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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
61日目、夜明けなのです
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世界⑨



「そっか。カルメさん、ツルカさんの所に……」

「はい。ディモヌ問題も解決すると思います」


 シーアさん達は会談をしている頃でしょうか。デぃモヌの件での進捗も、カルメさんが帰ってきてからですね。


 会談の結果と合わせて、良い報せが聞けるはずです。カルラさん、カルメさん、シーアさんにエルさんが一緒に動いているのですから、間違いはありません。どんな状況でも乗り越えられるはずです。


「じゃあ今この城には」

「私達と、執事さん達だけです」

「帰りは明後日になるんだっけ」

「会談が上手く行けばですけれど、予定では明後日ですね」


 今は昼です。明日丸々暇という事になりますね。


「暇な時間って、もしかして初めてかも?」

「そうですね。休養日と言いつつ動き回っていましたから、何もせずにぼーっとしていられるのは、旅に出て初めてかもしれません」


 思い返せば何度かあるかもしれませんけれど、完全な暇は思い出せません。


 マリスタザリアを気にして、休息らしい休息にならなかったというのもあります。でも今は、【フリューゲル・コマリフラス】のお陰で、個体数が減っています。悪意自体、一旦は根絶したので出て来てもそんなに強い個体は居ないはずです。


 もしもの時は、アリスさんと共同で”光の剣”をここから撃ち込め――。


「リッカ」


 アリスさんに額をこつんと、押されてしまいました。


「共和国にも兵士さんが居ます。私達が休めるようにと、警戒を強めてくれているのです」

「う、うん」

「ゆっくり休みましょう?」


 これも職業病というのでしょうか。休息予定なので、どうやって過ごすか話すべきところで、次の戦いについて考えてしまっていました。


「リッカ」

「ん」


 もう私達は以心伝心です。でも、会話という人の営みを続けます。アリスさんの声が聞きたいですし、声に出すという行為が、私達の想いを増幅させます。


「お疲れ様でした」

「アリスさんも、お疲れ様」


 アリスさんがおでこにキスをくれました。私もお返しに、おでこにキスをします。

 おでこへのキスは、称賛と祝福。やり遂げた事に対しての、私達の想いです。


「続きは約束の場所で」

「うんっ」


 感謝の言葉や、思い出話、そして……私からは、告白も。約束の場所で、続きを。私達の……旅の終わりは……そこで。


「それじゃあ、シーアさんが帰って来るまでに何をするか話し合おっか」

「最初にやる事は決めていたのです」

「うん?」

「お風呂に入りましょうっ」


 アリスさんが体を拭いてくれていたようで、汚れ自体はありません。でもやっぱり、お風呂を優先したいところですね。


 魂が繋がって初めての、一緒のお風呂。お互い知らない事のない関係となった訳ですから、緊張する事はありません。恐怖心を克服した私に不可能はないのです。今日こそ私がアリスさんをリードします!




 リツカがアルレスィアとの日常を堪能する為に気合を入れるという、可愛らしいズレた行動を起こす数時間前、レティシア達は王都西に特設された会議場に到着した。


 本来は昨日到着し、一日の余裕を持たせるつもりだったのだけど、カルメとツルカの話が予想以上に進んだ為遅れた。


「ツルカさんを見たのは初めてですけド、リツカお姉さんと巫女さんから聞いていたより元気な方でしたネ」

「そうだな。俺等が聞いた話だと、どっか疲れた表情で、無理してディモヌやってるって感じだったが」


 ツルカが住んでいる場所には、祈りの時とツルカが許可した者しか入れなかったのだが、カルメが到着した時には叔父と共に何かを話していた。喧嘩ではなく、話を詰めるような和気藹々とした雰囲気だったとライゼルトは感じたそうだ。


「あの”桜”を見て、リツカ姉様達への信仰こそが自分達の救いになると思ったそうなので。計画通りいけそうです」


 叔父と共に、ディモヌを辞める決心を話し合っていたのだろう。元々詐欺のような形で進めていた信仰だけど、村人や信徒達の救いならばと我慢してきた。でももう必要ないと、【フリューゲル・コマリフラス】に触れて感じたそうだ。


 リツカ達の想いが全て通じた訳ではないが、温もりや優しさは感じたから。


「ディモヌに関しては、リツカ姉様達に良い報告が出来そうなので」

「後は会談と神隠しなの」

「話し合いの時間は取れませんでしたが……コルメンス様、いけますか?」

「そうだね……皇女殿下にどこまで食い下がる事が出来るかは、微妙だけど……」


 エルヴィエールと再会を喜んだのも束の間、皇女をどう攻略して王国、共和国、皇国、連合で蟠りのない講和を結べるかの話をした。コルメンスの胃は今、キリキリと痛んでいる。


「少しは王の自覚が出てきたようですネ。お兄ちゃんの両肩に世界の命運が乗っていますヨ」

「こら。シーア」


 レティシアの煽りに、コルメンスは更に強張る。エルヴィエールが窘めるが、間違っていないので強くは止められない。


 連合はこの講和で敗戦を無かった事にするために動くだろう。無かった事になれば、連合の性格上再び侵略をする。王国と共和国はここで連合議会を完全に解体し、新たな政権をある程度コントロールする必要がある。


 王国と共和国の意見は一致している。だけど皇国がどう動くか不明なのが問題だ。その為に、カルラとカルメが居る。


「それくらいの気持ちでいないと、皇女様のペースのまま会談が終わるの」

「侵略するつもりはないので。ただ、関税等の話は注意してないと、後々苦しみます」

「平和を目指すにしてモ、防衛関係もしっかりさせておいて下さいヨ。私達が目指すのは長期的な平和でス。今は準備段階。手に入れた平穏を維持シ、平和への足がかりとすル。といった所でしょうカ」

「いかに国内整備に協力させるかなの。国力は拮抗しているの。整備が進めば、猶予も長く取れるの」

「皇女様の考えとしては、王国、共和国と友好関係を結びたいという物です。ですが、優位性は保ちたいと考えているので。完全な五分にするのが、この場での最良です」


 対等な関係を結ぶために、ある程度は突っ撥ねる気持ちが必要だ。先の戦争で皇国の働きは大きい。コルメンスはその事で下手に出るかもしれないが、それは必要ないと三人が責め立てる。


「将来を背負った子供は強ぇな。負けんなよ」

「じ、尽力します」

「もう少し時間がありますから、話す事を纏めて起きましょう。コルメンス様、こちらへ」

「じゃあ私達ハ」

「適当に歩いてくるの」

「聞きたい事があったら”伝言”をお願いします。消音して繋いだままにしておくので」


 わざとらしく、コルメンスとエルヴィエールを二人きりにさせる子供三人組み。ライゼルト達護衛組みもそれに倣って、その場を離れた。


「あのチビ共が警戒する皇女ってのはどんな奴なんだよ」

「ウィンツェッツ先輩、不敬すぎますよ……。気になるのは、分かりますが……」

「その先輩やめろっつったろ。ムズ痒ぃ」

(隊長にガキの事聞きてぇが……凱旋ん時で良いか)


 政治の話はすっぱり止め、三者の今までを話し合っているちびっ娘達に、ウィンツェッツとフランカは改めて思うのだった。常々驚かされるレティシア達が警戒する皇女とは、どういった者なのかと。


 ウィンツェッツ達が知っているのは、継承権一位に悩まされながらも、カルラとカルメに期待を寄せる、平和を望む皇女という事だ。だけどまだ、底が見えてこない。皇国を第一に考えているのはいうまでもないが、その第一はどこまで徹底されているのか。


「んで、いつになったらアンネさんに言うんだ」

「そりゃお前、凱旋ん時だよ」


 政治が分からないと、早々に切り替えたディルクとライゼルトは周辺を警戒しながら雑談を始めた。皇女にしても、会えば分かるという事だろう。二人も護衛として、会談に参加するのだから。


「ここにアンネさんが居たらどうするつもりだったんだ」

「護衛だからな。お前が来ると思っとったし、もしそうじゃなかったらツェッツと変わっとった」

「どんだけだよ……。早く会ってやれよ」


 ディルクの叱責を受けるが、ライゼルトは頑なだ。


「リツカとの約束があんだろが。お前もあの花びら手に取ったなら分かんだろ」


 苦しい中でも、約束を守る為に尽力した事も伝わっている。リツカが抱え込む性格なのは知っていたが、あそこまでとは思っていなかった。


「分かってるがよ……。純粋にお前とアンネさんを心配しての約束ってのも分かってんだぞ?」

「リツカとアンネにとっちゃ、凱旋で俺の無事を知らせ、アンネリスの感謝と謝罪を聴いてやっと戦争が終わんだよ。俺とアンネだけが先に楽になんぞなれん。そりゃ、アンネも一緒だ」


 アンネリスから不当な理由で狙われても、リツカはアンネリスを恨む事はなかった。何でそんな事を? という疑問や恐怖は抱いたが、それ以上に自分の非力を呪ったのだ。


 そんなリツカに対して、アンネリスは不義を働かない。たとえライゼルトをこの場で見つけても、アンネリスはライゼルトを無視しただろう。


「不器用すぎだ。お前等」

「一番不器用な奴がやりきったんだぞ。俺は救われた立場でもあんだ。不義理なんざ出来るかよ」

「あの二人は気にしないと思うんだけどなぁ……」


 本当に今は会う気がないようで、ライゼルトはその話を打ち切った。


 敵に捕まり、利用されていたようだが、友人が何も変わっていない事に安堵するディルク。しかし、頑固さに拍車がかかったのではないのか? と、苦笑いを浮かべた。

 


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