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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
54日目、天まで届く、なのです
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決戦⑧



 優勢とまではいかなくとも、何とか戦えているリツカとアルレスィアに対し、レティシアとライゼルトは苦戦を強いられていた。


「おにんぎょうさんは”まおーか”とたたかうのはじめてだねー」

「記憶ん中じゃ普通のあんさんとも初めてだってんだ……ッ」


 リツカとの打ち合いが楽しかったリチェッカは、”闇の剣”にただの刀が触れられるようにしている。急所を狙っていないし、リツカの時よりも殺意は弱い。


(手加減されてこれか……ッ)


 遊び、という言葉通り、リチェッカはすぐに終わらせるつもりはないようだ。それに、後ろから支援砲撃をしているレティシアには見向きもしない。


(っ……当たっている感覚がありませんし、捕まえてもすぐに……! 損傷は、与えられているのでしょうか)


 自分の行動は手助けになっているか不安なようで、レティシアの視線が泳ぐ。マクゼルトの方を先に倒すべきではないのか、とリチェッカから視線を外してしまう。


「ッレティシア!」

「っ――!?」


 ライゼルトの声に、しまったという顔を浮かべるレティシア。しかし、すでにリチェッカは眼前に迫っていた。


「つーかまーえた」

「離――」


 マントの中に手を入れ何かをしようとしたレティシアだが、リチェッカに両手を掴まれ地面に押し倒されてしまう。


 馬乗りになったリチェッカをなんとかしようとするが、完全に押さえつけられてしまっている。足をばたつかせるが、リチェッカはびくともしない。


「やっぱりおいしそう」


 リチェッカがレティシアの匂いを嗅ぐ様に顔を近づける。


「う……」


 違うと分かっていても、というやつだろう。思わず視線を逸らしてしまう。ほとんど裸のリツカ顔が馬乗りになって顔を近づけてくるというありえない状況だが、見てはいけないという気持ちになってしまったようだ。


「てれてるの?」

「違いまス」

「ちょっとたべていい?」


 レティシアの顔を見ようと頭を振っているリチェッカと、それから逃げるレティシア。死闘の最中だというのに遊んでいるように見える。


「何をでス」

「たましー」

「魂が主食なんですカ」

「ちがうよー? でもだいこーぶつ」


 レティシアの質問に応えていたリチェッカの首が跳ぶ。


「およ」


 一瞬リチェッカの体から力が抜け、レティシアはその隙に逃げる事が出来た。しかし、リチェッカにダメージがあるようには見えない。


「いちおーいたいし、あくいはへってるよー。ひとりぶんずつだけどね」

「何人分の悪意があるっていうんでス」


 ライゼルトに礼を言った後、再び構える。自身の無力感に苛まれている場合ではない、と集中しなおす。


「んー? まおーはぜんじんるいでー、わたしはおうこくぶんだったかな? せいかくにはちがうだろうけどー」

「王国の総人口は何人だ」

「約三億人でス」

「世界は」

「六十兆と言われていますネ」


 魔王の特性が無いリチェッカにダメージを与える事は可能だが、その数は途方も無い。”光”が無い為一人分、殺す事が出来るだけだ。


(アイツ等は、大丈夫なんか)

(まだ魔力反応はありますけド、順調に魔力が減ってまス。とういうより、リツカお姉さんは早々に翼を出したようですシ)


 温存する余裕がないという事は言うまでもない。だが、総人口分の悪意をどうやって浄化するというのだろうか。


「かみさまでもないかぎりふかのーだよー。じゃ、こっちもさいかいしよっか。おにんぎょうさんもおきにいりちゃんもたのしーでしょ?」


 そう言いながら、リチェッカは顔を変える。黒髪を三つ編にし、前へと流している少女だ。


「カルメ姫か……?」

「いいエ」


 レティシアが怒りの火を灯す。


「こーげきできるよね」

「リツカお姉さんみたいに色々感じ取れる訳ではないのデ、攻撃出来ますヨ」


 レティシアが眉間に皺を寄せる。偽者と分かっている以上、その姿を見せる事は、逆鱗に触れるだけだ。


「私の前でカルラさんになるなんテ……っ!」

(成程。姉の方か)


 怒りに火を灯してみても、レティシアが出来る事は少ない。命は削れているという事なので、魔法を撃ちこむだけなのは変わらない。しかし、どんな高威力の魔法を当てようとも、一人分しか削れてないらしい。


「強がってみても、不利な事に代わりねぇぞ」


 リチェッカは王国分と言っていたが、戦争が始まれば悪意吸収が容易となってしまう。そうなればリチェッカと魔王を殺す事は不可能といえるだろう。


「まー、まおーのじゃましたくないから、わたしはてきとーなところであくいきゅうしゅーしなくなるけどねー」


 敵の言葉を鵜呑みに出来る程素直ではない二人だが、リチェッカの言葉は本当だと思ってしまう。余りにも純粋すぎる少女が見せた本気を感じ取ったのだ。


「魔王は、何をする気なんでス」

「せかいへーわなのはいったとおもうけど、かみさまのためなんだよー」

「アルツィア様……?」

「まおーはね。かみさまのことがすきなの」


 純粋な少女が言うものだから、二人は純愛なのだと感じてしまった。しかし相手は戦争を起こし、リツカを無慈悲に追い詰め、リツカのクローンまで造っている。純愛というには歪んでいると思い直す。


「おはなしすきだねー? もっとはなす?」

「そっくりそのまま返しますヨ」

(ちったぁ、回復出来たか。流石に息が上がってきちまった。あっちは、どうなった)


 レティシアがリチェッカの気を引いている間に、ライゼルトは少しだけウィンツェッツの方を見る。向こうもまた、膠着状態のようだ。


(実力が伯仲しているからこそ起こる、膠着状態だが、な)


 激しく火花が飛び散り、血飛沫がお互いから起こる。ウィンツェッツの掌、マクゼルトの拳が裂けているようだ。


(強くなったな……。だが――その馬鹿親父、まだ魔法を使っとらん。気ぃつけろ)


 静かにウィンツェッツを按じる。リチェッカは遊び感覚でやっているが、何れは決着を付けるだろう。レティシアは捕縛されるだけだろうから安心だが、勝ちの目がなくなってしまう。


「こんな正真正銘の化けもん共、ここで殺しきれんと世界は終わりだ」

「あれー? せかいへいわっていったじゃん。おにんぎょうさんあたまでもうったのー?」

「偶に吐く毒がリツカそっくりだな……」


 ところどころリツカを感じさせるリチェッカに、ライゼルトはやはりもの悲しい顔をする。


「リツカに似とるが、あんさん……何とも思わんのか」

「んー? せんそーとかぎゃくさつとか?」

「そうだ」


 リチェッカが少し考える。首を傾げながら、んー? んー? と唸る。頬に指を当て、暫く思考している。段々とカルラからリツカへと顔が変わっていく。


「あかみこも、じぶんとにてるならーとかおもってたみたいだけど、いっしょだよ?」

「何?」


 リチェッカがパンパンと手を打ち鳴らす。自分の中で納得がいったのか、リツカが一度見せた、ダンスを踊ってみせる。


「あかみこはみこのためにー、わたしはまおーのためにー。いのちだってなんだってーってね」


 ライゼルトの言葉は届いている。リツカと同じならどうして、と。しかし一緒だとリチェッカは言う。


「……本質は一緒って事ですネ」

「まおーがのぞむならそれがいちばんだよー」

「リツカお姉さんハ、巫女さんが間違えば言いますヨ。逆も然りってやつでス」

「ほんとかなー? おたがいまちがえないよーにきをつけてるだけだよー」


 リチェッカの言葉に、レティシア達は強く否定出来ない。二人共正しい行いをしようと努力する正義の者達だ。悪の道に逸れた時、二人はどういう行動を取るかは想像でしかない。


「そっちも想像ですシ、私は私が信じるリツカお姉さんと巫女さんに付いて行くだけですヨ」

「おきにいりちゃんはつよいねー。やっぱりたましーがきれーだね」

「そういう貴女は反転してますヨ」


 リチェッカは、望んでいた玩具が自分の理想通りだったことが嬉しいようだ。再び”闇の剣”を玩び戦闘態勢を取る。


「ガキが間違えとったら正すのが大人だ。続けるぞ」

「はいはーい。あと、におくきゅーせんななひゃ」

「言わんで良い」


 ライゼルトが再び斬りかかる。リチェッカの残り悪意は――途方も無い数字だ。

 それでも、減っている。リチェッカがこのまま愉しんでくれれば……二人はそう願うしか、なかった。



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