私は出会う②
アリスさんの特製スープ、魚介ver.を堪能した後、私たちは今ギルド本部へ向かっています。昨日のマリスタザリア討伐、その件で王国選任冒険者になれる。はずだからです。
広場を通り抜けギルド本部へ向かおうとすると、掲示板の前に人だかりができていました。
「どうしたのかな?」
何かあったのでしょうか。
「恐らく、陛下からの御触れかと」
アリスさんがその様子を眺めながら応えます。
「私とリッカさまのこと、マリスタザリアのこと。王国がこれから行う対策。などですね」
王国についてすぐ話し合った対策。それの掲示です。とアリスさんが予想だてます。
その予想は当たっていたのでしょう。
アリスさんと私を見つけるなり、ざわめきが大きくなっていきます。落ち着きません。
「アリスさん、いこ?」
「はい、リッカさま」
気恥ずかしくなってしまい、アリスさんを促します。そんな私にアリスさんは、微笑んで着いて来てくれるのでした。
ギルド本部は昨日ほどではありませんでしたけれど、今日も賑わっています。
私とアリスさんが入ると、昨日とは違った空気が流れました。
昨日はアリスさんへの注目がほとんどでした。……その大半が、興味と多少の欲望でしたけれど。巫女として有名なんですから、そういった目で見ないでほしいです。
私は静かに憤慨していましたが、アリスさんはあまり気にしてないようでした。
話が逸れました。今日の視線は、私に向いていました。
尊敬、畏怖といったところでしょうか。なんにしても落ち着きません。この世界で受ける注目は、慣れる事はできそうにないです。
ただの欲望混じりだった元の世界のほうがやりやすいってものですね……。あれだけだったら、睨むだけでいいんですから。
「ごめんください。本日正午に来るように言われた、六花とあるれしーあです」
私が受付にいきます。
「はい、只今担当をお呼びします。少々お待ちください」
そういわれたので、椅子に向かいます。
「そろそろ、宿も変えないとね」
昨日出て行く予定でしたけれど、私があんなことになったので、宿の方がぜひ今日もと言ってくれました。
ありがたいことですけれど、少し悪いと思ったのでこの話題が出てきてしまいました。
「ですね、いつまでもご好意に預かるわけには……。今日は宿探しをしますか?」
アリスさんが快く話題に乗ってくれます。
「そうだね、今日は冒険者の説明とかで終わるだろうし」
色々とルールの説明があるはずです。ならず者の集まりではないのですから。
「そうですね。どんな宿がいいですか?」
「んー、一部屋でいいとして……お風呂ついてて、調理場自由なところかな?」
ここだけの話しですけど、私はアリスさんのスープが世界で一番好きになってしまいました。本当に毎日食べてます。
それにアリスさんは毎日食べても飽きないようにと、味を変えてくれます。
そのままでも毎日食べられるアリスさんのスープ、それが私のためにと味を変えて出してくれる。こんな幸せなことはありません。
「ふふふ、今日もスープはしっかり出しますよ?」
「ほんと? やった!」
私は、歳相応に喜んでしまいます。もう隠すこともしません。
そんな私をアリスさんが、まるで尊いものを見るように、目に焼き付けるように、微笑んで見ていました。
ギルドの受付に声をかけられ奥の部屋に案内を受けます。
「こちらでお待ちください」
そういって部屋に通されました。
「おまたせしました」
現れたのは、二十代後半の女性でした。
「国王補佐兼マリスタザリア対策室、室長のアンネリス・ドローゼでございます。どうぞ、アンネとおよびください。以後お見知りおきを」
複数の選任冒険者に対し一人、担当官がつきます。
一般公募の冒険者はギルド本部の冒険者組合の受付が担当するのに対し、選任冒険者は三,四チームに対し一人の担当官が普通のようです。
より密に、正確にサポートするためです。
そして、私たちの担当である、アンネリス・ドローゼ。アンネさんは、最上級の冒険者担当ということになっているそうです。
「お二方に試験を受けさせたことを、陛下は申し訳なく思っている。と嘆いておりました。本来であれば、無条件での選任に選出したのに、と」
やはり、陛下はそのつもりだったようです。
「いえ、私たちは元より正規のルートで冒険者組合に参加するつもりだったのです。陛下が心を痛める必要は、ありません」
アリスさんが弁明します。私も同じ気持ちです。
「それでも、お二方に謝罪を伝えたいとのことでした。私が変わりましてお詫びを申し上げます」
アンネさんが深々と頭を下げました。
「私たちも、陛下の好意、意思を無視するかのように行動してしまったのです。我々にも非があります。どうか頭を上げてください」
アリスさんがアンネさんに頭を上げるよう懇願します。
アンネさんは本当に申し訳ないと、悲痛に顔が歪んでいます。
「ありがとうございます……」
陛下の発表を待てば、確かに私たちはすぐに選任冒険者になれたでしょう。
でもそれでは、私たちは……あの牧場での事件を解決できなかったはずです。討伐はできたでしょうけど、犠牲者ゼロとはならなかったはずです。
だから、この話は、これで終わりなのです。
「それでは、選任冒険者についてお話させていただきます」
アンネさんによる説明を受けました。
選任による特権はいくつかあります。
・マリスタザリア関係の任務を優先して受けることができる。
・討伐に対して高額の報酬が国から支払われる。大体、一体につき十万ゼル。
・討伐報酬とは別に月の給料が支払われる。こちらは固定給で、大体三十六万ゼル。王国勤務のエリートの月給が三十万ゼルです。
・国からのサポート。治療費の免除。武器の購入整備の免除。薬代等の割引、支給。
これらが主です。他にも保障はありまして、それは随時発表されるそうです。その全てが、厚過ぎる程の待遇なのです。
ただし、これらが与えられる代わりに選任には絶対のルールがあります。
・国からの要請には絶対に応える。選任に拒否権はありません。命令が来れば絶対に従う必要があります。
・マリスタザリアを目撃したにも関わらず逃げた場合、懲役刑。大体二年から五年だそうです。もしも逃げた結果、仲間の死、国民の死などがつけば、一生牢屋暮らしもありえるそう。
・一般依頼も指名があれば受けなければならない。選任であっても冒険者。上記の待遇の全てが国民の血税です。国民の為に時間と労力を捧げることになります。
・月に一回、更新試験有り。今までの戦績もそうですけど、再びマリスタザリアと戦う事になります。
・冒険者にあるまじき行動をとった場合、資格剥奪。人助けは絶対。ならず者であってはならない。一般人への攻撃を禁ずる、等です。一般人への攻撃の禁止ですけど、正当防衛は認められるようです。
これらを守らなければなりません。私たちにとっては、特に困ることでもありません。どれも最初からそうするつもりだった物ですから。
「これらに納得いただければ、こちらにサインをお願いします」
アンネさんが書類をこちらに渡してくれます。
「はい、リッカさま。よろしいですか?」
「うん、大丈夫」
アリスさんが書類の確認をとってくれます。
――こうして私たちは、選任冒険者となりました。