城
A,C, 27/04/18
夢を……久しぶりに、見ました。今回は幻想の夢や過去の夢、恐怖の夢ではなく……って、夢の中だと、夢を覚えているんですね。
夢……マクゼルトの時は悪夢でした。それ以外の夢は、過去を懐かしみ…ありえる事のない幻想を夢見ていたのです。心の弱さが夢への逃避である事は間違いありません。
ですけど私は、逃げているようで逃げる事が出来ていない。その証拠が、マクゼルトの夢です。本来であればあの夢は、見るはずがない夢。蓋がしっかりと機能していれば、悪夢など見ないのです。マクゼルトの所為で壊れかけていたのは、魔法と感知の消失が証明しています。
魔法が定着してませんでしたし……死にかけた事で恐怖のリミッターが超えたのでしょう。感知まで消えてしまいました。
それらがリチェッカの時に消えなかったのは……最期かもしれないと思った私は……その場に居ないアリスさんを少しでも感じていたいと、感知だけは守ったのだと、と予想します。魔法は完全に定着してますし、ね。
夢の中だからか……自分でも分からなかった所がスラスラと出てきます。アリスさんにも、後で知らせるべきですね。アリスさんならもしかしたら、夢も見ることが出来るかもしれません。何度かそういった様子があります。
さて……今日の夢は、何でしょう。悪夢ではなさそうです。目に見える範囲にあるのは、ベッドと……ベッドだけ?
「変な夢」
一人になる夢は見ないので、ここにも誰かが居るはずなのですけど。
「とりあえず、ベッド座ってよ」
三人は寝れそうなベッドの端っこに腰掛けてみます。普通の柔らかさです、ね。特に変わった所は……と思いましたけれど、気になって横になってみると凄く心地良いところがありました。
「ふかふか良い匂い……」
雲の上に居るみたいです。一人で心細いですけど、この香りと柔らかさは落ち着きます。
「んっ」
「うん?」
ごろごろとしていると、声が聞こえました。
「あ……んん……っ」
気になって声がするところを、撫でたり押したり、少し揉んでみたりします。低反発なのでしょうか。
「何だろう。どきどき、する」
声もそうですけど、ふわふわな所を触っていると息が荒くなってしまいます。
私が興奮? していると、ふわふわな所ががもぞりと動きました。まさか……?
「リッカ。大胆」
頬を染めたアリスさんが、布団からひょこりと顔を覗かせました。私が揉んでいたのは、アリスさんの……胸……?
「もう、止めてしまうのですか……?」
「で、でも……」
「では……」
むくりと起き上がったアリスさんは、裸……でした。
「私が、しても良いですか……?」
いつの間に服を脱いだのか、裸となっていた私の胸をアリスさんの指が一撫でした後、沈み込んでいきます。
「もっと良い事、しましょ?」
「ぁ……」
アリスさんの顔が、私の胸に近づいてきて……触れて――。
「えへ……」
(幸せそうな表情。その夢、現実にしてあげたいですけど……お楽しみは取っておきましょう。私にとっても、お楽しみなのですから)
「ん……」
「おはようございます。リッカ」
目を開けると、アリスさんの笑顔が私の目の前に。二人で布団に入って、抱き合っています。
「アリスさん……もっと……」
「ぇ」
アリスさんの鎖骨付近にキスをして、呟きます。そこでハッとするのです。
「……お、はよ?」
「は、はい。リッカ」
頬を喜悦に、朱に染めたアリスさんが、口角を喜びに上げ、私の頭を撫でています。
「あ……あぁ……っ」
ゆ、夢を覚えているどころか、夢と思って現実で、アリスさんに要求? 誘惑? しちゃって……あ、あわわわわ……。
「アルツィアさまに」
「ん……?」
両頬に手を当て悶えている私の頭を撫でながら、アリスさんが耳元で囁きました。
「時間を頂きましょう」
「……うん」
「思い出……作りましょう」
「刻み、つけるよ」
絶対に……忘れない、ように。
アリスさんが長めのキスを、首にしました。擽ったさより、快感? よく分かりませんけど、心地良さが先に脳を刺激します。
このキスを最後にしません。”神林”でもう一度……アリスさんと……っ!
とりあえず、朝の行事を終わらせましょう。今日は戦うだけの予定ですけれど、こんな時だからこそいつも通りであるべきです。昨日は完全に折れてましたし……尚更です。
大丈夫。何時もの私です。手の震えも無ければ、魔法も使えそう。
それにしても……朝、ですか。昨日のお風呂に入って…………お風呂までの記憶しかありません……。そのまま寝てしまったようです。
「おはようございまス」
「おはよう。シーアさん」
「おはようございます」
(大丈夫そうです、ね……って)
今は、いつも通りの姿を見せるだけにしておきましょう。後ほど三人に、謝らないと。
「リツカお姉さんそレ」
「ん?」
シーアさんが私首元を指差してパチパチと目を瞬かせています。どうしたのでしょう。
(シーアさんと鉢合わせになる可能性を失念していました)
(そういえば巫女さん達のローブは首が隠れますね)
指を差された所を鏡で見てみると、見覚えのある跡を見つけました。どこで見たのでしょう。確か王都の――。
「あ、アー。元気そうで良かったでス」
「ん。心配かけちゃってごめん。とりあえずは大丈夫だよ」
(お師匠さんの言った通り、長くは持たないかもって事ですね。あの状態から立ち直れただけでも驚異的ですよ)
シーアさんの頭に手を置いて、少し荒く撫でます。そのまま洗面台を譲りました。
「お二人でもそこまでじゃないとは思いますけド、王都に帰った時は気をつけて下さいヨ」
「心得ています」
「昨日のリツカお姉さんは危険ですヨ」
自衛する事も出来そうにありませんでしたし、人前に出せる姿でもありませんでした。
「ちゃんと防音してくださいネ」
「防音?」
「聞いて良いのは私だけですから」
ん? よく分かりませんけれど、シーアさんが思い詰めていないようで安心しました。
「ライゼさん達は、修行中?」
「ですネ。軽く流すだけって言ってましたけド」
「ちょっと参加しようかな」
体が動くか確認しておきたいです。
「リッカ。一つ提案があります」
「うん?」
アリスさんの提案は全員が集まってから聞く事になりました。運動用になった昔のローブに着替え、私達三人も船外に出ました。
ライゼさんとレイメイさんが、準備運動がてらに組み手をしています。
「来たか」
「昨日は迷惑をかけました。ごめんなさい」
「謝らんで良い」
気苦労をかけてしまいました。敵の幹部を逃しただけでなく、本拠地の目と鼻の先で止まる事になってしまったのですから。その所為で敵の大軍に襲われてしまったのです。
「あの大軍はお前の様子見だったらしいぞ」
「そう、なんでしょうか」
レイメイさんが昨日の敵は斥候であったと説明をしてくれます。昨日部屋に集まって話していたのはその事かもしれません。
「お前が戦闘に参加せんかったら、そのまま押し潰されたかもしれん。結果的には良かったかもな」
「幹部級とまではいかずとモ、今までのマリスタザリアより強かったでス。あれが南下していったラ、連合との戦争どころではありませんヨ」
昨日の敵は、王都西部で私が相手した敵と同等だったようです。選任クラスでもキツイ、という事ですね……。ライゼさんクラスが居なければ、王国が蹂躙される程の……。
「今までお前等が戦った敵の集大成がアレってこった」
「体術と魔法、硬さと俊敏性を兼ね備えた、マリスタザリア……」
私を追い込む作戦は、今日この時まで続いているようです。そしてその集大成たるマリスタザリアはそのまま、人々の脅威へと昇華されました。
私の体術、剣術と互角のリチェッカをモデルにしたマリスタザリアは、人類を絶滅にまで追い詰めるでしょう。
魔王の目的が人類滅亡でなくても、そのマリスタザリアが居るという事が人類の脅威。恐怖の対象です。そんな世界に、幸せはないのです。
「私たちの危機感を煽り、今日決戦を仕掛けなければいけないという気持ちにさせた……という、事ですね?」
「俺等はそう結論付けた。全てはリツカ、お前に懸かってるってこった。散々負担を強いたと反省はしたが、やっぱお前が居らんと話しにならん」
「まだマクゼルトとリチェッカも居るしな」
その集大成たるマリスタザリアを見せる事で、もはや時間がないと感じた私達は、今日の決戦を決めました。私もそれに合わせ、昨夜に至ったのです。
相手の掌で踊らされていますけれど、それに乗る以外に……私達の道はありません。ならば踊り続けましょう。倒れ伏した魔王という舞台から降りるまで。
最後に……スタンディングオベーションを受けるのは、私達です。