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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
65日目、掴めなかったのです
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最後の日⑤



「コルメンスさん」

「お手伝い、余り出来ませんでしたね……」

「王都で色々な人に出会って、戦争があって、また狙われるかもって不安はずっとあったんです。でも、コルメンスさんが居たから前だけを見ていられました。旅の間だって、そうです」


 私はコルメンスさんに、王で在る事を求めました。国王は浮き足立ってはいけません。不安が世界を包もうとしている時こそ、どっしりと構えて威厳を見せなければいけないと考えています。


「手伝いというのなら、最初からして貰っています」

「宿の支配人さんから聞きました。色々と便宜を図ってくれたと」

「はは……。言わないでくれって頼んだのになぁ」


 頭を掻きながら、コルメンスさんがはにかみました。私はそんなコルメンスさんに、手を差し伸べます。


「これからも、よろしくお願いします」

「――はい。必ず、平和を実現してみせます」


 握手をして、コルメンスさんが一歩下がりました。そして、次の方が前に出て来てくれました。


「エルさん」

「もっとゆっくり、話したかったわ」

「話せる事、一杯ありましたね。今ならもっと、向こうの事話せるかもです」


 緊張していたというのもあります。知識がないのは致命的です。この綺麗な世界が、工業化の波に飲まれる懸念があったのも認めます。でも、話せる事はもっとあったはずなのです。


 時間がありませんでした。


「エルさんが居なかったら今はないと、皆思っています」


 コルメンスさんの事もそうですし、王国が傾いた時は常に、エルさんが居てくれました。


「シーアの事、感謝しても仕切れないわ。背負わせちゃったって、後悔したりもしたけど……やっぱり、無事に帰って来たシーアを見れて、嬉しかったの」

「むしろ、私の方が助けられました。私、アリスさんが見えなくなるの……怖かったので、シーアさんが察してくれて……」


 背負った事はありません。シーアさんを守りたいと言ったのは私なのですから。


「お姉さんらしい事、もっとしたかったわ」

「王都に居た時も、共和国に着いた時も、お姉さんでしたよ」

「ふふ……自慢出来るわ」

「シーアさんみたいに笑っても良いと思うんですけどね」

「コルメンス様にも言われたけど」


 エルさんが小声になって、私に耳打ちしました。


「偶に見せた方が、ときめくのよ?」

「そうなんです、か?」

「ええ。アルレスィアさんにやってみて?」

「あう」


 といっても、アリスさんが知らないような過去の私の仕草……そっけない? そんな裏腹な事出来るでしょうか。でも、大人の女性って感じですね。


 耳打ちした姿勢からエルさんは、私にハグをしました。アリスさんにもこちらに来るように手招きして、二人同時に、です。


「離れていても、気持ちは通じているわ」

「……はい。もちろんです」

「ありがとうございます。エルさんの言葉なら、説得力があります」

「クふふ。アルレスィアさんには筒抜けね?」


 エルさんが離れると同時に、カルメリタさんがハグをしました。二人同時にハグ出来るのは、これが最後ですからね。


「カルメリタさん」

「もっと早く出会いたかったわ。神誕祭に行こうと思ってたのだけど、あの頃はカルラの抜けた穴を埋めるのに必死だったのよねぇ」

 

 出会ったのはほんの数日前です。でも、どういった人なのか、想いはどういう物なのか。分かっています。

 

「カルラさんから聞いていたよりずっと、接しやすい人でした」

「もっと王様っぽいって思ってたかしら」

「はい。カルラさんが尊敬して、カルメリタさんのようになりたいとまで言ってましたから」


 カルラさんが少し慌てています。カルラさんも偶には弄られる側になるのも良いですよ。ふふふ。


「カルメさんの事、見てて下さいね」

「心配かしら」

「私以上に、背負い込みすぎですから」


 私以上に背負い込みすぎですけど、私よりずっと心の整理が上手です。だから大丈夫とは思いますけど、敵は多いはずです。デぃモヌの暴走した信徒が襲い掛かってくるかもしれません。甘い蜜を失った詐欺師達が何をするか。


「昔からカルラの後ろに着いて歩いてたわ。大人しめで自分を出す子じゃなかったんだけど、色々あってカルラと喧嘩しちゃってねぇ」


 色々とは、エンリケさん関係でしょうか。結局エンリケさんは、カルメさんの国の城に篭りっぱなしのようです。セルブロさんが誘っても興味がないと言わんばかりに、素っ気無かったそうです。


「エンリケも複雑なのよ」


 皇女として国民第一となった時、カルメさんの案に乗るしかなかったのでしょう。第一位の皇子への牽制もあったのかもしれません。もし第一位が行っている物が少しでも明るみになれば、皇家を剥奪する、と。


「わらわは結局、皇家だったの。カルラとカルメが変えてくれる事を願うだけのね」

「カルメリタさんが少しでも変える意志を見せたから、二人が目標にしたんです。そして、更に先が在る事も示唆しました」

「だからカルメリタさんが、落ち込む必要はないと思います」


 皇家という、永い時を重ねた制度を壊すのは容易ではありません。でも、カルメリタさんが居たから、二人は目標を見つける事が出来たのだと思います。


 既存のシステムに拠らない、新たな国作り。いくら二人が優秀でも、難しい。枠組みを作ってくれたカルメリタさんが落ち込む理由にはならないと思います。


「やっぱり、面白いわ。二人共」

「私達から見ると」

「皆さんの方が面白いと思います」


 最後に頭を撫でられて、カルメリタさんが離れていきました。あの肌の張り、潤い、皺のなさで……五十代……。エリスさんも若いままですし、どの年齢から年を取ったように見えてくるのでしょう。


 向こうに帰ったら、私だけよぼよぼに……。



「皇女様もリツカもアルレスィアもお茶目すぎるの」

「カルラさんもお茶目だよ?」


 カルラさんが優雅に歩いてきました。その優雅さを保つ為か、カルメリタさんのようにいきなり抱きついてきたりはしません。でも、少しそわそわしています。


 今更、遠慮なんて要りません。私はカルラさんを抱き寄せました。


「ありがとう。カルラさん」

「お礼なんて、良いの」

「あの時、カルラさんに会えて良かった」


 純粋にそう思います。皇姫という謎の多い存在でした。でも話してみれば、見る物全てに新鮮さを感じ、自分の力に変えようと勉強する、真面目で一生懸命な少女でした。


「噂話とかじゃなく、リツカ本人から色々と聞きたかったの」

「私も、カルラさんともっと話したかったよ。どんな噂を聞いたのかも気になったり」

「泣き虫さんなの」

「私から聞くと、端折ったと思うよ?」

「それでも良いの」


 カルラさんは少し、涙ぐんでいます。


「カルラさんの案内してくれる皇国、行ってみたかった」

「連れ去りたい気持ちで一杯なの。あの時と変わってないの」

 

 私を持ち帰りたい、でしたね。私達も持ち帰られても良いと思っています。役目は終わったので、機会さえあれば、と。


「アルレスィアはちゃんと、想いを伝えられたの?」

「はい。カルラさんが、きっかけをくれましたから。あの時焚きつけられていなければ、自分からは……」

「わらわは少し、迷ってるの」

「私と似た勘違いをしています。カルラさんは、好きなのでしょう?」

「なの」

「なら、言うべきです」

「……あの時とは、逆になっちゃったの」


 アリスさんとカルラさんの間で何かあったようで、くすくすと笑い合っています。ぽかんとした私の頭を、二人が撫でました。


「アルレスィア。やっぱりわらわ不安なの」

「私もです……。ですけど、お義母様に任せるしか……」

「大胆なの」


 二人って結構、馬が合ってますよね。少し嫉妬です。


「ありのままのリツカを見られて良かったの」

「置いてけぼりは寂しいなって」

「リツカがわらわをからかうのは、まだまだ早いって事なの。次会う時までに精進するの」

「ふふ……頑張っておくね?」


 カルラさんが言うと、また会えるって気がします。その言葉はアリスさんと私に力をくれますから。


 最後に私達をぎゅっと抱き締めて、カルラさんは離れていきました。



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