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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
65日目、掴めなかったのです
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最後の日⑧



「そんじゃ、先にやっとくか」

「ライゼさんには、感謝の言葉の方が多いですね」

「そりゃ、俺も同じだろ」


 ライゼさんが私の頭に手を置きました。


「向こうでも、剣道ってのを続けるんか」

「そう、ですね。私の動きは剣道には使えませんけど、武道は続けます」

「そうか。なら良い。お前は俺の流派の名誉顧問だからな」

「いつなったんです? それ」

「今だ」


 勝手ですね、全く。でも、嫌ではありません。


「向こうに帰ったらな。まずお前は勉強しろ」

「そうですね。勉強不足ですから」


 歴史とか、雑学方面を学んでおきたいです。


「俺はお前が心配すぎる。向こうじゃ攻撃を避けるのが主体だったよな」

「はい。段位は持ってませんけど、素人相手に技を使うのは犯罪なんです」


 自分が死にそうとなれば正当防衛の問題とか出るのでしょうけど、相手よりも強い武器を持っていれば、過剰防衛です。拳相手に刃物を出したりとかが適応されます。


 武道家はその辺り大変なのです。剣道有段者は木の棒でもアウトって聞いた事があります。


「これからは多少強めにいけ。女だったら大目に見てもらえるだろ」

「そうとは、思いますけど……」

「アルレスィアの為だ」

「むむ……分かりました……」


 怪我をさせない程度には、覚悟しておきましょう。そんなに治安悪くありませんし……喧嘩する事自体、減ってるんですよね。


「これくらいなら良いだろ」

「ギリギリですね」

「これでギリギリってお前……」

「向こうにもマナはあるそうです。ならば、私の魔法が届くかもしれません。いえ、届けてみせます」

「お前なら出来るだろうよ。馬鹿娘二号」


 確かに、私の想いが届くならアリスさんの想いも当然届くはず。異世界でも届く事前提で考えてしまってますけど、確信があるのです。


 それにしても、ライゼさんの腕……結局、義手もダメでしたね。分かっていた事とはいえ、やりきれません。


「気にしとんのか」

「まぁ、私が倒れなければ、二人で押せたのにって、思ってます」

「確かに不便だがな」


 戦いに支障はなかったようですけど、日常生活は戦いほど単純ではありません。


「アンネさんに手伝って貰えますからね」

「そういう事……じゃねぇ。いや、そうだが……」

「巫女さん巫女さン。手伝って貰うだけじゃなくテ、バランス崩してーとか狙ってるんですヨ」

「ありえますね」

「ありえねぇよ。つぅか、ツェッツはどうした」

「私の変わり身でも追ってるんじゃないですカ」


 腕がないと体のバランスが取り辛いというのがあるそうです。慣れるまでは、ふら付いたりもすると聞きます。そうなると、ラッキーなハプニングに繋げられると、下心を持っている訳ですね。


「真面目に納得すんな」


 頭に乗せられたライゼさんの手が荒っぽく撫でて来ました。荒っぽすぎて、アリスさんが整えてくれた髪が乱れてしまいました。


「ま、俺からはこんなもんだ。怪我すんなよ」

「はい。ライゼさんも、それ以上怪我を増やさないように」

「それは無理かもなぁ。気をつけはするがな」


 カカカッと笑いながら、ライゼさんが下がりました。アンネさんが少し赤面して、何かを話しかけています。支える、みたいな事を言っているのでしょう。微笑ましいですね。


「微笑ましいのは今のお二人もですけどネ」


 今私は、アリスさんに髪を整え直して貰っています。


「さテ、当然ながら私が最後でス」


 シーアさんがフードを脱ぎました。


「ふふ。そうだね。シーアさんにはお世話になりっぱなしだったなぁ」

「良い玩具にはなれませんでしたけどね」

「手強すぎましタ。サボリさんくらい簡単だったラ、面白かったんですけド」


 シーアさんは本来共和国の方です。場合によっては会う事無く終わったかもしれませんし、出会えても神誕祭の時だったでしょう。

 

「最後らしク、私からリツカお姉さんに贈りまス」

「うん、ありがとう」


 こほんっと、シーアさんが咳払いをしました。漸く戻って来たレイメイさんが何か言いたげでしたけど、空気を読んだのか待っています。


「最初会った時かラ、二人は只者ではないと思ってましタ。でも何故かそう感じなくテ、不思議なまま初任務を迎えたのでス」


 観察するような目で見られていた記憶があります。それと同時に、既に冒険者として戦っていると感じて、驚いたものです。こんなにも小さい子が、と。


「任務中は頼りになる人達デ、困惑がどんどん深まりましてネ。居ても立ってもいられズ、王都中を駆け巡ったものでス」


 そういえば、シーアさんが噂集めをしていたのを聞いています。牧場の事も知られていました。今となっては、それで良かったと思っています。


「お二人がぽやぽやしているように感じたのハ、国民を不安にさせない為とお聞きして納得しましタ」


 悪意という、いつでも生まれてくる感情が関係しています。それを刺激しない為に、結構頑張りました。戦争の後すぐに出発だったのでまだ良かったですけど、もしもう暫く滞在となっていたら、余裕のある態度は出来ていなかったでしょう。


「でモ、血塗れで帰ってきたりト、少し抜けてて面白いと思いましたけどネ」


 流石シーアさん。ユーモアを忘れません。噂の火元ライゼさんと、血塗れに縁があるクランナちゃん含め、皆がくすりと笑っています。


 ここから言い訳です。仕方ないじゃないですか! 私、結構ギリギリだったんです! あんな大怪我した事ありませんし、マリスタザリアの怖さは良く分かってましたけど、地獄の底から聞こえてくるような声で、殺してやるって言われたんですよ!?


 怪我は綺麗にアリスさんが治してくれました。でも、アリスさんから怒られて意気消沈したりもしました。だから、自分が血塗れだって忘れちゃったんです……!


「お二人の見方が変わったのハ、荷馬車救援の時でしょうカ。リツカお姉さんは放っておけないって思うようになりましタ」


 いつものように顔を押さえて羞恥を感じていた私の背中を、アリスさんが撫でてくれています。シーアさんは、次の話題に行っています。シーアさんは私を弄るのが上手ですね。アリスさんが居なければ蹲っていましたよ。


「その後戦争デ、リツカお姉さんが守ってくれテ、巫女さんの為にあんなになっテ」


 シーアさんはかなり……思い詰めていたのです。気にする事はないのですけれど……。


「あの時リツカお姉さんハ、味方撃ちに遭いましタ。私が焚きつけたんでス。状況を考えて増援をと思いましたけド、全ての班を東と北に向かわせるべきでしタ」


 自分の所為で、私が傷ついた。そう思って、いたのですね。


「違うよ、シーアさん……」

 

 シーアさんは首を横に振りました。もう、乗り越えているようです。シーアさんは本当に、凄いですね。魔法技術や知力、それに……精神的にも。

 

「だかラ、リツカお姉さんが目覚めてくれテ、ほっとしましタ……でモ、リツカお姉さんに刺客が送り込まれテ、旅に出る事になってしまいましタ」


 アリスさん以外知らない事ですけど、魔法と感知がなくても旅には出るつもりでした。今思えば正直、無謀すぎですね。後先考えなさすぎです。


「旅で最大限支援しようと思ったんですけド、戦闘では足手纏いになる事が多くテ。私も守られてばっかりで……」


 気持ちが篭って、悔しさや怒り等が混ざり合って、王国の言葉で無くなっていきました。それだけ、感情が荒ぶっているのです。足手纏いと思った事はありません。いつだって、危ない場所をシーアさんは担当してくれたのですから。


 でも、魚の骨の様に喉に刺さっているのでしょう。マクゼルトに捕らえられたあの時が。


 マクゼルトの裏をかいて勝利したものの、相手の精神が揺れた所をついたとシーアさんは言いました。完勝とはいえない勝利に、シーアさんは歯痒いままなのです。


「本当に……リツカお姉さんに、笑顔が戻って、良かったです」


 それでもシーアさんは、真っ直ぐに、曇りの無い瞳で私を見ました。あらゆる感情を乗り越えて、シーアさんは微笑むのです。


「シーアさん……不安に、させちゃってた、ね」

「本当です。心配しっぱなしです」


 シーアさんの頭を撫でます。ケルセルガルドの件は、微妙な形で終わってしまいました。また何かあった時、分村の方は儀式を再開させるかもしれません。まだまだ危険な状態ではあるものの、現状では止まっているそうです。


 それでも私は……アリスさんは、再び本当の笑顔で居られます。


「やっぱり、リツカお姉さん達には笑顔が一番です」

「シーアさんが頑張ってくれたからだよ」

「私達が倒れていた時も……いえ、いつであっても、私達の助けにと考えてくれて」


 シーアさんのお陰で笑顔で居られます。最後の戦いで倒れた後、シーアさんはケルセルガルドの事も、私達のお世話もやってくれました。起きた後も、会談に神隠しにと……。


 私達は様々な人達と出会い、支えられてきました。シーアさんもその一人。誰が良いとかはありませんけれど、シーアさんはどうしても特別だと思ってしまいます。


「これからも笑顔、守ってくれるかな。友人として、妹として」


 アリスさんは集落から出られません。今回の様に特例で出られる事もあるかもしれませんけど、その時は護衛とかどうとかではなく、妹としてアリスさんの傍に居て欲しいと思います。


「もちろんです。リツカお姉さんと同じだけ、巫女さんも好きですからね」

「それでしたら、名前で呼んで欲しいです」

「それなんですけど。今更変えるのが少し、ムズ痒いと言いますか」

「仕方ありませんね。巫女お姉さんで構いませんよ」

「あ。お姉さん呼びじゃないの、気になってましたか」

「少しだけです」

「……クふふふ」


 姉と呼ばれたかったと少し拗ねてしまったアリスさんが可愛いです。

 私達の瞳に、涙はありません。我慢は……してます、けどね? 


 シーアさんと最後にハグをします。そこでふと気になって、抱き上げてみました。やっぱりシーアさん、小さくて軽いです。こういう時もっと食べるように言うのでしょうけど、シーアさんの場合は何と言えば良いのでしょう。良く寝るように?


「流石にこの歳で抱っこは恥ずかしいですよ」

「そう?」

「羨ましいです」

「巫女姉さんはいつもして貰ってるじゃないですか」

「むむむ……」

 

 アリスさんとはもっと凄い事をしたような……思い出しただけでドキドキが。それに、またしたいって思ってしまうので、進行しましょう。


 これにて、お別れ会は終わりです。


 

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