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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
54日目、天まで届く、なのです
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光⑨



(”反射”にも”闇”を混ぜとくべきだったか。つっても、これ以上はな)


 感心した様子で、マクゼルトはレティシアを見ている。


(どう返ってくるか分かれば反射は問題ありませんが――ま。今の私なら五回は大丈夫ですかね)

干渉せよ(【アンタフェレンス】)() 降り(【ディソン・)注ぐ危(クリズ・)機を排除(エクスキュゾ】)し、我が侵(=【アイヴァジョ)撃を滲透(・ペニクラショ】)させん(・オルイグナス)!」


 ダイヤルを回すような動作をし、魔法を使う。そうするとマクゼルトの”反射”に穴が一つ空いた。継続時間は一分程だが、マクゼルトが穴を見つければ閉じられるだろう。


「お師匠さン」

「おう――ォラ!」


 リツカから譲ってもらったナイフを、ライゼルトが投げる。”雷”を纏ったそれはマクゼルトの腕に切傷を作り出し、ナイフは変色した。鉄がどれくらいの時間切れ味を維持出来るのかという実験でもある。


(反射されるはずなんだがな)


 ”反射”の穴をマクゼルトが塞ぐ。こういった、”干渉”魔法にも”反射”は適用されるのだが、レティシアに変化がない。


 もちろん、魔法はレティシアに跳ね返っている。”干渉”したのは”反射”に対してだ。これが反射されると、神経等に異常が出る。所謂混乱状態に陥ってしまう。だがレティシアに、そういった異常が出ているようには見えない。


(ふぅ……リツカお姉さん達と話し合っていて良かったですね。ダメージ覚悟ですけど、自分の魔法を受け付けないように体内魔力の密度を上げる。そうする事で少しは軽減出来ます、けど……やっぱり五回が限度です)

 

 リツカ達と共に、自分に対する魔法が飛んできたときの対処法を話した事がある。アルレスィアに頼りきりだったが、こうやって分断した時に必要だからだ。どんな魔法であっても対処出来なければ意味がない。だから魔法での対処以外を取る必要がある。


 その対処法が、相手の魔力に影響を受けないように、自分の魔力を高め濃縮し、隙間を無くすという物だ。ぶっつけ本番だが出来た。


 ダメージはある。自分の中で魔力密度を上げれば、気分が悪くなったり、下手をすれば命に関わる。レティシアだから出来た事だ。リツカと魔力の扱いについて話した事もここで活きた。


「結構いけるみてぇだな」

「はイ。ですけド、一分半と考えておくべきでしょウ」


 ウィンツェッツの言うとおり、刀ならばまともな戦闘が出来そうだ。だが、レティシアはそれを止める。五回しか”干渉”は出来そうにないし、マクゼルトは木偶ではない。何度も”干渉”出来るとは限らない。


(まさか――無理しとるようだな。だが悟られる訳にはいかん)


 ライゼルトは気付いた。だがそれをマクゼルトに知られるわけにはいかない。


(刀を使う前に、もう一つ確かめたいですね)

「お師匠さン。サボリさン。切り込んで下さい。サボリさんは正面から、お師匠さんは右からでス」

「ああ」

「真っ直ぐ突っ込んでくださいヨ」

「真っ直ぐか」

「ええ。真っ直ぐでス」


 ライゼルトの確認にレティシアが不敵に笑う。行動をマクゼルトに聞かれる愚を冒したレティシアに、ライゼルトは眉間に皺を寄せた。


「さ。攻めますヨ」


 レティシアがパンッと手を叩き、作戦開始を告げる。マクゼルトは――傍観している。


(二手に別れ、突進か。”反射”は無効化出来とるようだが、風は突破出来ん。レティシアは動かんか)


 ”反射”を無効化した後、レティシアは動かない。


(何かあるな。だがこの速度、ライゼが先か)


 レティシアに考えがあると気付いたが、マクゼルトは腕を組んだままだ。


(レティシア、お前の考えには一つ重大な欠点がある。この”風食”は斬れんよ)


 ナイフはあえて受けた。ライゼルト達を踏み込ませる為に。


「――ッ!!」


 ライゼルトが踏み込んで来る。踏み込めば、人体など簡単に細切れとなる。


「この”風食”は、”光”以外を受け付けん。”闇”とはそういうもんだ」

「ま。ですよネ」


 マントから手を出したレティシアは、三個の瓶を持っている。それを思い切り――地面に投げつけた。


「ォラ!!」

「何――?」


 やけに深い踏み込みをしてきたライゼルト。”風食”に呑まれ、確実に殺したと思った。だが何故か自分の腕に切傷が出来ている。それどころか、”風食”が消えているのだ。


「動けば消えるようですネ」

「あ?」


 目の前から突進していたはずのウィンツェッツが居ない。ライゼルトはマクゼルトの背に斬撃を再び見舞おうとしている。


 レティシアの言葉は気になるが、まずは回避をする。一歩踏み出したマクゼルト。しかし、パリンッと音がすると、背中を斬られた感触が奔った。


「チッ……そういう事か」


 マクゼルトの右側にあったはずのウィンツェッツの鞘が、左に移動している。いや、移動したのは――。


「鞘と俺で”転移”を使ったな」

「二回目は小石とですヨ」


 三つの瓶にはそれぞれ意味がある。マクゼルトの位置設定、転移先の物体設定、”転移”。三つを同時に割る事で”転移”が澱み無く発動する。当初は一つの瓶でやろうとしたが、それだと全てが固定となり汎用性に欠けた。だから三つに分け、その場で設定出来るようにしたのだ。


「その瓶、悪意入れとった奴か」

「いいエ」

「だよな。あれもただの瓶だからな」

「リツカお姉さんと巫女さんの口癖でス。想いさえあれバ、何だっテ、どこへだっテ。ですヨ」


 アルレスィアとリツカの言葉を引用し、不思議な事ではないというレティシアだが、その顔は自信と誇りに満ちている。


 この魔法を瓶に込めるという作業、かなりの集中力を要する。大量生産は出来ない。それに、一番必要だった”光”は込められなかったし、”強化”や”拒絶”も無理だった。


(後二回分ですネ。”風食”された時用に残しておきたい所ですけど……この一連で仕留めます!)


 レティシア達の攻撃はまだ終わっていない。


「小細工も意味ねぇか」

「意味ないなんて事はないですヨ」

「阿呆が。”風食”で動けねぇとバレた以上、ただの木偶だろが」


 ”風食”を頼りにしていればやりやすかったのだが、所詮は足止め策。頼りはやはり、己の肉体なのだろう。


「フラフラしやがって」

「フラフラなのはお前等だ。馬鹿息子共」


 マクゼルトの言うとおり、()()も限界が近い。マクゼルトやリチェッカ相手に挑み続け、フラフラの状態だ。


「違ぇ。てめぇ、何がしてぇんだ」


 ライゼルトが攻め手を止めてまで、何を言いたいのか。マクゼルトには分からない。


「何言ってんだ」

「俺等を殺すと言って、何で待ちの策取ってやがる」

「……あん?」

「まだ分からんか」


「お前。折れたか」

「俺が? 馬鹿が。勝ってんのは俺だぞ」

「いいや。折れてんだよ」


 マクゼルトから怒気が膨れ上がる。それもそうだろう。もうすでにヘトヘトな人間から心が折れたのかと尋ねられたのだから。


「手前ぇの存在に疑問をもったか? 魔王の考えについて行けなくなったか? それとも、リチェッカの笑顔を誰かと重ねたか?」


 マクゼルトが腕を解く。


「そういうお前はどうなんだ。俺が折れたってんなら、そのままかかってくりゃ良いだろが」


 ライゼルトに尋ね返す。わざわざ気持ちを切り替えるように忠告するような真似をする必要がない。


「俺等がただの討伐隊ならな」

「ま。お師匠さんに任せますヨ」

「すまんな」

「せっかくこんな場で問い質せるんでス。思う存分ってやつですヨ」

「カカッ。俺からも何か奢ってやっか」

「良いですネ。リツカお姉さんと合わせてワンランク上の食事が出来そうでス」


 レティシアとしては直にでも再開したかったが、ライゼルトも言いたい事があるだろうと肩を竦める。レティシアもリチェッカと話したかった事があったが、リチェッカの行動で全てが解った。虚しい、そんな気持ちが溢れている。そして――同様の気持ちで居るであろうマクゼルトの気持ちも、気になった。


「俺等は巫女一行だ。軍とは違ぇ。勝てば良い訳じゃねぇんだよ」

「お前……そんな奴じゃなかったろ」

「これも成長だ」

「リツカお姉さんに絆されましたカ」

「うっせ」


 勝つ為に手段は選ばない。そういう訳ではないが、ライゼルトは相手の隙を突くくらい平気でやる。それが普通だし、当然なのだが……ライゼルトはマクゼルトを問い質す。



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