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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
52日目、私は……なのです
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『ケルセルガルド』反神④



「既に分かっているでしょうけど、”巫女”です。少しでも良いので、話を聞いていただけませんか」


 臨戦態勢を取っていますね……。もう巫女とはバレていますけど、歩み寄りたいという意思は見せておきたいです。


「……こちらの事情も少しは知っているだろう。”巫女”とは馴れ合わない」


 聞いていたよりは、会話出来ますね。問答無用で襲い掛かってくるという話だったのですけど……もしかしたら、病により気落ちしているのでしょうか。


 こちらの方達も、白く変色している人達ばかりです。生活の中で火を使わないはずがないので、症状が進んでいる人がちらほらと居ます。進行速度に差が出ているのは、役割の差と考えられます。やっぱり料理をしている人が早い……。


 それでも、あんなキャンプファイヤーの様な火に当たっている訳ではないので、錆のようになっている人は見える範囲に居ません。


「皆さんの体に出ている」

「くどい」


 一気に敵意が膨れ上がりました。昨日の狂信者よりも、話は出来るとは思います。しっかりと会話になってますし、余地はありそうです。


 しかしまずは……話す場を用意しないといけないようですね。


 捻じ伏せて話を聞かせるなんて野蛮な真似はしたくありませんけど、人命がかかっています。話を聞かせて、治療と対応策を取ってもらうのです。昨日は……それすらも許されませんでしたから。


「私が勝てば、話を聞いてくれませんか」

「ならば貴様が戦え」

「もちろん私だけです」


 私闘に人を巻き込むなんて事はしません。


「魔法があるから大丈夫と思っているんじゃないだろうな」

「魔法を使わないあなた達相手に、魔法は使いません」

(剣士娘が言う事は尤もだが、お前の魔法はバレんだろ。平等さを見せてぇのかもしれんが……あー、クソッ……どうしても治療してぇんだな……)

(俺にもやらせろや)


 ライゼさんとレイメイさんから非難の目を向けられています。ライゼさんからは呆れ、レイメイさんからは妬みです。レイメイさんはそんなにも戦いたかったのでしょうか。純粋な戦闘。魔法を使わない、武と武のぶつかり合いは、そうそう起きません。


「私からも、一つ言っておきます」


 軽いストレッチをしながら、注意事項を述べます。お二人の言いたい事は何となく分かりますけど、私は曲げませんから。


「相手は私だけです。もし他の人に敵意を向けたら、手加減の一切をしません」

「自分の心配だけしていろ」


 相手は七人程です。弓が二人、後ろから私を狙っています。正面に三人、短剣。残り二人は槍です。そんなに強くはありません。暗殺者が正々堂々戦うのはおかしいですね。でも多分、弓の二人が暗殺予定なのでしょう。


 短剣と槍の人が注意を引き、後ろから射抜く? 私は問題ありません。しかし暗殺者が調子に乗ってしまい、アリスさん達に攻撃を仕掛けてこないとも限りません。釘を刺すのは当然です。


(何でこいつ等は赤ぇのに勝てる気で居るんだ)

(”巫女”の事を調べていると思ったんですけど、信じてないんですかね。ただリツカお姉さんは魔法を使わないと言ったら本当にそうしますから)

「……」

 

 アリスさんが、魔法は使うようにと視線を送っています。でも、使いません。負けを認めさせる必要があるのです。話しさえ聞いてもらえたら、この人達は対応してくれるはずです。治療したいはずなんです……!


「もう始まっているんですよね」

「当然」

「では」


 目の前の五人を倒す前に弓へ牽制を入れるのが定石です。ナイフを二本取り出し、振り向き様に投擲します。今まさに枯れ果てそうな木を傷つけるのは気が引けますけど……。


「ッ」


 今まさに撃とうとしたのでしょうけど、中断して身を潜めるために移動をしているようです。再び狙い始めたら牽制します。数回繰り返せば表に出て来て接近戦に移行するでしょう。


 弓は確かに隠密向きです。ただし位置がバレてしまっていては意味がありませんね。弓を引き、放つ。和弓ではなく複合弓(コンポジットボウ)ですから連射が利きますし、達人ならば時間をかけずに狙いをつけ撃てるでしょう。しかしそれを、私の前で出来るとは思わない事です。


 普段ならば牽制だけです。しかし相手が、私が攻撃を当てないようだからと攻撃を続行したら、容赦なく当てます。腕の一本は覚悟して下さい。命を救えるかどうかの戦いです。傷つける事に躊躇はありません。


「次は当てます」

「クッ……」

「ただの引き篭もりではないという事か……」

 

 引き篭もり……? ああ、確かに……森にずっと篭っているのですから、引き篭もりといえるかもしれません。


(位置が分かるのか……。マグレ、という訳ではなさそうだ。護衛の連中も驚いた様子を見せない。あれが普通という事か)


 驚きが、薄いですね。大道芸ではないので大仰に驚かれても困るのですけど、この薄さは厄介です。暗殺者なのは身のこなしだけではない、という事でしょう。精神性も暗殺者向きみたいです。


「弓の動きを止められるようだが、五対一だ」


 弓兵の移動先も分かっています。周囲は森、弓の射線を考えれば私の感知範囲内しか移動しないでしょう。行動を操る事も可能です。ナイフは残り八本、それがなくなる前に勝負を決めたいです。

 

 ただ、私が魔法なしで戦えるのは四人が限度でした。今ならば、大丈夫でしょうか。全身全霊で行く必要があります。


 私はコインを一枚取り出します。相手は身構えますけど、ご安心を。攻撃には使いません。


 コインを相手の頭上に弾くと、視線が少し追うんですよ。特に、得体の知れない私の様な相手の行動は、意識的に集中しない限りは追ってしまうんです。


(ただの硬貨か……?)

「魔法は使いませんよ」

「ッ!?」


 目の前に居たはずの私の声が、真横から聞こえた事に驚いているようです。魔法は使いませんよ。魔法は、ね。


「残り三人」


 ”抱擁強化”ではないから、先程の一瞬では二人が限度でした。魔力運用で出来る限界がこれくらいです。


(二人、やられている。何が起きた)


 リーダー格の男が、周囲に視線を向けています。何が起きたか、周囲の人に聞こうとしているのでしょう。もちろん他の二人もそうしています。人間誰しも、理解出来ない事が起きた時は体が固まりますし、行動が単調になります。


 宿敵である”巫女”。気負うのも無理はありません。平常心ならば問題はないでしょうけど、一度心を乱された相手はもう敵ではありません。


「残り、あなただけです」

「……」

「魔法を使った形跡はない……。いつの間にか近づいて、首に手をぶつけた……」


 周囲の人は気づいています。視線を外した隙に、四人に手刀を見舞っただけです。


「最初から、負けるつもりはなかったと」

「私がただの引き篭もりじゃないと気付いた時に、私をもっと意識すれば良かったんです」


 弓兵は私を見ています。目の前の人たちよりもずっと落ち着き、状況を見ています。純粋な戦闘員みたいですね。


「負けを認めてくれませんか」

「……」


 治療出来るか診たいですし、対策の話をしたいんです。


「認めても良いが、言う事は聞かないぞ」


 戦闘態勢を解いてはくれました。


「あんさん等……」

「確約は、してくれていませんでしたね」


 アリスさんの言う通り、確約していただけませんでした。だからといって、諦めるとでも思ってるんですか。


「それでは……全員眠らせてから治療と水場の設置を行いましょう」


 私は命を助ける為に、多少の危害を加える事に躊躇はありません。自己満足させてもらいます。


「安心してください。少し治療して、別の水場で生活するだけです。自殺なんてしないで下さいよ」

「脅すのか」

「脅します」


 心の余裕がありません。


「何故、そこまでする。我々はお前を嫌っているんだぞ」

「人の好き嫌いはそれぞれです。ですけど、命は平等。生きたい人に手を差し伸べて何が悪いんですか……助けられる命を助ける事が不思議なんですか」


 この人達の人生です。私がとやかく言うべきではないのでしょう。


「そんなに……”巫女”を嫌いすぎて命を捨てるというのなら……無理矢理やらせてもらいますよ」


 そうすれば、無理矢理されたと自身を納得させられるでしょう。


「治して、元を絶ちに行きます。邪魔をしないで下さい」


 確約はしていませんでしたけど、戦う前に言ったじゃないですか。そしてそれを受けて勝負は始まったんです。


「生きたい人達の邪魔をしないで下さい」


 もう、諦めて下さい。



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