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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
64日目、平和の日なのです
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凱旋⑮



「まったく。ロクハナに舞台を止められるのはこれで二回目ね?」

「どちらもフロレンティーナさんが悪いのです。いつもリッカが大事にしている部分に触れるからいけないのです」

「あなた……相変わらずね……」

「す、すみません!」

「いえ、エレンさん達が悪い訳じゃないですよ? ただ、そのですね。アリスさんと私のあの光景はですね。あれです」


 見られたくないなぁって。私達だけの秘密でありたいなぁって。


「あれじゃ分からないわ。ロクハナ」

「フロンさんなら分かってるでしょう。私達似たもの同士です」

「だから嫌いよ。あなた」


 舞台を台無しにした事は謝ります。でも後悔はしてません。


「思ってたより良好っぽいの」

「あなたにはそう見えているの? お姫様」

「リッカとフロレンティーナさんの仲は良好ではありませんよ。カルラさん」

「そういう所が良好っぽい所以なの」


 所謂腐れ縁ですからね。良好とはいえないと、私も思っています。


「ロクハナ」

「はい?」

「……ありがと」

「え?」

「二回も言わないわ。行くわよ。エレン」

「あ、は、はい。ありがとうございました。リツカ様、アルレスィア様!」


 エレンさんの感謝で、フロンさんの言葉が聞き間違いではなかった事が分かりました。一体何のお礼? 何て、そこまで鈍感ではありません。エッボの事、ですね。


 殺しでしか解決出来なかった事は後悔の一つです。でも、被害者の一人であるフロンさん達からの感謝は、嬉しいですね。


「天使様のご活躍、もっと凄かったんだよね?」

「ですネ。本当はもっと激しいですシ、どろどろでしたヨ」

「気になるけど、聞くのは怖いかも……」

「お二人の武勇伝を語り継ぐ人達は多い方ガ、私は嬉しいんですけどネ」

「むぅ……が、頑張って聞きます!」


 クランナちゃん、シーアさんと仲良くなれて良かった。ずっと気にしてましたからね。お互いに。


「楽しかったわね」

「最後もあれくらいの方が良いので。やっぱり、直視するのは辛いです」

「ご来場の皆様。続いての演目に参りたいと思います」


 オペラの余韻冷め遣らぬ中、アンネさんのアナウンスが響きました。催し物、結構あるんですね。


「皆様は、『世界を眺める神』をご存知でしょうか」


 それは、ヴぃムさんが描いた絵ですね。金髪の神さまです。懐かしい。二つ目の町で出会った、絵描きさんです。


「本日、ご来場いただいております」

「新作だ! 我が生涯、最高の出来!」

「あ」

「お久しゅうございます! ああ、麗しの巫女様方! 実はあの後カセンツの若者達が戻ってきましてな!」

「本当ですか? 良かった……」


 相変わらず元気そうなヴぃムさんから、朗報が届けられました。良かった。若者が戻って来た町は、再び活気を取り戻した事でしょう。

 

「恩義を感じておりますとも。ですが……私の発表を止めるのだけはご遠慮願いたい!」

「あ、あはは……」

「ご安心を。ヴィムさんの描いた絵は素晴らしい物なのですから、リッカは止めませんよ」

「それは良かった!」


 先程オペラを止めた私です。そう牽制されても仕方ありません。


「ヴィム氏は、魔王討伐を始めた巫女一行様と出会い、救われた一人です。その際、巫女様、赤の巫女様を描きました」

「お二人と出会い、私はこれを描きました。椅子に座り、寄り添った二人。手を繋いだ二人。微笑んだ二人。色々と見せていただきました。だが、私はこの一枚に絶対の自信を持っている。この一枚こそ、私は巫女様方を表現出来ていると思っている。見て頂きたい。私から巫女様方に贈る一枚を。これこそ、私とカセンツの皆からの感謝の気持ちです!」


 アンネさんからマイクを奪うように登壇し、ヴぃムさんが作品への愛を語りました。


「どうぞ!」


 布が取られ、絵が発表されました。神さまは桃色の髪と、私達が見た姿が鮮明に描きだされています。でも、私が何よりも真っ先に目に映したのは、アリスさん。心配そうな表情ながら、凛々しい瞳で杖を構えています。


 そしてその瞳の先には、刀を振るう私です。その瞳は、憂いを帯びています。


「はは……ヴぃムさん、凄いな」

「はい。戦いに対するリッカの心情を、完璧に表現出来ています」


 私は、戦いが嫌いです。戦いの中で笑うことはありません。アリスさんを安心させる為に笑うことはあっても、刀を振るときに笑みを見せるなんてありえません。


 ヴぃムさんは、あの時の私を良く見ていたのですね。これが、絵描きの洞察力。


「私はこの絵を描いている時、マリスタザリアに襲われ、二人に救われました。それまでの私の印象として、二人は清楚、清廉、純潔。しかし、戦う二人を見るとそんな印象は弾け飛びました! 二人はお互いを守りあっていた! その姿はお互いを思い遣る優しさの権化! 二人が神を語るとき、その表情は柔らかく、慈愛に満ちていたのです! アルレスィア様はリツカ様を、リツカ様はアルレスィア様を! 三者の間に利害など一切ありませぬ! あるのは無償の愛! それは戦いの中起こりました! 戦場は二人だけの物。私はその場を離れなければいけなかったが、腰が抜けてしまいましてな。しかし二人は嫌な顔一つせず、救うのが当たり前と私を守ってくれました!」


 あの時と同様、圧倒的な熱量でヴぃムさんが話しています。この作品が、ヴぃムさんにとっての傑作である証明です。


「私が言いたいのは、お二人の想いはここに全てあるという事です。戦う二人の先にはアルツィア様の愛がある。二人は最後まで戦い抜いた。つまり、世界は今、神の愛に満ちているのです。だからこれを発表したのです。二人の想いを体現したこれを!」


 やっぱり、凄いですね。そうです。戦い抜いた先に、神さまによる平和があると信じてやりました。成し遂げた今まさに、平和に向かっています。ヴぃムさんはあの時既に……この日を予見していた? 私達を信じてくれて、いたんですね。


「アルレスィア様、リツカ様。絵描きたる私めには、これしか出来ません。ですが――」

「ヴぃムさんは、凄いですね」


 これしか、なんて言わないで下さい。これは、芸術です。自分が描かれた絵だけに褒めるのは恥ずかしいですけど、そうとしかいえません。


「今度は変な人に売っちゃダメですよ?」

「はは! ご安心を! これは国への寄贈品ですからな!」


 自分が時代を超えるのは恥ずかしいですけど、アリスさんや神さまの姿が後世まで伝えられるのは嬉しい。これこそ、平和の象徴。私達が死んでも、この絵が平和を伝えてくれるはず。


「ありがとうございます」

「いえ。こちらこそ、ありがとうございました。我々は、貴女様方から頂いた愛を、永久に忘れません」


 ただの絵画発表会、という訳ではありません。コルメンスさんの計らいですね。確かに世界的に有名な絵描きですけど、先代の所為で黒い印象を与えてしまっています。でも今は、平和の絵を描いた稀代の絵描き。


「ロクハナー。私達に感謝はないのかしら」

「え……あ、感謝してます。もちろんです。これからもあのオペラを演じて欲しいと思っています。でもですね。流石に当人としては恥ずかしいんですよ!」

「私としても恥ずかしいです。絵ならば一瞬を切り取った物ですけれど、オペラは流れで見てしまいますから」

(それに、リッカの言葉は私に向けられた物。他者が演じたものであっても、嫉妬してしまいます)


 そうなんです。切り取った一場面ではなく、その一場面を流れで見るオペラは恥ずかしさが倍増なんです! 


「エトムント。ロクハナから許可が出たわよ」

「本当か!? ありがとうございます! これからも一座全員、誠心誠意務めさせていただきます!」


 やられてしまいました。今回だけという訳ではないようです。でも、このオペラもまた、私達の想いを伝えてくれるのですから……。善しとしましょう。


「今回の絵、題名の発表をお願いします」

「福音。簡潔に、それだけです!」


 福音……神さまの祝福を体現する私達。そうヴぃムさんは表現しました。この絵に込められた想い。今度こそ、歴史かれ消えてなくならぬよう……二度とアレスルンジゅのような悲劇を生まぬよう。語り継いで欲しい。そう、願うのです。



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