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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
64日目、平和の日なのです
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凱旋⑩



「あ」


 アリスさんを撫でていた私は、何かを思い出したような声を上げました。


「どうしました?」

「思い出した」


 何故私がアリスさんを撫でているかといえばですね。私に撫でられてみたくなったというエルさん達大人陣を撫でていた所、エリスさんの番となり、撫で始めて数分でアリスさんがエリスさんを引っ張って交代となった訳です。


 これは完全な嫉妬ですね。私でも分かります。エルさんやカルメリタさんまでは良いとして、エリスさんに関しては我慢出来なかったようです。私も多分、アリスさんがお母さんを撫でていたらそうした気がします。


 理由は判りませんけど、考えたらなーんか、嫌って気がしたんですよね。


「残念。リツカさんの気持ちよかったのに」

「かなりの逸材ですね。あの子達もわらわの子供にならないかしら」

「それはエリスさんやリツカさんのお母様が許さないと思います。過保護で有名ですから」

「十花さんでしたね。お会いしてみたいですけれど」


 お母さんの性格を一言で表現する事は出来ません。私が大人になるとあのようになるのかなと考えた事があります。


 厳格です。門限は基本四時。”神の森”を知ってからは緩和されました。この緩和という出来事から、お母さんの甘さが滲み出ています。本質的には、私に激甘なのです。だけど、厳格という言葉が似合うのです。武術の訓練の時、私は何度投げ飛ばされた事か。


 でも痣が出来た事はありません。最初に受身を徹底的に叩き込まれたのです。その後はどんどん実戦形式。痣が出来ていないのは甘さではありません。実力差です。私は手加減をしても問題ないという相手だったのです。


 更に、勉学に関しても徹底されていました。その甲斐なく私はお馬鹿ですけれど、”神の森”に引き篭もるという道を提示したら、嫌々ながら許してくれました。

 

 そう、一言で表現出来ないけれど、二言ならば出来るでしょう。厳格で甘いのです。それが過保護という物でしょう。厳格の裏返しは、私への過干渉。甘さは独占欲と庇護欲。


 お母さんは私を何処までも私を愛しているのです。


「アルレスィアさん甘えんぼさんだ」

「今日は特別なのです」

「アルレスィア様はいつもやって貰っていたのではないでしょうか」


 いつもやっている事だからやらないって事ではありませんからね。クランナちゃんも物足りなさそうですけど、私にとってのご褒美はアリスさんとの触れ合いなので。


 でも、そろそろ到着します。


「コルメンスさん。お客様です」

「お客様、ですか。カルメさんの仰っていた方ですね」

「はい」


 扉がノックされ、カルメさん達が入ってきます。クラウちゃんも居ますね。そしてウィンツェッツさんは、オルデクの子供達と一緒に、町の子供達と会っている所みたいです。後は、今の所動きはありませんね。一度広域を解除します。


「ここならフードを外して良いですヨ」


 シーアさんも言葉通りフードを取ります。自分に倣って良いという事でしょう。


「お久しぶりです。リツカ様、アルレスィア様」

「久しぶりです。ツルカさん」

「角を外す決心をしていただけましたか?」

「はい。少し機会が必要みたいですけれど」

「なるほど。ツルカさんの計画はそうなのですね」

「はい」


 私ではまだ全容を把握しきれていませんけれど、角を取るタイミングさえ間違わなければ、デぃモヌは神さま教と一緒になれるようですね。


「角を取る時期を制御出来ますか? アルレスィア姉様」

「そんなに長い時間は無理ですけれど、一日後くらいまでなら制御してみせましょう」

「それで構いませんので」


 一日後、デぃモヌ教徒の前でツルカさんは演説するそうです。私達に合わせて行うつもりだったようですけど、時期をあえてズラす事で印象を高めるつもりでしょう。私達の演説で言った事を潰すように演説させる事で。


 ですけど、その一日でツルカさんはデぃモヌ崩壊の一手を行えます。


「えっと、詳しくお願い出来ますか?」

「はい。コルメンス陛下」

「初めまして、ツルカ――ディモヌと呼ばれる異教にて、象徴となっている者です」



 ツルカさんとカルメさんによるデぃモヌ改宗計画はこうです。


 明日の演説にて、カルメさんはデぃモヌ達の前で宣言します。かの”桜”は巫女の物だと。そしてそれは神の意思。神の怒りは終わったのだと。そして自分達すらも受け入れてくれるのだと。


 理想は、その宣言と共に角が外れるのが良いのでしょう。


「成程。ツルカさんをアルツィア教の教会に」

「はい。今教主が不在と聞きます。ディモヌ教徒からすれば、自分達の象徴がアルツィア教、教主となる事で威厳を保てるでしょう。奇跡の代行者たる”巫女”とディモヌが和解となれば、真っ当な教徒たちは喜びます。そこで反対する者達が現れたらどうでしょう」

「怪しいですね……」

「そういう事ですので」


 北部はカルメさんの国とデぃモヌの二大派閥ですけれど、カルメさんはいわばこちら側の人。そしてツルカさんという象徴がカルメさんと手を組むとなれば自然と統合されていきますね。

 

 あのフゼイヒは何とか切り離そうとしてくるでしょうけど、正直カルメさんと討論出来るとは思えません。格が違いすぎます。


 打算があると言いながらも、その実国民を第一に考えるカルメさんと、打算に塗れて人格が変わってしまったフゼイヒ。勝負は始まる前からついています。


「えっと、難しい話ですけど……」

「なの。クラウは無関係ではないの」

「何れ教会に務めるのなラ、ツルカさんと知り合っておいて損はないでしょウ」


 クラウちゃんとツルカさんの対面式も兼ねている、という事ですね。


「リツカ様、アルレスィア様。誠に身勝手という事は承知しておりますが」

「いえ。これからもよろしくお願いします」

「”神林”集落は支援が必要ですし、お願いしますね」


 これからも、長く付き合うことになるでしょう。物流が滞れば、王国の外れにある集落は廃れます。だから、永く広めて欲しい。神さまの存在を。その奇跡と、愛を。


「はい。これからは、自分の想いに素直に」

「それが良いでしょう」

「無理してたら、どこかで歪ますからね」


 ツルカさん、憑き物が落ちたようです。生活の為とはいえ、詐欺を行っていたのが辛かったのでしょう。


「ツルカさん。こちらが”伝言”で話した子です」

「シスター志望という事でしたけれど」

「は、はい」


 この世界の職種に、年齢制限はありません。何しろシーアさんが運転免許を持っています。これはかなり異例だそうです。でも、国の発展を考えるのならば、優秀でも幼いから、と押しのけるだけでは進みそうにないですね。むしろ、もっとのびのびとやらせて見るのも手かもしれません。


 責任感という物を、幼い精神で受け止めきれないという事実があるにはあります。でも、子供の頑張りを応援するのも、支えるのも、大人の務めですよ。


 クラウちゃんを交えて、カルメさんとツルカさん、コルメンスさんが話しています。計画を詰めているようですね。


「良い仲間が多いみたいですね。身内で足を引っ張り合う事を義務付けられた皇家としては、羨ましい光景です」

「皇女様は良く変えたと思うの」

「ありがとう、カルラ。でも、残してしまうわ。貴女に」

「何もやる事の無い皇位程つまらないものはないの。わらわが名君であったと後世に残っても嫉妬しないの」

「ええ。貴女の踏み台なら悪くないわね」


 カルメリタさんとカルラさんも話していますね。多分この後は、リタさん達との懇親会といったところでしょうか。


 それにしても、カルメさんは働きすぎですね。


「んー」


 労う方法はないでしょうか。話に集中しているカルメさんを呼び止める訳にもいかないですし。ああ、今日は特別でしたね。


「それでは、明日戻るとしましょう。お祭りを楽しんでもらう時間は余り取れませんけれど、二時間くらいならば」

「いえ、私は大丈夫――リツカ様?」

「うん?」

 

 明日実行という事は、ツルカさんはもう帰るんですね。そしてカルメさんもついて行くかもしれない、と。


「リツカ姉様?」

「あ、話してて大丈夫」

「えっと」


 皇姫として上位。王国を救う為に、私達の尊厳を守る為に今も働いているカルメさんに、頭を撫でるだけで労いになるとは思っていません。でも、そうですね。


 何もしないという選択肢はありません。傍観、諦観はもう懲り懲りです。背後から気配を消し、とりあえず撫でています。


(皇女様や母様とは違う――何でしょう。落ち着くと言いますか……これは拙いです。成程。アルレスィア姉様が溺れるのも無理はありませんので)


 話が止まってしまいました。でも、困惑しながら、どうしたら良いか分からないといった様子で撫でられているカルメさんは珍しいです。


(ここで私が撫でたらどうなるのでしょう)


 アリスさんも楽しみを見つけたようです。


「あ――」


 私が撫でるのをやめると、カルメさんがちょっと声を出しました。すかさずアリスさんが撫でると、カルメさんの困惑が増えました。アリスさんと私では撫で方が違いますからね。


 カルメさんの労いになっているでしょうか。もっと良いのを考えておきますか。



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