街の日常
街へ出ると、多くの視線が降り注ぎました。
掲示されたモノがどういったものなのかは後で確認しますけど、視線から察するに私のことも書かれていたようです。
多くの疑念が混じっていた視線が今や、理解と安堵を含んでいるようです。『知る』という事は安心に繋がると私は思っています。その証明でしょうか。
これで少しは、私も生活しやすく……は、ならないですね。視線の質が変わっても、注目度は一緒です。
「リッカさま。先に掲示板に向かってもよろしいでしょうか」
「うん。いこっか」
アリスさんもどんなことが書かれているのか気になっているようです。宿への通り道ですし、問題ないですね。
アリスさんと一緒に歩く。これが私の安心です。
陛下からの御触れは以下の通りでした。
・今マリスタザリアが急増している為、外出の際はなるべく護衛等を雇って欲しい。その際、必要に応じて補助金が出る。基本額にプラスして、重要度で値段が決まる。
・魔王と呼ばれるものが存在し、そのせいでマリスタザリアが増えている。魔王は世界を滅ぼせる可能性があり、対策は必須である。その為、選任冒険者を随時募集し、試験を行う。試験内容はマリスタザリア一頭討伐または、危険害獣の討伐。詳しくはギルド本部にて。
・この危機的状況に際して、”神林”よりアルツィアさまの遣いとして、”巫女”であるアルレスィア・ソレ・クレイドル様と、同じく”巫女”であるロクハナ・リツカ様が遣わされた。ロクハナ様はこことは違う別の世界の”巫女”であり、この世界を救うために尽力してくださっている。
お二人はすでに選任の試験を行い、マリスタザリア一頭を討伐。王国傍の牧場とそこに勤める者たちを完璧に救い出した。
・皆も、出来うる限りのサポートをして欲しい。
・有事の際は避難誘導を行うので、しっかり指示に従って欲しい。
補助金の内訳ですが、国からの外出命令は無料で護衛がつき、外部の町との貿易では七割カット、個人の用事では三割から五割と、破格ですね。
それほど危険なので国民を守るための必要経費というやつでしょうか。
そして私の写真? でしょうか。すごい、精巧な似顔絵が描かれていました。恥ずかしい。
道理で、私のことをしっかり認識してると思いました。
ここまではっきり私のことを明言するとは、思ってませんでしたけど……。
昨日のことまで盛り込まれています。実績があったほうが説得力はありますけれど、完璧と言うには少し、私は……。
「見てくださいっリッカさまっ! リッカさまがしっかり写ってますよ!」
アリスさんが嬉しそうに私の写真を指差して私に微笑みかけます。その姿は可愛らしく、私の顔も綻んでしまいます。でも……。
「あ、アリスさん。あまりその、大声は……。恥ずかしいよ」
私の顔は今茹だっていることでしょう。
「これで皆さんに知っていただけますっ」
アリスさんはずっと、私のことを知って欲しいと言っていました。
よほど嬉しいのか、私の腕を抱きしめて微笑んでくれます。
その姿は、救済の象徴である、皆が知っている厳かな姿とは違い、ただの少女の姿であり……この姿が私にとっての、アリスさんなのです。
「アリスさんが喜んでくれるなら、いっか」
私はそんなアリスさんを慈しむように、微笑み、眺めるのでした。
そのまま、先ほどまでの私を観察するような視線とは別の生暖かい視線を浴びつつ、現在泊まっている宿へつきました。
もう、公開羞恥にも慣れてきそうです。
「おかえりなさいませ、アルレスィア様、ロクハナ様」
宿の人に挨拶を受け、宿を変えることを伝えます。しかし、宿の人は思案顔になって、チェックアウトの手続きとはなりませんでした。
「よければ、このままここにお住みになられませんか?」
それは、ありがたい申し出ですけど、お金の問題があります。
「お二方がここにお住みになっている、それだけで当宿の知名度も上がります故、無料とまでは行きませんが、一泊五十万のところを月五十万ということでいかがでしょう」
そんなに、下げます? 三十日計算でも、一泊約一万七千ですけど……。
そんなに集客見込めるのでしょうか、アリスさんはともかく私は客寄せにはならないような。一部屋埋めてでも囲う価値があるのでしょうか。
それに、アリスさんを客寄せに使うっていうのも、ちょっと……。
「そこまでしていただくわけには」
アリスさんも困惑しています。
宿の支配人さんはどうしてもアリスさんを捕まえておきたいのか、更に思案します。
「心苦しいというのであれば、お暇な時に休憩スペースがありますので、そちらで働くというのもありますが」
見れば、カフェコーナーのようなところがあり、コーヒーや紅茶、軽食が振舞われています。
そこでウェイトレスをするという条件で、この値段でどうか。ということですね。
客寄せというなら、住むだけよりウェイトレスのほうがいいですよね。この流れにしたかったのでしょうか、策士です。
なにより私、バイトしたことないんですよね。少しだけ気になっちゃいます。
「……」
アリスさんに観察されていました。
まずいです、アリスさんにはバレてしまいます。
「アリスさんを、客寄せに使うのは……ちょっと」
私は本音でアリスさんを牽制します。
「私も、リッカさまを客寄せにはしたくありません。ですけど」
(なんとかなりそ……ですけど?)
「……リッカさまの、制服姿見てみたいです」
顔を赤くして、カフェで働く人の制服を見ます。
そこには、ほんとにメイドのような格好の人が――。
(この世界ってあんなにスカート短いのダメなんじゃ、あ、オーバーニーっぽいの履いてる。あれでいいの? 足は隠れてるけど……。というよりアリスさん私のあれみたいって)
私の元の服はだぼだぼのオフショルダーニットにショートデニムでした。父が「あれが今の流行なんだよ立花」と、買ってきた物です。
動きやすいならなんでもよかったんですけど。見たいなら、あれでもいいのではないでしょうか。
でもあれだと足出すぎなのかな。可愛いより、エロイ?私の頭が戦闘中よりも多めに回転します。
「えっと、私のあれが見たいの?」
一応指をさして確認します。
「はい、可愛らしくて」
アリスさんが頬を染めおずおずと言いました。
確かに、可愛らしいとは思います。あれをアリスさんも着る? んですよね。
「……私も、アリスさんの見たいけど」
私のその言葉にアリスさんが更に頬を染めます。
見てみたい欲はありますが、アリスさんを見世物に……?
「リッカさま、何事も経験。です」
アリスさんは結構乗り気のようでした。
実際カフェで働くだけで、この宿に住み続けられるのは破格中の破格。
「スカートの長さが気になるのでしたら長いものもありますよ」
ここで支配人さんから、追加の一声が。
「はぁ……わかりました。実際、こういったカフェでのバイトはしてみたかったですし」
独り言のようにつぶやいてから私達は――。
「お願いしてもいいですか?」
了承するのでした。
「はい、ありがとうございます」
支配人さんの満面の笑みが出ました。完全に掌の上でしたね。
「これで……少しはリッカさまの気が紛れるといいのですが……。――リッカさまの制服をみたいのも本当ですが、いえそんな不埒なことは」
私の後ろでアリスさんが何かつぶやいていましたけれど、私は支配人さんとの話しで聞き逃してしまいました。
ひとまず、部屋に戻ります。働くことに関しては後ほど、と言われました。
何事も、経験。ですか。こういった日常をまた送れるとは。少し楽しみですね。
宿の関係者以外立ち入り禁止の部屋にて、支配人は一人佇んでいた。
《どうだったかな?》
威厳を含む男の声が、誰も居ないはずのところから聞こえてくる。
「はい、予定通り。住んでいただけることになりました」
支配人がその声に反応し伝える。この部屋には支配人しか居ないというのに、会話をしているようだ。
《すまない、無理を言ったね》
「いえ、お二人はこの世界の救世主なのです、微力ですがお手伝いしたく思っておりました」
《ありがとう、補助金はしっかりと出すよ》
支配人に無理なお願いをしたらしい男は、申し訳なそうな声で一つの提案をする。補助金を出せる立場のようだ。
「いえ、お二人が休憩スペースで給仕をやっていただけることになりましたので、その効果でしっかり儲けが出るでしょう」
《待て、聞いてないよ。そんなことを――》
「ずっと張り詰めていては倒れてしまいます。給仕ではありますが、少しは気が休まりましょう」
《う。分かった。任せる》
「はい、ありがとうございます。陛下」
ガチャっと聞こえ、威厳のある声は聞こえなくなった。
「これから忙しくなりますね」
支配人は一人、これから繁盛すること間違いなしのカフェの準備を始めるのだろう。
日常挟みつつ、クエストこなしていきます。




