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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
64日目、平和の日なのです
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凱旋②



 私達がトぅリアから離れた後ツルカさんが訪れたとあって、今では鎮められています。あの時の生き残りの男性は、ジーモンさん達に保護された後は王都に行ったはずです。


 虐殺の痕は、血の飛沫だけです……。


「そんじゃ、ちっと行ってくる」

「私達も行きます」

「ああ」


 世界を混乱に陥れた魔王の一派ではありますが、混迷の時代において道を誤った迷子です。今度は迷わずに、真っ直ぐに魂が昇っていけるように祈りましょう。


「ここで戦ったんか」

「はい。あの時のままですね」


 大きなクレーターが残ったままです。


「未熟すぎたね」

「あの時は冷や冷やしました」

「ちょっとマクゼルト蹴って良いですカ。今でも腸煮えくり返ってまス」

「俺もイライラしてきたな」


 人質になってしまいましたからね。勝利で雪ぐ事が出来たと思ったのですけど、この場に来るとまた一味違いますね。


 鮮明に思い出せます。


「何があったかは聞いてるけど、死者を蔑ろにしてはいけないわよ。シーア」

「ちょっとした冗談でス」

「多分サボリは本気なの」

「そう見えましたので」

「……」


 さて、ライゼさんの家が見えてきました。あの裏にお墓を作るんでしたね。


「どうしよう?」

「岩でしょうか。墓石を作った経験はありますけれど」

「適当で良いんだがな」


 一般的な物でしょうか。石碑とか? 将来的には一族の墓になるのでしょうか。


「ああ、この世界のもんより、向こうの世界のもんが良いな」

「向こうのですか?」

「確か、十字架や四角柱だったり、でしたね?」

「うん。でも十字架はキリスト教……あれ? 普通のお墓も仏教なのかな……んんん?」


 こちらでは関係のない宗教ですけど、どうしたものでしょう。かといって、私が知っているお墓の形態なんてその二つくらいですしね……。


 十字架自体はこちらにもある訳ですから、宗教を気にするのは間違い? 難しい問題です……。


「四角ので良いぞ。簡単だからな」


 そんな適当で良いのでしょうか。まぁ、ライゼさんが良いのであれば。


「土葬と火葬、どっちが良いんですかネ」

「普通は火葬ですけれど……」

「残念ながラ、マクゼルトの表皮を焼き切る事が出来ませン」

「シーアで無理なら、土葬しかないわね」


 マクゼルトの表皮は硬くはありません。けれど、シーアさんですら火葬しきれそうにないようです。


「まァ、爺なら獣に掘り返されたりしねぇだろ」

「そうだな。燃やせん以上はそうするしかねぇか」


 さて、お墓を作るのはライゼさんがするそうですし、穴はシーアさんが掘るそうです。そうなると、やる事がありませんね。


「問題が一つ出来ましタ」

「ん?」

「棺を作る木材が必要なんですけド」


 一斉に私に視線が集まりました。ああ、なるほど。理解しました。


「斬りましょうか」

「良いんですカ?」

「んーっと、必要最低限なら、良いんじゃないかな」


 人が生きる以上、木材は必要です。無闇な間伐は嫌いですけど、ね。


「斬った方が森の為になる事もあるんですよ。光が当たりにくくなってたり、地面からの栄養を十分に吸えなくて細くなってたり、葉っぱが病気に侵されてたり、目に見える範囲では、あの一帯はダメですね。あの木はスカスカです。残念ながら、永くは持たないでしょう。あの一帯の土は少し拙いでしょうね。もし開拓を考えているのなら、あの一帯の土は避けた方が良いかと。後は――」

「踊りはないけど、なの」

「これこそですネ。あの一帯の木なら切って良いそうでス」


 あ、流されました。少し余計な話をしすぎましたね。切れる木だけ教えれば良かったんでした。


「リツカ姉様、向こうでもう少し詳しく聞きたいので」

「カルメさんは開拓も考えていたんでしたね」

「はい。土地の知識は乏しいので」

「私が話せるのは木に関してだけだけど、それでも良いのかな……?」

「それでも構いませんので。木の扱いを知りたいです」


 何が必要でしょう。木の育て方は必要として、手入れの仕方も要るでしょうか。山に植える重要性も話しておきましょう。この世界にも地震はある訳ですから。




 土葬を終え、祈りを捧げました。ライゼさんに積極性がないからですけれど、本当に簡素な物で終わりました。もっと時間が掛けても、と思いましたけれど……今日凱旋という事を伝えていますし、オルデクに寄る予定もあります。時間を気にしてもらえるのは嬉しいですけど……ね。


「オルデク、クラウちゃん達は元気でしょうか」

「前に進めてるかな。クラウちゃんは大丈夫だと思うけど」

「皆勉強してたの」


 そういえば、カルラさんはオルデクに行ったんでしたね。


「クラウは将来、教会に勤めたいって言ってたの」

「クラウちゃんならもっと……それが、クラウちゃんが選んだ道なんだね」

「なの。アルレスィア達の力に、少しでもなりたいって言ってたの」


 きっと、カルラさんも同じ事を尋ねたはずです。クラウちゃんなら、もっと良い仕事にって。でも、クラウちゃんの意思が大事です。


「教会ですか。では、わらわも話が出来ましたので」

「ツルカさん関係?」

「はい」


 今の王都に教会がありません。でも、大丈夫です。王都も変わります。


「シーアはどうしてオルデクに行きたいの?」

「えーと、あれでス。クラウちゃんが無事か確認したいですシ、私達の無事を伝えたいでス。友人ですかラ。カルラさんはどうしてでス?」

「わらわは、クラウに貸した物があるの」


 何でしょう。シーアさんとカルラさんが牽制しあっているような雰囲気を出しています。お互いの言葉を順に出していき、相手から決定的な言葉を引き出そうとしているような、鬩ぎ合いです。


 と、もう着きますね。今日も朝から、大繁盛みたいです。それも当然でしょうか。平和な訳ですから。




「あら。あの飛行船って」

 

 空から見えたのは、いつもの位置に立ってお客さんや従業員を見ている女性。この町に着いた時、最初にあの人に会えた事は幸運だったと言わざるを得ません。


「クラウー。ドリスから連絡。飛行船が来たそうよ」

「え!? わ、じゃあカルラちゃんだ!」

「こーら。人前ではちゃんとなさいよ?」

「はーい!」

「って、もう行っちゃったの? まだ続きがあるんだけど」



 降り立って、真っ先にドリスさんの元へ向かいます。


「ドリスさん。お久しぶりです」

「あら。相変わらず可愛らしい子達ね――って、増えた?」

「妹なの」

「姉でス」


 ドリスさんがきょとんとした表情を浮かべました。流石に、皇姫と女王が一緒となると、ドリスさんでも驚いてしまうようです。


「あら……大物しか居ないわね。どうしましょう。お客を止めないといけないわ。皆貴女達を狙ってるもの」

「護衛も増えてますかラ」

「その護衛ちゃんも狙われてるし、護衛さんに限ってはもう飲まれちゃったわよ?」


 狙うというのは、従業員と思われたのでしょうか。それはやっぱり、私達の格好が原因だったり? この服、凄く大好きなのです。だけどどうやら、派手すぎるみたいです。王都では結構目立たなくなってたと思います。でも、まだまだ派手な服は少数派、ですから。


 だからといって、脱ぐつもりはありませんけどね。


 レイメイさんとライゼさんは、連れて行かれました。気付いてましたけど、どうやって止めれば良いか分からなかったので。


「ウィンツェッツさん。また来てくれたのね!」

「私に会いに来てくれたの? 嬉しいわ!」

「こちらの傷だらけのお兄さんは……?」

「傷だらけだけど、素敵……」

「その傷が良いんじゃないっ! ねぇ? お名前は?」


 男性の顔の良し悪しは分かりませんけど、ライゼさんとレイメイさんは格好良いというのは分かります。ライゼさんの傷もまた、渋さ? というのでしょうか。魅力になっているようです。


 アンネさんはあの傷を見て、ライゼさんを失った時を思い出してしまうでしょう。何とか無くしたい所ではあるのですけど。


「噂通り、美人ばっかだな。お茶一杯分の時間はあるが、俺は心に決めた――」

「一夜の思い出くらい大丈夫よ」

「そうそう。それに、お茶くらいで文句言う人なんて居ないわよ」

「いや、アイツは」

「おいもうお前、喋るなよ。お前が喋ると女共は喜ぶんだよ。自覚しろや阿呆親父。このタラシ野朗が」

「あん? 女性には優しくせんといかんだろが」

「お前……担当だけに向けろや」


 見るに耐えないとはこの事でしょうか。アンネさんやアーデさんには見せられない光景ですね。私でも分かりますよ。


 傷の事を真剣に考えている私の視線にも気付いているでしょうに、ライゼさんは相変わらずですね。


(タラシといえば、リツカお姉さんも結構タラシだと思うんですよね)

(リツカの無自覚には困ったものなの)

(わらわも素敵な言葉を頂いたので)


 何でしょう。シーアさんとカルラさん、カルメさんにジト目を向けられてるんですけれど、理由が判りません……。呆れのような、やれやれといったような……。


「お戯れはそこまでにしましょう」

「そうね。ドリスさんも困ってるわよ」


 アリスさんとエルさんに助けられました。シーアさんのジト目だけでも効果抜群ですけど、カルラさんとカルメさんまで加わるとたじたじです。理由が判らないと尚の事です。


「変わらないわねぇ。安心したわ」


 ここからならば、北での戦いはバッチリ見えていたでしょうからね。不安も一入だと思います。それでもドリスさんはいつも通りですね。安心したというなら、私達の方です。


「巫女様、赤巫女様」

「はい」

「どうしました?」

「ありがとうね」


 やっぱりこうやって、知り合いの方が日常を送ってくれているのが、一番安心、ですね。ありがとうという言葉も、私達の台詞ですよ?



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