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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
53日目、私は貴女を知るのです
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リツカ⑤



 船に戻ると、皆の気配がレイメイさんの部屋に集中していました。どうやらまだ、話しているようです。私達の事は、全部知られました。明日再び話すつもりです。特に、シーアさんには。


「皆に、バレてたのかな……」


 ライゼさんには、バレてそうです。


「シーアさんとお父様は、違和感くらいは感じていたはずです。リッカの恐怖心に気付いていたのは……ライゼさんとお母様だけです」


 シーアさんは私達の一番の理解者とも言える子ですから当然として、ゲルハルトさんも……。そしてやはりと言うべきか、ライゼさんと……エリスさんが……。


「ライゼさんは、港の時だよね……」

「はい。私が……自身の負い目から逃げた時です……。リッカに言いたい事が言えずに、自分の負い目との板ばさみになり……逃げた時、です……」

「私が分からず屋だったからだよ……。アリスさんの気持ちも考えずに私が突っ走ったから……」


 アリスさんも、自分の感情との板ばさみになってしまい、耐え切れなくなった時があるのです……。それでも、あの丘での一件で……アリスさんは負い目や罪悪感からではなく、私への愛、情……。まだドキドキです。


 こほん。私への愛情に気付き、私よりずっと強く、確かな一歩を踏み出したのです。「その気持ちに気が付いたから、リッカを支える事が出来た」という気持ちを込め、アリスさんは私の頬を撫でました。


「そしてお母様は、舞踏会の時に……」

「え……?」

「リッカがお酒を飲んだ時、蓋が開いたのです……」

「ぁ……」

 

 感情のコントロールが出来なくなるのですから、その可能性に気付くべきでした……。


「でも、私……」

「はい。間一髪でしたけれど……」


 あの時私は、アリスさんの機転により会場から離れる事が出来ました。私は、ありがとうという気持ちを込めてアリスさんに頬擦りします。アリスさんが私を支えてくれていた。今までならばそれで、申し訳ないって気持ちで一杯になっていました。でも今は……愛を、感じます。


(リッカの気持ちが流れ込んできて……幸せです)


 船室に向かう廊下で、アリスさんが私の手を握り歩みを止めました。


「リッカ。食事にしますか? もう少し休みますか? それとも、一緒にお風呂ですか?」

「えっと、じゃあ」


 ドラマで見た、新婚夫婦のような会話です。確かあのドラマでは……「それとも、私?」でしたね。その次の展開は大抵、食事かお風呂……。それとも私を選ぶと、どんな展開になるのでしょう。マッサージ、でしょうか。マッサージなら私がしたいですね。私の所為でアリスさんは昨日、座って寝てしまったのですから。


 脳裏に、エプロン姿のアリスさんが浮かび上がります。いつも見ている姿なのに、玄関を開けて待っているというシチュエーションにドキドキです。王都の早朝鍛錬後では、エプロンがない状態でのお出迎えだったのです。その時は


 それに、もう離れるつもりはないので、アリスさんだけ家で待っているというのはありえない事なのですけど。


 あの時は、楽しい事の方が多かったですね……。マリスタザリアと死闘を繰り返しはしましたけれど、恐怖を仕舞いこむ事に苦労はありませんでした。


 毎朝の訓練。玄関でお出迎えしてくれるアリスさん。アリスさんと二人で食べる食事。静かに流れる街での毎日。数回だけとはいえアルバイト。めくるめく……その言葉がストンと胸に落ちてきます。


 全部、アリスさんが傍に居たからなのです。今私が、こうやって笑顔を見せられるのも。ただ……アリスさんはまだ、()()()()()()()()()()()……。


「お風呂で私、という事で良いですね? 良いんですよね」

「うん。じゃあ……アリスさん、で」


 私の考えから、アリスさんが提案を変えてくれました。お風呂メインではなく、アリスさんメインに。アリスさんメインなら、食事でもおやすみでも、楽しいものになります。


「まだ気力が落ちていますし、怪我は治しましたけれど安静にしておくべきでしょう。なので、私が全部します。よろしいですね?」

「全部?」

「全部ですっ。昨日の分もしっかりと。明日に備えて身を清めましょう」

「う、うん?」


 アリスさんが私を抱き上げました。そのまま逸る気持ちを表現するようにお風呂場に、踊るように入っていきます。


 昨日……入ってないんですよね。血もついたまま……袖には、刀を刺された時の跡が。ローブもボロボロになってしまっています。激しい斬り合いをして、切られているのです。蹴り飛ばされた時の汚れやらが……。この状態で私、アリスさんと……途端に恥ずかしくなりました。


「さぁリッカ。まずはカーデを脱ぎましょう」

「ぅん」


 アリスさんは私の後ろに回りこみ、カーデを脱がせます。臭い、大丈夫でしょうか……。


 いくらなんでも、二日お風呂に入ってない状態で……アリスさんにキスをしたりしてもらったり……はぅ……。


(恥ずかしがるリッカ、可愛い……。匂いも強く……)

「次はローブです」


 ぼたんを外すために、私を後ろから抱きしめる形になりました。その時アリスさんが私の肩に、キスを……したのでしょうか……? もしかしてにおいを嗅がれたりして……? 羞恥心がどんどんと高まっていきます。


「両手、挙げて下さいね」

「ん……」


 ボリュームタートルネックなので、上に引っ張られて脱ぐ事になります。


「んむ?」


 顔がローブで隠れたところで、アリスさんの手が止まりました。自分でそのまま脱ぐ事は出来ますけれど、アリスさんを待ちます。


(綺麗……肌理細やかな肌……すべすべで、張りがあって……)

「リッカ、少し大きくなりました、ね」

「ぷはっ。ん?」


 服を脱がされ、アリスさんが下着を脱がせる作業に取り掛かります。ストンと、外されたブラが地面に落ちました。


「胸、大きくなった気がします」

「ほんと!?」


 自分の胸を触り、確かめます。努力が実ったのでしょうか。でも、自分では変わっていないように感じます。


「どう?」


 振り向き両手を広げ、アリスさんに確かめてもらいます。


「確かめて? ね?」

(リッカが、首を傾げて確認を促して……。この状況……触れて、確かめるのですよね)


 つつーと、アリスさんが私の胸を撫でました。ぴくんと、私の体が震えてしまいます。あれ、私……かなり大胆な事をお願いしちゃってるんじゃ……。


「リッカ……」

「な、なぁに?」

「私、我慢出来るか不安って言いました、よね……」


 アリスさんが潤ませた瞳で私を見詰め、私の胸を指先で撫でています。トップとアンダーの差を確かめる為に、なぞって……。もっとしっかり確かめるために、撫でるだけでなく触っても……良いのですけれど。アリスさんは我慢出来そうにないと……頬を膨らませています。


 これ以上は、お互い……胸の苦しさに、押し潰されそうです。


「あ、あはは……。大きくなって、た?」

「少し……大きくなった気がします」


 少し、ですか。誤差なのかもしれませんね。その日の体調で変わると思いますし。


「じゃあ、入ろっか」

「はい。では――」


 アリスさんの手が私の腰に伸びてきました。なすがまま、私は受け入れます。そしてアリスさんが脱ぐのを待って、浴室へ入るのです。


 体を念入りに、念入りに洗われ、髪もですね。また、目にかかりそうなくらいになっています。切る必要はなさそうです。だから今度は伸ばしてみようかなぁとか、考えています。


「リッカ。私を見て、くださいね」

「うん。じゃあ……」


 湯船に浸かったアリスさんに、抱きつきます。もっとアリスさんと見詰めあいたかったのですけど……意識が、遠く……。


 ……。疲れ、出ちゃったのかな……。アリスさんも疲れてるんだから……布団まで頑張らなきゃ……頑張…………。



「リッカ?」


 眠って、しまったようですね。張り詰めていた緊張の糸が、切れたのでしょう。赤子の様に、私の胸でスヤスヤと眠っています。目の下に濃い隈が出来ていましたし……無理もありません。


「もう少し浸かったら、上がりましょうね」


 頭を撫で、髪にキスをします。お湯よりもまず、リッカの体温を感じます。柔らかい……。もう少し、堪能させてもらいましょう。


「理性、持つでしょうか」


 でも、こうやって我慢しているのも……リッカとの触れ合いですね。愛している人との触れ合いならば、何でも楽しい物です。


「ふふ。おやすみなさい。愛しのリッカさま」


 リッカの瞼にキスをして、抱き締めます。


 瞼へのキスは、憧憬。私の憧れ……私だけの英雄……。そうだ、本を書くのも良いかもしれません。森で祈るだけでなく、世界に勇気を示しましょう。この世界で一番の英雄譚を書き上げましょう。


 貴女さまの想い……世界平和の為に。



 私はこの時、気付かなかったのです。私の……自分の、涙に。でも何故泣いてしまったのかは、分かります。


 私は、未来を考えて……泣いてしまったのです。リッカの居ない……未来を、考えて……。




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