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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
51日目、果て無き想いなのです
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『ケルセルガルド』白骨の森⑨



「我々が『マリスタザリア』と名をつけたのは運命であったか」

「おお……」

「これもお導き……」


 後ろの……生贄の女性達は、落ち着いています。これから生贄として殺されようとしているというのに、どうしてこんなに落ち着いているのですか……。聞いて、いたでしょう。人が人を殺すのは罪。そして、神さまが全てを愛しているという事を……っ。


「何故、マリスタザリアと?」

「”神の罰”だ。我々は神を蔑ろにしたが為に、罰を受けている。それがマリスタザリアと呼ばれる化け物達の姿と酷似している為につけた」


 白い肌や、錆てしまった関節。中には顔を包帯で覆っている方も……。その姿がマリスタザリアと酷似している為、神の罰としてマリスタザリアと名付けた、と。似てませんけど……。


「後ろの女性達は今から、どうなるんですか」

「生贄だ。神へ捧げる。我々の罰を赦してもらうのだ」

「そんな事、神さまは望んで」

「代行者振るなと言ったッ!!」


 話はするけど、糾弾は受け付けない、という事ですか。兎に角話をして、女性を生贄にしない道を探すしか。でも私は女性を助けて、どうしたいのでしょう。アリスさんを以ってしても治せないという女性を助けて……。


「ヨアセムと、言っていましたね」

「そうだ。王都に行ったと聞いている」

「……神さまの為にと、王都を壊そうとしていました」

「ほう。流石は、先導者」

「あの時ヨアセムの声に耳を傾けていれば……」

「我々も共に逝けば良かったのだ。フォルクマーの時でも遅くはなかった」


 フぉルクマーも、神さまへの憧憬から暴走した一人です。しかし、私達と対話をして、考えを改めてくれました。もう少し早く出会っていれば、捕まるような事をする前に彼に会う事が出来ていれば、良き信奉者となり、人々の為に動いてくれたかもしれません。所詮はたらればですけど……。


 でも、フぉルクマーには芯がありました。この人達とは……ヨアセムとは違うと、思うのです。


「文句がありそうだな」

「……」

「何も言えなくなったか。イェルクといったか。奴もそうだったな」


 また、司祭イぇルクですか。あの人の行動範囲は広すぎる。それは神さまへの信仰がさせていたのでしょうけど……ここでも、何かをしたようです。


「奴も何もしなかった」

「何もしなかった?」

「ヨアセムもフォルクマーも行動した。しかし奴は祈るだけの置物だった。”巫女”を崇める事しか出来なかった。意志薄弱な愚か者よ」


 生贄なんていう、的外れな行動をしている方達にイぇルクを馬鹿にされるのは、違うと思います。この人達の狂気が、私には理解出来ない。


「我々に先を越されるのが癪だったのか行動したようだが、何も成し遂げられなかったと聞いた」

「あなた達が先導者と呼んでるヨアセムも失敗してる」

「失敗の何が悪い。模倣者と同じにしてもらっては困る」


 イぇルクがあの様な行動に出る事に、アリスさんもエリスさん、ゲルハルトさんも驚いていたのです。何故、と。この人達が、煽ったようです。それに乗って、ヨアセムと出会い、導かれたとでも言うのでしょうか。


 神さまに認められたかったヨアセム、イぇルク、フぉルクマーとこの人達は違います。神さまの赦しが欲しくて、死のうとしている。死に場所を求める事が行動と言っているのです。


「罰で、その痣が出来たと言っていましたけど、それはあなた達が生活に使っている水が汚染されているからです。すぐに別の水を用意するべきです」

「巫女の話など信用出来ない」

「ヨアセムの行動とマリスタザリアの意味は信じて、この話は信じないというのはおかしいのではないですか」

「それを選ぶのは我々だ」


 相手の話を信じるかどうかは受け手に委ねられます。この人達の信用がゼロの私達では、意味がないのでしょう。


 でも、死ぬ理由に神さまを使わないで欲しい。罰なんてあるはずがない。その痣は、今からでも遅くない人の方が多い。あちらで、生贄になろうとしている方達はもう……っ。でも、助かる命だってあるんです。


「子供達や、死にたくない人だって居るはず。そんな人にまで」

「そんな者はここに居ない。皆、神への贖罪を望んでいる」


 あの水が起こした薬害の所為で、こんな……。でも、だからって何で神さまの罰だなんて……。もしかしたら、最初からそうなのかもしれません。神さまを嫌い、持って生まれた魔法すらも否定していた人達です。それはつまり、神さまを強く意識しているという事。何か理解の外の出来事が起きた場合、神さまの所為となる、のかもしれません。


「何でそこまで、神さまを……っ! 嫌っていたんじゃないんですか!?」


 嫌いなら嫌いなままで良い。無理矢理治療して、それで終わりに出来ます。でもこの人達は、そうなった理由が神さまの怒りとして、その身を捧げる事を止めません。それに手遅れとなっている、今まさに生贄となろうとしている方や、その人をここまで連れて来た人達は……殺されるのでしょう……?


「不平等な神への反感があった事は認めよう。だが、魔法を捨てた我々は苦労こそしたが、平和だった」

「じゃあ……!」

「だが、この姿を見よ」


 代表として私達と話していた人は、生贄の女性を指差しました。


「ディモヌという神の怒りをその身に受けた少女は角を生やしたという。神が我々に罰を与えたのだ」

「あれも、その痣も、ただの病気」

「それを証明出来るのか」

「治療出来る人も居ると言っているではありませんか!」

「巫女への反感は根強いままだ」


 ツルカさんを例に出し、神さまの怒りや罰は人の身に現れるのだと言っています。そんなはずありません。神さまが干渉出来るのは”巫女”だけです。もし仮に神さまの感情が人の身に現れるのなら、”巫女”の体に出てくるはずです。


「何故そんなにも”巫女”が嫌いなんでス。皆さんの身を案じている事は伝わっているはずでス」

「神の言葉を受ける事が出来るにも関わらず、何もして来なかったからだ。独占しているではないか」

「それは先代達が未熟だっただけだ。こいつ等は”巫女”の役目を果たしとる」

「我々には何も届いていないが?」

(奥地に引き篭っとる奴が何を言ってやがる)


 神さまの言葉を人々に伝えるのが”巫女”の役目。それは間違いありません。しかし、それが満足に出来るのはアリスさんだけでした。そしてアリスさんはその役目を果たしています。今までの事に関しては、神さまも心を痛めていました。その所為で多くの人や”巫女”を苦しめた事も。


 それで何もして来なかった”巫女”が嫌いというのであれば、それで構いません。しかし今、目の前で病に苦しめられている人を助けたいという私達の言葉まで、無視しないで欲しい……。今までして来なかったから嫌いというのであれば、初めて出会った私達が差し伸べる手を取って欲しい。


「救える命が、あるんです。原因も分かっています。水と果実です。果実は森の外の物を仕入れてくれれば」

「巫女は商人か何かなのか? 売り込みをしたければ他に行くと良い」

「違います。果実も侵されて」

「この森にも果実は生る。最近は減っているが、我々が生きられる分はある」

「ではせめて、水くらいは魔法で作った物を」


 果実はまだ、大丈夫です。白骨化した木はもう、実をつけません。他の場所ならば、まだ蓄積されていないはずです。長く摂取すれば危険でしょうけど、それまでに対策を取る事だって出来ます。取り急ぎ必要なのは、水なのです。


「天の恵みたる水を蔑ろにし、神の御業を使うなど、それが愚かだというのだ」


 何を言っているの、ですか? 水を引いていたのも、火をつけたのも、調理だって……。


「水は決まった時間にのみ飲むのだ。神へと身を捧げるこの時間にだけ魔法を使える」

「……待って、下さい。つまりその症状が出る前は、普通に水を飲んでいたんですね」

「何が言いたい?」


 あの水場は人が頻繁に出入りしているという痕跡はありませんでした。それもそのはずで、この人達は決まった時間だけ魔法を使い水を吸い上げているのだと言っています。でもそれは、症状が出てケルセルガルドから出た時からの習慣です。それまでは、普通に水を汲み、飲んでいたという事になります。


「あそこ以外にも、生活用水はあるんですか」

「あるに決まっている」


 今ケルセルガルドは二分されています。つまり、まだ、病に苦しんでいる人が……。



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