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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
64日目、平和の日なのです
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凱旋④



 クラウちゃん含め、ドリスさんやカミラさん、子供達にエーフぃさんも凱旋に一緒に行かないかと伝えたのですけど、王都に帰るお客さんの船に乗せて貰って行くとの事で、その場で別れました。


 理由ですけれど、巫女一行の船に乗って行くと余計に目立つとの理由です。ドリスさんやカミラさんとしては、お店の関係で目立っておきたいようですけど、クラウちゃん達の事を考えての行動だそうです。


 少し配慮が足りませんでしたね。何故クラウちゃん達が私達の船に乗ったか、となれば調べるでしょう。この世界は噂好きですから。そうなった時、オルデクでも話題になった事件です。従業員の方達は口が堅いですけど、もしかしたらがあります。

 

 クラウちゃん達がマリスタザリアに変質しかけた事は、いらぬ疑いと差別を生みかねません。あくまで、町で出会った友人で在った方が良いのでしょう。

 


「クラウも一緒が良かったの」

「理由は判りましたけれド、もうちょっと居たかったでス」

「街でも一緒に遊べますので」


 こうやって会話を聞いたり、その姿を見てみると、カルメさんが長女に見えて仕方ありません。


「リツカから視線を感じるの」

「この視線はよからぬ事を考えている物でス」


 見過ぎました。でも、年相応の反応をする二人は可愛らしいですね。見ていて微笑ましいです。


「不埒な視線なの」

「巫女さんが怒ってますヨ」

「え」


 そんなはずは――あれ? 本当に、ちょっと不機嫌に……。


「リッカの子供好きは知っていますから」

「ん、うん」

「お子様を愛でるのを止めたりしませんよ」


 確かに少しだけ、笑顔の裏が怒りですけれど、矛先は私ではみたいです。


「あ、これはわらわ達に怒ってるの」

「リツカお姉さん弄りをしすぎましたネ」

「わらわは悪くないので」


 シーアさん達が船内に逃げていきました。元気なのは良いと思いますけれど、三人が束になると私ではさばききれませんね。


 先ほどの流れも、何故アリスさんは怒っていたのか、シーアさん達は私の視線に何を感じていたのか、私には分かりませんでした。


「リツカ姉様が帰るの、不安ですので。色々と勘違いさせたり、勘違いしてしまったりしそうなので」

「……リッカのお母様や、お父様は過保護みたいですから」

(アルレスィア姉様……。親は子の旅立ちを望む生き物。何れは……。しかしそれを伝えるのは、酷ですので。わらわ以上にアルレスィア姉様が一番、リツカ姉様が帰るのを……)


 下は、ゾルゲですね。子供達は元気になったそうです。様子を見たいのは山々ですけれど、結局神さまが何とかしてくれただけですから、ね。神格の件も気になります。


 森に帰ったら、話す事一杯です。時間、どれだけ貰えるでしょう。


「わくわく、しないな」


 ぽつりと呟いた私の言葉は、誰にも届いていません。良かった。こんな言葉、誰にも聞かれなくて。


 凱旋ってもっと、わくわくするんだと思ってました。楽しみであったのは否定しません。漸く私は、英雄となるのです。アリスさんとの約束をまた一つ、達成出来ます。


 でも、こんなに、苦しい。わくわくなんてしません。流れていく光景。そこは過去、私達が進んだ道。思い出がぽこぽこと、浮かび上がってきます。浮び上がっては、霞んでいきます。きっと今の私は……また、涙ぐんでいるのでしょう。


 王都が、見えてきてしまいました。皆が待っています。行きましょう。王都に着く頃には、乾いていますとも。




 歓声、でしょうか。王都から聞こえてきます。神誕祭の時にみた横断幕や、吊り下げられた国旗や神さまの紋章もありますね。お祭り騒ぎ、というものでしょうか。今日という日を、皆が祝ってくれています。


「戦争や魔王の恐怖も、リツカ達の凱旋が塗り潰したの」

「ですネ」


 凱旋。楽しみでしたけど、恥ずかしいので遠慮したいイベントでした。見る側になりたいんですよね。


 でも、こうやって皆が楽しんでくれているのなら、凱旋の主役の一人として堂々としましょう。


「戦争で亡くなった人々の慰霊も兼ねているので」

「ええ。コルメンス様から、演説に含めて欲しいとお願いされたわ」

「はい。皆さんの活躍があったからこそ、今日という日を迎えられたのですから」

「国を守った英雄は、あの日戦った人々全員だから、ね」


 私達が英雄ではありません。大きな功績を挙げはしました。でも、国を守ったのは間違いなく、西で戦った人々です。


 しっかりと、私達は伝えなければいけません。忘れてはいけない、確かな命の輝きを。


「……演説?」

「さテ、そろそろ着きますヨ」

「……」


 私の呟きは、また誰にも聞こえなかったようです。いえ、もしかしたら聞こえていたのかもしれませんけれど、握り潰されたのでしょうか。

 ……演、説?




 大通りを歩く為に、南の牧場に船を止めます。高台でも良かったのですけど、牧場の方達がご厚意で空けてくれました。

 一先ず私の疑問は、棚上げします。もう、なるようにしかなりません。


「お帰りなさいませ」


 流石に今日ばかりは、フランクにはいけそうにない、でしょうか。牧場の方達が出迎えてくれましたけれど、まるで宮廷の従者のようです。


「最初に歓迎出来る機会に恵まれ、嬉しく思います」


 いつもは気さくに話しかけてくれる方達も、今日は畏まっています。少し、あれですね。慣れないです。


「ただいま戻りました。皆さんのお変わりない姿を見られて、私達も嬉しく思います」

「えっと……皆さんのお肉料理、楽しみにしてますね」

「! はい。もちろん、ご用意しております!」

「アルレスィア様の料理には及ばないでしょうが……精一杯頑張りました!」


 良かった。ちょっと雰囲気が柔らかくなりましたね。


(やった! 約束覚えててくれたみたいだ!)

(当然でしょ!? リツカ様が忘れる訳無いじゃない!)

(一段とお美しく……エルヴィエール様達までこんなに近く。俺、死んでも良いかも……)

(馬鹿! お二人の前で、簡単に死ぬとか言うな)


 あはは……。声、聞こえてますよ? でも、この方が帰って来たって感じがします。本当に、良かった。


「相変わらず、阿呆やってんな」

「こんくれぇじゃねぇと、この世界の酪農家になれっかよ」

「え?」

「嘘!?」


 一応凱旋という事で、主役の私達が一番前、エルさんシーアさんが後ろ。その後ろにカルラさん、カルメさん。最後に護衛……ではないのですけど、ライゼさんとレイメイさん、フランカさんが居ます。


 ライゼさんは途中参加なのと、まだ敵の手に落ちていた事を気にして。レイメイさんは単純に、柄じゃないからとの事です。


 柄じゃないで順番を決められるのなら、私も一番後ろが――あ、何でもありません……。流石に、アリスさんに咎められました。


 さて……サプライズ、という物はこちらにもあります。牧場の方達も固まっていますね。これは、王都内に入った時が楽しみです。


 何しろここには、悪戯好きの方が集まってますから、ね。


 


 一先ず牧場の方達とは別れます。どうやら先に王宮へ向かい、料理の最後の仕上げをするそうです。


 用意されていた馬車に乗り、王宮を目指し出発します。ルートは、大通りを真っ直ぐ行くだけです。


「おお帰りなさいませ!」


 緊張した様子の門番さんが敬礼で迎えてくれました。いやぁ、懐かしいですね。少しだけ笑ってしまいます。


「最初、リッカを不審者と思って拒絶したんでしたね」

「ア、アルレスィア様、それは……」

「紹介が、護衛じゃなくて”巫女”だったからね」

「あの時のリッカは、”巫女”ではなくても良いと本当に思ってましたから、ね」

「あはは……ごめんなさい」


 本気で、アリスさんの護衛で良いと思ってました。共に歩むという意味を履き違えていたのです。護衛とは、体を張って対象を守る存在です。でもアリスさんは、私にそれを求めていませんでした。


「あん時か。懐かしいな」

「私達は知りませんネ」

「わらわもそれは聞いてないの」

「”光”を見せるまで、押し問答しました」

 

 あの時に、アリスさんの頑固さを知りましたね。あ、結構頑固な所もあるんだぁ、みたいな。その凛々しい顔も綺麗で、私の為に毅然とした態度で門番さんと言い合っている姿が格好良くて、どきどきです。思い出しても、胸がときめきます。


「も、申し訳ございません……。しかしそれは、そのですね。水に流していただけたのではないでしょうかッ?」

「もちろん、気にしていませんよ。懐かしんでいるだけです」

「心臓が止まるかと思いました……」


 アリスさんにも笑顔が見えます。良い思い出ですね。今日は、何もかもを忘れて、凱旋祭りを楽しみましょう。


 兵士さんも、それくらいの気持ちで居た方が良いですよ。ガチガチに緊張していたら動けませんし、楽しめません。


「それでは、開――ってライゼさん!?」

「緊張のしすぎで視野が狭なっとるな」

「ま、俺等が居るとこに攻めて来る阿呆は居ねぇだろ」


 門が開いていきます。さて、約一月ですか。たかだか一ヶ月。されど一ヶ月。ただいまです。



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