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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
54日目、天まで届く、なのです
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決戦②



 リツカ達が講堂から出て行き、両者は睨みあっている。


「コイツがお前の惚れた女か」

「婚約者でス」

「言わんで良い」


 あられもない姿のアンネリスに、ライゼルトは眉間に皺を寄せ怒りを露わにする。


「母さん似だな」

「脳までマリスタザリアになったんか。似てねぇよ」

「良いや、似とる」


 やけに断言するマクゼルトに、ライゼルトは訝しむ。


「思い込んだら一直線だろ」

「……」

(まァ、リツカお姉さんを殺そうとしましたしね。その通りだと思いますよ)


 レティシアの胸中はライゼルトには分からないが、アンネリスがそうだという事に異論は無い。


「馬鹿親父。これ欲しさにトゥリアに行ったんか」

「お前が、持っとったんか」


 ライゼルトが、母親の写真を見せる。


「まっくー。はやくしたい」

「まぁ待て。そっちの魔女と遊んでろ」

「んー。おにんぎょうさんといっしょのほうがたのしいしなー。ふたりあいてじゃないとすぐおわっちゃうし」

(言ってくれますね。まァ、その通りですけど)


 せがむリチェッカを、マクゼルトが宥める。その姿は親子のようで、ライゼルト達には滑稽に映った。


「戦いが始まりゃ、お前等は話す暇なんざねぇからな。先に話す」

「チッ……さっさとしろ」


 マクゼルトが過去に縋っていると分かってからというもの、ライゼルトの怒りは昂ぶり続けている。冷静さを欠くかと思わせるほどの怒りに、レティシアが視線で制止をかけるが……その視線にすらライゼルトは気付かない。


「トゥリアの糞共を殺した理由だがな。母さんが関わってくる」

「ふざけんな。手前ぇの都合だろうが」

「ああ……そうだな。俺が許せなかった。母さんを見殺しにした、あいつ等がな」


 マクゼルトも怒っていく。その怒りは魔力となり、闘気となり、講堂を軋ませる。


「お前には言ってなかったな」

「……ああ」

「母さんの最期を教えてやる」


 リチェッカとマクゼルトは戦闘態勢を解いてはいるが、ライゼルト達に弛緩した空気は流れない。二人共、居着いた状態からでも必殺の一撃を繰り出せるのだから。



「俺の出身は連合だ」

「は?」

「カカッ。それすら知らんかったろ」

「言ってねぇだろ、馬鹿親父」


 親子の会話に、リチェッカは欠伸をする。


(わたしはきおくよんでしってるからなー。まおーのほういこうかな)


 リチェッカが魔王に続く通路にチラと視線を向けると同時に、扉が分厚い氷に覆われた。


「およ」

「行かせませんヨ」


 それは、レティシアが作った氷だった。

 リチェッカがニタリと笑う。頬が裂けたのかと錯覚するような笑みだ。


「やっぱり、たべたいな」

「貴女には勿体ないでス。私は高級品ですヨ」


 いつの間にかリツカの姿に戻っていたリチェッカとレティシアが睨み合う横で、マクゼルトとライゼルトの話は続く。



「トゥリアへは包丁の行商で行った。あん時の連合は、規制が緩かったからな」


 売上はそこそこ好調でな。色んな町で売っとった。そんな中でトゥリアに着いた俺は、あの村の例に漏れず厄介者扱いを受けた。ここでは無理かと出て行こうとしたんだが、一人の女が俺を止めた。「魔法はあるが、包丁で済ませられた方が楽の場合もある、話だけ聞こう」ってな。


 それが母さん、レジーナだ。


 レジーナのお陰でトゥリアでの商売は出来たが、正直良い商いとは言えんかった。物々交換だったしな。だが俺は、レジーナに惹かれた。商売一辺倒だった俺が初めて、女ってのに興奮した。


 そっからは単純だった。適当な町で過ごしながらトゥリアに通った。包丁の整備とか、新しい包丁の試作とか、適当な理由をつけてな。


 レジーナも、俺に気があるようだった。

 そして、回りは当然反対したが俺とレジーナは結婚した。お前を生む二年程前だ。


 お前を生んで、数ヶ月の頃だったか。大きめの商談があってな。少し東の方へ旅をした。俺含め三人の男と、お前を村長に預け、村の外に興味があったレジーナを連れてな。あの時連れて行ったのがそもそもの間違いだった。


 行きは順調だった。商談も上手く行った。何だかんだでレジーナとの新婚旅行みてぇなもんだ。楽しくねぇはずがねぇ。

 だが、幸せな人間ってのは周りからは良ぉ見える。でっけぇ積荷もありゃ尚更な。


 俺等は野盗に襲われた。マリスタザリアでもなければ。戦う力なんざねぇ、ただの商人だった俺の前にそいつらは現れた。


 俺も男の端くれだ。レジーナだけでも逃がそうとしたが、数の利であっという間に俺とレジーナは捕まった。残りの男共だが、俺等を囮に逃げたよ。一目散にな。


 レジーナは俺の目の前でひん剥かれた。俺が出会った中で一番の美人だ。当然っちゃ当然だが、俺はその場で舌を噛み切りたかったよ。レジーナを助けたその後でな。


 だが、それすら出来なかった。今にも穢されそうなレジーナを助けたのは、皮肉な事にマリスタザリアだった。野盗共は逃げた。俺等を囮にしてな。だが、マリスタザリアってのは大きく分けて二種だ。ただただ殺す奴と、殺しを愉しむ奴。そん時現れたのは後者だ。


 逃げる野盗共目掛けてマリスタザリアは走ってった。そいつらがどうなったかは知らんが、俺とレジーナはその隙に逃げた。


 だがな。レジーナの腹にはでけぇナイフが刺さっとった。奴等、抵抗されるのが嫌で刺しやがったんだ。


 俺の下手な”治癒”で何とか村まで持ったが、あの糞共、レジーナの治療を拒否しやがった。


 何でか分かるか。分かるだろ。俺と結婚したレジーナを奴等、村の人間と思ってなかったのさ。


 村長からお前を奪い取り、家に帰った。レジーナを助ける為に医者に連絡を入れていったが、トゥリアの場所を説明したら拒否された。場所が分からない以上行けないだとよ。


 冷たくなるレジーナの横にお前を置いた。アイツは最期まで笑っとった。お前の成長を心から願っとった。

 俺はトゥリアを憎んだが、レジーナは許せと言った。そういう人達だからってな。

 

 俺が最初から、トゥリアじゃなく別の町にレジーナを連れて行くべきだった。だが、もし別の町に行ってレジーナが死んだら、アイツはお前を見る事無く死んだ事になる。


「俺には、どっちが良かったとか言えん」

「……」

「だがな。俺はトゥリアに尽くしたぞ。レジーナの言葉に従い、あいつ等の為に外貨を稼ぎ、村を多少なりとも潤わせた」


 だがな。俺は一度も許した事はねぇ。レジーナを治療してくれりゃ、助かったはずなんだ。


「俺がトゥリアを滅ぼしたのはそういう理由からだ。レジーナとの約束は破る事になっちまったが、レジーナを奪ったアイツラを許せるわけがねぇ」

「何で魔王に手を貸す。お前を救ったのがマリスタザリアだからとか言うんじゃねぇだろうな」

「そこまで耄碌してねぇ。魔王は言った。野盗みてぇなド阿呆も、トゥリアみてぇな屑も居ねぇ世界を創るってな」

「そんなの無理だろ」

「それが出来るから、魔王だ」


 自身の母親の最期を知り、ライゼルトは眉間が熱くなるのを感じた。世の不条理に怒りも湧いた。しかし、自分の故郷を恨まないと言った母を誇らしく思うし、最期まで人の為に笑顔だったという母を愛している。


 ライゼルトは母の意志を強く胸に抱く。そして、その正反対を行く父を睨み付けるのだ。


「馬鹿親父が。お前が歪んどるのは良ぉ分かった」

「頑固者が。お前が大人しく従えば、殺さんで済むんだが」

「リツカとアルレスィアはどうなる」

「死ぬな。それは変わらん」

「じゃあ、俺の返答も分かってんだろ」


 ライゼルトが構えるのを見て、レティシアとウィンツェッツも構える。


「今のままだト、お師匠さんのお母さんも安らかに眠れないでしょうネ」

「どっちにしろ、最愛の阿呆が一緒に居られないんじゃ悲しむだけだろ」

「天国と地獄で別れる前ニ、少しくらい話せるんじゃないですかネ。アルツィア様なら便宜を図ってくれるでしょウ」


 三人の戦闘態勢を見て、待ち侘びたといわんばかりにリチェッカがシュッシュッと拳を奮う。剣を折られたからか、最初から体術でいくようだ。


「母さんに殴られて来い、大馬鹿が。アイツ等の目指す世界こそ、母さんの夢見た世界だ」

「死んだ人間の気持ちなんてのは誰にも分からん。だから俺は俺のやりたいようにやる」


 ライゼルトが先に仕掛ける。狙いはリチェッカ。頭に血が昇っているが、ライゼルトは自分のやるべき事を忘れていなかった。



ブクマありがとうございます!

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