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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
51日目、果て無き想いなのです
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積年③



 シーアさんは広場の隅に座っていました。


「修行にならなかった?」

「ですネ。お師匠さん熱が入ってしまっテ、私は最初から見学でしタ」


 シーアさんの護身技能を上げる為の共同修行だったはずなのですけど、仕方ありません。兵士さん達の見学会にもなっていますし、止めるまでの事ではないように思えます。


 シーアさんは近づいてくる相手に丸っきり弱いという訳でもありませんし、急いでも良い成果は得られないと考えます。


「私達が病院に行ってる間に、追加の修行する?」

「ふム。良いかもしれませんネ」

 

 そんなに時間はかからないと思いますけど、模擬戦くらいなら出来るはずです。


「朝もう少し時間を取れるのであれば、兵の鍛錬にも付き合っていただけませんか?」

「ライゼさん。どうですか」

「構わんぞ」


 レイメイさんの相手をしながら、片手間で返事を返してくれます。


 流石に汗を流してはいますけど、ライゼさんは凄いですね。しっかりと体の芯が真っ直ぐです。疲れているはずですけど……私よりずっとスパルタですね。


「門下生は多い方が良いからな」

「まだ諦めてなかったのか」

「俺からすりゃ、あの戦争は一昨日みてぇなもんだと言った」


 レイメイ流の第一歩です。結局私は広告塔にはなれなかったので、やる気のある兵の方々から広まっていけば良いなぁと、思うのです。


「とりあえず、朝食にしましょう」

「皆さん。後ほどライゼルトさんが訓練に参加するそうですので」

「英雄の、ですか……?」

「はい」

「おお!」


 名前というか、ライゼさんの伝説は伝わっていたようです。少し恥ずかしそうにしていますけど、英雄の宿命というやつです。英雄の名は何も、賞賛を得られるだけではありません。その名は多くの人の希望となり、敵にとっては抑止力となります。ライゼさんのそれは、ただの称号ではないのです。


 英雄ライゼルトのレイメイ流、出会えば即死。くらいの異名を轟かせましょう。


「スープの味付け以外はカルメさんがしました」

「一切れずつデザートもあるみたいだから」

「カルメさんの手料理ですカ」

「拙いかもしれませんが、皆さんの分も作らせていただきました」


 カルメさんお勧めの調味料を使って、アリスさんと私で調味しました。甘さとピリッと感が丁度良い感じになったので、デザートでありながら満腹感が味わえるとおもいます。


 朝食を食べ、町へと向いましょう。アリスさんスープで私の一日は始まるのです。今日もやる事は多いですし、失敗できない任務もあります。クロジンデさんの説得だけになっても良いくらいの気持ちで居るために、気力を充填しておきます。


「シーアさんの分はしっかり作ってますので、私達が出た後にでも」

「ありがとうございまス」

「シーア姉様の分、ですか?」

「少し補充しなければいけないのデ」


 昨晩は我慢をしましたからね……。そういえば、カルラさんの時も頑張って隠してました。カルラさんもカルメさんも、大食いくらいで何かが変わるなんて事はありませんよ?




 朝活気がある町。それだけでも、人々の精神状況の良さを感じます。忙しさの中に余裕と自然な気力が満ちています。


「病院は二件程ありますけれど、どちらに参りましょう。外科と内科で分けているので」

「輸血用の血と生薬を少々購入したいのです」

「成程。では両方ですね。血液型が特殊な方はいらっしゃいますか?」

「そうですね……。私とリッカさまは少し特殊ですから、ライゼさん達用のをお願いしたいのです」


 私はただのAだった気がするのですけど、こちらでは特殊な血になるのでしょうか。でもお母さんが、「あなたは献血しなくて良いのよ」と言っていた気がします。てっきり過保護すぎただけかと思いましたけど、んー。


「分かりました。次に生薬ですが、お酒の酔いを抑える物と何にしましょう」

「造血剤と、傷薬、整腸剤等の身体虚弱に効果的な物を取り繕って欲しいのですけど」

「はい。では連絡を入れて用意してもらっておきますね。血液の方は病院に行ってからでないと分かりませんので、内服薬の方だけ」

「ありがとうございます」


 実務的な物はセルブロさんがやっていましたけれど、カルメさんもガリガリの実務派ですね……。コルメンスさん然りエルさん然り、働きすぎではないでしょうか。人を使うのも、王様の仕事と思うのです。


(何れカルラさんが皇女となった時に、補佐になるために腕を磨いたのではないでしょうか)

(そっか。それなら納得かも)


 カルメさんは皇女になる気はないと言っていました。譲れない物があって、王国まで家出をしてきました。しかし何れはカルラさんが皇女となり、カルメさんが補佐役として隣に立つ為に精進しているようです。


「後ほどケヴィン老の所へ行っても良いですか? 孤児院として不備がないか見ておきたいので」

「はい。私達も出立の挨拶に向かうつもりでしたから」

「流石に、子供達は寝てますよね」


 まだ七時くらいです。ここには学校施設もありますけど、移り住んですぐに学校へは行けないでしょうから。


「一度会った時は今くらいの朝だったので、大丈夫と思います」


 子供達は、カルメさんにもう一度会えるかなと言っていました。その時は朝会っていたんですね。



 病院で血液パックをいくつか分けてもらい、用意してもらっていた薬を受け取りました。文字は読めませんでしたけど、二種の血液だったようです。人の造りが変わらないのであれば、最低でも後二種の血があり、アリスさんと私はそこに当てはまらない物という事になります。


 何故アリスさんが、私に輸血しようと踏み切ったのか。切羽詰っていたから? 私は、そう思いません。アリスさんはそんな大博打を打たないと思います。そんな事を言ってられない状況だったのかもしれませんけど……アリスさんと私は同じ。神さまが何度も言った言葉です。きっと、それを……アリスさんも信じたのです。


 私が【アン・ギルィ・トァ・マシュ】に踏み込んだ時と同様に。


「こちらの薬は昼食後一包として下さい。それ以上は体に毒です」

「分かりました」

「証明書をご確認します」


 薬剤師の方から一応の説明を受け、アリスさんの医師免許の確認待ちをしています。


「医師免許も持っていたのですね」

「はい。人を診る事が出来る程度の物ですけど、取っていて良かったです」

「リツカ姉様の為ですか?」


 カルメさんの表情が、エリスさんやエルさんと同じ表情に。カルラさんやシーアさん、神さまも居ます。どんどん私達を弄る方が増えているような?


「その時はまだ、リッカさまの人物像までは……。ただいつか、私と同じ”巫女”の方がやってくるとだけ聞いていたのです」


 懐かしいです。今でも鮮明に、香りや光の煌き方、水の音や冷たさや温もり、全部思い出せます。私の原点、生まれ変わった日。


「ただ、リッカさまと出会った日から決めている事があります」

「決めている事?」


 アリスさんが、自身の胸中を人に聞かせるのは……そう多くありません。現状を正しく人に伝える事をする事はあっても、です。


「私は私の全てを賭けると。自身の全てを捧げると」

(わらわの姉様に対する想いに似ていますけど、より……強いです)

「誰にも冒させません」


 私はちゃんとアリスさんの隣に居ます。いつもは私に向けられていた宣誓が、カルメさんへの宣言になっています。反応して良いのでしょうか。カルメさんの反応を見るまで待つ? アリスさんを抱き締める? 


「アルレスィア姉様は、やはり私と近いようです」

「私も、そう思っていました」

「え…………え?」


 私が行動を迷っている間に、カルメさんとアリスさんが笑い合っています。アリスさんはカルメさんと似ていると言っていたのは覚えています。カルメさんもまたそう感じて、仲良くなった。それは分かります。


「む……むぅぅ……」

「リッカさま?」

「あら」


 迷うべきではありませんでした。アリスさんを抱き締めます。もう疑問の余地もありません。これは私の嫉妬です。


(必死で私に……愛らしい)

(こんなに一生懸命に。リツカ姉様は可愛らしいですね)


 どんなに、アリスさんとカルメさんが親交を深めているだけと、理解を示そうとも……アリスさんの視線を独占したいという気持ちだけは……我慢出来ないのです。



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