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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
63日目、白くないけど白い思い出なのです
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雪②



 このエクレア店でも、シーアさんは常連みたいです。


 ショーウィンドの一番目に入るエクレアは、一般的なものですね。クリームが入って、チョコの掛かったものです。


 変り種というのは――注文のみ、みたいです。


「ハムチーズと、ピリ辛ドルラーム。後は普通の物と、チョコ増し下さい」

「個数はいつも通りで良いの?」

「いえ、三個ずつでお願いします」

「はいはーい。席で待っててね」


 シーアさんが行くのはイートインスペースがある場所が多いみたいです。シーアさんが食べている姿を見せる為、っていうのは、考えすぎですかね。


「ハムチーズ、ですか」

「所謂食事系でス」

「それもチョコが掛かってるの?」

「いえ、ハムチーズには黒胡椒が少々ですネ。ピリ辛にはマヨネーズでス」


 スイーツとしてのエクレアはもちろん、ちょっとした軽食にもなる物があるようですね。結構ガッツリ食べようと思えば食べられそうです。


「値段も安価ですかラ、学生さんとかに人気ですヨ」


 ファストフードですね。注文が必要な物は二百円前後ですけど、普通のエクレア等は九十円前後と手が伸びやすい価格です。



 

 暫く飲食店を回りながら、共和国の町を見て回ります。王都のように、区画で分かれていないので、食べ歩きをするだけで全体を回れますね。


「そろそろ行きますカ。丁度良い時間帯でス」

「なの?」

「ん?」

「共和国の朝っテ、実は長いんですヨ」

 

 ニヤリと、意味深な笑みを浮かべたシーアさんについて行きます。どんどんと町を離れていきますけれど、外に出るみたいですね。


「この水球に乗っテ、目隠しお願いしまス」


 城壁の内側で、扉を開ける前にシーアさんからお願いされました。サプライズ的な感じですかね。


「リツカお姉さんと巫女さんは初めての雪ですからネ」

「あ、やっぱり雪を見に行くんだ」

「でス」


 天然の雪は初めてですね。シーアさんが作り出した人工の雪は見ましたけれど。


「人工と天然は全然違いますヨ。特に、共和国の雪は粉雪ですからネ」


 本物の雪。さくさくと、シーアさんが歩いている音が聞こえます。この音が聞こえるだけでも、雪があるんだと実感出来ます。

 

 でも一番はやっぱり――寒さ、ですかね。


「少し薄着すぎたので」

「なの」


 カルメさんとカルラさんは、着物のような服装一つでしたね。


 視線は交わせませんけど、アリスさんと私の気持ちは一緒です。


「カルラさん、カルメさん」

「こちらを羽織っておいて下さい」


 私達のカーディガンを二人にかけます。


「それだと二人が風邪引いちゃうの」

「私達は大丈夫です」


 カーディガン一枚でも全然違います。カルラさん達の体が冷えるといけません。アリスさんの言うとおり、私達は大丈夫です。


「あ、寒かったですカ。火付けます――確かニ、お二人は大丈夫そうですネ」

「なの?」

「わらわ達もそうしておきましょうか。姉様」

「急に抱きついてどうしたのカルメ」


 抱き合えば温かいです。アリスさんと私、カルラさんとカルメさんで抱き合っています。流石に、北の更に北となると寒さが段違いですね。


(何でしょうこの光景。羨ま――いえ、そんなでもないですけど)

「雪見をしながら、五人で固まりましょうか」

「こんな時ばかり心を読まないで下さイ」

「五人で固まれば温かいね」

「その場合、順番が問題ですので」


 アリスさんの読心は目を見る必要があるので、シーアさんの考えなら能力が無くても読めるという所でしょうか。約二ヶ月、寝食を共にした仲ですから。


 順番、アリスさんが隣なのは当然として、どんな順番でも良い思い出となります。唯一無二の、です。


(リッカを一番端……いえ、それでは寒いですね。しかしそうなるとリッカの片側を誰に任せるか……やはりシーアさんでしょうか)

(シーアが隣、もう片方はカルメ? リツカ? アルレスィア? いっそ五人全員が固まれるのが良いの)

(誰が隣でもわらわは嬉しいので)

(ただ暖を取るだけなのに、カルラさんと巫女さんが本気で思考してますね……)

「写真取りたいね」

「私が出来るのデ、五枚で良いですかネ」

「ありがとう。楽しみだなぁ」


 何故か両隣、アリスさんとカルラさんから反省するような雰囲気が出ましたけれど、段々と高まってくる肌を刺す寒さや、スンっとした冷たい香り、光の強さに気を取られてしまいます。一面真っ白なのでしょうか。


「おヤ」

「どうしました?」

「いエ、約束を守ってくれるのは何も――人だけではないようです」


 シーアさんが楽しげに笑っています。どうしたのでしょう。

 目隠しを外して良いとの事なので、外します。


「これは、綺麗なの」

「光の雨、でしょうか?」


 光の雨、言い得て妙です。この現象は、寒冷地の明朝において見られる物です。共和国の朝は長いというのは、こういう事ですか。


「ダイヤモンドダスト……」


 雪の結晶が朝陽を浴び、光が降り注ぐかのごとく周囲に煌いています。この景色、本で見ただけではやはり……人工の雪では……作り出せません、ね。


 寒さも忘れて、私達は初めて見る雪に見惚れています。人の足跡一つない雪の絨毯と、まるで氷で出来たような花や木、遠くまで見渡しても真っ白な光景を、ダイヤモンドダストが彩っています。


 雪は音を吸収するといいます。たしかに、ここは静かです。まるで地球の呼吸が聞こえるかのような。大地の鼓動が聞こえるような。そんな静寂。アリスさんから感じる熱と、太陽の光が私を包んでいます。


 カルラさんとカルメさんは感嘆の声を上げながら、その光景に目を奪われています。シーアさんが連れて来てくれたここは、知る人ぞ知る場所みたいです。


「リッカあちらを」


 アリスさんに袖を引かれて見た先には、小さな来訪者が居ました。


「約束を守ってくれたのって」

「きゅきゅ」


 雪兎。ノイスの時と同じ子かは分かりませんけど、もうノイスからは戻っているでしょうから……また会えるとは思いませんでした。


「共和国固有種の……」

「珍しい光景ばかりなの」

「この光景は天気が良いと結構見られるのですけド、こんなに人里近くまで雪兎が来るとは思いませんでしタ」


 個体数が極端に少なく、敵が多いそうですけれど……警戒心が低い気がします。普段はその白い体毛を駆使して雪に紛れるのでしょうけど、今は赤い目をこちらに向けていてバレバレです。


「雪兎達が居る間に撮りましょうカ」

「よろしくお願いします」


 時限式の”転写”で撮ります。


 幻想的な一枚になりましたね。五人と雪と兎? 絵にしたい光景でもありますけど、残念ながら私に絵心はありません。思ったより私は、器用ではない。この世界に来てから分かった事です。


「素敵な贈り物なの」

「もっと冬が深かったラ、立派な樹氷が見れたんですけド」


 今も結構綺麗な氷の草花が見えますけど、冬が深かったら氷の森が出来るらしいです。


 流石に春が近いと、ここでも温かいみたいです。これで温かいって、冬国って凄いです。その時はマイナス五十度とかいっちゃうのでしょうか。


「見たかった……」


 こんなに素敵な光景なのに、もっと上があったのかと思ったら……少し残念な気持ちになってしまいます。どんな光景になるのでしょう。周囲に見えている草花は、雪に塗れて氷の様な見た目になっているだけです。本当の、氷の木々や草花はどんな姿なのでしょう。


 冷たいのは当然ですけど……葉脈は……って、ある訳ないですね。でももしかしたら……? ああ。見てみたい。


「樹氷があったら、リツカの森踊り見れたの?」

「見れたかもしれませんね……残念です……。リッカの可愛らしい姿を見る機会が……」

「わらわももう一度見たかったので」

「私も最近見れてませんネ」


 変な所で期待されてしまってますけど、森踊りって……あれですよね。森を話す時くるくるーっとする、私の癖……。自然と体が動いちゃうんです。仕方ないじゃないですか。


「きゅきゅ?」

「雪兎も見たかったみたいなの」

「私が作ってみましょうカ」

「流石に、作り物じゃならないよ……?」


 物好きですね。そう簡単には見せませんよ。……”神林”の話を持ちかけられると、見せちゃいそうですけど。


 ”神林”や”神の森”に対して、私達は更に親近感を覚えています。まさか、アリスさんと繋がっていたとは。思えば、どんな場所でも感じていたあの感じ……”神の森”で居た時と……。私はずっと、答えを得ていたのですね。


「戻りますカ」

「なの」


 帰りは、雪を踏みしめながら行きます。雨は大丈夫ですけど、雪には対応出来ていませんでしたね。靴の中にちょっと入ってきています。

 帰ったら暖を取った方が良さそう、ですかね。



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