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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
61日目、夜明けなのです
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世界



 目を覚ますと、見覚えの無い天井……いえ、天蓋でした。


「…………」


 今までの戦いは、夢? 私はまだ、宿にでも居るのでしょうか……。


「って、そんな訳……」

「おはようございます。リッカ」

「ぁ……」


 起きようとした私を、アリスさんが押さえ込みました。そしてそのまま馬乗りになって、私の頬を愛でるのです。


「お、はよう」

「体の不調は、なさそうですね」

「うん。アリスさんも、なさそうだね」


 不調はお互いありません。ただ……アリスさんも私も、筋力が落ちているような……。


「起きてくれて、良かったです……」

「ぇ」


 アリスさんが私の額にキスをし、瞼、頬とキスをしていきました。潤んだ瞳で私を見ているアリスさんにドキドキした私は、アリスさんの鎖骨付近にキスをしました。私がちゃんと起きていると、見せたかったのです。


「ここ、は?」


 起き上がるのも、一苦労です。アリスさんの支えがなければ、ベッドから落ちていたかもしれません。


「共和国の王城、その一室です」

「共和国……?」

「はい。フランジール共和国。シーアさんの故郷です」


 パチパチと瞬きを繰り返した私は、アリスさんの補助で窓まで向かいました。足が完全に、萎えています。三日寝込んだ時ですら……こんな事には……。


 漸く着いた窓から見た景色は――動かない体の事なんて忘れるくらいの、物でした。


「わぁ」

「エクサブロヴァ。共和国首都です」


 中世ヨーロッパのような、石畳とレンガ造りの街並み。近世だった王都よりも古く感じる景色ですけど、どちらかと言えば和風寄りのような? 色々な技術が混ざっているのでしょうか。


 シーアさんから聞いていましたけれど、色々な民族の方達が一つの国を作ったというのを象徴するように、様々な衣装に身を包んだ人々が生活をしています。街並みも、その特色の影響が入ってるのでしょうね。


 王宮から町並みが見えるのは、王都と同じですね。エルさんや、エルさんの両親、先祖様の意向でしょう。民に寄り添った王政です。皆笑顔で、生活を送っていますね。元老院の反乱があったはずなのに、それを感じさせません。活気は、王都と同等でしょうか。戦争、どうなったのでしょう。


 気にはなる事は多いですけど、まずは……。


「寒い、ね」

「布団に戻りましょうか」


 アリスさんに抱き締められているだけで温かいですけど、布団の中で、二人でぬくぬくしたいという欲には逆らえません。

 それに、何時もより寒さを強く感じます。何故でしょう……?


「共和国の問題、解決してたんだ」


 エルさんとカルラさんは解放されたのですね。でなければ、城に滞在なんて出来ていません。


 しかし、あれから何日が経ったんでしょうか。アレスルンジゅを送ったのは覚えているのですけど、その後は……。戦争は、世界は、どうなったのでしょうか。


「一つ一つ、説明しますね?」

「うん。お願い」

「まず――今は、四月二十五日です」

「……んん!?」

「あれから、一週間経っているそうです」


 どうりで、体が重たい……。



A,C, 27/04/25



 アリスさんから、世界の事を聞きました。アリスさんも起きたのは三日前という事ですけど、シーアさんから色々と話を聞いていたようです。


 私としても全部知りたいので、順を追って聞いてみます。まず、倒れた私達を運んだのはシーアさん。最初に目指したのは船だそうです――。




 ――……倒れたリツカとアルレスィア。時間にして三分程経ってからか、散った【フリューゲル・コマリフラス】を見て、三人はやって来た。


「リツカお姉さん! 巫女さん!」


 レティシアが真っ先に駆け寄る。そしてマントを脱ぎ、リツカに掛けた。服がボロボロで、ライゼルト達には見せられない。


「おい。降ろせ」

「歩けんのだから大人しくしろ」

「あそこで待っとるから良いっつったろうが!! ってか、お前ぇも怪我人じゃねぇか!!」

「怪我の事は言うんじゃねぇ」


 ウィンツェッツを背負ったライゼルトが、遅れてやって来た。この姿を見たレティシアは――「きもちわるい光景ですネ」と半目で言い、先に行ったのだった。


「二人はどうだ」

「眠ってるだけです。二人共魔力を感じませんけド……今でも神誕祭時の感覚のままですかラ、これが魔力反応代わりなんじゃないかト」

「”巫女”から”天使”へ、か」

「文字通リ、でス」


 二人は”巫女”から”天使”となった。二人合わせれば、”神”にもなれる。もはや人の感覚では、二人の魔力や存在感をまともに感じ取れないのかもしれない。


「リツカは相変わらずボロボロだな」

「まァ、近接戦の常だろ。むしろあの戦いで五体満足なのかよ」


 隕石やら”闇”やら、空を裂いたり空間を揺らしたり、講堂で感じた戦いの余波は体の芯を震わせる物だった。


「でモ、巫女さんは無傷でス」


 アルレスィアはもう、自分を治せる。”神化”状態の二人は特性も共有となる。自分を対象にした魔法も自由自在だ。アルレスィアが輸血を可能としていたのは、”神化”の予兆だった。


「守り切ったんですね。流石です。リツカお姉さん」


 レティシアがリツカに微笑む。アルレスィアを抱き締め眠っている姿は、今も守り続けている証なのだろう。


 自分で治せるようになっても、アルレスィアは一度も傷つかなかった。これはリツカの覚悟であり、誇りだ。


「お二人は私が運びますかラ」

「ああ」


 レティシアが二人を”水球”に乗せ、慎重に運ぶ。柄だけになっている刀に、折れた剣。アルレスィアの杖も回収しておく。二人の戦いを最後まで支えた神器だ。丁重に扱う。


「刀身がねぇのに、どうやって戦ったんだ」

「さぁな。後でいくらでも聞けんだろ」

(アン・ギルィ・トァ・マシュは常に形を変えていっていました。多分、不定形なのでしょう。刀の形にも出来るのではないでしょうか)


 気になるが、レティシアは頭を振る。


(後でいくらでも聞けます。今は船に戻って、カルメさんの所にいかないといけませんね)


 レティシアが歩き出したのを見て、二人もついていく。

 

「もう自分で歩ける。降ろせ」


 二十を越えた年齢で、父親に背負われて人前に出るのは恥ずかしい。ウィンツェッツがライゼルトに、降ろすように命令している。


「さっさと崖下戻って、カルメ姫と合流せんといかん。お前に合わせてられん」

「置いてけっつってんだろ」

「駄目だ。カルメ姫んとこで回復して、お前も戦うんだよ」

「チッ……」

「急ぎますヨ」


 戦争は今も続いている。なのに、巫女二人が何時起きるか分からない。もし今すぐ起きたとして、戦いの後すぐに眠り込んでしまった二人に無茶をさせられるのだろうか。


 何より――世界に祝福を与えてくれた二人に今更、人殺しを強要したくない。それがレティシアの素直な気持ちだった。


 二人が起きる前に、三人で連合を追い詰める。戦略兵器級の力を持つレティシア一人でも良い。戦争に介入すると宣言するだけで相手は崩れる可能性もある。


「”伝言”すりゃ良いじゃねぇか」

「カルメさんの方も大忙しでしょウ。私はリチェッカのお陰で殆ど戦えませんでしたシ、お師匠さんはお馬鹿みたいに体力有り余ってますシ、こちらから出向くのは当然でス」

「これでも無理しとる」


 状況に余裕はない。レティシアの計画としては、カルメに報告後、参戦を宣言。その後共和国へ攻め入り、エルヴィエール、カルラを解放。そして、共和国所属として連合進攻の先駆けとなるというものだ。


 問題なく上手く行く。レティシアの自信は確定された未来を見据えているから生まれるものだ。


「リチェッカやマクゼルトに比べれバ、覚悟のない兵隊なんて――」


 レティシアが立ち止まる。


「……」


 ライゼルトが名残惜しそうにマクゼルトの遺体を見ている。


「仕方ありませんネ。引っ張るのは自分でしてくださいヨ」

「……恩に着る」


 レティシアがマクゼルトを氷で包み、ライゼルトの腰に紐で結ぶ。


(母さんの隣に眠らせてやんよ。馬鹿親父)


 再び三人は歩き出し、城を後にする。今尚降り注ぐ【フリューゲル・コマリフラス】の花弁の雨を浴びながら。


 まだまだ戦いは続いているが、三人は感じていた。この花弁が齎す温かさと優しさは、希望が形を成したような物だと。


「魔法なんか。これ」

「俺には分からねぇ。どうなんだチビ」

「そうですネ。魔法何でしょうけド、魔力が大きすぎるのか私では感じ取れませン」


 レティシアが花弁を手に取る。流れてくるのは、リツカとアルレスィアの想い。悲しみも、怒りも、嘆きも、喜びも、文字通り手に取るように分かる。


「ここまで来るト、そうですネ――奇跡、じゃないですカ?」

「納得だ」

「規模がでか過ぎて眩暈がする」


 二人の意識がないのに、【フリューゲル・コマリフラス】は輝き続けている。世界中の者は知った。”巫女”アルレスィアとリツカを。そして、噂と共に語り継がれるだろう。


 二人が語った想い――”光の道標”。



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