが、昔の様なキレは、さすがにない。


「ねぇねぇ、お母さん、お祖母さん」

「なぁに、四花」


 壱花が四花の頭を撫でる。可愛くて仕方ないのだろう。頬が綻んでいる。


「その写真の真ん中って」

「ええ……貴女の――お姉ちゃんよ」



 武人や七花、椿と久由里も呼んで、十花は日記を一ページずつ捲っていく。


 写真には笑顔でピースを作る、少し大人になったリツカ。リツカの隣で慈しむような表情を向け、手を握り、指を絡めている白銀の少女。そしてその周りを大勢の友人達が囲んでいた。


 写真の中のリツカは凄く幸せそうで、向こうの世界に行かせた事は正しかったと――十花達は微笑む。


「良い笑顔……」

「行かせて、良かった」

「ふーん。これがお姉ちゃんなんだ。会ってみたくなっちゃった」

「きっと立花も、そう思ってるよ」

「立花から手紙が来たって!?」


 六花家はリツカが笑顔な事に、ただただ安堵する。向こうに居場所があるどころか、中心人物。皆が皆、リツカを大切にしている事が写真から伝わってくるのだ。


「何か寂しい気持ちになりますね……」

「隣が六花先輩の……先輩じゃ勝てませんね」

「あんたもでしょ」

「椿さんと久由里さん、お姉ちゃんの事好きだったんですか?」

「今も好きよ。友達としてね」

「そう! 友達として!」


 冗談めかして、椿と久由里が話している。四花は椿に懐いているのか、膝の上に座って一緒に写真を見ている。まるでリツカの生き写しな四花だが、そういった事は関係なく椿達は四花にデレデレなのだ。


 十花が日記を流して読んでいくと、最後のページには最近書かれた形跡があった。きっとこのページから、読んで欲しいのだろう。




 ――これがちゃんと届いているか、私には知る事が出来ません。

 でも多分、上手くいったと思っています。


 お元気でお過ごしでしょうか。私は病の後遺症もなく、健康に毎日を”巫女”として過ごしています。ある条件を満たせば”森”を出られるようになったので、祭典なんかの時は旅行に行ったりも出来ています。


 お母さん達は、どうでしょう。神さまから妹が生まれたとお聞きしました。妹は姉が居るとは知らないかもしれませんが、よろしくお伝え下さい。


 椿はバスケを頑張っているでしょうか。久由里さんが居るかは分かりませんが、椿と仲良くやっているでしょうか。


 色々と話したい事は多くありますけれど、近況として私の友人達から紹介からしようと思います。お母さん達には話した事があると思いますけれど、写真を見ながら読んでみてください。


 右下段に居るのが、ライゼさん、アンネさん、レイメイさん、アーデさんです。ライゼさんとアンネさん。レイメイさんとアーデさんが夫婦です。ライゼさんは一時期皇国の大使館勤めでしたけど、今は国防機関に勤めています。マリスタザリアが出没すると出動ですけど、こっそりと私達が処理しているので、主な出動は人命救助らしいです。あれ程私達が、自分の為に生きろと言ったのに、頑固な人なのです。


 レイメイさんは道場の師範兼選任冒険者のトップです。今では多くの門下生が卒業し、冒険者や防衛班の生存率向上に繋がっているとの事でした。本人はそんなつもりはねぇってしかめっ面でしたけど、昔のレイメイさんを知る私達にはわかります。あれは照れ隠しです。


 レイメイさんもこっそり、ライゼさんが戦わなくて良いように裏で動いているらしいです。素直じゃない所は、一生治らないのでしょう。


 夫婦仲は聞いてませんけど、見た限り仲良すぎなくらいです。ただ、そんな二組から見れば、私達の仲の方が見ていて恥ずかしいとの事でした。


 失礼な話です。手を繋いで歩いているだけの時に言われました。そんな私達を助けてくれるのはいつだってシーアさんです。


 シーアさんは後程、ある人物の時に話そうと思います。その時の事を思い出すと、私は今でも驚いてしまいます。アリスは最初から、知っていたそうです。


 私が鈍感になったの、きっとお母さんと椿の所為です! 妹ちゃんにはしっかりとした教育をするのをお勧めします!


 こほん。


 次は右上段。リタさん、ロミーさん、ラヘルさんです。向こうの世界で出来た、友人です。


 リタさんは学校の先生、ラヘルさんは雑貨屋の店主となりました。ロミーさんは変わらずお花屋さんですけれど、王都のロミルダと言えば、王国中で通じる名前となっています。


 リタさんも良く生徒達と、王都や周辺の町へ課外授業に出ているそうです。自然や人、町や動物との触れ合いを大事にしています。リタさんに教えられた子達はきっと、どんな業界でも一線で働けると思います。


 ラヘルさんは各町に支店をオープンしたらしく、順調に売上を伸ばしているとの事です。私達”巫女”のグッズを売っていると聞いているので、確認したいところではあります。


 三人とは良く、集落でお茶をしています。後に紹介するエリスさんと一緒に、お花談義なんかをしています。


 その隣に居るのが、クランナちゃんとカルメさん、セルブロさんです。カルメさんは皇国大使館の大使ですけど、王国の為に日々王国中を駆け回っているそうです。その付き添いに、セルブロさんとクランナちゃんが付いて行っています。


 カルメさんは集落に寄る度に、アリスと少し睨み合う事が多いです。理由は教えてくれないのですけど、その間にクランナちゃんとお茶を飲むのが通例となっています。セルブロさんは集落に来ても給仕をしてくれて、もっと休むべきと思ってしまうのです。


 大使館勤めですけど、その分集落に来れる回数が多いです。他の方達の近況も、三人から聞く事も多かったりします。今日もこの後、寄ると聞いています。一番初めに、お母さん達に日記を出せた事を報告出来そうです。


 次はツルカさんとクラウちゃんです。教会勤めで、私達と一番関わりが深い人達となっています。外回りは殆ど出来ないので直接会う事は少ないですけど、行事等の話し合いなんかで週に一回は声を聞けます。


 クラウちゃんはどんどんシスターっぽくなっています。でも、私達の前では幼き頃同様に、無邪気で純粋な笑顔を見せてくれます。


 あ、でもこれは皆一緒です、ね。皆会った頃と変わらないです。


 ただ最近、ツルカさんとクラウちゃんが疲れています。神誕祭が近いとはいえ、節目という事もあって気合の入り方が別格みたいです。


 何かお手伝いは出来るか、と尋ねると、クラウちゃんは膝枕が良いとの事でした。アリスと私で膝枕をしましたけれど、クラウちゃんは堪能する暇もなく寝てしまいました。


 ツルカさんが言うには、本当に頑張りすぎて心配だった、と。

 ツルカさんも疲れているように見えたので、その日は私達で労う事にしました。


 何れは集落の方で過ごしたいとの事だったので、今のうちに調整をしておこうかなって思っています。


 集落繋がりで、エルケちゃんとエカルトくん。二人は今、王都で勉強中です。少し長めに勉強しているのは、王都の授業形態がそちらの世界に近づいたからです。所謂大学制度が出来ました。エルケちゃんは今、魔法医療を専攻しています。


 外科は問題ないのですが、この世界で内科は非常に難しい問題となっています。それを解決しようとしているのが、エルケちゃんです。エカルトくんも何れはその道にいくそうで、アリスに教えを請いながら首席で卒業出来そうとの事でした。


 この世界の未来は明るいです。どんどん若い世代が、世界を変えるために動いています。私もその一部として、頑張りたいって思うのです。


 次はフロンさんエレンさん、カルメリタさんです。実はこの事を、私達は一番驚いているかもしれません。


 皇女を退いた後カルメリタさんは何と、オペラ歌手になりました。まだまだ主役級ではないようですけど、めきめきと腕を上げているとエレンさんから連絡を貰いました。


 今でも”巫女”物語は月にニ回は開催して、超絶満員を記録しているそうです。カルメリタさんはその中で王女役をしていると聞きました。元皇女の王女なんて、ずるいと思います。だって本物ですから!


 今度神誕祭の後に皆で見に行く予定になっています。カルラさんとカルメさんは特に楽しみにしていて、私達も心が踊っています。でも自分達を題材にしたオペラを見るのは、やっぱり恥ずかしいって思ってしまいます。でも今なら、懐かしむ気持ちで見れるかも?


 そのカルラさんですけど、今では皇女になっています。歴代最年少の皇女にして、世界平和を大きく進ませた立役者。そして、皇家のシステムを破壊した人物として、王国の教科書にも乗るそうです。


 皇家の、戦争システムをなくしたそうです。継承については選挙制にするそうです。しばらくはカルラさんのままと思いますけど。


 そんなカルラさんの傍には、私達の妹でもあるシーアさんが居ます。これはオフレコ、身内だけの秘密なのですけど、あの二人も結ばれているそうです。全然気付かなかった。私てっきり、仲の良い姉妹って思ってました。


 何故か私達と張り合おうとします。でも大抵負けたという表情を浮かべています。多分、じゃれ合う口実なのだと思います。


 クラウちゃんがカルラさんにすっごく嫉妬してたので、もしかしたらクラウちゃんも、シーアさんの事を? 今の子供は、進んでるんだなぁって、あの時は思いました。


 シーアさんとカルラさん、すごく良いコンビです。シーアさんがアリスに何か相談していましたけれど、その時私はカルラさんとじっと二人を見てたりします。お互い嫉妬してしまってるんですね。


 その相談内容は、今も教えてもらえてません。何でも夜に関して、らしいです。枕が合わないのでしょうか。シーアさんは本を枕に眠れていたので、そんな事はないと思います、けど。


 皇国住みという事で、二人とは余り会えていません。だけど会うたびに、シーアさんとは一緒の家で寝泊りしています。カルラさんも当然ですけど、エルさんやカルメさんも一緒です。そうなってくるとクラウちゃんやクランナちゃんも参加して、と連鎖的な女子会となるのですけど。


 私達の妹は今も、世界を代表する魔女。私達姉の自慢です。


 姉筆頭のエルさんは、コルメンスさんと共に今も国王として二国を引っ張っています。三国同盟は今や国連に形を変え、二人とカルラさんは議長の椅子に座っています。今の所問題はないそうですけど、今が一番気が緩む時だから、と引き締めを図っているそう。


 今度の神誕祭後、私達にも国連に参加して欲しいとお願いされました。一国の政治に利用されるのではなく、世界に今一度、”巫女”の光をとの事でした。


 世界平和の為なら、何よりエルさんとコルメンスさんのお願いならば聞くつもりです。

 結婚式で私が間違えた事、今でも弄られています。あはは……。


 エリスさんとゲルハルトさんは、私達の隣の家に住んでいます。今も週に三回は一緒の食卓を囲みます。


 お義母さんとお義父さんと呼ぶと喜ばれます。でも私は今でも偶に、エリスさんゲルハルトさんと呼んでしまいます。


 二人共、お母さんとお父さんと話したいと言っていました。私達の両親なので、お母さん達にも二人の事を知っていて欲しいです。


 何とか二人の手紙をこちらに送れないか、考え中です。


 普段は仲が良いアリスとエリスさんですけど、私の事……? になると喧嘩をしてしまいます。所謂仲の良い喧嘩ですけど、エリスさんが私を抱き締めて、アリスが怒る。こういった流れです。


 様々なパターンでアリスを刺激します。嫉妬して私を取り上げようとするアリスが可愛いので、エリスさんには目配せでお礼を言ったり。


 それがバレてこの前の夜、アリスに激し……■■■■。


 皆も色々と思う所があるかもしれないですけど、神さまもちゃんと一緒に住んでいます。普段は”森”の中ですけど、皆が集まる時には集落に出てきます。


 昔は遠目に見たり、ちょっと撫でてみたりで控えめだったのですけど、私達から人間という物を学んでからは、その……はっちゃけだしました。

 でも正直、今の方が好きです。神さまも私達の親なんだって感じです。


 この日記も、神さまのお陰で送れたと思います。


 沢山の親、姉妹、友人に囲まれて、毎日を過ごしています。これも、神さまが私を連れてきてくれたからなのです。


 だから、神さまの事を忘れずに居てほしいと思います。この世界も、お母さん達の世界も、神さまは愛しているんだってことを。


 最後に、私の隣に居るのがアリスです。私の愛する人。私の全て。私が全てを捧げた人。


 綺麗な白銀の髪は月明かりの様に優しく、煌びやかで、赤い瞳はアルマンディンの如く深く私を見詰めてくれます。


 アリスからも伝えたい事があるそうなので、書き記しておきます。


「お義母様、お義父様、お義祖母様。初めまして、アルレスィアと申します。この度、リッカと結ばれる事となりました。結婚式は上げられませんでしたが、皆に祝福していただいた事を、報告させていただきます。事後報告のようで申し訳ございません。


 ですが、リッカを必ず幸せにしてみせます。どうか、ご安心下さい。

 リッカからこの世界の事を聞いているかと思います。不安も多い事でしょう。ですが、リッカの笑顔を守り続ける事を約束します」


 お母さん達も、祝ってくれると、嬉しいです。私は本当に、毎日幸せです。アリスとの日々は、新しい発見の連続です。お母さんや、椿が教えてくれなかった事も教えてもらいました。

 少し大人になれたと思います。


 手紙では私の想いを綴りきれなかったので、日記にしました。この最後のページだけでなく、前のページも読んで欲しいです。私が向こうの世界で生きた証が書かれています。


 お母さん、お父さん、お祖母さん、七花さん、椿、久由里さん。そして、妹ちゃん。私はこちらで幸せな毎日を過ごしています。

 皆も幸せな毎日を送って欲しいと、今でも切に願っています。


 次いつ送れるかは分かりませんが、また送ります。


 それでは、また。




 日記を読み終わった家族達は、涙を流しながらも笑顔を崩さなかった。リツカの幸せを願い送り出したあの日、後悔が渦巻いた。だけどそれも、今日晴れる。


 リツカは幸せを掴んだ。そしてずっと、こちらに手紙を送るために頑張っていた。リツカは今でもちゃんと、自分達の家族なのだ。

 その事が何よりも嬉しい。


 アルレスィアという、素敵な女性と一緒になれて、本当に嬉しい。

 妹や友人、姉や母、父と呼べる者達との絆を感じられて、誇らしい。

 娘の成長を感じられて、寂しくも嬉しい。


 だから十花達は、新しい家族四花と、誰よりも幸せになれる。


 だって家族の絆に、世界の壁なんて薄っぺらなんだから。



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