私は出会う③
書類へアリスさんがサインをし終え、アンネさんが確認をしています。
「――はい、問題ありません。ありがとうございまいした」
質問できそうな時間ができたので、私は質問をします。
「アンネさんは、国王補佐ってことですけど、どんなことしてるんですか?」
純粋に疑問なのです。
あの陛下が補佐をつけているという想像が出来ません。私みたいな人間の身分証の発行も自分でやってしまうのですから。
「はい。陛下がなんでも自分でやってしまうのは知っているかと思いますが、全てを出来るわけではないので、その補佐を普段はしております。今は陛下より、選任冒険者の上位者たちのサポートを、と遣わされています」
王国側と密に連携が取りやすいようにと、私達には陛下に近い方が担当についてくれるようです。
「陛下のお心遣い感謝いたします」
アリスさんがお辞儀をします。
私も慌てて倣います。
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします。アンネさん」
これから御世話になるので、笑顔でお願いしないといけません。
「はい、アルレスィア様、リツカ様、よろしくお願いします」
アンネさんも笑顔で応えます。
「――。……?」
何かに疑問をもっているのか、アリスさんが首をかしげています。
「アリスさん、どうしたの?何か気になることあった?」
何か気になることがあったのでしょうか。少し心配して声をかけます。
「い、いえ。たぶん、大丈夫です」
歯切れは悪いですけど、笑顔は自然なので、本当に大丈夫のようですが
「そう……? あまり、溜め込んじゃダメだよ……?」
アリスさんも思いつめることがあるかもしれません。頼って欲しくてそう伝えます。
「リッカさま……。はい、気をつけます」
そう、笑顔で約束してくれます。ちょっと安心です。
「それでは、任務のお話しをさせていただきます」
少しの緊張感が、その場にはりつめます。
「本日は緊急の依頼はございません。ですが、急な呼び出しがあるかも知れませんので、”伝言”はいつでも受けれるようお願いいたします」
アンネさんがその場の緊張をほぐすように、柔和な声音で伝えてくれます。
どうやら、今日は自由のようです。
「それでは、本日はご足労いただきありがとうございます。明日より本格的に活動を開始していただくことになると思いますので、よろしくお願いいたします」
アンネさんが立ち上がりお辞儀をしました。
「はい、ありがとうございました」
アリスさんと私も立ち上がりお辞儀をし、その場はお開きとなります。
「今日は自由みたいだね、予定通り宿探しする?」
「はい、まずは現在の宿に行き、宿を変えることを伝えましょう」
「うん、そうだね。その時に条件に合う宿がないか聞いてみる?」
アリスさんとしゃべりながら、ロビーへ続く廊下を歩きます。
今の宿がその全てに合致しています。でもあの宿にずっと泊まるには、お金が足りません。
あの宿、一泊五十万ゼルでした。百万は超えませんでしたが、それでも維持できません。
「それでは参りましょう」
そうやって計画を立てていると、ロビーにつきました。
「ん、あんさんもここに用があったんか」
あの時のなんちゃって着流し男がいました。つくづく縁があります。
のどぐろの恨みは忘れていません。
「……ストーカーですか?」
私は不快感を隠すことなく伝えます。
腕は立つようなので、この人も冒険者組合の人でしょう。だからここに用があったのでしょうがけど、ここまで出会うとそう疑ってしまいます。
「すとーか? よく分からんが、怪しまれてるのは分かるぞ」
カカカ、と豪快に笑います。
なんというか格好もそうですが、元の世界で見た時代劇に出てくる浪人みたいですね。
「リッカさま。この方が?」
アリスさんが体内で魔力を練り上げ、今にも発露してしまいそうです。
注意はしましたけど……そ、そこまで警戒しなくても。
「う、うん。でも大丈夫だよ、アリスさん。ここ人いっぱいいるし、私が居るから、絶対にアリスさんには手出しさせないよ」
アリスさんを安心させるためとは言え、これは流石に失礼すぎますね。
目の前の男に謝ろうと口を開きかけましたけれど。
「まぁ、落ち着け巫女っ娘と剣士娘。俺は別にあんさんらに不埒を働こうとは思ってない」
手を上げ、敵意がないと意思表示します。
それにしても、巫女っ娘と剣士娘って私たちのことですか。何て直接的かつ、失礼な渾名でしょう。
「今日はあんさんらが選任になれたか確認しにきただけだ、これからは商売敵だからな」
やっぱり、この人も選任でした。
「あなたも、今日から選任ですか?」
私はつい質問します。
私の様子が普通なので、アリスさんも渋々ですけど、戦闘態勢を解きました。
「いや、俺はだいぶ前から選任だよ。あんさんらの先輩だ」
先輩であることは間違いないのでしょうけど……。
「その先輩が、新人の後輩を偵察ですか?」
腕は確かです。オルテさんより確実に上だと思います。それに……私では、勝てないでしょう。母と同質の、熟練度を感じています。
「あんさんらは自分の実力をよー知っとる。そういう奴は強くなるからな。最初から警戒せんとな?」
カカカと何がおかしいのか、笑います。
「……はぁ、だからって付きまとわないでくださいよ?」
そう言って、私はじと目になってしまいます。
「まぁ、それは神様のお導きってやつだな。会う会わないなんて、そんなもんさ」
本当に神さまを崇敬しているのかは分かりませんけど、馬鹿にしている風ではありません。なんとなくは分かっています。
この人は悪い人ではなく、むしろ……武士のようなものだと。直感が言っています。
「あんさんらに迷惑はかけんよ。今日は挨拶にきただけさ。これからは一緒の敵を相手取る同業者でもあるしな。死なんように気ぃつけな?」
そう言って、微笑みながら去っていきました。台風みたいな人ですね。
「……リッカさまに気があるという風ではありませんね」
アリスさんが何かに安心したようにつぶやきます。
「そうなのかな、あの人は掴みどころなさすぎてわからないや」
心が、読みにくかった。
あの人と戦ったら、一方的にやられるかもしれない。それ程までに洗練された、闘気。
「まー、気にしても仕方ないよね。宿、探しにいこっか」
私はアリスさんに笑顔で言います。
切り替えていこう、と。
「はい、リッカさま。参りましょう」
アリスさんが笑顔でいてくれる。
今はそれでいいのです。
ブクマありがとうございます!