表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六花立花巫女日記  作者: あんころもち
62日目、思い出を作るのです
870/934

A,C, 27/04/26



 朝起きて、アリスさんとお風呂に入りました。汗なんてかいていませんけれど、入りたかったのです。ええ、リベンジでした。昨日のお返しに私が流れを掴もうと必死でした。


 しっかり返り討ちでしたけどね。ねっ。


「シーアさんから連絡が来て、昼頃には帰れるそうですよ」

「早かったね?」

「皇女様、カルメリタ様と仰るそうですけれど、カルラさんやカルメさん同様、人情味溢れる方で、意気投合したそうです」

「会ってみたいかも」

「カルメリタ様もそう思ってくれているようで、王都でお待ちになっているそうです」


 どんな人なのでしょう。シーアさんが意気投合というくらいですから、良い人なのは間違いありません。カルラさんとカルメさんも敬愛しているようですし、人格者なのでしょう。


「ただ、一言添えられましたね」

「うん?」

「気をつけるように、と」

「んー……?」


 皇家の方はどこか一線を隔しているというカルラさんからの情報があります。実際、かけ離れた才能を持っている人たちばかりです。でも、何を気をつけるのでしょう。カルメさんの時もそうでしたけれど……弄られないように?


「では、朝食を作りにいきましょうか」

「うんっ」


 昨晩は、このお城の料理人さんに作ってもらいました。高級レストランも真っ青になる程の料理の数々に舌鼓を打ったのですけど、私は一つ我侭を言いました。


 一食でも多く、アリスさんの料理を食べたいのです。


 厨房の一角を借りて、アリスさんと一緒に朝食を作ります。ただ流れていくだけだった向こうの生活と違い、今私は……初めて、人生という物を歩んでいるのかもしれません。


 ゆったり流れていく時を体一杯で感じて、一秒、刹那を自分の物にしていくのです。


(後五日くらい、でしょうか……。もっと永く……)

(声に出しちゃったら、止まれない……)


 向こうの生活があるからとかではなく、私はこちらに居られないのです。もっと一緒に居たいという気持ちはまだあります。何とか長期滞在出来ないものかと、考えを巡らせ続けていました。


 でも、”神化”して、神の部屋に行って、神さまに近くなったからでしょうか。無理だと、悟りました。私は自分の世界に帰るしかないのだと。


 だから……声に出してはいけないのです。お互い、苦しくなります。違う世界でも想いは繋がっています。”巫女”で居れば、森で繋がります。心だって、魂だって…………。


 喜ばしい事、なのです。アリスさんの平和な人生を勝ち取れました。守りきれたんです。じゃあ……良いじゃない、ですか。


 終わりがあるから、今を楽しめるんです。それに私達、死後の世界で一緒になる事が決定しています。それまでは……。


「リッカ……」

「ごめ、ん……」


 やっぱり私、弱虫です。笑顔で”神林”に帰って、アリスさんと笑顔で指輪交換して、私の気持ちを伝えて……大団円を迎えるんです。そして私達は、各々の世界で生きていく。それでお互い納得して、今を楽しもうとしているのに……。


 私は今、楽しめてます。悲しいけど、アリスさんと……本当の姿で居られています。人は悩み続ける生き物です。今の姿も人である証なのでしょう。だったら、悩み続けるのも私の本当。


「少しでも多く、思い出を作りましょう」

「うん……」

「私は貴女さまを、刻み込みたいです」

「私も、アリスさんに……」


 泣く暇なんて、ありません。私は少しでも永く、深く、鮮烈に、アリスさんを……。


「そういえば、アリスさんのイヤリング……」

「リッカのイヤリングがアレスルンジュの所為でお母様の所まで飛ばされてしまったので……リッカの耳に戻ってくるまで、私も外していようかと」

「そっか……」


 そういえば、私の死を見せ付けるためにそうしたんでしたね。お揃いの、月と太陽のイヤリング。エリスさんの所まで飛ばされたんでした。


「月は太陽がないと輝けませんから」

「アリスさんはいつも輝いてるよ」


 実は、私は今でもアリスさんが太陽だと思っています。アリスさんが居ないと私は輝けませんから。最後の戦いでもそうでした。


「アリスさんも、熱い心持ってるもん」

「私の心に火をつけたのはリッカですよ?」

「私もアリスさんで燃えてたり」


 アリスさんも私も、こんなに熱い性格ではありませんでした。恥ずかしい台詞……自分ではそんな事ないと思いますけど、それも余り言ってません……よね。あれ? 思い返してみると、結構恥ずかしい事してたような。


 ……考えないように、しましょう。現在進行形で恥ずかしい台詞言ってますよって、シーアさんが居たら言われそうです。


「卵、涙入っちゃった」

「そのままで構いませんよ。食べるのは私だけですから」


 勿体無いから、自分で処理しようと思ったのですけど、アリスさんがそのままで良いと言ってくれたので普通に作りましょう。


 厨房だけでなく食材もお城の物ですから、無駄には出来ません。



 少し塩気の強すぎる卵焼きは、思いの外ご飯に合いました。アリスさん以外には提供出来ませんけど、ね。言い訳ですね。今後涙が入らないように気をつけましょう……。


「はふ」

「ふふ。ゆっくり飲んで下さいね?」

「うん!」


 アリスさんのスープが体に染み渡ります。弱った胃を撫でられているような感覚です。噛み締めます。この今を。


 さて、シーアさんが帰ってくるのは昼頃です。会談の詳細や神隠しの事を聞いたら夜になりそうですね。皆にお礼を言わないといけません。


 皆はもっとゆっくり出来たはずなんですけど……私の想いが伝わってしまった所為で、気負わせてしまったかもしれません。


 流石に、自意識過剰でしょうか。世界の為に動いているのですから、私の為というのは違いますね。


「シーアさん達が帰って来るまで、何をしましょう?」

「少し体を動かしたいかなぁ」

「では、王宮周辺をお借りして走りましょう。私も一緒に走ります」

「わあ、楽しみ!」

 

 アリスさんと一緒の運動は始めてです。帰りはカルラさんの飛行船に乗せて貰えるので時間はかかりませんけれど、体力は戻しておきたいです。


 せっかくアリスさんと一緒なのですから、走るだけでなく何か別の事もしたいですね。


(一緒の運動…………い、いけませんね。リッカの純情を守る私がそのような……っ)

 

 準備運動に柔軟、二人で出来る物をしましょう。少し走って、精神統一代わりに太極拳でも取り入れてみましょう。後は、えっと……その場で考えますか。


 アリスさんと一緒の運動、楽しみです!


 


 アルレスィアが、純粋に喜ぶ天使の様なリツカに悶々とした気持ちを抱き、自らの煩悩と戦っていた頃、レティシア達はゾルゲより先にヘルネに寄航していた。


「……」

「どうしたんですか。先輩」

「クふふふ……」


 不貞腐れたウィンツェッツを、レティシアが笑いを堪えながら見ている。フランカ始め、皆不思議そうな表情を浮かべていた。


「おいチビてめぇ……」

「あん?」

「どうしたの? シーア」

(何となく分かったの)

(さて、どなたがそうなのでしょうか)


 カルラとカルメが周囲を探し始める。王国ではまず見ない飛行船という事で、周囲に人が集まってきていた。レティシアとエルヴィエール、ライゼルトという、王国でも有名な二人が居るからでもあるが。


「すみませン。アーデさん居ますカ」

「ええ。丁度ブフォルムから帰って来た所です。すぐにお呼びします」

「ありがとうございまス」


 エルヴィエールに挨拶をしていた村長に声をかける。もう三度目という事もあり、レティシアとは顔見知りだ。


「成程。ここに居るんか」

「船の整備をしたいという話でしたのでネ」

「ブフォルムで良かったろうが……」

「航路的にはここが最寄でしょウ。この後ゾルゲにも行くんですかラ」


 何も、ウィンツェッツを弄りたいが為にここを選んだ訳ではない。最短航路を選んだだけだ。


「レティシアちゃんが帰って来たって!?」

「これ。失礼であろう」

「あ、ごめんなさい!」

「構いませんヨ。個人的な友人でもありますシ」


 アーデが急いでやって来た。レティシアが帰って来たという事は魔王討伐が終わったという事だから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ