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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
64日目、平和の日なのです
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凱旋⑤



「おかえりなさい!」

「ありがとー!!」

「リツカ様ー!」

「アルレスィア様ー!」


 門が開くと同時に、歓声が上がりました。大通りの真ん中を残して、左右を人が埋め尽くしています。建物の二階も屋上も、人でびっしりです。見知った顔も見えます。武器屋のご主人。ギルドの職員達。冒険者仲間に、市場の方達。


「ただいま帰りました」

「ただいま、です」


 馬車の上から、皆に手を振ります。こういう時は、笑顔が一番です。


「手振ってくれた!」

「こっちにもー!」

「ん? おい、ライゼ!?」


 やっと気付いてくれました。一応一つの馬車に乗っているのですけど、注目されているのは私達やエルさん達みたいです。


 気付いてくれたのは、武器屋のご主人みたい。ライゼさんとは友人でしたね。


「おー。後で寄っから、開けとけよ」

「勝手言ってんじゃねぇ! 何処行ってやがったボンクラが!!」

「だから、それ教えてやっから開けとけって言ってんだろが!!」

「祭りの日まで営業しろってか!?」

「別に良いだろ。リツカが剣を直しておきてぇって言ってんだよ!!」

「分かった。開けておく」

「変わらねぇな馬鹿」


 歓声に負けないくらい大きな声で会話してるので、私達にもしっかり聞こえています。


 実はですね。集落の剣を一応直したいなぁと。折れた剣はシーアさんが回収してくれていたんですけど、折れたまま返却というのは、流石にですね。借り物ですから、この剣。


「本物?」

「あんなそっくりさん居ないわよ!」

「ライゼさーん! 後で家に寄ってよー!!」

「あんた、アンネに殺されるわよ……」


 アンネさんに会った当初なら、それはないと言えたんですけど。


(今だと、冗談になりそうにないですね)

(あはは……でも、私達は人の事言えないかも……)


 私達だからこそ、アンネさんの気持ちが分かるのです。アリスさんも分かるからこそ、アンネさんを許せないという気持ちなのですから。


「お茶くれぇなら」

「おい。阿呆親父。てめぇ」

「わ、分かっとる。だがな、世話になっとる顔もある訳でだな」

「担当だけ見とけっつったよな」


 いつになく、レイメイさんが怒っています。これに関しては、私達女性陣からの視線も鋭くなるという物です。いくらお世話になっているからといって、アンネさんを蔑ろにはして欲しくありません。


「まァ、将来的にはサボリさんのお母さんになる訳ですからネ。関係は良好に保ちたいところですよネ」

「そういう意味じゃねぇ。つぅか、俺はこいつの養子だが、担当と親子になる気なんてねぇからな!?」

「サボリはアーデと別の家に住むの」

「はっ!?」

「強く否定しない辺り、そのつもりだったみたいなので」

「ちょ、違」


 ライゼさんからレイメイさんへ、標的が変わりました。レイメイさんには、何かあるんでしょうかね。弄られ体質というか、何というかが……。何故か共感を覚えてしまいます。


 シーアさんがレイメイさんを気に入っているというのもあるのでしょうけど。当然、弄りやすい対象として、何ですけどね? 


「そういえば、何でアーデさんあんなに怒ってたのかしら」

「ああそれはですネ。サボリさんがカルメさんを」

「ちょっと待てチビ」

「私の口を止める方法は一つだけでス」

「チッ……何が食いてぇんだ」

「神誕祭の時の卵焼きでス」


 そういえば、明石焼きのような物がありましたね。


 アーデさんが何で怒っていたのかという、エルさんの疑問への答えは一生聞けそうにないです。


 でも多分、シーアさんが渡したというノートに書かれていたのでしょうね。二日酔いの件やら何やらが。お酒には気をつけろみたいな事が書かれていたはずです。


「皆さん。そろそろ広場ですよ」


 段々と歓迎が激しくなってきました。花火だったり、噴水が勢い良く上がったり、人々の熱もどんどん高まっています。


「リタさん達居ないね」

「クランナも居ないの」

「奥の方でしょうか」

「何処に居てモ、リタさんなら目立ちそうですけどネ」

「王都の元気印だものね」

(あのガキ共何処だ)


 リタさんなら、一番目立つ所に居てくれると思うのですけど、広場にも居ないとなると……コルメンスさんの計らいでしょうかね。


「お兄ちゃんが待ってますネ。リツカお姉さン、報告お願いしまス」

「私?」

「リッカが適任かと」

「だな」

(アンネ、何処だ?)

「まァ、お前ぇ以外に居ねぇだろ」


 巫女一行の私達に役職をつけるのなら、アリスさんが隊長。シーアさんが参謀。私とレイメイさんが戦闘員といった感じだと思ってたので、アリスさんが報告をと……。


「リツカお姉さんが居なけれバ、この旅は何度も終わりを迎えていたでしょウ」

「俺を直接救ったのはアルレスィアだが、お前が諦めない選択をしたからだと聞いとる」

「言いたくねぇが、阿呆爺に勝てたのはお前ぇのお陰だからな」

「リッカ。この旅、貴女さまが居たからこそ、成功しました。私達の誇りです。貴女さまから、魔王討伐の宣言を――お願いします」


 私が呼ばれたのは、アリスさんのサポートくらいの感覚だったんですよね。神さまから話を聞いて、旅を始めた時は。


 実際、アリスさんの”拒絶”と”光”がなければ、アレスルンジゅに勝てていません。私は、アリスさんの魔法を叩き込む役割。そう思ってました。


 でも、皆は……私が居なかったら、と言ってくれます。嬉しいですけど、ちょっと止めて欲しいなって思います。そんな事言われたら、せっかくの覚悟、揺らいでしまいます。


「リ、リッカ?」

「サ、サボリさん、お師匠さんちょっと壁作って下さい」

「焦りすぎだ」

「こっちの言葉使え……意味は分かるがよ……」


 恐怖心を受け入れてからというもの、涙腺緩すぎですね。涙を流している自覚がある分、昔よりはマシですけど。


 私の涙を隠していた、幼い私はもう居ません。これからの私は、ありのままの私を背負う事になるでしょう。泣き虫な私です。これが本当の、私なんです。


 皆と別れるの、辛いな。


「嬉し泣きなんて、初めてなんじゃないかな」

「まだ、早いですよ。リッカ……」

「そうですヨ。これからもっと嬉しい事ありまス」


 そう、ですね。最後までまだ、早いです。今泣いてしまったら、ずっと泣いたままになってしまいます。


「やっぱり連れ帰りたいの」

「姉様。諦めて下さい。わらわも我慢しているので」

「はぁ……やっぱり、私も寂しいわ……」

「リツカ様……」

(こういう時どんな言葉かければ良いか分からん。アンネ、俺を見たらこうなるんか? どうすりゃ良いんだ?)

(アーデは嬉し泣きとかしねぇよな……どんな反応すれば良いか分からねぇぞ……)


 ああ、カルラさんやカルメさん、エルさんは知っているでしょうけど……フランカさんにまで見られてしまいました。尊敬されていますけれど、これが私なのです。


 残念ながら私は、完璧超人には程遠いです。あのアレスルンジゅですら完璧な魔王にはなれませんでした。


 アレスルンジゅは、神さまの為に人を捨てました。でも最後は……人として天へと昇っていったのです。神さまを愛する、一人の女性として。


 だから世界の何処を探しても、完璧な人間は居ないのでしょう。完璧ではないから、完璧を目指そうとして頑張れるのです。


 一生完璧にはなれないから挫折する事もあるでしょう。でも、それを乗り越えた先に、幸せがあるのではないでしょうか。完璧でなくても良いと。


 私は、そう思います。


「じゃあ、私が、やるね?」

「お願いします、リッカ」


 これを言うと、旅が終わります。ここでコルメンスさんに、魔王の余波が気になるからって言ったら、旅が続けられるでしょうか。流石に、苦笑いされそうです。神さまだって、頭を叩きそうです。


「お帰りなさいませ。皆様」

「……ただいま帰りました。コルメンス陛下」


 片膝をつき、コルメンスさんに帰還を告げます。私達の声は、拡声器により町中に届けられているようです。だから、長々と言う事はありません。これは儀式です。


「魔王の討伐。完了しました事を……ここに報告させて頂きます」

「確かに、承りました。国民を代表し、感謝と労いを」


 胸に手を当て傅いた私達に、コルメンスさんから労いの言葉が掛けられました。それは、短い二つの単語ではありました。しかしその二つの単語に込められた想い。確かに、私達に届いています。


 もしその想いをコルメンスさんが言葉にしようとしたなら、幾千、幾万の言葉をもってしても足りないという事も。


 今この場では、凝縮するしかありません。我慢出来ないといった雰囲気を背中に感じています。私達のやり取りから二秒ほどの沈黙の後、王都内の人々からの、今日一番の大歓声が――響き渡るのですから。



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