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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
51日目、果て無き想いなのです
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『ケルセルガルド』白骨の森⑦



「ケルセルガルドを探す前に、森の調査をしましょう」

「そうだな。剣士娘もさっきからソワソワしとる」

「してませんよ」


 ほんの少しだけ気になっているだけです。でもアリスさんがせっかく私の気持ちを優先してくれたのです。森を見に行きましょう。


「向こうが怪しいよ」


 満遍なく朽ちていっている森ですけど、いくつかの場所は逆に老朽化が止まっています。多分そこは、朽ちるのではなく白骨化をしているのです。


 森を進みます。人が住んでいる森だというのに、どこか寂しい雰囲気があります。温かみを感じません。これが死に行く森、なのですね。


「トゥリアの森と変わらんな。今もこんなもんか?」

「ああ。つぅか何処も一緒だろ」

「え? 今何て言いました」


 何処も一緒とか聞こえたんですけど、気のせいでしょうか。


「気のせいだ」

「はよ行くぞ」

「腑に落ちませんけど……」

(私も違いが良く分かりません。巫女さんは分かるんでしょうか)


 森の違いが分からない方達には後でじっくりと教え込むとして、白骨化している場所が見えてきました。確かに、白いですね。カビではなさそうです。


「思いの外綺麗なもんだな」

「ですネ」


 確かに、幻想的ではあります。白骨化という話でしたけど、まるで陶器のような見た目です。ツヤがあるからそう見えるのでしょうか。葉脈だけになるといった物ではなく、葉が白くなっていますね。白骨化よりも陶器化?


 と、名称なんて、今はどうでも良いですね。


「保存してお姉ちゃん達に見せたい所ですけド」


 確かに、採取して調べたり観賞用にしたりは良いかもしれません。それだけ綺麗な物ではあります。


 しかし、自然ではありえません。悪意の森においてこのような変質を起こしたのです。人体に悪影響がないとは、言い切れません。


「直接触るのは止めた方が良いかも」

「みたいですネ」

「手袋は持って来ています。リッカさま、どうぞ」

「ありがとう。アリスさん」

 

 アリスさんが用意してくれていた手袋を着け、早速調査しましょう。いよいよ研究員みたいになりましたね。気分が出てきました。


「じゃあ早速」


 まずは採取ですね。手頃な葉から取ってみましょう。


「感触は、脆いね」


 手に乗せただけですけど、その脆さが分かります。持ち上げると崩れそう。何故風で崩れないのか不思議です。


「採取出来ませんか?」

「持ち上げたら、崩れちゃう。粉なら取れそうだけど……」


 誤って吸い込んでしまうと大変な事になるかもしれません。


「リッカさまの手に”箱”を作りましょう」

「うん。お願い」


 せめて粉だけでも採取しておきましょう。


「木もそうなっとるようだな」

「変な広がり方してんな」

「多分、内側から白骨化してるんですよ」


 そうなると……もしかしますね。


「土も回収しよう」

「はい。こちらを」


 葉とは別の瓶に土も入れます。


「後は、水場があればそこも」

「水場なら向こうですネ」


 湧き水、みたいですね。小さい池があります。地中からどんどん湧いてきていますけど、これは……。


「いい加減教えろ」

「植物をあのような形に変質させるには、空気か水が原因の可能性が高いです。魔法の可能性もありましたけど、木が内側から白骨化してますから」

「魔法と空気による白骨化ではないという事ですね」

「うん。土の可能性もあったから取ったけど……水が少し、おかしいね」


 木が白骨化。これが問題ではありませんでした。むしろあれは、森が警鐘を鳴らしているのです。今この森では……いえ、この森にある水は、汚染されています。


「森は教えてくれてるんだ。ただ森が痩せてるんじゃなくて、異常事態が発生してるって」


 森は確かに自然の物です。しかし森は人々に様々な事を教えてくれます。綺麗な水、美味しい空気、豊かな土壌。木は時に土砂崩れを防ぎ、雨水を貯め、果実を実らせます。


 森に生かされる。まさにその言葉通り、人は遥か昔より、森と共に生きていたのです。


「この白骨化は、警鐘。この水は飲んじゃいけない」

「悪意でしょうカ」

「いえ……そうは、見えません」

「私も、この水から悪意は感じない」


 では、何なのでしょうか。考えられるのは薬剤ですけど……。陶器のようになる薬剤って、何です?


「飲むなっつってもよ」

「もう手遅れだな。ここは生活用水だ」

「え」


 でも、人が出入りしている形跡は……ああ、ここに来て私はまた、向こうの世界の常識で話してしまいました。


「水を引いてますネ。これを辿れば人が居る場所に着きまス」


 もう飲まれている、という事です。


「止めないと……」

「村に近づくなと言われとる。俺等の話を聞くとも思えんが」

「それでも行かないといけません」


 人体への悪影響は確実にあります。悪意ならば、ライゼさん達の様に感染し難い人達も居るので、要観察で良いと思います。でもこれは悪意ではありません。薬物のような何かにより汚染されているのです。


「こういった薬物に汚染された水を飲むと、本人だけでなく後の世代にまで害が出る場合があるんです。今すぐ止めないと……」

「まだ症状が出とるか分かっとらん。見てから決める。良いな」

「はい」


 ケルセルガルドの人達は、トぅリアとは比較にならない程に排他的です。たった一歩森に入ろうとしただけで矢が飛んできました。魔王討伐は急務です。この場でごたごたに巻き込まれるのは避けるべきなのでしょう。でも、放っておけるはずがありません。


「治療出来る物であればします」

「水が必要なら私が何とかしましょウ」

「ありがとう……」


 人命に関わります。多少強引な手段となりますけど、急ぎ対応します。人が陶器のようになる、のでしょうか。それとも木とは違う症状が……? 何にしても、見なければ――。


「……?」

「少し、待って下さい。リッカさま」


 ケルセルガルド。魔法を嫌っている場所。そう、私達は一瞬、失念していたのです。水を引いている。この危険な水を飲んでいるという最悪の事実により、私達は常識に囚われました。


 この世界の常識とは、魔法です。魔法を使わないというケルセルガルドの大前提が、頭から抜け落ちていたのです。


「自分で言った事ですけド、どうやって水引いてるんでス?」

「間違いなく魔法だな」

「どういう事……? 門番というか見張りの人は、アリスさんが魔法って言葉を使っただけで弓矢を……」


 水汲みに来ている痕跡はありません。パイプ等で引いている様子もありません。ただ、水は確かに減っています。目を水中に向けると魔力色が見えます。その色を辿ると、私の手が何とか入るくらいの穴が見えます。ここを通して、水を引いているのは分かります。


「何で魔法を使って……」

「ケルセルガルドにも、何か変化が起きているのかもしれません」

「それも含めて見に行くぞ」

「想像で話してもしゃあねぇだろ。慎重になるのに越した事はねぇんだろうが」

「そういうこった。二手に別れて行くぞ。五人じゃ物音がでか過ぎる」


 ライゼさんとレイメイさんの提案に乗ります。今は悠長に考えている場合ではありません。水が減っているという事は使っているのです。急ぎましょう。



 ライゼさんレイメイさんと、アリスさんシーアさん私で別れます。私達は大きく回りこむようにしてケルセルガルドを目指します。私達の方が、森を歩きなれていますから。


「見えてきましたヨ」

「うん……」


 見えてきた場所では、今まさに水を飲もうとしている人が居ました。直に止めたいのですけど、いきなり飛び出して飲むなと言っても信用されません。それどころか次の機会を潰すかも……。ここは慎重に、機会を窺います……。


「どう? アリスさん」

「……水を飲んだ方に異変はありません。しかしこの村の人たちの多くが、関節を患っています」

「関節……」


 節々の痛みというのは、馬鹿に出来ません。インフルエンザという、毎年流行っている病気があります。あれの前兆の一つに節々の痛みがあります。インフルエンザは放っておけば死ぬ病。体の表面に違和感と出るというのは、馬鹿に出来ないのです。


「衣服で隠れていますけど、変色が起きているかもしれません」

「陶器化みたいな感じのですカ」

「はい」

「治療出来そう?」

「直接診察してみない事には、何とも……しかし、ただ水に含まれた毒物が関節に溜まっているだけならば、何とか」


 現状では、薄い望みみたいです。


 しかし……あの村、普通です。魔法を嫌い、神さまを嫌い、森への侵入を防ぎ続けている人達とは思えません。どこにでもあるような、日常がそこにあります。


 こんな人達でも、私達が”巫女”と分かったら豹変するのでしょうか。デぃモヌ信仰の人が豹変するという話は聞いています。しかし……実際にそうなった姿は見ていません。ここでも見たくないので、森研究員として忠告するのが良いでしょう。



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