ふるさと
「この福音は、王国、共和国、皇国にて順々に公開される予定です。周期は一年毎を予定しており、初年は王国です。王都美術館にて公開されますが、より多くの方に見て頂きたいと思っておりますので、東西南北の大都市でも公開しようと考えています」
今日ここに来られなかった人達。私達の事を知っているのは北部の人達くらいなもので、それ以外の人達が私達の戦闘を知ったのは【フリューゲル・コマリフラス】が降った時でしょうから。
「それでは、予定されていた演目を終了します。この後はお祭りをお楽しみいただきたいと思っております」
ここからの予定は確か、普通にお祭りを楽しんで、夜は友人達だけで晩餐会を開くと聞いています。立食パーティーみたいですから、きっとダンスとかもあります。
ドレスアップの予定もあるみたいですし、あのドレスがまた活躍しそうですね。
「さテ、私達はどうしましょうカ」
「私達はリタさんと少し話があるから、先に回ってて?」
「後程追いつきます」
「分かりましタ」
シーアさんは、カルラさん、カルメさん、クラウちゃん、クランナちゃんを連れて先にお祭りに向かいました。この町にはもう悪意はありません。大丈夫とは思いますけど、お祭りですからね。どこかで喧嘩とか起こるかもしれません。一応気をつけてください。
平和の日に喧嘩って、って思いますけど、やっぱり、喧嘩は祭りの華と聞いた事がありますし。些細な喧嘩が出来るのも、平和の証ですよ。大規模な物になったら、今日までは私が介入します。
まだ私、選任冒険者の証を返納してませんからね。
「リタさーん。ラヘルさーん」
「あれっ? お祭り行かないの?」
「いやいや。リタさんが話したい事があるって言ってたから」
「それに、お祭りならば共に参りましょう。神誕祭の時は一緒に回れませんでしたから」
あの時は選任として動いてましたからね。感知範囲も王都全域なんて無理でしたし。でも今なら、どこに居ても危険を感じ取れますからね。
「二人は、変わらないなぁ」
「一ヶ月で、そうそう変わらないよ」
「そうなんだけど……私、勘違いしてたなぁって」
少し申し訳なさそうに、リタさんが苦笑いを浮かべています。
「リツカさんが、私達みたいに普通っていうのは知ってたはずなんだけど……やっぱりどこか、自分達とは違って凄い人って、思っちゃってた。友達なのに、気付けなかったのかぁって」
今リタさんは、後悔しているようです。私達の友人として、私達が特別な存在と思ってしまった事に。そして特別と思って、その辺りの相談とかも聞けなかった、と。
「私達も隠してたから」
私達、リタさん達には感謝してます。王都でリタさん達と過ごした、日常。それは私達の良い思い出となって、旅の活力となりました。敬われるのに慣れていない私にとって、リタさんやロミーさんのような存在の、なんとありがたかった事か。
「それに実際、結構特別な人間だったみたいだし、ね?」
むしろ、そういった普通の反応が良かったんです。人並みに驚いて、人並みに期待してくれて、人並みに気にしてくれる。そんな友人が嬉しかった。
「自然なリタさんが一番です」
「リタ……気にしすぎ……」
「ラヘルって結構肝が据わってるよね」
「これでも……緊張してる……」
ラヘルさんの表情は、結構読みにくいんですよね。
それでは、お祭りに行きましょう。大人の皆は、もう少し話をするみたいですしね。
その後はとりあえず、お祭りを楽しみました。正しいお祭りの楽しみ方として、出店への注文は笑顔と言われたので実践してみたり。それが嘘と分かり、アリスさんがシーアさんに笑っていない笑顔を向けたり。少々大所帯ながら街を歩きました。
レイメイさんと子供達、そしていつの間に来ていたのか、アーデさんと出会ったり。何故か出店で客引き? をやっているドリスさん達に会ったり。デートをしているライゼさんとアンネさんがシーアさん達にからかわれたり。
お祭り、楽しいですね。本当に……楽しい、です。
晩餐会にはドレスで行くので、着替えなければいけません。シーアさん達やリタさん達はお城で着替えるそうですけれど、私達はもう一つ行きたい場所があるので、一度別れました。
「繁盛してるね」
「カルラさんに聞いた話では、珈琲の美味しさと支配人さんの雰囲気が良いと評判みたいです」
私達が居た時は、別の雰囲気でした。でも今は、落ち着いたカフェスペースですね。でもこの方が宿の雰囲気としては正しいのかもしれません。
「お帰りなさいませ。アルレスィア様、リツカ様」
私達が過ごしていた宿に、帰って来ました。支配人さんが私達を出迎えてくれます。
「ただいま帰りました」
「ただいまです」
「掃除はしていたので、すぐにお使い頂けます」
「ありがとうございます」
ニ、三日空けたくらいの感覚で迎えてくれて、安心しますね。
「これからお城で晩餐会とお聞きしていますが」
「今日は、ここで寝ようと思っています」
「畏まりました」
ここに居ると、王都で過ごしていた一月を思い出します。
「明日、今までの分を払いますね」
「……はい」
支配人さんからは、気にしなくて良いと言われています。でも……もう、明日で終わりですから。
部屋に入ると、私達の荷物が置かれていました。さて、誰がここに? と考えて、すぐに分かりました。シーアさんの魔力を感じます。”転送”か”転移”か、どちらかを使って運んでくれたようです。
「最後まで、シーアさんに頼りっぱなしだったね」
「これからも、頼り続けると思います。そしてシーアさんが困った時、私達が助けられるように」
「うん。ずっと、見てる」
シーアさんとの出会いもまた、思い起こせます。街中で歩く、フードを被った少女。一目で異国の方と分かる少女は、私達を知っていました。薄い褐色の肌に、深い海の色をした瞳。毛先を仄かに青く染めた黒髪に、小さい体。少し訛りの入った王国語で、クふふふ、と笑う少女との再会はすぐでした。
最初の任務。少女の出自と正体を知り、彼女から出された課題をクリアしました。そして共に任務を続ける中で、信頼関係を築いたのです。
戦争の時には命の恩人の一人として、私達を最大限サポートしてくれました。
撤退の時の見張り。アリスさんの食生活の維持に、王都防衛の要。敵の分析に、アンネさんの代わりとなって王国運営のお手伝い。
旅の中では、私達が離れたくないという我侭に理解を示してくれて、率先して二手に別れた片方を担ってくれました。
シーアさんは、マクゼルトに人質にされた事や、幹部級との戦いで力になれない事を悔いていましたけれど、私達はこの二ヶ月間、シーアさんと出会って、頼らなかった事が無いくらい、シーアさんと共に在りました。
私達は……私は、シーアさんに共感を覚えていたのです。エルさんという、シーアさんにとって掛替えの無い人。アリスさんという、私にとって掛替えの無い人。私達は、その人の為ならば命を賭ける。
そして、私達とシーアさん達もまた、命を賭け合う関係となりました。
シーアさんは……私達と共に死ぬ覚悟で最終決戦に挑んでくれました。私達もまた、シーアさんが死なないように、行動をしました。
最終決戦の最中であっても、シーアさんは私達の想いを優先してくれました。
シーアさん。貴女は私達の光です。私達が世界の”光”であるように、シーアさんは私達にとっての光です。
それはきっと、これからもずっと。
「少し悪戯が好きすぎるのが難点だけど、ね?」
「ふふ。それもシーアさんの魅力ではないでしょうか」
「かな。私は弄られてばっかりだったなぁ。最後くらい特大の弄りをしたいんだけど」
「んー。リッカには、難しいかもです」
「だよね」
「私がリッカの仇を取りますからっ」
アリスさんと私は笑い合います。シーアさんとも思い出も一杯あります。それと同じくらい、ライゼさんやレイメイさんも。