二人のギルド生活⑦
街へ帰ると、皆私を見ます。アリスさんではなく私です。
「?」
私は首を傾げてしまいます。何で? と。
「リッカさま、まずはすぐに、宿にいきましょう」
「うん? 分かった、よ」
アリスさんが周りを伺いながら提案しました。異存はありませんけれど、お急ぎの用事でしょうか。
宿に行くまでの間、私を見ないという人はいませんでした。
「おかえりなさいませ、アルレスィア様、ロクハナさ……ロクハナ様!?」
この世界では、名前・苗字の順です。そして、名前呼びが主流とのことです。私は説明をしないと、ロクハナが名前になってしまうのでした。
まぁ、訂正することでもないので、そのままでいいとは思っています。どっちも名前みたいな物ですから。
「只今戻りました。どうかしましたか?」
私は分かっていませんでした。傷痕も、痛みもすでにないので、自分が今どんな姿なのかを。
「どうかではございません! 病院へはいかれたのですか!?」
ここにきて至ります。私の白銀だったローブは、左肩を中心にして、真っ赤に染まっていました。
「あっ、いえ大丈夫です。アリスさんが治療してくれたので」
「そ、そうでしたか……では我々が洗濯いたします。どうぞお申し付けください」
そう一礼をして、この場はお開きになりました。
「そういえば真っ赤だった」
街中で注目されていたのも無理ありませんね。これだけ真っ赤だとそうなります。
「気づいて、なかったのですね……。すぐにリッカさまの予備を出します」
気づいていなかったというより、別のことでいっぱいいっぱいでした。私は待つ間に服を脱ぎます。体には泥や血がついていました。
「アリスさん、先にシャワーあびてくるね?」
「はい、準備してお待ちしています」
お風呂もありました。でも、今はシャワーでいいでしょう。私は裸のままという、少し行儀が悪い状態でお風呂場へ向かいました。
シャワーを浴びながら、体を確認します。戦闘で初めて使った”強化”のオルイグナスは、消耗が激しかったのです。
(たかだか、5分程度の戦闘であんなにも……)
敵を投げた時には、すでに疲れが体を包んでいました。消耗が激しいのか、まだ魔法に慣れていないのか。たぶん……後者でしょう。
(戦ってる最中ずっと全力だったから、回避や攻撃時だけ全力になれるようにコントロールしないと)
そんなことを考えていたからでしょう。結構な時間がたっていました。
「リッカさま、大丈夫ですか?」
帰りが遅かったからでしょう、アリスさんが心配して来てしまいました。
「うん、今出るよ」
足を上げ、浴槽から出ようとします。
「いっ……ぁ……」
上げ切る事ができず、その場にうずくまってしまいます。
(なに……? 筋肉痛……? いた、ぃ)
鈍い痛みが足から腰にかけて走ります。こんなに痛んだのは初めてです。
「リッカさま……?」
アリスさんが顔を覗かせました。
「――っ、リッカさまっ!?」
でも私は……返事をすることもできませんでした。
痛みがひどくなっていきます。そのあまりの痛みに、私は、今にも叫びだしそうな……ある感情を我慢するのに、必死だったのです。
どうやら実践で、自分の体のことも考えずに、初めて全力発動したせいだったようです。
初めて魔法を発動した、集落の夜のように暴走しかけた結果とのことでした。
「魔法は、たしかにリスクらしいリスクを負わずに使えますけれど……リッカさまの”強化”はご自身への発動です。制御もまだ、上手とは言えないのです。オルイグナスは気をつけてくださいね?」
回復魔法は、アリスさんですら発動中にそれしか出来ないほどの集中を要します。
人体への発動は難しいのです。自身に発動する私の魔法は、制御に人一倍気をつけないといけないということです。
それを怠った結果の、この痛み。
「ごめんね。アリスさん」
時間差で来たのは、一応は制御できていたから。ということです。安心しきったときに、塞き止められていた魔力が暴れだしたらしいです。
「こうなった一因は私にもありますから、あまり言いませんが……。ご自身の体を第一に考えてくださいね?」
正直、それを約束できるかといえば、難しいです。でも……生きて、いなければ……守れないのです。
「わかった……気をつけるね?」
真摯に、アリスさんの目を見て応えます。
「――ありがとうございます。リッカさま」
アリスさんの顔に笑顔が戻ったので、私も、嬉しいのでした。
「では、リッカさまの服を渡してきますね? 取り扱いについて説明しなければいけないので、少し時間がかかるかと思います」
私たちのローブは、特別製です。そのためただ洗うだけではダメなのでしょう。
「うん、ありがとう。アリスさん」
アリスさんは私に微笑みかけて、フロントへ行きました。
「……」
途端に暇になってしまった私は、静かに待っていましたが……眠気に負けて、眠ってしまいました。