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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
64日目、平和の日なのです
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転移64日目 記入日 A,C, 27/04/28



 平和の日と題された日。私達は英雄として凱旋しました。戦争で戦った全ての者達が英雄。そして、命を燃やした者達は英霊となったのです。


 その全ての人たちが、国を守る為に優しい炎を胸に宿していました。

 その炎を絶やす事無く、後世に伝えて欲しい。数千年前の虐殺の被害者達、アレスルンジゅの悲劇、キール、トぅリア、マリスタザリアの被害により無くなった村や町。身近で起きていた非日常。全て、この日を境に変えていって欲しいと思っています。


 その為の歌として、第九を選びました。意味は違います。ベートーベンはそのような想いを込めていないかもしれません。でもその歌詞には、平和を感じたのです。

 

 私は、この世界で沢山の人に出会いました。名前を書き出せないくらい、沢山の人です。向こうで過ごしていたらきっと、こんなにも多くの友人に出会えなかったでしょう。

 年齢も性別もバラバラ。職業も何もかもです。でも、私達の想いは一つだったと思っています。


 平和の日に向かっていたのだと、確信しているのです。

 その証が、今日でした。全ての人が同じ方向を向いていたから、今日があるのです。誰かが欠けていたら、こうはならなかった。それくらい、私のこの世界での人生は、掛替えの無い運命に溢れていました。



 オペラ……恥ずかしかった……。でも、フロンさんとエレンさんと約束しましたからね。ちゃんと感想は言いましたよ。はい。フロンさんが演じる彼女ですけどね。確かに良く演じられていました。でも、さりげない優しさが足りませんでした。

 聖女としての面は前面に押し出されていて、それでも足りないという感想でしたけど、表現出来ていました。でも、私の心に寄り添う感じが足りませんでした。


 と、正直に話しました。恥ずかしさの意趣返しではありません。ここに書いたのは一部でしかありませんけど、フロンさんにも私のアリスさん熱が伝わったはずです。次の公演では役に立つと思っています。

 フロンさんがゲッソリしてるようでしたけど、公演終わりの疲れた体には長話すぎたでしょうか?


 エレンさんはアリスさんに私の事を聞いていましたけれど、似たような表情をしていました。エレンさんと一緒に聞いていたカルラさんとカルメさんが、私に生暖かい視線を向けていたのと、シーアさんがエレンさんの背中をぽんぽんと叩いてたのが印象的でした。



 ヴぃムさんの絵、綺麗でしたね。淡いピンクが神さまの優しさを良く表現してました。白銀はアリスさんの清廉さと慈愛を。赤は、私のアリスさんへの想いが篭っていたと思います。


 戦う私と、私を守るアリスさん。それを優しく見守る神さま。私達の関係を殆ど知らないはずのヴぃムさんは、私達の一戦を見ただけで確信し、描き上げたのです。


 平和への架け橋となるかは、あの絵をどう伝えるかにかかっています。解釈の齟齬から悲劇は生まれてきました。今度こそその連鎖を、断ち切って欲しいと思っています。



 立食パーティも、楽しかったですね。牧場の方達が振舞ってくれたお肉料理は、どれも力が入ったものでした。ステーキにローストビーフ、煮込み。他の料理も、市場の方達が協力してくれたそうです。


 ダンス、私は出来ませんでしたけど……皆踊っているのを見るのも、楽しかったですね。シーアさんはカルラさんとクラウちゃん、クランナちゃんと踊っていました。クラウちゃんとカルラさんが取り合って? る間に、クランナちゃんと踊ったり。


 ライゼさんはアンネさんと踊ってましたけど、久しぶりだったからか緊張してしまってましたね。デぃルクさんにからかわれたりして、コルメンスさんも楽しげでした。デぃルクさんの隣に居たのは、奥さんでしょうか。


 そんなコルメンスさんは、カルメリタさんと踊ったり、エルさんと踊ったりですね。エリスさんとも踊るとは思いませんでした。ゲルハルトさんもエルさんと踊ったりして、緊張して。そんなゲルハルトさんの脇腹に、エリスさんが肘を入れてましたね。気付いたのは私と彼女だけでしたけど。



 彼女と最後のダンスは、部屋でしましょうか。

 彼女こそ、私の全ての始まりです。

 彼女との思い出を語る時、欠かせないのはやはり……出会い、でしょう。


 出会いは深い森の中、まるで人に作られたような丸い湖でのことです。 

 私は湖の中から彼女を、『アリス』を眺めていました。

 彼女の目には、驚愕とほんの少しの……期待? があったと思います。

 なんで曖昧なのかというと、私はこのとき彼女に……見惚れてしまっていたのでした。


 アリス。日記では簡単に書けるのに、今でも私はアリスさんと呼んでいます。彼女が私をリッカと呼んでくれるのに。


 リッカ。向こうの世界で私をこう呼ぶ人は居ません。まさに、特別な名前です。六花。雪という意味もあるこの言葉はリッカと呼びます。それを伝えた時、彼女は私にぴったりの名と言ってくれました。


 深い赤、血の色と言われる事が多いワインレッドの髪に兎のような赤い目。彼女の、アルマンディンのような瞳とは違う。そう思っていた頃です。でも彼女は私の瞳を、スピネルと称してくれました。


 嬉しい。彼女の瞳に見詰められ、微笑を向けて貰えると、私の心は震えました。恐怖心ゆえに全てを遠ざけるように壁を作っていた私ですけれど、壁なんて、彼女の前では機能していませんでした。


 彼女の驚愕は、今だから分かります。これはかなり恥ずかしい自画自賛ですけれど、私は彼女にとって、唯一無二です。目と目が合った瞬間から、私達はお互いを意識しました。


 そして、期待したのです。私の期待と彼女の期待。それは最初、英雄になって欲しいからと勝手に思ってしまいました。でも、違います。一緒でした。

 私は彼女を、彼女は私を求めていたのです。一緒に生きていけると。一緒に歩めると。期待したのです。


 その期待が叶った事が、嬉しいのです。私は彼女の全てになれました。私の全ては彼女で満たされました。


 だから明日こそは、彼女をアリスと呼ぼう。そして……伝えよう。指輪をはめて、あの場所にキスをして、名前と一緒に告げよう。

 彼女に全てを渡そう。森、誰も居ないあの場所で、神さまにもちょっと席を外してもらって、二人だけになったあの場所で、私を彼女に差し出そう。


 後悔のないように、しよう。


 でも、本当に後悔がないようになんて……出来るのでしょうか。与えても与えたり無い。彼女……アリスに、私は全てを与えても、頂いても、足りない。そんな気がしてならないのです。


 そんなネガティブ。もう、必要ありません。

 別れが悲しくないなんて事は、ありません。誰とも別れたくないです。ずっと、こちらで生活しても良いって思えています。

 でも……向こうにも私の居場所があるんだって、今は分かっています。


 その為の儀式です。


 帰る為の、儀式のはずです。


 泣かない。もう、泣かない。別れは笑顔でって、決めているんですから。



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