雪
A,C, 27/04/27
さて、今日は共和国の案内を受けます。カルラさんも、共和国を歩くのは今日が初めてみたいですね。
やって来た初日、城に直行したカルラさんを元老院は軟禁してしまいました。なのでカルラさんは、エルさんの部屋と大通りを歩いただけとなっているのです。
カルメさんも似たような物で、私達を共和国に連れて来た後は、自国の民を安心させ、ツルカさんと会合。そして王国西と、殆ど共和国内に居なかったそうです。
なので、私達は初共和国となります。
エルさんやフランカさんも交えて女子会を、と思ったのですけど、エルさんは執務。フランカさんはお城の警備と、予定が会いませんでした。シーアさんが大使になるという事で、エルさんは書類整理やら何やらです。
「そういえば、雪が降らないの」
「ですね。私も数年王国北部に住んでいましたけれど、年々雪が減っていたように感じますので」
「昔はもっと降ってたんですけどネ」
その回答に関しては、やはりアレスルンジゅが関係してくるのではないかと思います。
この世界で温暖化は簡単に進みません。火力発電なんてしませんから。ただ、森を無闇に切り開くといった行為が目立ってきているそうです。何れは進むでしょう。それでも雪が突然降らなくなるというのはおかしいです。
「悪意で大落窪が出来るように、地形や天候が真っ先に悪意の影響を受けるのでしょうね」
「そうみたいだね。これからどんどん、元に戻っていくんじゃないかな?」
「ふム。それならバ、これを利用して緑化を進めますかネ。街路樹とかも植えたいと思っていたところですシ」
「緑を減らした事で天候が変わったって言い触らすの」
嘘も方便、でしょうか。実際、気温が高くなるのは緑が減ったからと言われますし、あながち間違いではないんですよね。
「姉様方。政治的な話は後ほどで良いと思うので」
「それもそうなの」
「でしたネ。では最初に一番人気のお店に行きましょうカ」
今日はフランジール共和国という国を楽しむ日。政治や戦いを一端忘れ、目の前のお店に視線を向けるのも悪くありません。
一番人気となると、何でしょう。シーアさん案内となると食事処でしょうか。
「巫女様方! お体の方はもうよろしいので?」
「是非うちのマカロンを受け取ってください!」
町を歩いているだけなのですけど、声を掛けていただけたり、祈って貰えたり、歓迎されているようです。
私達が眠ったまま国内に入ってきたのは見られているので、心配の声が多いですね。
あ、このマカロンおいしいです。アリスさんの口にも一つ運び入れます。
暫く歩くと、掲示板が目に留まりました。今日は政治等は関係無しの日ですけど、一応目に入った以上見ておきたいですね。
えっと、掲示物としては――。
巫女の指名手配を解除、謝罪。その巫女二人が滞在中。カルラさんやカルメさん皇姫の滞在。王国との関係強化に、皇国含めた三国同盟のお報せ。一番目に付く場所にあったのはこれくらいみたいです。写真付きですから、字が読めなくても何とかなります。
そういえば、元老院が解体されるんでしたね。クーデターの首謀者である、エルさんのお兄さんは投獄。その他の元老院達は、そのお兄さんに唆されただけと上告中らしいです。
唆されただけは、無理がありますよ。ノリノリで私達とシーアさんを脅してましたから。
「リツカお姉さん、こっちですよ」
「うん」
元老院は国民達のガス抜きのような組織だったと聞いています。女王独裁とならぬように、国民の声を反映するために用意されていたそうです。
実際は、エルさんに独裁する意思がないので形だけみたいなものでしたけど。
しかしそれが暴走した結果、国民を無視する形でエルさんの邪魔ばかりしていました。解体も止むなしと言わざるをえないでしょう。
元老院に代わる組織が何になるかは分かりませんけれど、共和国の未来は明るいと感じます。大きな戦争、大きな内乱を経験しながらも、国民達の表情に一片の翳りもないのですから。
「私のお勧めはここでス」
「シュークリーム?」
そういえば、王国のお菓子屋さんやお茶屋さんにはありませんでしたね。
「色々なお菓子屋さんを見て回りましたけド、ここのシュークリームが一番でス。大きい声では言えませんけどネ」
立場上、シーアさんが一番と言う訳にはいかないのでしょう。ただ……シーアさんの顔写真付きの掲示物があるのですけど、もしかしなくてもお墨付きってやつですよ、ね。
「サクサクのシュー生地はここだけでス」
「皇国にはないの」
「王国でも中々お目にかかれませんので」
「南の方にもありませんね」
交流が盛んな王国でも、余り流れてこない物のようです。
これは元老院関係で分かった事ですけど、エルさんはどんどん文化交流したかったのだと思います。実際王都に居た時は、調度品や装飾品の職人達の交換留学を考えていました。
なのに進んでいないのは、王国に技術を渡すのを渋っていた誰かが居たのでしょう。王国からだけ技術を貰うのを嫌ったエルさんは仕方なく、文化交流を見送っていたといった所でしょうか。
と、お堅い思考はここまでですね。シュークリームがやってきました。イートインがあるお店なので、紅茶と一緒に楽しみましょう。共和国ではジャムを紅茶に入れるようです。これは、マーマレードでしょうか。
ロシアンティーは舐めながら飲む、んだったかな。七花さんがそんな事を言っていたような。
「齧りつくと零れるのデ、気をつけて下さいネ」
「中々難しいの」
サクサクのシューが売りのここでは、クリームが溢れんばかりに入っています。上下にスライスされているので、シューが大口を開けてクリームを食べているような見た目です。
この手のシュークリームはどうやって食べるのが正解なのでしょう。シューでクリームをディップしながら食べるのが良いのでしょうか。
私は、特別な日でもない限りはお菓子を余り食べないので、分からなかったり。
「レティシアちゃんも最初の頃は良く零してたよ。懐かしいねぇ」
「四歳とか五歳の時の話をされても困るのですけど……」
「あっし等から見れば今も子供ですからねぇ。何歳になってもというもんですよ」
「年寄り染みてますよ。まだ四十七でしょうに」
その生い立ちゆえに色々なしがらみがあったらしいシーアさんですけど、町民達から愛されていたのだと、その会話から伝わってきます。
故郷、ですもんね。
「リッカ。ついてますよ」
「あ」
ぼーっとしてました。誰にも見られてなくて良かったです。変に注目される訳で、こんなだらしのない姿まで見られるのは恥ずかしい。丁度シーアさんがあまり見るなといった威嚇をした後だったので、助かりました。
「動かないで下さないね」
「ん」
頬についたクリームに、アリスさんの――唇が近づいていきました。そしてそのまま、チュっと触れたのです。アリスさんは何故かカルラさんとカルメさんに見せ付けるような表情を浮べ、満足そうにドヤっとしています。
こういった、悪戯っぽい、ちょっと子供のようなアリスさんを見れるのは珍しいです。頬につけたのは正解だったのでは? と思ってしまうくらいに、私も満足です。
(やっぱり、あの時もわざとだったんじゃないの、って思うの)
(わらわとしては妹の触れ合い程度を求めているのですが、アルレスィア姉様の警戒心が強すぎるので)
(カルメは悪癖の所為なの)
カルラさんとカルメさんがジト目でアイコンタクトを取っています。姉妹特有の語らいなのか、私にはその心境は掴めません。呆れ顔ではないと、思います。
「約束しましたよネ。人前では控えるようにト」
「あ」
「わ、忘れていた訳では……」
「より過激になってるんですかラ」
「か、過激……」
手を繋いだり頬擦りしたりに比べて、確かに過激だと思います。でもドラマなんかだと結構やってるような……? こちらの世界では過激なのでしょうか。肌を余り見せないくらい貞操観念に重きを置いている世界ですし、確かに過激すぎ?
でも部屋に帰るまで頬にクリームをつけたままというのは……って、それは違いますね。アリスさんにクスクスと笑われてしまいました。
(私まで中てられてしまったではありませんカ)
「シーアさんに関しては元々の感性がそうであったと」
「……さテ、次はエクレアの所に行きましょうカ。変り種があって美味しいですヨ」
「それも初めてなの」
(姉様も結構鈍感ですので)
ちょっとした間が気になりますけれど、次はエクレアですか。私も、本格的な物は食べた事ありませんね。コンビニエンスストアのお菓子みたいな物しか経験がありません。
本格的なエクレア。しかも変り種とは一体どんな物なんでしょう。
ブクマ評価ありがとうございます!
最終話に順調に向かっています。是非、もう暫くお付き合いいただければ幸いです。
多分千部はいかないと思います。文字数的には三百万いくかどうか? に纏めたいと思っています。
どうぞ、よろしくお願いします。