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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
65日目、掴めなかったのです
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最後の日④



 到着したのが私達と分かったからか、集落の中が慌しいです。国王様だったり女王様、皇女様、皇姫様、妹君と、大物が揃っていますから、ね。流石にただの実家帰りとはいきませんか。


「どうですか? 感じますか? 私が言ってた事覚えていますか?」

「確かに他とは違ぇとは思うが……」

(根に持ってやがったか……)

「神誕祭の王都がこんな感じでしたねぇ」

「これがアルツィア様の気配なの?」

「ですネ。降臨した時と同じ感じでス」


 シーアさんが明言したので、それ以上でも以下でもないようです。残念です。この圧倒的な生命力と芳醇な香り。久しぶりな所為か、酔いそうな程です。くらくらします。


「リッカ。そろそろ皆が見えてきますから、一応」

(皆さんには申し訳ございませんけれど、早くリッカと二人きりになりたいという欲が止まりません)

「ハッ。そ、そうだね」


 この緩んだ顔のまま帰郷というのは、恥ずかしいですね。昨日から恥ずかしい事ばかりですけど……。



 オルテさんを先頭に、集落の人達が見えてきました。ここから送り出されて二ヵ月です。王都に居た頃や、ルイースヒぇンさんとの会話なんかで、ちょっと見方が変わってしまった集落。でもやっぱり、アリスさんの故郷なんだなぁと、思います。


 まだまだ隔たりはあるのでしょう。でもいつか、それも無くなります。ずっと仲が悪いままなんていうのは、どちらかが頑なな場合だけです。


 今日この瞬間がきっかけになれば良いなと、思います。


「リツカ様……」

「オルテさん。実はですね。最後の最後に剣が折れてしまって。直してもらったんですけど、別物になっちゃいました」

「構いません。お二人がご無事であったなら、それ以上の喜びはありません」


 剣を受け取ったオルテさんは、片膝をつき頭を下げました。見事なまでの騎士の姿に、空気がぴしっと引き締まったように感じます。


「その剣がなければ、アリスさん含め、大切な人達を守れませんでした」


 刀を手に入れてからは、投擲武器として使っていました。でもそれは、雑に扱ったからではありません。


 遠距離魔法を使えない私が行える、唯一の手段でした。誰よりも、何よりも早く攻撃をしなければいけない時、剣を投げるのです。


「オルテさんとの約束を守れたのも、その剣に篭められた想いのお陰です」

「リツカ様の技あってこそです。……何度も傷つき、倒れたとお聞きしています」

「それこそ、気にしないで下さい。オルテさんと私の想いは一致していたはずです」

「……力不足の私に代わり、最後まで守っていただき、ありがとうございます!」


 私の意地でした。恐怖心故に、アリスさんが一度でも傷つけば、私の心は壊れていたでしょう。だから、オルテさんとの約束という感じはしていません。


 でも、アリスさんを無傷で、再びこの”神林”へ。というものは、集落の方達の願いでした。


「確かに返しました」

「はい。リツカ様の想い、継がせて頂きます」

「お願いします」


 私とオルテさんに配慮して、暫く静かにしてくれていた皆ですけど、集落の方達の方から少しざわめきが聞こえてきました。この小さい気配は――。


「こ、こらエカルト!」

「リツカさまー!」


 我慢出来なかったエカルトくんが飛び出してきました。止め様としたオルテさんを手で制します。


 これくらいの年齢の子は、色々と感じ取るものです。エルケちゃんの表情から、私がどうなったか、薄々感じ取っていた事が分かります。心配してくれていたのでしょう。


 安心させるのも、大人の務めです。


「ただいまー、エカルトくん」


 ひしっと私の足に抱きついたエカルトくんの頭を撫で、視線を合わせるようにしゃがみます。今の二人に、右手は見せられませんね。少し隠しましょう。


「も……申し訳ございません。リツカさま」

「心配してくれてたんだよね。ありがとう、エルケちゃん」

「いえ、その……無事で、良かったです。アルレスィアさま、リツカさま」

「二人も、元気そうで良かったです。変わりありませんでしたか?」

「ひかりのはしらが、どかんて!」

「”神林”の方で、光の柱が立ち上りました」


 それは、私達が”神化”した証です。この”神林”は神さまが住まう場所。世界の中心みたいな場所です。だから、世界の選択が成就した証ですね。


 そういえば、神さまが居ません。出迎えてくれると思ったのですけど……森の中でしょうか。


「リツカ様、そちらの子達は……」

「えっとね。異世界から来た私を、子供達は不思議そうに見てたんだけど」

「二人だけは、リッカに話しかけてくれたんです」


 アリスさんが居たので疎外感とかは無かったのですけど、やっぱり警戒されたままだったら参っていたかもしれません。二人がいち早く話しかけてくれたから、気が楽になったという経緯があります。


「クランナちゃんと一緒だね」

「王都で一番初めに、好意的に接してくれた子ですからね」

「血塗れの巫女様か。カカカッ」

「そ、それは……!」

「お師匠さんの所為でしょウ」


 蓋を開ければ、ライゼさんが親しみやすくなるようにという変な配慮で振りまいた渾名の所為です。クランナちゃんとしては、お父さんのお礼をしたかっただけなのです。


 遠巻きに私を見るだけだった人達の中で、クランナちゃんだけが普通に話しかけてくれました。嬉しかった。本音です。


「こっちに来たばっかりのリツカを知ってる子なの」

「詳しく話を聞きたいところですネ」

 

 そんなに、楽しい話は聞けないと思いますけどね。

 子供達が仲良くなる姿は微笑ましいので、そのままにしておきます。エカルトくんも、向こうにいっておいで。


「なの。お祈り中に泣いたの」

「髪が赤い理由を聞かれテ、巫女さんに見惚れて頬を赤くした理由を考えていたト」

「天使様の初戦闘……!」


 あれー? いきなり深い所を掘り下げられてる気がします。


「集落の者は全員知っておる。今更であろう」

「そうですけど……」

「そうねぇ。リツカさん、可愛かったわぁ」

(森でのリッカを知っているのは私だけですから、集落内の出来事くらいは……子供達の交流の種になるのなら……ですけど、リッカとの秘密が減るのは……)


 はぁ……。コルメンスさん達も適当に話してますけど、ちゃんと帰還の話をした方が良さそうです。私が帰ることも、伝えないと。

 でも、何よりも……神さまは、何処?




 色々と事務的な行事を終わらせて、今はのんびりしています。神さまを待っているのですけど、やっぱり居ないのです。


「リッカ、先にやりましょう」

「そうだね。神さまなら、見てくれてただろうから」


 神さまの気配は感じているのです。アレスルンジゅやリチぇッカの事で忙しいのかもしれません。


 だから先に、交わしましょう。別れ際でも良いかと思っていました。でも、結ばれてからの関係も楽しみたいのです。お互いの気持ちを確認しあってからの触れ合いを、したいのです。


「リツカ。行くの?」

「森にちょっと入るだけだよ。また帰ってくるつもり」

「許してもらえるのでしょうか……」


 クランナちゃんの心配も分かります。ここまで消えかけてしまっているのですから、その場で帰る様に言われる可能性を否定出来ません。


「カルメだけずるいの」

「わ、私もしたいです!」


 お別れの会を行う、という事ですね。そのまま帰るかもしれない可能性を否定出来ない以上、森に入る前に行うのがよろしいでしょう。


 多くの人が、森の入り口に設定された門の前に集まってくれました。全員一纏めというのは、私の心が許してくれそうにありません。

 皆に、言い残す事がないように、言葉を選びます。私の想い、受け取ってください。



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