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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
54日目、天まで届く、なのです
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対談③



「二人が”森”で繋がっている事、二人はまたも同じ時に、”巫女”になった事が分かったね」


 示し合わせてはいない。偶々だが二人は同時に”巫女”となった。これで何かが変わる訳ではないけど、二人の運命が交わったように、私には感じた。


「後はきみも話で聞いた事があるだろう。リツカがこの世界に来て、”巫女”としての活動を開始した」


 二人の特異性を話した所で、本題といこう。


「さて、もう一問といこう」

「……はい」

「今度は○×問題だ」

 

 アレスルンジュは外の様子が気になるのか、視線が泳いでいる。アレスルンジュの計画は、王国と連合の戦争に介入し、自身の存在を知らしめた上で恐怖による統治を宣言する。という物だ。


 この計画について、私が言えることは無い。平和になるかもしれないし、ならないかもしれない。世界がそうであるように、私も身を委ねるとしよう。

 

「戦争の決着はまだまだ先だよ。レティシア達の方も膠着状態だ。きみの計画に支障はないよ」


 この部屋に入れるのは、私と同等かそれ以上の力を持った者だけだ。向こうの世界では、アレスルンジュ達の気配まで消えたと不審がられている事だろう。


「そう、でしたか」

「さて、第一問。アルレスィアの”拒絶”の副産物は記憶を読む」

「×です」

「正解。心を読む、だ」


 この副産物も、二人の特異性か。そんな能力、()()()()だよ。


「第二問。リツカの”抱擁”は、自身の魔力、魔法を包み込む」

「○、ですか」

「昔なら正解。でも、今は不正解だ」


 アルレスィア限定だが、他者の魔法も包み込める。


「第三問。二人の【アン・ギルィ・トァ・マシュ】は完成形である」

「……○」

「不正解」


 二人の【アン・ギルィ・トァ・マシュ】。皆で色々と考え、正解を導き出していたようだけど、足りない。


 アルレスィアの方は、”拒絶”がベースとなっている。悪意や人、物、アルレスィアが”拒絶”したい対象を破壊する。


「今はリツカの形を取っているが」

(え)

「……リツカの形である必要はない。アルレスィアが一番想い易い形を取るからだ。大きさは想いの大きさだが、制御出来る様になれば小さくも出来る。もっといえば、人型でなくても良い」


 あの魔法に、明確な攻撃方法はない。私を象った時は、ただ光った。リツカを象った時は斬りつけた。明確な攻撃方法がなく、その時々で力と形を変える。それはつまり、未完成という事だ。


 単純な魔法ゆえに、想像が難しいという事もある。完成させるには、やはり――アルレスィアの自覚が必要だ。


「次はリツカの方だけど、あれは私にも未知だ」


 正直言って、理解の範囲を超えている。


 翼となっているのはリツカの魔力。持っている力は自動迎撃と自動防御。その魔力は移動させられる。足や刀に纏わせ、攻撃力と防御力を上げている。翼を全て使えば、その一撃は必殺だ。


「きみを相手にした時は、あまりの命の数に使えなかったけどね」

「……たとえ使われていても、殺しきれなかったでしょう」

「その通り。多くても一万人分だろう」


 これはアルレスィアの方であっても、殺しきれなかっただろう。”光”を多く込められるアルレスィアでも、五万人分減らせるかどうかだ。


 さて、リツカの【アン・ギルィ・トァ・マシュ】だけど、気になる所がある。


「きみの所のリチェッカは気付いていたようだけど」

「ん……?」

「リツカの翼には、アルレスィアの魔力が混ざっている」

「何……!?」


 そう。ありえない。他者の魔力を自在に操っている事になるのだから。


「翼を形作っているのはアルレスィアの魔力。そして、あの翼がリツカを守る時に一番強く輝く。それはつまり――アルレスィアの意志まで篭っているという事になる」


 絶対の迎撃。これは、アルレスィアの想いでもあるのだろう。リツカを守りたいと願ったアルレスィアの想いが、リツカが操っているアルレスィアの魔力を通して顕現したのだ。


 これも、リツカの”抱擁”が成せる技なのだろう。アルレスィアの魔力を抱き締めたのだ。


「抱擁とは本来、自分には使わない」


 他者を抱き締める時に使う言葉だ。


 リツカの”抱擁”は、アルレスィアに対しても発動する。そしてそれは、アルレスィアの手元から離れた……”アルレスィアの物”相手であっても、だ。


「さて、第四問。リツカが持っている”アルレスィアの物”とは想いである」

「……×」

「半分不正解。でも正確には想いではない。それは何だと思う?」

「……髪、とか……でしょうか」

「それも正解になるんだろうけど、今回は違うんだ」


 リツカはアルレスィアから色々な物を貰った。イヤリングやブレスレットも、アルレスィアから付けて貰った物だ。髪だって、アルレスィアがリツカの指に、『お守り』と言って結べば力を持つだろう。でも、今回の問題では違う。


「それはね。血だよ」

「血……そういえば、数々の戦闘で」

「そう。輸血したね」


 アルレスィアは、リツカの中に自分以外の血が入るのが嫌だからと、決して他者の血を入れなかったのは言わないでおこう。


 ()()()()()()()()()()()


「アルレスィアの想いで、リツカを生かしている物だ。これ以上の物は無い」


 自分の中に在るアルレスィアの血。それには、アルレスィアの魔力が篭っている。リツカはそれを、”抱擁”で操るのだ。


「これは、アルレスィアがリツカの全てを受け入れているから出来る芸当だ」


 二人は想いを自覚し、アルレスィアは伝えた。その事でリツカは、アルレスィアの魔法を”抱擁”で操れるようになっている。


「リツカはアルレスィアを、アルレスィアはリツカを、互いに高め合える」


 二人ならば何でも、というのはこういう事だ。


「さて、最後の問――」

「その前に……」

「うん?」


 アレスルンジュから、初めて問いかけられる。これは嬉しい事だ。私はきみと対話したかったのだから、どんどん話して欲しいと思う。


「リチェッカの事、ですが……怒っていないのです、か?」

「怒る訳ないよ。言っているだろう? 私は、生きとし生けるもの全てを愛すると」


 リチェッカはリツカのクローンだ。クローン体を作り、リツカ、アルレスィアの魔力を込め、子供達の魂で成長させた存在。クローンだけあって、リツカに似ている。その魂の形までも。半円ではなく、全体が波打ってはいるけれど、ね。


「だけど、子供達の魂を使ったのはいただけない。後でしっかりと返してもらうよ?」


 リチェッカは幼くなるだろうけど、それが自然だ。


「……事が成れば、必ず」

「ああ、()()()()()()()()()、ね」


 アレスルンジュが私の顔を見ている。


「じゃあ、最後の問題だ。これは数問連続でやるよ」

「……」

「私はズルをしている」

「……○」

「それはリツカがこの世界に来た時からだ」

「ま、る」

「そのズルは、きみと戦うまでは意味を成していなかった」

「……」

「今はズルが成っている」

「……ッ」

「正解は、全部○だ」


 私はズルをしている。神格の多くを使い、リツカの魔力を抉じ開けるついでに()()()()()()()()()()()


「アレスルンジュ。まだ戦いは終わっていないよ」

「……」

「私のズルは、”神化”という」

「神、化……?」

「そう。簡単な話、私に成るという事だ」


 ずっと……ずっとだ。二ヵ月間、ずっと待ち望んだ。


「このズルの発動条件は、お互いが最も昂っている時、同じ気持ちになっている事」


 正直、二人の旅の様子から考えると……もっと早く成っても良かった。だけど、負い目と恐怖心から前に進めなかった。

 

「最も昂る。それは何時か。お互いに向けられていなければいけない」

「……愛」

「そう。愛し合った二人が、お互いを強く求め、気持ちを一緒にする時発動する」


 今の関係が壊れるのが怖かった少女は、気付きつつある気持ちを隠そうとしていた。負い目のある少女は、気付きながらも伝えて良い物かと悩んでいた。だけど、伝えた。負い目のある少女は伝えた。それを受けた怖がりの少女は、喜んだ。


「想いが一致したかと思ったけれど、誤算が生じた」


 負い目のある少女は、乗り越えたはずの負い目とは別の負い目に苛まれた。弱っている怖がりの少女に付け込むように告白してしまった、と。それは想いに翳りを作った。


「負い目がある少女は、昂りを抑えた。感情を抑えた。怖がりの少女がどんどん昂り、すぐにでもと思っている横で、心に罅を入れていった」


 だから、”神化”しなかった。二人の気持ちはズレていったからだ。本当は一緒なのに、ずっと一緒なのに、昂りが足りない。一致しない。


「そのズレは、二人の【アン・ギルィ・トァ・マシュ】にも現れた」


 怖がりの少女の【アン・ギルィ・トァ・マシュ】は昂りにより強さを増していた。”強化”も、”抱擁”も、効果を上げ、きみを驚愕させるに至った。


 だけど、負い目のある少女は、表こそ強さを増していたけれど……消費魔力の増大という状態に陥っていた。


「だけど、怖がりの少女がきみに殺されそうになった時、負い目の少女は……自身の愚かさを嘆いた」

「……」


 リツカは今までと違っていた。死んでもアルレスィアを守るという意志は変わらなかったが、リツカは生きようとしていた。そして……自分の想いを言葉に出来なかった事、一緒に居られない事を嘆いた。


 アルレスィアは、自分のエゴでリツカから想いを伝える場を奪ってしまった。二人の間に負い目や隠し事なんて意味はない。どんな想いがあろうとも、それを伝え、お互い理解し合える仲だと確認したはずなのに、アルレスィアは自分一人で勝手に落ち込んでしまった。


 その所為で、リツカは嘆いたまま死んでしまった。リツカを蔑ろにしてしまった。自分の負い目なんてものが、いかに陳腐な物かアルレスィアは思い至った。


「人は、苦悩を乗り越えた先に輝きを見せる。最期かもしれないと涙を流した少女は、昂った。最期にしたくないと、二人でまた海に行って、今度はちゃんと潮騒に耳を傾け、冷たさを感じ、太陽の光を浴び、潮風を楽しもうと。まだ雪を見ていない。火の出る山という物も見てみたい。二人でやりたい事は沢山あるのに、と」


 二人の気持ちが、一致した。最期の最期、間に合ったんだ。




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