二人のバイト生活
A,C, 27/03/03
アリスさん寝顔チャレンジ、失敗。
もう、寝ずの番をするしか……。そんなことを考えてしまいますけど、アリスさんに……「さぁ、寝ましょう」とベッドに入りながら言われると、逆らえません。すぐにアリスさんの隣にスッと入ってしまいます。
そして気づいたらいつもの時間に起きているのです。
……走ろう。走って疲れて良く眠って、少しでも早く起きられる努力をするんです!
今日はあの着流し男は居ないようです。ちゃんと忠告を聞いてくれたようですね。
今日の予定は、まずギルドで依頼の確認。依頼があれば、解決へ。なければカフェバイト初日です。
しっかりと、私の反省点を考えます。
アリスさんのことが関わると、どうしても加減が出来ません。でもこれは、正直どうしようもないかもしれないです。私の行動理念の全てなのですから。
ここを曲げると、私が私でなくなってしまう。私の全てを捧げてもいい、これは本心です。
だから、私がやるべきは……全力を振り切っても、無意識下で魔力をコントロール出来るように日常で意識すること。
魔力を発することなく体内をめぐらせ、コントロールの訓練はずっとしています。
この訓練のお陰か、自分の魔法に対しての魔力消費量は減っています。この訓練は大成功でしょう。
このまま油断せず、慢心せずやっていきます。
「おかえりなさいませ、リッカさま」
アリスさんがお出迎えしてくれます。
「ただいま、アリスさん」
この幸せを守るために、まだやれることは残っています。
朝食を食べ、ギルドへ向かっています。それにしても、王都の朝の賑わいは圧巻ですね。これが都会の通勤ラッシュ……。
「依頼はあるでしょうか」
アリスさんが少し不安そうです。
「どうだろう。ないのが、一番だよね。犠牲者が出るかもしれないんだから」
依頼があるということは、犠牲者が出ている可能性があるってことでもあります。
いつでも、生まれたてのマリスタザリアに会えるとは限りません。
私とアリスさんの悪意探知範囲は、せいぜい四百から五百メートルです。しかもこれは、集中しての距離。戦闘中は目の前に集中するので、ずっと下がります。
そして……離れれば離れる程、違和感程度の感知になってしまいます。信憑性が下がるのです。
だから、正確にわかるのはせいぜい二百メートルです。私たちに出来ることはあまりにも少ないです。
だから――。
「やれることを、全力でやろう?」
アリスさんに微笑みかけます。
「はい、リッカさま」
微笑み返してくれる、アリスさん。これが私の、力になってくれます。
ギルド本部にはすでにアンネさんが待っていました。
「アルレスィア様、リツカ様、おはようございます。お待ちしておりました」
何か直接言わなければならない用事のようです。
「おはようございます。どうなされました?」
「はい、お二人からお聞きしていた。人間憑依型のマリスタザリアの件です」
対応策を考えてもらっていましたけど、出来たようです。
「『感染者』と一時的にお呼びします。お二人でも分からないとなると、対応が後手になるのは避けられません。ですから、お二人には診察していただきたいのです」
つまり、医者のように『感染者』疑惑のある方を診て、浄化する。ということですね。
「診察は構いませんが、どちらでいたしましょう。病院ですか?」
アリスさんから当然の質問が出ます。
「お二方が宿のほうで給仕を手伝うとお聞きしています」
いつのまに、知られたのでしょう。
「そちらの一角にスペースを設けさせていただけるよう話しをつけました」
何の気なしに言いますが、仕事速いですね。
給仕の話も昨日決まったばかりなのに……いつの間に陛下の耳にはいったのか。
「新たに御触れを掲示しました。最近急に怒り易くなった人を始め、急変した方はお二人の住む宿へ診察に行くように、と。最初は忙しいでしょうが、お願いできますでしょうか。報酬は用意しております」
人間憑依型、『感染者』は、手遅れになれば……殺さなければいけません。そうなる前に浄化出来る可能性があるのです。
「はい、断る理由がありません。ぜひお願いします」
アリスさんも同じ気持ちです。
「ありがとうございます。本日のマリスタザリア依頼はひとつですが、もう一人信頼できる選任がおりますので、そちらにお願いしようと思っております」
出来るだけ私達が対応したいですけど、『感染者』も蔑ろに出来ません。
私たちはこちらを優先させましょう。
「わかりました。ではすぐに宿に戻り準備いたします」
二人で一礼をして、その場をあとにします。
戦闘はないと思いますけど、怒りやすくなっていたり、凶暴性が増しているはずです。
「アリスさん、私が対応するね」
掌底打ちなら、問題ありません。少し痛いだけに抑えますから、我慢してもらいましょう。
「しかし……分かりました。お願いします、ね?」
アリスさんが察してくれました。
「うん。任せて」
アリスさんに危険なことはさせられません。
なにより、アリスさんの槍なら痛みはありませんけど、なかなかにショッキングな映像になってしまいます。
すでに御触れをみたのか、行列が出来ていました。冷やかしの人も、いくらか見えますけれど。不安で仕方ないといった表情の方の方が多いです。急いで準備しましょう。
「おかえりなさいませ、アルレスィア様、ロクハナ様」
支配人さん直々のお出迎え。もう慣れてしまいましたけど……そこまで特別扱いという訳では……。
「ただいま戻りました、お話は聞いているかと思いますが、お願いします」
「ええ、もちろんでございます。さぁこちらをどうぞ」
アリスさんが急ぐように準備を開始します。そんな私達に支配人さんは、給仕用の制服を渡しました。