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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
54日目、天まで届く、なのです
854/934

光⑬



「終わり――――なッ!?」


 渾身の一撃。ゆえに生まれた隙。リツカはその隙に――アレスルンジュの目の前まで来ていた。


「――シッ!!」


 蹴撃。アレスルンジュの腹に、極大の鈍痛が発生する。集中を乱したアレスルンジュの”闇”は攻撃を中断し、本能が防御を取った。


 後は落ちていくだけの二人。しかしアレスルンジュは飛べる。落ちていくリツカに、アレシルンジュは再び”闇”を放とうとしている。だが――。


「翼は――」

「飛ぶ為に、あるのです」


 リツカは、翼をはためかせ――飛んだ。


 直角な動きでアレスルンジュの背後を取ったリツカは、再び蹴撃を見舞う。


「つくづく……規格外……ッ!!」


 リツカの蹴りを腕で受け、反撃の拳を繰り出した。だが、リツカは刀を振るう。


 アレスルンジュの拳を刀で切裂いたリツカだが、二の手を繰り出す一瞬の隙をアレスルンジュは狙っていた。無防備のリツカに、アレスルンジュの”闇の槍”が迫る。


「光の剣」


 リツカは、落ち着いた声で詠唱を始めていた。


「光の槍」

「光の矢」

「光の槌」

「光の刀」


 今までアルレスィアが生み出した”光の武器”達が、アルレスィアの目の前に現れる。


「技を極めし英雄よ」

「光輪せよ――!!」

「天使の輪――【アンギィ・リィン】!!」


 アルレスィアから射出された”光の武器”達が、リツカの背に輪の様になって佇んでいる。まるで、後光だ。

 もちろん、ただの飾りではない。


「――っ!!」


 リツカの意思で、武器達が動き出す。アレスルンジュを四方八方から襲う。一度で消えず、何度も何度も、アレスルンジュを刻む為に動く。


「それ、くらい……ッ!」


 アレスルンジュもまた、同様の武器達を生み出し打ち出す。武器と武器がぶつかり合い、競っている。


 だが、アレスルンジュの対応は一瞬遅れた。リツカは再び、落下中のアレスルンジュの背後に居る。


「――シッ!!」


 横薙ぎでアレスルンジュを打ち上げる。アレスルンジュが咄嗟に張った防御が軋む。


 吹き飛ばされた先、リツカが現れる。再び斬撃。防御に罅が入る。更にアレスルンジュの眼前。防御。強化ガラスが割れるように。


 何度も繰り返される、リツカの攻撃。空中に正方形の空間があり、そこをスーパーボールが跳ねるかのような動きで、アレスルンジュは着地も反撃も許されずに耐えている。


(ま――お)

(リチェ……ッカ……!)


 再び上空へ打ち上げようとしたリツカに、”闇”の円錐が襲い掛かる。集中し、勝負を決めようとしているリツカの第六感と感知を縫う攻撃。直撃を受けてしまう。

 そんな事が出来るのは――。


「リチぇッカっ……!」


 アルレスィアの”守護”で守られているが、深々と刺さっている。血を吐きながら、リツカは何とか離脱し、魔王に追い縋った。


(リチェッカ……)

(かて――!)


 アレスルンジュが、口を開く。


シュヴァサグヒ(黒き水面)ドゥンケハイウェレ(闇の波動)シュヴァラムフェア(黒濁に沈め)ッ!!」


 その魔力の流れ、詠唱。リツカはアレスルンジュへ連撃を加える。喉、肺、脳。話せない様に、何度も。


ジール(私の魂)ウシュ(私の願い)トゥア(私のアイを捧げる)ドゥンケ(闇よ)・ッ……ヴィダホゥ(闇よ)カヴァ(闇を覆いし闇よ)シュロゥン(私を飲み込め)シュヴァ(黒く)ヴィダホゥ(黒く)ティフ(闇深き黒よ)ライ(私と共に)ドシャフ、ジャイクス(猛き激情を現せ)!!!」


 リツカの連撃に苦渋の表情を浮かべていながら、掠れる声、漏れる空気、止まる思考。全てを振りきり、謳い上げる。


フュル(私の想いよ)――リフェァホ(届け)。【ザリア・アレン・トァ・マシュ】ッ!!」


 ”魔王化”。すでに発動中であり、魔王でない者が魔王となる為の魔法。だが――それをアレスルンジュが使えば……想いを共にしたリチェッカが協力すれば、魔法は真価を発揮する。


 悪魔の羽は更に禍々しさを増し、悪意が重厚な鎧となり刃を通さない。角が生え、尻尾まで生え、爪は刀のように鋭利。


 ”魔王化”を感じ取った()()()()()()が、何時の間にか作っていた分厚い”盾”それを狙い、アレスルンジュは爪を振るう。


 ”盾”が裂け、リツカの背後――地面が爪の跡に裂ける。リツカは感じ取った。その爪痕は、地球を削った、と。中心からは逸れたが、地面を切裂きながら、反対側へと抜けていったのではないか。そう感じる程に深い。


「波動よ」


 アレスルンジュの短い詠唱。それが、リツカの翼に大きな穴を空ける。もし直撃していれば、胸に風穴が開いていた。


(力に慣れる前で、良かった)


 リツカとアレスルンジュが、打ち合う。空での攻防。下方からの攻撃まで加わり、立体的となった戦闘は、より精神力を削っていく。


 だが――アレスルンジュは感じていた。自身の悪意が大きく減り、射程範囲が近い事を。

 リツカも当然分かっている。後一撃で良いと。だが――その一撃が遠い。


「ハッ……! 全てを、謝罪しよう。赤の巫女、巫女」

「な、にを」


 攻防を繰り広げながら、二人は短く会話する。


「お前達の、想い。確かに神の為なのだろう」


 でなければ、このような力は出ない。そう確信しているアレスルンジュが笑う。


「あなたには、負ける」

「……ふん」

「だから――私は負けられない!!」

「こちらもだッ!!」


 今度はリツカの方が削れて行く。押している。リツカの”光の武器”は完全に押さえ、片翼となり出力が落ちたリツカは、先ほどの動きが出来ない。刀で弾く割合が増え、回避も多くなった。何より、”()()()()()()()()()()()()()()()()


(ま――お――!)

「――ッ!?」

「もう遅い……ッ!!」


 リチェッカの警鐘に、アレスルンジュが「しまった」という表情を浮かべた。

 だが――もう遅い。


「行きましょう」


 アルレスィアが閉じていた目を開ける。


「いつから――ッ!!」

「私に……【アンギィ・リィン】を施した後から」

「馬鹿な……ッ! ”盾”も……”拒絶”だって!」

「存外……()()()()()()()()()

「ッ――!!」


 後悔を滲ませているアレスルンジュに蹴撃を見舞い打ち上げ、リツカはアルレスィアに近づき、抱きついた。


「無茶を、させました」

「平気だよ。だから――行こう」

「はいっ!」


 【アンギィ・リィン】発動後、瞑想に入ったアルレスィア。つまりリツカは、あの時からずっと……一人でアレスルンジュと戦っていた。


「光の炎、光の(つるぎ)

「赤白を煌かせ!」

「私の魂、私の想い、私の愛を捧げるっ!」


 二人で紡ぐ。真の【アン・ギルィ・トァ・マシュ】。

 時が止まったように、アレスルンジュは……世界を覆うマナの奔流に絡め取られている。


(馬鹿な……マナの王たる私が、マナに絡め取られて……ッ!? いや、それより……この制御力は――)

フラス(光よ)!」

「フラス!」

「光をのみ込む光よ」

「私を照らせ!」


 二人の体が、桃色の翼に包まれる。それはまるで――繭。


ヴァイス(白く)!」

ルート(赤く)!」

「赤白を抱きし翼よ……っ!」

「私と共に――」

「強き想いを胸に宿した英雄よっ!」


 繭の内側から光が漏れ、世界に祝福を齎すように――光り輝く。太陽より眩い光は、世界を照らす。どこまでも――深く、温かく。


「「――顕現せよ!」」


 繭が割れ、二人が出てくる。翼はなくなった。見た目に変化はない。だが――神々しい。そこに二人が居ないかのような感じだ。


 この感じを、アレスルンジュは知っている。


「神……様……」


 再び天に、桃色の柱が立ち昇る。荘厳な鐘の音が鳴り響き、世界に――顕現する。


「私達の想いで輝く世界に」

「祝福を」


 道標。二人が示した道は、人々を導く。明日は今日より悪くなるかもしれない。だけど――自分で、選び取れる未来がある。


「「――【愛す(アン・ギル)(ィ・ト)者よ(ァ・マシュ)】」」


 


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