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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
54日目、天まで届く、なのです
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光②



(……五万……いや、もっとか。一振りが、巫女のアン・ギルィ・トァ・マシュと同等。赤の巫女の技術で連続されると、足りぬな)


 アレスルンジュは悪意を吸収し始める。大きな一撃を受けたが、アレスルンジュに敗北感はない。


 攻撃を逸らされ、カウンターを綺麗に打ち込まれた。しかし、次は無い。リツカもそれは理解している。また新に攻撃手段を考えなければいけない。


 達人同士の戦いで、お互いの技を一度で見切るように、同じ攻撃が二度通じる事などない。


「漸く、まともに戦えるようになったに過ぎない」

「理解してる」

「だから、再開と言ったのです」

「このまま、削りきる」


 巫女二人の魔力は、使えば使うほど増えているように感じる。そんな事はないはずだが……そう感じる程、強大な魔力を持っているという事か。


(あの剣……破壊力は私の槍を凌ぐ。だが強度はどうだ。触れた感触からして、攻撃力に重きを置いた魔法がかけられている――と、巫女がこちらを見ているな。読まれたか)


 安易に思考した事を、アレスルンジュは反省する。アルレスィアに心を読まれぬよう、心に分厚い”悪意”を作り出す。悪意は人の心。雑音となり、アルレスィアの能力を防ぐ事が出来るだろう、という判断だ。


 しかし、意味はない。


 今度はリツカが斬りかかる。アレスルンジュがカウンターを入れる為に、槍を突き出す。しかし狙いは――剣だ。直前までリツカを狙っていると見せ、完全に反応出来ないタイミングで剣狙いへと変える。


 ほぼ完璧な狙い。翼が見えるようになった分、弾かれる様子も見えるようになった。弾かれる前に軌道を変え、剣に向かって――。


「――届け想い。癒しの愛撫。拒絶の守護。呼応せよ! 【エィヒム・ヴェヒ・リーベ】!」


 リツカの掠り傷が一瞬で治り、剣に向かっていた槍は、見えない壁に阻まれたかのように一瞬止まる。その一瞬で、リツカの剣は再び――アレスルンジュを袈裟から裂く。


(大幅に修正する必要がある。確実な勝利の為に――驕らぬ!!)

 

 アレスルンジュが巫女二人の能力を認め、大幅に考えを改める。その様を見たリツカとアルレスィアもまた、アレスルンジュという魔王の強さに瞠目した。


 ただの強者ではなく、決意と永きに渡る想いを持った強者。自身の強さに絶対の自信を持ちながらも、確実な勝利をもぎ取る為に落ち着きを取り戻した。アレスルンジュはやはり、強い。


 ”神化”後、アレスルンジュが少し見せていた困惑をつき二発入れた。しかし追撃は絶対に許してくれない。リツカ消滅前の戦いで見せていたアレスルンジュの余裕は一切ない。


 巫女二人も油断はない。圧倒的ともいえる実力を見せて尚、アレスルンジュの一挙手一投足に全神経を集中させ、慎重に戦いを進めている。




 二者が動けば、”闇”と”光”が玉座の間だけでなく世界を振るわせる程の神話の戦い。レティシア達は間近でそれを感じ、戦意を取り戻していっていた。


「この魔力の流れと先程の閃光……! 間違いありませン!」

「確かに、死んだんだろ……?」

「生きているのが現実でス!」


 レティシアがいつもの調子を取り戻したようだ。


「生きてたか。まぁ、俺等のやる事は変わらん」

「落ち込んで力が出てなかった人のセリフとは思えませんネ」

「お前が言うなお前が」


 何が起きたかは分からない。しかしリツカは蘇り、二人は本当に人知を超えた力を手に入れてきた。


 軽口を叩いているが、ライゼルトとレティシアは嬉しそうだ。


「どんなカラクリか知らんが、魔王には勝てん」

「そっちがぴんちなのはかわらないんだよー。たちなおったみたいだし、そーりょくせんしよっか」


 リチェッカの言う通りで、三人が不利なのは変わりない。リチェッカは未だに”魔王化”したままだ。悪意も増えてきた。戦争が激化しているのだ。マクゼルトもまた、余裕がある。三人が本調子になったところで、いきなり強くなるという事もない、と。


「いよいよ佳境って奴ですネ。お二人の魔力に自信が満ち溢れていまス」


 しかし――レティシアが決意を瞳に宿らせる。


「こちらも出し惜しみはなしでス」


 マントをはためかせる。いつもは水晶があるはずの所には、分厚い本が下げられていた。びっしりと共和国の文字が書かれたそれは、魔道書のようだ。


 千ページを超えるかという分厚い本には、一切隙間がない程に記された詠唱呪文の数々とその効果。


 歯噛みしていた。雑魚処理や各町での立ち回りで二人の為になっていたとはいえ、大きな戦闘では足手纏いであった時の方が多かったのではないのか? と。レティシアの、深い海色の魔力が講堂を支配する。


 リチェッカは楽しそうだ。お気に入りのレティシアが見せる命の輝きと決意の瞳。それは、リチェッカを高揚させた。


「おいで、おきにいりちゃん。あいてしてあげる!」

還元せよ(【リディス】) ()我が畢生(【ヤヨイ・)の全て、(エトレィ・)ここに(スィ】・)在り!(オルイグナス)!」


 文字が光だし、レティシアの中へと吸い込まれていく。見た事も聞いた事も無い状況に、記憶を読み知っていたリチェッカ以外困惑している。

 ”還元”は一応ある。しかし、本に書かれた文字が戻るというのは知らない。


「私がただの大食らいと思わない事でス」

「違うんか」

「違ったのか」

「違いますヨ。お馬鹿親子。私自身は少食でス」


 白紙に戻った本をライゼルト達に投げつける。ライゼルトは避ける事が出来たが、ちょうどライゼルトの所為で見えなかったウィンツェッツは直撃を受けてしまった。


「瓶と違って魔法を閉じ込める事は出来ませんけド、伝言紙の応用でス」


 使用者の魔力を記憶させる伝言紙。住民登録にも使われるそれを利用している。


「この文字には私の魔力を込めてまス。一日の最後にただただ只管書き記しましタ」


 魔力を込めながら記す。詠唱呪文や効果を書いたのは、レティシアの研究書代わりでもあったからだ。実際書く必要は無い。ページ毎の許容量一杯まで込める。それを毎日只管に、一日の最後に行っていた。

 

 この作業を必要としなければ、レティシアは少量でも満足――出来る訳ではない。育ち盛りではあるし、少し胃が大きくはある。そうでなければ大量の食事を行えないし、余剰魔力が生まれない。


 体質でもあるのだろうけど、レティシアが一日で生み出す魔力の量は一般成人の三倍から四倍。リツカ、アルレスィアと同等だ。


「私の三千三百日分の余剰魔力。ここで使いきらせていただきまス!!」


 元々レティシアの魔力だったので馴染む。しかし、いきなりそれだけの量を入れれば体調を壊す。


 リチェッカが魔王の”闇”を飲み込めないように、人間の許容量は決められている。アレスルンジュや”神化”した巫女二人でもない限りは出来ないはず。だからリチェッカは、その方法があると記憶を読み知っていたにも関わらず警戒していなかった。


「あはは! すごーい。あんなまりょくそーさ、みたことない」


 リチェッカが感心する程、レティシアは魔力を体内で完璧に制御している。


「魔力量が増えただけだ。気にする必要は――」

炎の(【フィアマ・)檻よ、(キャジュ】=)水の枷よ、(【ロオ・)我が呼(マニュ】・)かけに応え、(【アンラペン・)押さえよ!(マトゥニズ】=)風の刃、雷の(【リヴァン・)針、我が(ラマ】・)敵の気勢を(【ゼンダ・)削ぎ落(イギュイ】)とせ!我が(・【ミンド・)想いを受け(グラティ】・)荒れ狂え(オルイグナス)!!」


 まだ制御段階だった。魔力を練るという動作を見せなかったレティシアが一気に謳いあげる。マクゼルトとリチェッカは隙を突かれる形で拘束されてしまった。


「あんさんの魔法じゃ俺等を捕まえられん。知っとる――」


 拘束を抜け出した二人の足元から水柱が立ち上り、二人を水球が包み込んだ。どの魔法も、連続で撃てる程の軽い魔法ではない。


 二人は抜け出す為に手を振ろうとするが、雷の矢が腕に刺さり一瞬動きを止めた。一瞬であったけれど、その隙に二人の肘が内側から炸裂した。かなりのダメージだが、二人は構わず水球から出る。


 そして地面に着地するが――地面が沼になっており、沈む。


「何呆けてるんでス」

「あ、ああ」


 連続で行われる大魔法。そのどれもが大量の魔力が込められており、マクゼルトとリチェッカの行動を阻害し、傷をつける事が出来ている。


 ライゼルトとウィンツェッツは状況について行けずに困惑顔で呆けていた。


 一つ一つの拘束は短いながらも、連続で行う事で効果を発揮している。一瞬ではあるが二人を止めているのに、何故か呆けている二人をレティシアが半目で睨みつけている。


「まりょくをねー、ねるひつようがないんだよー」

「先に言え」


 沼から抜け出した二人に、続々と魔法が飛来する。ライゼルト達が攻撃する事考え、先程よりもピンポイントで狙っている。


「わたしはだいじょーぶだけど、まっくーはだいじょーぶ?」

「問題ねぇ。遣り甲斐が出てきただけだ」


 詠唱は必要だし、余剰魔力は回復しない。使いきりのサービスタイムだが、大魔法を連続で使えるだけで驚異的だろう。


「じゃあわたしがおきにいりちゃんを――ん?」


 レティシア達の攻撃が止んでいる事に、リチェッカは首を傾げる。しかしその理由も、すぐに理解出来た。


「まっくー」

「どうした」


 リチェッカの肩に、手が置かれている。女性の手だ。相手は見えない。闇の向こうから手が伸びているのだ。


「まおーがよんでる」

「あ?」


 作戦の変更かと思ったが、リチェッカだけ呼ばれているようだ。しかし、何故女の手なのかマクゼルトには分からない。魔王の正体を知るのはリチェッカだけなのだ。


「こっちは問題ねぇ」

「うん」


 マクゼルトは一人でも問題ないと言って、リチェッカに魔王の元に行くように伝える。リチェッカがにこりと笑い、肩を引かれ、闇へと消えていく。


「まっくー」

「あん?」

「いままでありがと。――――ばいばい」

「……は?」


 とぷん、と闇に消えたリチェッカ。マクゼルトは、呆けた顔でリチェッカが居た場所を見ている。


 リチェッカの言葉の意味が、マクゼルトには分からなかったのだ。何故このタイミングで、お礼を言われたのか――。



ブクマありがとうございます!

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