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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
54日目、天まで届く、なのです
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光③



 アレスルンジュがリチェッカの肩を掴むより少し前、玉座の間では激しい攻防が繰り広げられていた。


 お互いノーガード。それは変わらない。しかし、どちらも命を削る事がない。


 アレスルンジュもリツカも、相手の攻撃を完璧に避ける。”闇”にも防御魔法があるのか、どうしても避けきれない攻撃を防ぐ。リツカもまた、どうしても避けきれない攻撃はある。”闇の矢”や”闇”、”闇の激流”まで駆使してくるアレスルンジュ相手に、避け続けるのは難しい。


 しかし、アルレスィアの想いがリツカが傷つくのを許さない。最初の一撃。戦闘開始と同時に放たれた本気の刺突をあえて受けたリツカ。そのリツカから伝わってきた、アレスルンジュの攻撃が齎す威力と破壊。それを遥かに凌ぐ”守護”をリツカに与えている。たとえ突破されようとも、”再生”があるリツカは魂が生きている限り死なない。


 アルレスィアがそんな事、二度と許さないが。


(やはり巫女から――だが、赤の巫女を突破しなければ巫女に届かぬ。アン・ギルィ・トァ・マシュの範囲、防御性能、機動力、攻撃力、どれも強化されている。もはや別物)

(私の本気、それも今の状態を持ってしても、最初の二撃以降当てられない。消滅前の戦闘で私の動きは全部バレてるし、最初の二撃で動きの変化も読まれた。強い……!)


 二人共、戦闘を行いながら相手を推し量る。相手の動き、予想を上回るように力を上げていけるリツカ。それを上回るアレスルンジュ。そして更に上回るリツカ。いたちごっこは続く。


 だが、アレスルンジュに一抹の不安が過ぎる。


(何故、何故死角からの攻撃に対応している)


 リツカの背後。完璧な死角をついて魔王の”闇”が放たれる。死角からならば、翼も間に合わない。もしくは、正面から受けない限りは消し飛ばせる。


 だがリツカは、後ろを確認する事無く避ける。防御すらしない。


(こいつは遠距離魔法を持たぬ。巫女がそれを担っているが、我から巫女が見えている以上避けるのは可能だ。だが、こいつは何故避けられる。完璧に死角を突いているというのにッ!!)


 分かっていなければ出来ない。


(分かる――)


 アレスルンジュはアルレスィアをチラと見る。その一瞬で、リツカは魔王に漸く、一撃を見舞った。


「クッ……!」


 衝撃によりアレスルンジュが吹き飛ぶ。リツカが追い縋り、更に追撃を放とうとするが、”闇の激流”がリツカに襲い掛かった。


「――っ!」


 翼とアルレスィアの”守護”がリツカを守る。しかし、アレスルンジュからは離れてしまった。


「そうか。巫女か」


 アレスルンジュが立ち上がる。ダメージの色はまだ見えない。まだまだ命が尽きるという危機感を持つほどではない。


「お前達――繋がっているな」

「そう」

「私達は二人で一つです」


 昔から、アイコンタクトや名前を呼ぶだけで想いを伝えられていた二人。しかし今は、視線も名前も必要ない。ただ想うだけで、二人は繋がっている。


「魂が一つに、か。成程。真の二対一という訳だ」

「マクゼルトやリチェッカ。何より、想いを同じにした者達の集合体であるあなたも」

「一人ではないはずです」

「いいや。一人だ。我は魔王。だが、他の者達の意識はもうない」


 永い時の中で、想いが磨耗したのだろう。アレスルンジュ以外の者達は残る事が出来なかった。唯一、アレスルンジュだけが想いを遂げる為に今も戦っている。


 しかし、リツカとアルレスィアは首を横に振る。


「意識はなくとも」

「意志は残っているはずです」

「だったら何だというのだ。我は我だけの意志で遂げる。でなければ、いかぬのだッ!!」


 リツカとアルレスィアは、アルツィアとの約束を守ろうとしている。分からず屋のアレスルンジュに、人としての生を再び手に入れた少女に、救いを。


「リチェッカは、あなたを愛して」

「愛など、下らぬ。リチェッカは我の後を継ぎ、より永い時を神へと捧げる為の子。そこに愛情……いや、感情などない。あるとすれば――使命感だけだ」


 アルツィアの為に生み出しただけ。それが本心かどうかは掴めないが、少なくともリツカとアルレスィアは嘘と思っているようだ。


 リチェッカの存在はアルツィアが認めた。後顧の憂いはなく、リチェッカも世界の管理に参加する事になるのだろう。ただそれだけと言うが、その割りには可愛がられている。そう感じるのだ。


「無駄話は終わりだ。お前達二人が繋がっているというのなら、我はそれを断ち切るまで」

「人と人の繋がりは」

「そう簡単に切れない」

「証明してみせましょう」

「私達の勝利で!!」


 あえてアレスルンジュを人と呼称する二人。アレスルンジュは気づいているだろうか。リツカ達の言う人と人は、自分達を指したが――アレスルンジュとリチェッカの事でもあった事に。愛を下らないと切り捨て、リチェッカの愛を否定した時、その表情に陰が差した事に――。



 戦いは再び始まる。一振りで山を削りそうな一撃を両者繰り出し続ける。


(背後は死角になりえない。巫女の方が広範囲を見渡せるのだから。その中で死角となりえるのは赤の巫女の傍か)


 本来リツカは第六感により大抵の攻撃を未来予知の如く避ける。しかしアレスルンジュの攻撃は、予知の上を行く。本当に未来を見ている訳ではないため、限界があるのだ。


 アレスルンジュはそこを突く。無意味な攻撃を排除した事で、リツカに張られた”守護”の出番が増えてきた。リツカが避けられる攻撃を排除し、一時は最短で隙を突く。しかし、リツカはそのまま打たれる者ではない。


 リツカが避けられない攻撃だけでは対応される。だからあえて、タイミングをズラす。避けられる時もあるが、それはあえて作った回避行動。アレスルンジュはリツカが避けた先で待ち受けている。


「――シッ!」


 だけど、リツカも負けてはいない。相手の行動の意味を即座に読みきり、体を捻り避ける。もちろん、反撃は忘れない。リツカの攻撃は、アレスルンジュの脇腹を裂く。


「……ッ!?」


 アレスルンジュに衝撃が走る。防御魔法が間に合わない。リツカが傷つく事はないが、魔王は段々と削れていっている。


 消滅前と、逆の展開になっているのだ。


(何故、離れる)


 距離の話ではない。戦闘力の差だ。


 アレスルンジュとリツカ。技量はもはや同等。いや、体格や年月を考えればアレスルンジュの方が上かもしれない。なのに、リツカに攻撃は当たらず、自分だけが受けている。

 アルレスィアの”守護”があるのを抜きにしても、リツカが先を行く。


「――――ッ」


 当てられていた攻撃が当たらなくなる。そして遂には、防御だけとなっていた。


「シッ――!!」


 体力面で難があったリツカだが、今は体力的な不安は一切ない。一度明確な差が出ると、加速度的に離れていく。


 リツカは、何度も実力差がある敵と戦ってきた。技量が上でも、攻撃が通らずジリ貧になる事もあった。膠着状態に陥る事に慣れている。アレスルンジュは同格相手と戦った事が一度も無い。アレスルンジュより強い人間、マリスタザリアなんて居なかったからだ。


 技量、年月はアレスルンジュの方が上であったとしても、経験はリツカが上。隙を作り出す動作、隙を見つける目、それを突く身体能力。全て、この旅でリツカが磨いた能力だ。


 無駄な事など一切してきていない。リツカの技が――光る。


「鋭く」

「疾く」

「鮮烈に――!」


 アレスルンジュの首、胴、袈裟が同時に裂ける。膨大な量の”光”が流し込まれ、アレスルンジュは行動を止めてしまう。拒絶による”麻痺”。いつの間にか、剣に仕込まれていたようだ。


「私達の一撃――光纏いてッ!」

「悪意を裂く――【フラス・アイシュラグ】!!」


 剣に込められた”光”が、更に輝きを増す。回転しながら上段に構えたリツカが、アレスルンジュの首を――両断した。


「――――」


 首が飛び、時間がゆっくりになったようにアレスルンジュが後ろに吹き飛ぶ。まだ悪意は残っている。しかしアレスルンジュは放心し、体が落ちるのを受け入れていた。


(負ける――)


 最初は勝利した。後はアルレスィアに止めを刺すだけだった。だがそれは、未完の二人であった。アレスルンジュとしては、勝利には変わりなかった。だがその勝利はあくまで自分が勝手に決めたゴール。


 アルツィアが約束してくれたのは――今の二人から勝利を手に入れる事。


 最初の勝利に、価値はない。今此処で負ける事だけは――許されない。


「…………ッ!!!」


 アレスルンジュは目を見開き、”闇”を放出させる。その”闇”は、一度リツカを消滅させた物と同質。リツカとしても、立ち入るのを一瞬躊躇ってしまう。


「――――リチェッカ」


 そしてアレスルンジュは、”闇”に手を突っ込んだのだ。



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