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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
8日目、剣士としての誇りなのです?
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二人のバイト生活②



 私もこれを着て、診察しなければいけないのですか? 


「ええ、カフェの宣伝にもなりますので」


 支配人さんが笑顔で応えます。


「私は、着れませんよ? ”光”の魔法はローブと木刀が必要なんです」


 支配人さんが残念そうです。


「そうなのですか……。では、アルレスィア様だけでも」


 アリスさんが何かを思いついたようです。でもその顔は、神さまが悪戯を思い浮かんだ時とそっくりです。


「リッカさま。私の”光の槍”は確かに見た目は衝撃的なものになります。ですけどその分遠距離で狙えます。痛みもありません。リッカさまの場合はどうしても痛みはありますし、木刀を持ったままでは、見た目の衝撃は私より強いかと」


 この流れは、まずいです。すごく、アリスさんが活き活きとしています。


「リッカさまが私を慮って、やると言ったのはわかっております。ですけど、私も”巫女”。ご安心ください。それに」


 アリスさんは必殺の言葉を唱えます。


「リッカさまが、守ってくださいますから」


 満面の笑みです。確かにローブがなくても、私は魔法なしの徒手空拳で相手を制圧できます。


「リッカさま。さぁ、こちらを着てください」


 アリスさんもやっと、私に遠慮なく言ってくれるようになりましたね。この場面でなかったら、嬉しくて抱きしめてましたよ。


 それでもアリスさんには逆らえない私は、着替えるのでした。



 結局、アリスさんが三人ずつ診察、負の感情を感じれば”光の槍”を放つ、という形になりました。


 健康体であれば無傷。悪意があれば浄化、その後無傷で帰宅。ええ、私がやるより効率がよく、後味も悪くなりません。


 ですけど……。


「リッカさまっかわいいですっ!」

「そう、かな」


 今私は、メイド服をきています。顔が火照っていきます。


 普段アップに結ばれたポニーテールはおろされ、肩甲骨辺りまで髪が垂れています。普段あげてるので、落ち着きません。うなじがくすぐったいです。ヘッドドレスというものも手渡されました。このレースのリボンに、何か機能はあるのでしょうか。


 スカートは短いほうを渡されました。アリスさんから、渡されました。


 まぁ私は、足を出すのに抵抗はないのです。学校のスカートはこれよりも短いくらいですから。でも……スカートを着用するのは、制服以外では初めてです。


 靴、ピンヒールなんて初めて履きました。世界が、高い! たった五センチでこの変化!


 鏡を見ると、普通に女の子してますね。こういうのに憧れはありましたけど……どうなんですかね。何でこんなにフリルやリボン、レースが……?


 アリスさんからは好評ですけれど、ここまではっきりと可愛いなんていわれては、恥ずかしいです。


「よく似合っております」


 支配人さんが頷いています。これ……支配人さんの趣味? へんたいさんですね。アリスさんに近づけないように今後気をつけます。


「……大変、不名誉な視線を感じますが。では、開店しましょう」


 いきなりですか。まだ心の準備が――。


「ちっ……いつまで待たせんだよ!!」

「ちょっと、巫女様がわざわざ診てくれるのになんだいその言い草は!?」

「はやく帰りてぇんだが」


 早速、『感染者』候補がやってきました。これでもまだ、候補な辺り、本当に厄介です。


「お待たせして申し訳ございません。”巫女”アルレスィア・ソレ・クレイドルです。すぐに終わりますので。どうかご安心を」


 そう言ってアリスさんの魔力が瞳とローブの紋様を銀色に煌かせます。


私に光(【フラス・ラン)の槍を(ツ】・イグナス)!」

「うっ――」

「きゃっ」


 アリスさんの光の槍が、候補者を貫きました。


 どうやら、三人とも汚染されていたようです。黒い魔力が流れていきます。


「ご安心を、痛みはありません。お気分はいかがでしょう」


 アリスさんが三人へ尋ねます。


「……なんか、スッキリしました」

「私も」

「俺も……」


 こうやって、浄化は順調に進んでいきます。列を見れば、四百人程でしょうか。すでに並んでいます。


 いくらアリスさんでも、百回を超える発動は無理です。キリがいいところで私もやりましょう。いくら見た目が悪くなるとはいえ、アリスさんに無茶はさせられません。


「さぁ、ロクハナ様。こちらもお客がきていますよ」


 その声に、アリスさんから目を離し、後ろを向きます。意識は常にアリスさん側です。私がアリスさんから意識を離す事は、そうありません。


「――」

「……」

「――」


 すでに、席が埋まっていました。ぼーっとアリスさんを眺めていたのは否定しませんけれど、そんなに睨まなくても……。


「も、もうしわけございません。すぐに対応します」


 走って、対応に追われます。


 スカートがたなびくたびに、周りがざわつきます。やけに注文が多く右へ左へ走らされています。


(結構、鍛えられるかも)


 と、考えるあたり、私は女の子にはなれそうにないですね。


「お待たせしました。珈琲とワッフルのお客様」


 注文の品を持っていくと、顔をまじまじと見られます。神さま曰くこの国では居ない珍しい髪色ですし、顔もこの国では見ない感じですし、仕方ないとはいえ見過ぎではないでしょうか。


 劣情関係の視線が刺さります。まぁ、気にしませんけど。この視線はよく受けていました。


 襲い掛かってきたら、投げるだけです。



「支配人さん、この服みたいなのって、珍しいんですか」


 少し余裕が出来たので、質問します。余裕とはいっても、一人一人の滞在時間が長いだけなのです。この休憩所にも行列が出来ていますから。


「いえ。この王都ではそこまで珍しいものではありませんよ。嗜好品店や娯楽施設の店員は似たような格好ですし、じわじわと若者を中心に服の露出は増えています」


 ふむ、じゃあそんなに珍しいものでもないんですね。それならそんなにざわつかなくてもいいのに。


 スカートなんて学校の制服だけですし、良く分かりませんね。


「老婆心ながら。ロクハナ様はもう少し、自身の容姿に自覚と自信を持つべきです。そのままではいずれ困ったことに……」


 支配人さんが少し私を心配するように声をかけます。


「んー、自信と言われましても。私、そういった話一切ありませんでしたから」


 私は女子校にずっと居ましたからね。私の知る男性って、父と道場の門下生くらいなんですよ。


 女子高ではまぁ、ファンみたいなのは居ましたけど、ヒーロー的な扱いだったからであってですね。容姿に自信と言われましても、そういった事には余り興味がないのです。


「リッカさま」


 そんな話しをしているとアリスさんが来ました。


「少し、お水をいただけませんか?」


 言葉を発している以上喉が渇きます。


「うん、今もっていくね」


 水を持ち、アリスさんのほうへ向かいます。


 アリスさんは少し汗をかき、色気が……ええ、色気が少し出ていました。


「どうなさいました? リッカさま」


 アリスさんが無邪気に首をかしげます。色気と無邪気のギャップが私の()()を呼び起こし――。


「っ――!」


 私は、予想通り後ろ側に転びます。慣れないヒールなんか履いていたせいかもしれませんけれど。


(あぁぁぁもうっ!)

「リ、リッカさまっ!?」


 転げないように粘った所為か、手に持っていた水をかぶってしまいました。


「「「――!」」」」


 店内から動揺やら歓喜やら、熱狂が伝わってきます。なんですかそれは。確かに水を自分に掛けてしまいましたけど、酷いですよ。お笑いをやっている訳じゃないんです。


「リッカさま! お怪我はありませんか? 足を挫いたりは……」


 アリスさんが抱き留めてくれたので転びはしませんでしたけど、びしょ濡れですね。何か、”神林”のあの時を思い出します。


 店内からブーイングがおきてますけど……そのブーイングの感情、なんか覚えがあります。どこだっけ……道場?


 アリスさんにやってるとしたら、怒りますよ?


「うん、ありがと。大丈夫だよ」


 少し恥ずかしくなって顔が赤くなります。


「ごめんね、また水入れなおすから」


 今度はこぼさないように気をつけ、なんとか渡せました。


 今回はヒールだったせいですね。これからはヒールにも慣れないといけない……って私ポンコツすぎでは? 運動神経抜群という自己評価に訂正を入れようか迷います。


「アリスさん、そろそろ変わろうか。半分くらいでしょ?」


 そう提案します。


 しかし、アリスさんは渋るように何かをつぶやいています。


「……このまま、リッカさまが給仕を続けては、男性達から……支配人さんにも、服の素材を変えて貰うようにお願いを……わかりました。お願いできますか?」

「ん? うん、任せて!」


 私の特性上、”光”の練習を実戦でする機会がありませんからね。こういった所で練習出来るなら、しておきたいです。


「しかし、残りの方は痛みを……」


 アリスさんの心配も尤もです。


「んー、一応痛みが残らないようには気をつけるけど……ちょっと我慢してもらうよ。アリスさんが倒れちゃったら嫌だし」

「――はい。リッカさま」


 アリスさんは少し頬を染め、了承してくれました。

 

 そして、二人で着替えに向かいます。私の所為でまた、アリスさんまで濡れてしまいましたからね。



「巫女あるれしーあに変わり、ロクハナが努めさせていただきます。未熟ゆえ多少痛みがあるかと思いますがご了承ください」


 私の”光”の魔法は持続できるので、消費はほとんどありません。この点だけは、アリスさんよりは良いですね。本当にこの点だけです。


私の掌に(【フラス・パルム】・)光を(イグナス)


 左手に木刀を持ち、右掌を対象の腹に当てます。本来は鳩尾ですが、そこだと、悶絶しますので。


「な、なんだ」


 距離が近いせいか、困惑されてしまいます。


「ご安心を、一瞬です」

「――シッ!」


 ドッと音だけは大きく響きます。


「フっ!?」


 男性の息がもれます。


「いかがでしょう?」


 痛みは、ほとんどないはずです。


「あ、ああ。楽にはなりゃしたが……痛みはちょいありますぜ……」

(ですよね)

「申し訳ございません。かといってこの数を一人に任せるわけにはいかないもので……」


 アリスさんに全部任せてたら、アリスさん倒れちゃう。


「いえ……巫女様が謝ることじゃないです。巫女様がいなけりゃ、俺たち……」


 いい人でよかったです。


「……ありがとうございます。――では次の方を」


 こうして初日の分を終える頃には、昼過ぎになっていました。


 

馬鹿っぽい話しを入れてみたかった、後悔はしてます。


真面目な話を次から心がけます。

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