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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
62日目、思い出を作るのです
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魂②



 色々話したい事があるといった様子のアーデに、レティシアがそっとメモを渡している。すぐにでもウィンツェッツと話をさせて、遠目から観察したいところではあるが、それでは日が暮れてしまう。


「おいチビ、何渡してんだ」

「約束の物でス」

「今見たいけど、整備だっけ?」


 ウィンツェッツをじとっとした目で見ているアーデに、ウィンツェッツは二の句が継げなくなった。ウィンツェッツは今一生懸命、自分の行動を洗い出している。


「あちらの飛行船なんですけどネ」

「わっ!? 凄い……飛行船をこんな所で見れるなんて……私が見て良いの?」

「アーデさんなら問題ないんじゃないかト」

「た、多分大丈夫!」


 まだまだ勉強中のアーデだが、船に対する知識、整備の技術、熱意はレティシアがその目で見て確認している。問題ないと判断してここを選んだ。


 整備士としての道を歩むアーデに、飛行船の整備という中々経験出来ない事をさせようという想いもあった。


「少し乱暴に扱われましてネ。船底の補強とバルーンを見て欲しいんでス」

「大事な所は無事みたいだけど、中見せて貰って良いかな?」

「カルラさン、良いですカ?」

「なの。わらわも付いて行くの」

「姉様。わらわはウィンツェッツさん達と居ますので」

「なの。()()()()()()()


 逃げようとしたウィンツェッツをライゼルトが捕まえる。カルメがわざわざ「ウィンツェッツさん達」と言った事で、これから起こる事に気づいたようだ。


 レティシア、カルラ、アーデが船内に入った後、ウィンツェッツは囲まれてしまう。ちょっとした尋問が始まるようだ。




 暫く船内を見て回ったアーデによると、致命的な物はないが、皇国に帰る前に一度ブフォルムに寄った方が良いというものだった。


「知り合いに連絡しておくね。私も勉強の為に立ち会うよー」

「お願いしまス」

「なの。一週間後くらいになるの」


 とりあえず国内の移動だけならば問題ないという判断だ。補強する為に少し時間がかかるらしい。


「この町に船ありますカ」

「あるよ。私の個人船だけど」

「一隻借りれませんかネ」

「出かける予定はないから、大丈夫だと思う。これ鍵ね」

「少しゾルゲに行ってきまス」

「お昼?」

「それもついでに買って来ますカ。主目的はリツカお姉さんと巫女さんとの約束でス」


 船の整備をしている間、アーデの船でゾルゲに向かう。ここからならば往復で四,五時間程度だろう。急ぎの旅ではないが、神隠しの事はリツカ達が早く知りたいだろうから。


 エルヴィエール、カルメ、ライゼルトを伴って、レティシアとカルラはゾルゲに舵を取る。


 ウィンツェッツは船番だ。レティシア達が気を利かせてアーデと二人きりにした訳ではない。




 真っ直ぐにゾルゲに向かう。旅の時は、ハーメンに向かい、そしてエッボの城へと攻め入った。レティシアは懐かしいといった表情で舵を握っている。


(真っ直ぐだと、やっぱり近いですね)


 ここからでも、エッボの城がある森が小さく見える。今は完全に無人だ。城も取り壊される予定となっている。


(連合嫌いで、対連合の研究をしてたんですよね。思いっきり利用されたみたいですけど)


 同情も怒りもないが、レティシアにしてみれば因縁のある相手だけに、記憶に残っている。


「どうしたの?」

「あっちの森にエッボの城があるんですヨ」

「ここだったの」


 レティシアの視線に気付いたカルラが同じ方向を見る。リツカにとっては辛い場所だけに、レティシアの表情はただ懐かしんでいるだけではない。


 人が変質したマリスタザリアの第二号であり、フロレンティーナやアメリーの仇。後まで問題となっていたアイフォーリという人を変える薬。悪意の瓶に銃。


 どれも、人の為にならない物ばかりだった。


「薬やら誘拐やら殺人やら、やりたい放題だったらしいな」

「薬、アイフォーリはわらわにとっても憎むべき物なので」

「構成員や協力者達も続々と逮捕出来てるみたいね。共和国との国境ギリギリにも居た事には、驚いたわ」


 王国を強国としたかったのだろうが、結局は王国の為になるような事は一切なかった。悪事は大成しない。 


「これからも裏の社会には目を光らせる必要がありますネ」

「なの。大使にはそういった所も任せたいところなの」

「どこまでやれるかは分かりませんが、尽力しましょう」


 本来の大使館よりも、多方面で協力した形になる。その分大使になる人を選ぶ事になるが、カルメやレティシアならば問題ないだろう。


「結局、俺とツェッツどっちが行くか決まってねぇな」

「多分、ライゼさんになると思いますので」

「アンネさんもついてきますからネ」

「シーアも行くのよね……。快諾はしたけど、寂しいわ」

「これからは三国間の渡航が簡単な手続きで出来るようになりますシ、いつでも会えますヨ」

 

 雑談をしながら暫く走らせると、ゾルゲが見えてきた。二日かかった道のりが、わずか一時間強。そう考えると、かなりゆっくりな旅だったと感じてしまう。



「着きましたヨ。お師匠さんとフランカさんはお昼を買って来てくれませんカ。人数分お願いしまス」

「ここで買うんか」

「アーデさんへの差し入れ含めてでス。お財布渡しておきますかラ」

「お前が払うんか……?」

「私を何だと思ってるんでス。お金の使い所くらい分かってますヨ。何なら私の分はお師匠さんに払って貰ってもいいんですけド」

「すまんかった」


 ライゼルトに魔力を向けつつ、レティシアは船を止める。今日も今日とて、ゾルゲは人が沢山訪れている。



「人が多いの」

「世界的にお目出度い日が近づいてますからネ」


 正式発表はまだだが、世界中がお祝いムードだ。平和への一歩を、世界が祝っている。


「さテ、行きましょうカ」


 レティシア達は真っ直ぐに役場を目指す。変化があれば、町長に伝わっているはずだ。


 役場は道案内を求めるお客でごった返している。普段であれば順番待ちをするところだが、エルヴィエールにお願いして町長に取り次いでもらう事にした。


 エルヴィエールが来たという事で、部屋を用意したりと少し時間がかかったものの、通してもらえる事となったようだ。リツカ達が通された部屋と同じ場所に、エルヴィエール達も入っていった。


「お久しぶりでス。早速ですけド、神隠しの子達の件についテ」


 挨拶もそこそこに、用件を伝える。


「その事で、王都へ連絡を入れようと思っておりました」


 【フリューゲル・コマリフラス】が降った日の翌日、病院から連絡があり両親達が一同に介した。花びらに触れた訳ではないが、その桃色の花に”巫女”達を思い浮かべたそうだ。そして看護師は窓を開け、子供達に見せていたという。


 すると目の前でいきなり、真っ白になる程の光が降りて来たそうだ。余りの眩しさに看護師達は目を閉じた。そして次に目を開けた時――子供達は目覚めたという。


「治った、んですか?」

「はい。今は経過観察との事で、ご両親達もずっと付き添っておりまして」


 エルヴィエールがぽつりと尋ねる。治ったと信じてここまでやってきたが、状況が少し違う。治ったにしても【フリューゲル・コマリフラス】に触れてと思っていたが、子供達が治った状況はまるで……神が降臨したかのようだった。


「ただ……」

「何か問題があったの?」

「いえ、問題という程ではないのですが……」


 言い辛そうにしている町長を、レティシア達は促す。問題があるのなら聞いておきたい。巫女二人に伝えるのは憚られるが、正確な情報が欲しいからだ。


「桃色の髪をした女性と会った、と……子供達全員が証言しておりまして。頭を撫でられて、家に帰るように言われたと……」

「それって……」


 目を丸くさせたレティシア達に、町長は申し訳なさそうに頭を何度も下げる。世迷言と思われてしまったと感じたのだろう。子供達が見た夢を、さも大事の様に語ってしまったと。


 しかし、桃色の女性というだけでレティシア達にとっては無視出来ない発言だった。


「神格大丈夫なんでしょうカ」

「アルレスィア姉様に聞いてみないことにはなんとも……」

「何にしても、アルツィア様のお陰で子供達は戻って来たの」


 子供達の魂を戻したのはアルツィアらしい。詳細や、その方法はまだ分からない。だけど、外道の業は見過ごせなかったというのは分かる。


「あ、あの」

「ご安心下さい。巫女様達に良い報告が出来ると話していた所です」

「ほ、本当ですか。良かった……。巫女様と赤の巫女様に、よろしくお伝え願えますでしょうか。本当は直接お礼が言いたいと、皆言っていたのですが……」


 好奇心に火がついてしまった子供三人のフォローをしつつ、エルヴィエールは町長と会話をする。


 巫女二人はまたこの町に来たいと思っているが、現状では難しい。伝言を頼むくらいしか出来ない町長は、申し訳なさそうに頭を下げた。


 だけど、その気持ちだけで良いのかもしれない。頼まれたから、解決した。巫女二人にとってはそれが全てだ。


 エルヴィエールは子供達の無事を、ただただ喜んだ。巫女二人が安堵し、共に喜べる事を嬉しく思う。


 これにて、巫女二人の旅は一先ず――終わったのだった。




「さ、帰るわよ」

「はイ」

「今度はゆっくり、お昼を食べに来ましょう。リツカ姉様達も居れば嬉しいのですが」

「なの。何なら凱旋の日、お昼はここでも良いと思うの」


 船に戻ると、ライゼルトが弁当を大量に抱えて待っていた。約二十個程だ。予約も無しに頼んだ所為で、変な目で見られたとライゼルトが肩を落としているようだった。


 船は再びヘルネへと向かう。お昼を食べて、共和国へと針路を取る。もう直共和国だ。


 凱旋まで後――二日。



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