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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
54日目、天まで届く、なのです
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A,C, 27/04/18



 夢を……久しぶりに、見ました。今回は幻想の夢や過去の夢、恐怖の夢ではなく……って、夢の中だと、夢を覚えているんですね。


 夢……マクゼルトの時は悪夢でした。それ以外の夢は、過去を懐かしみ…ありえる事のない幻想を夢見ていたのです。心の弱さが夢への逃避である事は間違いありません。


 ですけど私は、逃げているようで逃げる事が出来ていない。その証拠が、マクゼルトの夢です。本来であればあの夢は、見るはずがない夢。蓋がしっかりと機能していれば、悪夢など見ないのです。マクゼルトの所為で壊れかけていたのは、魔法と感知の消失が証明しています。


 魔法が定着してませんでしたし……死にかけた事で恐怖のリミッターが超えたのでしょう。感知まで消えてしまいました。


 それらがリチェッカの時に消えなかったのは……最期かもしれないと思った私は……その場に居ないアリスさんを少しでも感じていたいと、感知だけは守ったのだと、と予想します。魔法は完全に定着してますし、ね。


 夢の中だからか……自分でも分からなかった所がスラスラと出てきます。アリスさんにも、後で知らせるべきですね。アリスさんならもしかしたら、夢も見ることが出来るかもしれません。何度かそういった様子があります。


 さて……今日の夢は、何でしょう。悪夢ではなさそうです。目に見える範囲にあるのは、ベッドと……ベッドだけ?


「変な夢」


 一人になる夢は見ないので、ここにも誰かが居るはずなのですけど。


「とりあえず、ベッド座ってよ」 


 三人は寝れそうなベッドの端っこに腰掛けてみます。普通の柔らかさです、ね。特に変わった所は……と思いましたけれど、気になって横になってみると凄く心地良いところがありました。

 

「ふかふか良い匂い……」


 雲の上に居るみたいです。一人で心細いですけど、この香りと柔らかさは落ち着きます。


「んっ」

「うん?」


 ごろごろとしていると、声が聞こえました。


「あ……んん……っ」


 気になって声がするところを、撫でたり押したり、少し揉んでみたりします。低反発なのでしょうか。


「何だろう。どきどき、する」


 声もそうですけど、ふわふわな所を触っていると息が荒くなってしまいます。

 私が興奮? していると、ふわふわな所ががもぞりと動きました。まさか……?


「リッカ。大胆」


 頬を染めたアリスさんが、布団からひょこりと顔を覗かせました。私が揉んでいたのは、アリスさんの……胸……?


「もう、止めてしまうのですか……?」

「で、でも……」

「では……」

 むくりと起き上がったアリスさんは、裸……でした。


「私が、しても良いですか……?」


 いつの間に服を脱いだのか、裸となっていた私の胸をアリスさんの指が一撫でした後、沈み込んでいきます。


「もっと良い事、しましょ?」

「ぁ……」


 アリスさんの顔が、私の胸に近づいてきて……触れて――。

 



「えへ……」

(幸せそうな表情。その夢、現実にしてあげたいですけど……お楽しみは取っておきましょう。私にとっても、お楽しみなのですから)

「ん……」

「おはようございます。リッカ」


 目を開けると、アリスさんの笑顔が私の目の前に。二人で布団に入って、抱き合っています。


「アリスさん……もっと……」

「ぇ」

 

 アリスさんの鎖骨付近にキスをして、呟きます。そこでハッとするのです。


「……お、はよ?」

「は、はい。リッカ」


 頬を喜悦に、朱に染めたアリスさんが、口角を喜びに上げ、私の頭を撫でています。


「あ……あぁ……っ」


 ゆ、夢を覚えているどころか、夢と思って現実で、アリスさんに要求? 誘惑? しちゃって……あ、あわわわわ……。


「アルツィアさまに」

「ん……?」


 両頬に手を当て悶えている私の頭を撫でながら、アリスさんが耳元で囁きました。


「時間を頂きましょう」

「……うん」

「思い出……作りましょう」

「刻み、つけるよ」


 絶対に……忘れない、ように。


 アリスさんが長めのキスを、首にしました。擽ったさより、快感? よく分かりませんけど、心地良さが先に脳を刺激します。


 このキスを最後にしません。”神林”でもう一度……アリスさんと……っ!

 


 とりあえず、朝の行事を終わらせましょう。今日は戦うだけの予定ですけれど、こんな時だからこそいつも通りであるべきです。昨日は完全に折れてましたし……尚更です。


 大丈夫。何時もの私です。手の震えも無ければ、魔法も使えそう。


 それにしても……朝、ですか。昨日のお風呂に入って…………お風呂までの記憶しかありません……。そのまま寝てしまったようです。


「おはようございまス」

「おはよう。シーアさん」

「おはようございます」

(大丈夫そうです、ね……って)


 今は、いつも通りの姿を見せるだけにしておきましょう。後ほど三人に、謝らないと。


「リツカお姉さんそレ」

「ん?」


 シーアさんが私首元を指差してパチパチと目を瞬かせています。どうしたのでしょう。


(シーアさんと鉢合わせになる可能性を失念していました)

(そういえば巫女さん達のローブは首が隠れますね)


 指を差された所を鏡で見てみると、見覚えのある跡を見つけました。どこで見たのでしょう。確か王都の――。


「あ、アー。元気そうで良かったでス」

「ん。心配かけちゃってごめん。とりあえずは大丈夫だよ」

(お師匠さんの言った通り、長くは持たないかもって事ですね。あの状態から立ち直れただけでも驚異的ですよ)


 シーアさんの頭に手を置いて、少し荒く撫でます。そのまま洗面台を譲りました。


「お二人でもそこまでじゃないとは思いますけド、王都に帰った時は気をつけて下さいヨ」

「心得ています」

「昨日のリツカお姉さんは危険ですヨ」


 自衛する事も出来そうにありませんでしたし、人前に出せる姿でもありませんでした。


「ちゃんと防音してくださいネ」

「防音?」

「聞いて良いのは私だけですから」


 ん? よく分かりませんけれど、シーアさんが思い詰めていないようで安心しました。


「ライゼさん達は、修行中?」

「ですネ。軽く流すだけって言ってましたけド」

「ちょっと参加しようかな」


 体が動くか確認しておきたいです。


「リッカ。一つ提案があります」

「うん?」


 アリスさんの提案は全員が集まってから聞く事になりました。運動用になった昔のローブに着替え、私達三人も船外に出ました。




 ライゼさんとレイメイさんが、準備運動がてらに組み手をしています。


「来たか」

「昨日は迷惑をかけました。ごめんなさい」

「謝らんで良い」

   

 気苦労をかけてしまいました。敵の幹部を逃しただけでなく、本拠地の目と鼻の先で止まる事になってしまったのですから。その所為で敵の大軍に襲われてしまったのです。


「あの大軍はお前の様子見だったらしいぞ」

「そう、なんでしょうか」


 レイメイさんが昨日の敵は斥候であったと説明をしてくれます。昨日部屋に集まって話していたのはその事かもしれません。


「お前が戦闘に参加せんかったら、そのまま押し潰されたかもしれん。結果的には良かったかもな」

「幹部級とまではいかずとモ、今までのマリスタザリアより強かったでス。あれが南下していったラ、連合との戦争どころではありませんヨ」


 昨日の敵は、王都西部で私が相手した敵と同等だったようです。選任クラスでもキツイ、という事ですね……。ライゼさんクラスが居なければ、王国が蹂躙される程の……。


「今までお前等が戦った敵の集大成がアレってこった」

「体術と魔法、硬さと俊敏性を兼ね備えた、マリスタザリア……」


 私を追い込む作戦は、今日この時まで続いているようです。そしてその集大成たるマリスタザリアはそのまま、人々の脅威へと昇華されました。


 私の体術、剣術と互角のリチェッカをモデルにしたマリスタザリアは、人類を絶滅にまで追い詰めるでしょう。


 魔王の目的が人類滅亡でなくても、そのマリスタザリアが居るという事が人類の脅威。恐怖の対象です。そんな世界に、幸せはないのです。


「私たちの危機感を煽り、今日決戦を仕掛けなければいけないという気持ちにさせた……という、事ですね?」

「俺等はそう結論付けた。全てはリツカ、お前に懸かってるってこった。散々負担を強いたと反省はしたが、やっぱお前が居らんと話しにならん」

「まだマクゼルトとリチェッカも居るしな」


 その集大成たるマリスタザリアを見せる事で、もはや時間がないと感じた私達は、今日の決戦を決めました。私もそれに合わせ、昨夜に至ったのです。


 相手の掌で踊らされていますけれど、それに乗る以外に……私達の道はありません。ならば踊り続けましょう。倒れ伏した魔王という舞台から降りるまで。


 最後に……スタンディングオベーションを受けるのは、私達です。



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