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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
64日目、平和の日なのです
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ふるさと②



「ライゼさんとレイメイさん。どっちも最初は印象悪かったかも?」

「そう、ですね。私にとってはどちらも敵でしたから」

「ライゼさんも?」

「リッカに興味を持つ男性というだけで、私にとっては敵です!」

「そういえば私も、ライゼさんを警戒したのはアリスさんに興味を持ってるって思ったからだったなぁ」


 私に興味があるなんて思わなかったので、私からアリスさんに繋がる為と思っていました。蓋を開けてみれば、私の剣術に興味があっただけという、剣術お馬鹿でしたけど。


「レイメイさんは言わずもがなです。私は今でも根に持っていますからねっ」

「あはは……」


 実際、笑うことしか私には出来ません。何しろ、私も思い出す度にレイメイさんを睨んでしまいます。


 私達は結局、お互いの敵を許せないのです。


 ライゼさんは、私の師匠です。出会いは結構酷いものでした。朝練をしていた私に、急に声を掛けてきたライゼさん。私は思わず、敵対心をむき出しにしてしまいました。


 でも、今だから言えます。あの時のライゼさんは、初めて見た自分以外の剣術使いに悦び、殺気を向けていました。私が警戒するのも納得して欲しいと思います。


 でも、そんな物は思い過ごしでいした。ライゼさんは私達を心配していたのです。最初、私達が来た時から目撃したのでしょう。そして、類稀なる洞察眼にて、私の危うさを密かに感じ取った。そしてそれは、牧場の一件で明るみになりました。


 世界を救うべくしてやってきた巫女。そのうちの一人が、死に急いでいると感じたのです。だから、声を掛けた。だから、弟子にしてくれた。


 私達は、お互いの想いによって縛られていた。私はアリスさんを自分の全てと直感し、アリスさんの為に命を消耗させる事にした。アリスさんは、そんな事になってしまった原因を作った自分を許せず、そして、そうした事の負い目から強く言えなかった。


 だから、お互いに強くいえなかったのです。

 でも、ライゼさんのお陰で私達は、お互いを知る事が出来ました。そのお陰で今があります。きっかけです。


 それだけでなくライゼさんは、私の為に命まで……。師匠、という言葉で片付けられません。私達のとって、ライゼさんという存在は余りにも大きい。


 ライゼさんに出会わず、お互い遠慮したままであったなら、私達はきっと……荷車護衛の際に死んでいます。自分の弱さの一端を知れたのは、ライゼさんのお陰なのです。


 レイメイさんは……ちょっと、難しいです。アリスさんも私も、レイメイさんとの関係は複雑です、


 出会いは普通でした。ライゼさんについて気になったレイメイさんは、ライゼさんの弟子として通りかけていた私に興味を持つに至ったのです。


 そして、最初の任務で、レイメイさんと私の間の実力が明確に浮き彫りになります。

 そんな中でレイメイさんが取った手段は、アリスさんに刃を向ける事で、私を喧嘩の場に導くという物でした。


 はっきり言って、今でもイラってします。私が断ったからといって、アリスさんに殺意を向けるという手段をとったのは許せません。


 例えそれが、自身の弱さを嫌った物。その弱さの所為で、アーデさんを守れないという事実の証明であったとしても、私達を巻き込んだのは許せません。


 出会いは最悪でした。喧嘩をして、徹底的に叩き潰して、一度は奇襲をかけられようとしました。


 でもレイメイさんは、考えた。そして回りの大人達が導いたのです。デぃルクさんや、戦争で亡くなった……防衛班の方々。子供達。

 レイメイさんは精神的に成長しました。


 だから今のレイメイさんはもはや、生まれ変わった存在。別人ともいえる人格を備えています。

 きっとそれが、本当なのでしょう。


「私達にとっては、色々と複雑な関係だけど」

「決して、悪い人たちではありません。もし二人が居なかったなら、旅は過酷を極めたでしょう」

「うん。五人で、巫女一行だね」


 シーアさんを含めた三人だけでは、無理でした。レイメイさんが居て、ライゼさんを取り戻して、今があります。

 

「エリスさん、ゲルハルトさん。コルメンスさんにアンネさん、エルさん、カルラさん、カルメさん。リタさんやクランナちゃん達、クラウちゃん達、旅で出会った人たち。誰が欠けても、今は無かったと私は思ってる」

「……はい。それこそが、運命と思っています」

(カルラさんとカルメさんに関しては、複雑です。リッカに完全な好意を抱いてますから。それでも……旅で出会った人々が等身大の”人間”であったのは、私達にとって僥倖でした)


 人との出会いは運命。だって、アリスさんと私がまさに、運命の申し子です。世界がアレスルンジゅに対して危機感を抱いた結果生まれた、”神の子”です。


 でも、運命の人達とどのような交流を行うかは、私達に委ねられています。決して、私達の旅は誰かのレールの上での出来事ではありません。私達が考え、想ったからこそ、です。


「着替えよっか」

「はい。どちらにしますか?」

「んー。逆にする?」

「はいっ」


 私が白。アリスさんが赤です。


 シャワーで軽く汗を流し――軽くではなく、アリスさんがしっかりと体を洗ってくれたので、私もアリスさんを。


 ドレスを着て、アリスさんに髪を整えて貰って、巫女の服で使っているレースのリボンは、今日も付けていきましょう。コサージュの下に添えて。


 支配人さんの言葉に従い、裏口からこっそり王城を目指します。何でも、今のまま外に出るのは混乱を生むとの事で。


 ”神化”しても、巫女服は必要ですね。【愛する者】中なら、何とか? 出来るだけ混乱を避けるのは、リスク回避の基本です。



 王城に到着した私達は、そのまま大広間に通されます。どうやら皆、待っているみたいです。


「主賓だからってな、遅すぎるんだよ」

「まァ、支配人さんと話もあったでしょうシ」

(お風呂に入ってるでしょうからね)


 待たせてしまっていましたね。シーアさんは神誕祭の時のドレスとは違い、民族衣装のような? 

 カルラさんやカルメさんは、王国のドレスですね。いつもの和装ではありません。


「全員居るね」

「俺等も良かったのか……?」

「防衛、必要なのではないでしょうか……」

「仕事忘れて楽しんじゃいそうっすねー」


 コルメンスさんが始めようとしましたけれど、フランカさん達選任や、デぃルクさん達防衛班の方々は遠慮してしまっています。


「今日は大丈夫だよ。皆も主役なんだから、楽しむと良い。ただし、お酒はほどほどに頼むよ」


 皆が主役です。いつも王都を守って緊張し続けていた事でしょう。ならば、今日くらいは何も考えずに楽しんで欲しいと思っています。外の警備は、私がしておきます。

 広域感知の感覚には慣れました。


「それでは、慰労会を始めたいと思います。まずは…………」


 アンネさんの司会が止まりました。どうしたのかと、来場者の方々も私達も困惑しております。でも一番困っているのは、アンネさんみたいです。


「本当によろしいのでしょうか……」

「わらわは聴きたいのよね」

「リタ達から聞いたの。わらわも聴きたいの」

「そういえば、シーア姉様から聞いて、わらわもいつかはと思っていたので」


 皇国のお姫様達が、なにやら不穏な話をしています。逃げましょう。


「いかせませんヨ」

「シーアさん……私、シーアさんとは戦えないよ」

「女にはやらねばならぬ時があるんでス」

「私達を相手に無謀だよ――」

「リッカ。私も聴きたいです」

「あれぇ……?」


 いつの間にか、アリスさんも懐柔されていますし、ライゼさん達まで取り囲んでいます。


「リツカさん。私とも約束したでしょう? 凱旋の時に聴かせてねって」

「私ともしたわよね?」


 アリスさんのお願いは聞いてあげたいですし、エルさんとエリスさんに弱い私ですけど、今回ばかりは逃げたいです。


「アンネ、放送しろ」

「し、しかしですね」

「放送してしまえバ、リツカお姉さんは逃げられませン」


 この会場の人達は知り合いばかりです。逃げるくらいなら問題なく。


「では、リツカ様による――夜の部開幕の歌を」

 

 やっぱり、歌うんですか。確かに言いましたけれどね? 歌っても良いと。ま……この部屋の人くらいなら――って……。


「リッカ。どうやら……」

「……」

「アンネさんそレ」

「え? ……あっ」


 それ、王都中の拡声器に繋がってませんか?


 

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