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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
64日目、平和の日なのです
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ふるさと



「この福音は、王国、共和国、皇国にて順々に公開される予定です。周期は一年毎を予定しており、初年は王国です。王都美術館にて公開されますが、より多くの方に見て頂きたいと思っておりますので、東西南北の大都市でも公開しようと考えています」


 今日ここに来られなかった人達。私達の事を知っているのは北部の人達くらいなもので、それ以外の人達が私達の戦闘を知ったのは【フリューゲル・コマリフラス】が降った時でしょうから。


「それでは、予定されていた演目を終了します。この後はお祭りをお楽しみいただきたいと思っております」


 ここからの予定は確か、普通にお祭りを楽しんで、夜は友人達だけで晩餐会を開くと聞いています。立食パーティーみたいですから、きっとダンスとかもあります。


 ドレスアップの予定もあるみたいですし、あのドレスがまた活躍しそうですね。


「さテ、私達はどうしましょうカ」

「私達はリタさんと少し話があるから、先に回ってて?」

「後程追いつきます」

「分かりましタ」


 シーアさんは、カルラさん、カルメさん、クラウちゃん、クランナちゃんを連れて先にお祭りに向かいました。この町にはもう悪意はありません。大丈夫とは思いますけど、お祭りですからね。どこかで喧嘩とか起こるかもしれません。一応気をつけてください。


 平和の日に喧嘩って、って思いますけど、やっぱり、喧嘩は祭りの華と聞いた事がありますし。些細な喧嘩が出来るのも、平和の証ですよ。大規模な物になったら、今日までは私が介入します。


 まだ私、選任冒険者の証を返納してませんからね。



「リタさーん。ラヘルさーん」

「あれっ? お祭り行かないの?」

「いやいや。リタさんが話したい事があるって言ってたから」

「それに、お祭りならば共に参りましょう。神誕祭の時は一緒に回れませんでしたから」


 あの時は選任として動いてましたからね。感知範囲も王都全域なんて無理でしたし。でも今なら、どこに居ても危険を感じ取れますからね。


「二人は、変わらないなぁ」

「一ヶ月で、そうそう変わらないよ」

「そうなんだけど……私、勘違いしてたなぁって」


 少し申し訳なさそうに、リタさんが苦笑いを浮かべています。


「リツカさんが、私達みたいに普通っていうのは知ってたはずなんだけど……やっぱりどこか、自分達とは違って凄い人って、思っちゃってた。友達なのに、気付けなかったのかぁって」


 今リタさんは、後悔しているようです。私達の友人として、私達が特別な存在と思ってしまった事に。そして特別と思って、その辺りの相談とかも聞けなかった、と。


「私達も隠してたから」


 私達、リタさん達には感謝してます。王都でリタさん達と過ごした、日常。それは私達の良い思い出となって、旅の活力となりました。敬われるのに慣れていない私にとって、リタさんやロミーさんのような存在の、なんとありがたかった事か。


「それに実際、結構特別な人間だったみたいだし、ね?」


 むしろ、そういった普通の反応が良かったんです。人並みに驚いて、人並みに期待してくれて、人並みに気にしてくれる。そんな友人が嬉しかった。


「自然なリタさんが一番です」

「リタ……気にしすぎ……」

「ラヘルって結構肝が据わってるよね」

「これでも……緊張してる……」


 ラヘルさんの表情は、結構読みにくいんですよね。

 それでは、お祭りに行きましょう。大人の皆は、もう少し話をするみたいですしね。




 その後はとりあえず、お祭りを楽しみました。正しいお祭りの楽しみ方として、出店への注文は笑顔と言われたので実践してみたり。それが嘘と分かり、アリスさんがシーアさんに笑っていない笑顔を向けたり。少々大所帯ながら街を歩きました。


 レイメイさんと子供達、そしていつの間に来ていたのか、アーデさんと出会ったり。何故か出店で客引き? をやっているドリスさん達に会ったり。デートをしているライゼさんとアンネさんがシーアさん達にからかわれたり。


 お祭り、楽しいですね。本当に……楽しい、です。


 


 晩餐会にはドレスで行くので、着替えなければいけません。シーアさん達やリタさん達はお城で着替えるそうですけれど、私達はもう一つ行きたい場所があるので、一度別れました。


「繁盛してるね」

「カルラさんに聞いた話では、珈琲の美味しさと支配人さんの雰囲気が良いと評判みたいです」


 私達が居た時は、別の雰囲気でした。でも今は、落ち着いたカフェスペースですね。でもこの方が宿の雰囲気としては正しいのかもしれません。


「お帰りなさいませ。アルレスィア様、リツカ様」


 私達が過ごしていた宿に、帰って来ました。支配人さんが私達を出迎えてくれます。


「ただいま帰りました」

「ただいまです」

「掃除はしていたので、すぐにお使い頂けます」

「ありがとうございます」


 ニ、三日空けたくらいの感覚で迎えてくれて、安心しますね。


「これからお城で晩餐会とお聞きしていますが」

「今日は、ここで寝ようと思っています」

「畏まりました」


 ここに居ると、王都で過ごしていた一月を思い出します。


「明日、今までの分を払いますね」

「……はい」


 支配人さんからは、気にしなくて良いと言われています。でも……もう、明日で終わりですから。



 部屋に入ると、私達の荷物が置かれていました。さて、誰がここに? と考えて、すぐに分かりました。シーアさんの魔力を感じます。”転送”か”転移”か、どちらかを使って運んでくれたようです。


「最後まで、シーアさんに頼りっぱなしだったね」

「これからも、頼り続けると思います。そしてシーアさんが困った時、()()が助けられるように」

「うん。ずっと、見てる」


 シーアさんとの出会いもまた、思い起こせます。街中で歩く、フードを被った少女。一目で異国の方と分かる少女は、私達を知っていました。薄い褐色の肌に、深い海の色をした瞳。毛先を仄かに青く染めた黒髪に、小さい体。少し訛りの入った王国語で、クふふふ、と笑う少女との再会はすぐでした。


 最初の任務。少女の出自と正体を知り、彼女から出された課題をクリアしました。そして共に任務を続ける中で、信頼関係を築いたのです。


 戦争の時には命の恩人の一人として、私達を最大限サポートしてくれました。


 撤退の時の見張り。アリスさんの食生活の維持に、王都防衛の要。敵の分析に、アンネさんの代わりとなって王国運営のお手伝い。


 旅の中では、私達が離れたくないという我侭に理解を示してくれて、率先して二手に別れた片方を担ってくれました。


 シーアさんは、マクゼルトに人質にされた事や、幹部級との戦いで力になれない事を悔いていましたけれど、私達はこの二ヶ月間、シーアさんと出会って、頼らなかった事が無いくらい、シーアさんと共に在りました。


 私達は……私は、シーアさんに共感を覚えていたのです。エルさんという、シーアさんにとって掛替えの無い人。アリスさんという、私にとって掛替えの無い人。私達は、その人の為ならば命を賭ける。


 そして、私達とシーアさん達もまた、命を賭け合う関係となりました。


 シーアさんは……私達と共に死ぬ覚悟で最終決戦に挑んでくれました。私達もまた、シーアさんが死なないように、行動をしました。


 最終決戦の最中であっても、シーアさんは私達の想いを優先してくれました。


 シーアさん。貴女は私達の光です。私達が世界の”光”であるように、シーアさんは私達にとっての光です。


 それはきっと、これからもずっと。


「少し悪戯が好きすぎるのが難点だけど、ね?」

「ふふ。それもシーアさんの魅力ではないでしょうか」

「かな。私は弄られてばっかりだったなぁ。最後くらい特大の弄りをしたいんだけど」

「んー。リッカには、難しいかもです」

「だよね」

「私がリッカの仇を取りますからっ」


 アリスさんと私は笑い合います。シーアさんとも思い出も一杯あります。それと同じくらい、ライゼさんやレイメイさんも。



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