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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
54日目、天まで届く、なのです
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城⑤



「それじゃ、行きましょうか」

「おい」


 刀の整備も終わり、アリスさん分を補充し、疲れもありません。完全体な私なので出発しようとしたのですけれど、ライゼさんは不満のようです。


「最後くれぇは、気合の入る号令かけろ」

「鼓舞するのも隊長の務めですヨ」

「早くしろ」


 前にもこんな事があった気がするんですよね。いつだったかは思い出せませんけれど。


「リッカの号令聞きたいです」


 アリスさんも望んでいるので、一つ号令を入れたいと思います。とはいっても、私はキャプテン経験がないのでどんな事をすれば良いのか分かりません。というか……私が隊長なんですか? アリスさん隊長って思ってたんですけれど……。


 んー……。どうすれば良いのでしょう。記憶の中の号令を思い浮かべています。


「リツカお姉さん予定時刻でス」

「え? えーっと……が、がんばろー!」


 シーアさんに急かされた私は、片手でずばっと天を突き、片足を上げて、ウィンクなんかしまして。そこで思い出しました。ああ、これは……王都の訓練場でやったなぁ、と。


「シーアさん」

「撮りましタ」

「後で私にも下さい」

「行くぞ」

「真っ直ぐ崖で良いのか」

「ああ」


 良いチームワークですね。嬉しく思いますよ。でもライゼさんとレイメイさんは、戦いが終わった後模擬戦しましょうか。マクゼルトに勝ったと仮定すれば、私と同等なのです。結構本気の模擬戦が出来るでしょうから。


 少し肩を落とした私の頭をアリスさんが撫で、私達は崖の上を目指して真っ直ぐ歩きました。




 ケルセルガルドはどうなったでしょう。神さま嫌いの人達はまだ大丈夫としても、生贄なんてやってる人達の方は……。気落ちしては、いけません。今日で解決するのです。


 もう少しで崖を登りきれそうといった所で、一度感知をします。


「どうだ」

「マリスタザリアは居ません」

「魔王は」

「私の感知範囲には居ません。広域ならば感じられるかもしれませんけれど」


 このまま一度上がり、目視で確認するべきだと思います。私達は遂に、崖の上に到達出来ました。


「ここは、荒野か」


 崖の上は、緑が一切ない平地でした。地殻変動というものでしょうか。下の森とこの場所は同じ高さだったのに、崖側が高くなったのでしょう。だから、抉れたような崖だったのです。上に行く程オーバーハングしていたので、変な坂道になっていたのでしょうか。


「元々森だったはず」

「森が枯れたのは、あれの所為ですね」

「うん。そう、だね」


 長かった。


「あの、城の所為」


 築何年でしょう。百年以上は経っているのでは? というくらい、重厚な佇まいです。開かれた王宮であった王都の城とは違い、威圧感を感じます。圧倒的な……悪の気配。


「来た事ねぇのに、見た事があるような気がすんな」

「ライゼさんの体だけは来てるでしょうし」


 一ヵ月はここで過ごしてるはずですよ。


「思っていたよリ、感慨深くありませン」

「終わった訳じゃない、からね」


 今まで全力で旅をしてきました。そしてその旅は、ここに辿り着く為のモノ。感慨深くなるかもとも思いましたけれど……やはり、魔王を殺さなければ。


「行きましょう」

「うん」


 森に広がっていた悪意が、城に集中しています。私達の到着に、魔王が気付いたようです。もはや自分の存在を知らせる必要はないという事でしょう。私達も魔王の存在を感じます。


 どす黒いと形容した、魔王の欠片達の気配。しかし魔王本体の気配は、驚く程に普通です。いえ普通ではありません、ね。強い覚悟と鋭い殺意を向けられています。


 城に近づくと、扉が開きました。歓迎って所ですかね。


「余裕って感じでムカつきまス」

「話し合いを求めてるってのは、本当みてぇだな」


 レイメイさんも、いつに無く緊張してますね。人数はこちらが多いですけど、力量は相手の方が上です。門を通る一歩目から緊張するのも無理はありません。


 とはいえ緊張しても意味がないのです。


「ゴホルフの部屋か研究室を探そう」

「はい。ケルセルガルドの異変を解決しなければいけません」


 本来であれば、薬剤の調合表を見つけたら先にケルセルガルドに向かうべきなのでしょう。しかし全員が門を通るとやはり、閉まりました。どちらかが死ぬまで、ここから出る事は出来ないという事です。


「とはいえ、広すぎるだろ」

「足跡を見れば、一番出入りが激しかった場所が分かります。とりあえずそこを探索しましょう。そこで見つからなかったら、大人しく戦闘を優先させます」


 この城に入ってからというもの、魔王の視線とマクゼルトの闘気を感じます。そして私には感じられませんけれど、リチェッカも居るでしょう。


 リチぇッカの対策を一つ、用意しています。感知も第六感も当てには出来ませんけれど、周囲の変化というものが現れます。風切り音、地面を蹴る音、空気の揺れや影の揺れ。これらを感じておきながら何も感じない。それこそ、リチェッカです。天敵であるアリスさんを狙ってくるでしょうから、対応出来ます。


「気負いすぎるな。広いとはいえ崖の時とは違ぇ。分断なんざさせん」

「はい」


 ライゼさんが、私の心配を見抜きました。感知出来る私が気にするのはリチェッカの存在というのは、皆の共通認識です。


「最初は、ここか」


 客間と考えた場合、二階のどこかと考えました。一階は倉庫や厨房、侍従やコックが居た場合その者達の生活スペースのはずですから。


 最初は一番近くにあった部屋です。でももしかしたら、ビンゴかもしれません。


「頻繁な出入りがあったようですけど、新しい足跡が少ないです。出入りが少なくなったはず」


 痕跡の一つが小さいです。見覚えのある大きさなのは当然でしょう。どうみても、私と同じサイズ感です。


「リチぇッカの部屋か、ゴホルフの部屋で間違いないかと」


 ここまで痕跡が残っているので、もしかせずとも侍従等は居ないかもしれません。最低限掃除の跡は見えますけれど、綺麗好きとは思えないのです。


 戦闘後、一階も探す事になりそうですね。


「気配は」

「ありません」


 ドアノブを下げ、少しだけ開けます。反応がない事を確認し、扉を蹴るように一気に開けました。


「研究所って訳じゃなさそうだな」


 ただの私室、ですね。本や机の様子からして、ゴホルフの部屋っぽいです。


「ゴホルフの部屋なら一応調べるか。赤ぇのは警戒でもしてろ」


 確かに文字は読めませんけど、数字は結構読めるようになりました。成分表という事を考えれば、私も読んで良いと思うんです。少し膨れてしまいます。


 納得出来ませんけど、警戒に意識を割けるのは良い事です。リチェッカはゴホルフの死を悼んでいました。わざわざゴホルフの考えは間違えていなかったと私に告げたくらいです。この部屋を漁っていたら、やって来るかもしれません。


(うわぁ。こっちは巫女さんに見せられませんね。リツカお姉さんをどう追い詰めるかの計画書じゃないですか)

(赤ぇのの行動やらなんやら、事細かく書いてんな。右から首への一直線の斬撃が多い傾向にある、か。最短とか何とか言ってたな)

(リツカの体型やらサイズやらも書かれてんな。図説で。リチェッカ用って所か)

「ライゼさん。それ貸して下さい。燃やしますから。後ライゼさんの記憶も消させて頂きたいのですけれど」

「お茶のおかわりを頼むくれぇの感覚で何物騒な事言っとる。しっかり読んだ訳じゃねぇから覚えてなんざ」

「覚えてるでしょう」


 もう少し時間がかかりそうですね。一応影の中に刀を突き立てておきましょうか。


「待てリツカ。そこまで気にするもんでもねぇだろ」

「え?」


 何故かライゼさんが慌てています。気にしすぎでしょうか。ただでさえリチぇッカの存在は分からないのですから、物理的で原始的な確認方法を取ろうとしたのですけれど。


「リッカは影の中にリチェッカが居るか確認しようとしただけですよ」

「何だ。そっちか」

「……?」


 ライゼさんは違う意味で慌てていたようです。


「ところでライゼさん」

「あん?」

「何を気にする必要がないのでしょうか」

「……」

「やはり記憶、消しましょう」


 アリスさんだから心配はありませんけれど、ここは一応敵地です。気を張りすぎるのは良くないとはいえ、臨戦態勢だけは解かないようにお願いしますね。



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