表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六花立花巫女日記  作者: あんころもち
終幕、私の生きる世界なのです
931/934

約束②



 集落に降り立ったアルレスィア達を、オルテが迎える。エルタナスィアから聞いていたのだろう。つまり、海に寄り道している間もオルテは待っていた。


「申し訳ございません、オルテさん」

「いえ。お二人が再会出来て、嬉しく思います」

「先程は、ごめんなさい。急いでたものですから」

「お気になさらずに。戦闘になったと聞いておりますが……怪我はございませんか?」

「大丈夫です。しっかり治っています」

「良かった……」


 オルテにとっては、”巫女”の健やかな日常が全てだ。リツカが帰ってからのアルレスィアは、昔のアルレスィアよりもずっと塞ぎこんでいた。感情の一切が見えず、只管に”神林”へ通う毎日だったのだ。


 リツカから何かを告げられたのか、結婚式への参加は快諾したが……明らかに無理をしていた。リツカとの想いは繋がっていても、お互い一歩足りなかった所為で気が気ではなかった。


 全ては、リツカの告白を行えなかった所為だ。


「アルツィアさま。居たのですか」

「神さまの気持ちは分かってますけど、焦りすぎじゃないですかね。今でも私、もやもやしたままなんですけど……」


 二人がジト目で私を見ている。 


『いやぁ、すまないね。リツカが消えるかもって思ったら、私も頭がぐちゃぐちゃだったんだ。思いついた事を即決で行ったら、こうなっちゃって』

「殴って良いですか? リッカの戦闘をずっと見て来たのです。私の拳も結構な物ですよ」

『やめておくれ。リツカからも殴られている。初めての経験だったが、痛くてね。泣くという経験も初めてだったんだ』

「では、二度目も同じでしょう」


 結構本気で殴られた気がする。私を殴れる人間は、過去を遡ってもこの二人だけだ。リツカの拳は何だかんだで労わってくれていたが、アルレスィアは止まりそうに無い。何しろアルレスィアは、今もなお混乱状態だからだ。


『そういえば、やけにさっぱりした再会だったね。もっと熱烈なものと』

「私は……リッカに、辛い別れをさせたくなかっただけです……」

「アリスさん、私は……」

「分かって、います。貴女さまと、ご家族の覚悟……。だから私は、貴女さまを絶対に……」


 まずはアルレスィアのもやもやを晴らすしかない。殴られるのはそれからでも遅くない。リツカも気になっている事だ。アルレスィアはあの場で誰よりも冷静に見えた。


 それも全ては、アルレスィアがリツカを深く深く、深く愛しているからだ。リツカが家族と別れた事を、誰よりも悲しんでいる。しかし誰よりも、再び会えた事を喜んでいる。その相反する二つが、アルレスィアを止めたのだ。でも、誰よりも混乱していたのはアルレスィアだ。冷静に見えて冷静ではなかった。


「それに、私が冷静を振舞うしかなかったのは……誰かさまの所為でリッカが変な勘違いをしてしまったからです! 本当は私だって、形振り構わずリッカに抱きつきたかったのに! 他の方達みたいに、リッカともっと触れ合いたかったのに! アルツィアさまがリッカを勘違いさせるから、時間がなくなったんです!!」

『あー……それは、私の言い方も悪かったけど、リツカがあんな勘違いするなんて思わなかったんだ……』

「それも、アルツィアさまがリッカを突き落としたからです! アルツィアさまがリッカの不安を煽りすぎるからです!」

(二人きりで再会を祝いたかったですし、混乱の極みにあって、癖で冷静になるしかなかったんですよ!! ずっと、ずっとずっとずっとずっと……! 今も我慢してるんですよ!!)


 本当は誰よりも、あの場でリツカと触れ合い、語らいたかったのに、状況が許してはくれなかった。何よりアルレスィアも、混乱すればする程、思考が滞れば滞る程、熱くなればなる程、冷静になるように訓練されている。


 その所為でアルレスィアは我慢するしかなかった。リツカも、勘違いで結婚式に水を差してしまった事で、馬鹿騒ぎする事に躊躇いがあったのだ。二人共、自分の感情を押し留めるしかなかった。


「言っておきますけど、”森”には私達だけで入りますからね。アルツィアさまはお留守番です。絶対です。もう我慢出来ません。リッカと二人きりで、最高の再会にするんです。良いですか。湖の前に私達は行きますけれど、もしアルツィアさまを見つけたら私は貴女であっても、容赦なく撃ち落しますからね!!」

『仕方ないね。ここで待つとしよう』


 アルレスィアとリツカからの信頼を取り戻すには、言う事を聞くしかない。二人を裏切り、自分勝手に行動したのだから。アルレスィアの脳内にトラウマの如く、あの時の光景がこびり付いている。私に背を押され、成す術なく湖に落ちるリツカの絶望した顔と、何も出来ずに呆然と見るしか出来なかった自分。

 

「……リッカの体調を考えての事だというのは分かっています。現にリッカは……」


 アルレスィアは私に頭を少し下げ、リッカを抱き上げ”森”に入っていった。


「ですけど、それはそれ、これはこれです。絶対お仕置きしますからね!!」

「オルテさん、ありがとうございました。また後程」

「は、はい」


 もう、アルレスィアの理性は保たない。もうリツカしか見えていない。そんなアルレスィアに代わり、抱き上げられたリツカがオルテに挨拶をする。


 私達は二人を見送る。私が行っても、もうリツカはこちらの住民だ。どんなに私が頑張っても、リツカは異世界転移出来ない。本当は見たいが、罰だ。


『人間に近づいたと思ったけど、まだまだ神の意識が抜けていないな。それは喜ぶべきか、悲しむべきか』


 人とは難しい。合理的な判断だけが全てではないのだ。私は自分の行動に、焦りや雑な部分が多く存在したと反省はしている。だけど間違ったとは思っていない。二人もそれは理解してくれているだろう。


 しかし結局、私は間違っていたのだ。この結果だけ見れば、明らかな間違いだったのだろう。本当に難しい。


『そうか。私は……完璧主義者だったのか』

 

 自分は何も出来ないと自覚している癖に、完璧な結果を求めていたのか。愚かさもここまで極まると、笑いが出る。


『二人を見て、私は何を学んだというのだろう』


 困った時、二人はいつも話し合っていた。行き詰った時、二人は手を取り合って解決しようとしていた。


 私もちゃんと、説明すべきだったのだ。


『ふっ……。二人が帰ってきたら、しっかり謝るとしよう。人間は間違えた時、しっかり謝るのだから』


 私は神だが、二人の親だと思っている。ならば私は、人のルールで生きるべきだ。あんなに怒っているのに、二人ともまだ……私を尊敬してくれている。ならば私からも、その敬意に応えなければ。


 神は少しの間休業だ。神格がないから、どうせ何も出来ない観測者でしかないのだ。だったら少し、アルレスィアとリツカから人を学ぶとしよう。


 神だから人間ではないと、線を引いていたのは誰でもない、私だ。悔い、改める。私の懺悔を始めよう――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ