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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
54日目、天まで届く、なのです
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城②



「シーアさん、私は」

「大丈夫ですヨ。気負ってませン。ちょっと後悔はありますけド」

「……ごめんね。シーアさんを信頼してなかった訳じゃないんだ」


 後悔は、私の恐怖心に気付けなかった事、ですね。本当なら誰も気付く事無く旅を終わらせるつもりだったので、後悔を感じる事はありません。ライゼさんに見せてしまった時点で、今日の事は薄っすらと……予見していました。


「言うだけでも辛かったとお聞きしてますシ、それに――妹の前でくらい格好良く在りたいものですかラ、ネ」

 

 ゴホルフに、シーアさんへの信頼を疑われた時に言った事です。怖がりって事、姉と慕ってくれているシーアさんには特に知られたくなかったのです。


 アリスさんにはいつか言うつもりでしたけれど、シーアさんにとっての私は、「格好いい姉」で居たかったというのは、あります。


「ありがと。シーアさん」

「その事でサボリさんに怒られてしまいましタ。結構屈辱なのデ、共和国でご飯奢って下さいネ」

「うん。十万ゼルまでね?」

「共和国ならそれでも一日中食べ歩き出来ますネ」


 照れ隠しなのか、シーアさんがちょっと早口で提案をしました。レイメイさんに諭されるのは、シーアさんにとっては屈辱、なのですね。


 というより……共和国でなくても、十万あれば一日中食べ歩き出来ます、よね。シーアさんの量で考えると、王都では足りないのかもしれません。


「赤ぇのにやっぱ毒されてんじゃねぇか」

「そんなに恥ずかしい事言ってませんヨ。それに元々リツカお姉さんが言った事なんですからネ」

「じゃあ照れんな」


 三人で盛り上がってますけど、私の言葉が恥ずかしいセリフがどうとか。

 そんなに恥ずかしいセリフ、でしょうか。


「……」

(おい、アルレスィアが黙ったままなんだが)

(サボリさんとお師匠さんが変な事言うからでス)

(お前が赤ぇのをデートに誘うからだろが)

(デートじゃないでス。巫女さんも一緒に決まってるじゃないですカ)


 じっと三人を見ているアリスさんに気付き、シーアさん達が小声で話しています。基本的にアリスさんは、私以外の心を読みません。でも、その能力に引っ張られてはいけませんよ。アリスさんは私同様、表情や状況から相手の心理を読みます。


「それではリッカ。提案があるのです」

「うん?」

「リッカと私チーム対――シーアさん、ライゼさん、レイメイさんチームで模擬戦をしましょう」

「は?」

「エ゛」

「……」


 成程。ただ体を動かすよりは、連携の確認や緊張感も生まれるでしょう。一番良い準備運動になりそうです。


「そうだね。戦力的にはそれが一番」

「ま、待て」


 私は納得しているのですけど、ライゼさん達は違うみたいです。


「どうしました? 早く始めましょう」


 アリスさんはもうやる気みたいです。私もこれ以上の組み分けはないと思っているんですよね。


 私とアリスさんが別れるとお互い攻撃したくありません。それでなくても、”抱擁強化”の私と互角で戦おうとすればライゼさんとレイメイさんがコンビで来るべきです。


「アン・ギルィ・トァ・マシュを私達が使わない事を考えれば、むしろライゼさん達の方が有利と思いますけれど」

「私はアン・ギルィ・トァ・マシュ以外に攻撃の手段がありません。それに、”光”はライゼさん達には何の効果も持たないのです」

「悪意がなければ、衝撃も殆どないもんね」

「はい。私が出来るのは”拒絶”と”治癒”ですね」


 ”拒絶”とはいえ、後に響くようなものは出来ないのです。ヒスキや女盗賊にした、意識の拒絶等がそれに当たります。”盾”系と”阻害”系をメインに、私を支援してもらう事になるでしょう。。


 シーアさんの魔法とライゼさんの”雷”が特に厄介です。旅の中で成長したレイメイさんの”風”も、対応を誤れば致命傷になりますね。


「お前一人相手でも、”抱擁強化”使われたら互角が良いとこだろうが」

「そこにアルレスィアが加わったら攻め手が無くなるだろ。俺等を過大評価しすぎだ」

「むしろ私を過大評価しすぎじゃないかと……」


 ライゼさんがアリスさんを名前で呼んでる事に驚きはしましたけれど、ライゼさんにはアンネさんが居ますし、ね。胸がざわつきますし、いよいよ模擬戦へのやる気が出てきました。どういった心境の変化があったのか、刃と刃で語りましょう。


(説明する機会を失っちまった。名前呼びに深い意味はねぇんだが……)

「せめテ、巫女さんに制限付けさせてくださイ」

「では、”領域”と”箱”は使わないようにしましょう。使うのは”盾”と魔法拒絶だけです」

「それで変わるのか?」

「巫女さんの準備運動でもあるんですかラ、これ以上制限しては意味ないでしょウ。リツカお姉さんの攻撃支援をしないだけマシでス」


 あくまで、私の為の防御支援です。私も制限した方が良いですかね。準備運動程度ですし、刀を使う訳にはいきませんし。


「じゃあ私も”強化”だけで。シーアさんへの攻撃は前衛二人を伸してからにします」


 ここまで譲歩したんですから、もう文句はないですよね。


「ここまで制限つけられて、負けれんぞ」

「俺等が倒れなかったらチビに攻撃出来ねぇんだ。何とかなんだろ」

「どうですかネ。準備運動とお仕置きの為の模擬戦な訳ですかラ」


 さて……やる気に満ちているアリスさんの為に、私は勝利をプレゼントしたいと思います。リチェッカにはボロボロにされてしまい、魔王戦への不安を感じさせてしまいました。ここで、完全復活を見せましょう。アリスさんがくれた愛の力を見せ付けるのです。


 


 チーム毎に少し離れ、作戦会議に五分時間を程取ります。


「お互い後に響く怪我は与えられないから」

「はい。シーアさんは氷、水による拘束が主でしょう。ただ、リッカが相手ですと、少しばかり強めに来るかもしれません」


 シーアさんの”火”と”水”は、もはや天変地異です。全力はお互い出せませんけれど、シーアさんの強みは強力な特級二種だけではありません。多彩な魔法を高いレベルで使える事が強みなのです。


「私が雷を苦手にしてるのはバレてるから、雷を使ってくるよね」

「雷を拒絶するのは簡単ですけれど、シーアさんとライゼさんが読みきれないはずがありません」


 相手の事を知り尽くしているからこそ生まれる心理戦です。普通であれば、苦手としている”雷”から身を守るだけで良いのですけれど……。


「心を読む事は出来ますけれど、それだと楽しくないでしょうから」

(心を読まずに行動を読みきった方が、心理的ダメージが大きいでしょう。これはお仕置きなのですから)

「完全に読みきって、完璧に勝つ。だね」

「はい。私達の連携を見せ付けましょう」


 私とアリスさんが組めば無敵です。



「と、考えているでしょうかラ、あえて”雷”を中心に作戦を立てますヨ」


 レティシア達も思考を巡らせている。圧倒的なハンデを貰っている以上負ける訳にはいかない。


 ”雷”を警戒しながらも、そちらに意識を避けない事。心を読まずにお仕置きするだろうという事は読めたようだ。


「こっちの勝利条件はリツカの戦闘不能だけだ。アルレスィアが危険になりゃ、リツカが本気出してきやがるからな。遊びじゃ済まなくなる」

「いくらリツカお姉さんでもそこまではないと思いますけド、リツカお姉さんを倒せば勝ちというのは賛成でス」


 アルレスィアがリツカだけを守る姿を、三人は見た事がない。いつも他の者達も居て、リツカだけに集中出来ない戦いばかりだった。それが今日、リツカだけに集中する事になる。リツカだけを倒すというのが、一番難しいかもしれない。


「読み勝つしかねぇ」

「心を読まれずとモ、あの二人の上を行くのは至難の業ですヨ」

「こっちは三人居るんだ。何とかしろ」

「しろ、じゃねぇ。お前も考えろ」

「サボリさんが一番リツカお姉さんと戦ってるんですかラ、案を出してくださいヨ」

「つってもな……」


 一度も勝てないままここまで来たウィンツェッツは、どうやってリツカに勝つのか、むしろ聞きたいようだ。


「ま、ただの読み合いなら問題ねぇ。立ち直ったばっかで悪ぃが、リツカには負けてもらう」

「お師匠さん達の所為で私までお仕置きを受ける事になったんですかラ、しっかりと守って下さいヨ。お二人が倒れない限リ、私は安全なんですかラ」

「間違ってもお前ぇの為じゃねぇ」


 

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