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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
51日目、果て無き想いなのです
764/934

積年

A,C, 27/04/15



 疲れの所為で遅刻するかと心配だったのですけど、何とか起きれました。ただライゼさんとレイメイさんはもう、外で体を動かしているようですね。二日酔いにはならなかった、のでしょうか。あんなにベロンベロンだったのに……。


「おはようございます。リッカさま」

「おはよう。アリスさん」


 私の腕を枕にして、私を微笑み見ているアリスさんの後ろから、陽光が差し込んでいます。銀糸の髪がキラキラと煌き、アリスさんの匂いが香り立つようです。


(このまま抱き締めて、ごろごろしてたいけど)


 カルメさんとの約束がありますし、まずはライゼさん達の様子を見に行かないと。怪我人二人ですし、酔いが残った状態でやっても効率悪いでしょうから。


「リッカ、さまっ」

「うん?」


 アリスさんが目を閉じ、じっとしています。綺麗な睫毛で、頬がほんのり赤くて、唇は潤いがあって……。わ、私は今……どうすれば、良いのでしょう。アリスさんが何かを待っているのは分かるのですけど……。んんん……?


「ぇ、えい……?」


 この状況で私が出来る事……。アリスさんを抱き締める? とにかく私は、腕枕しているアリスさんを胸に抱き締めました。心音は思いっきり聞かれますけど……直接伝える事が出来ない私の気持ちを……アリスさんに、聞かせたい……です。


(これは、これで……)


 間違いではなかったようです、けど……大変です。起きたくないって、思ってしまいます。


 そして私は知っています。こういう時、神さまの悪戯なのかは分かりませんけど……。


「リツカお姉さン」

「リツカ姉様」

「巫女さン」

「アルレスィア姉様」


 中断しなければいけなく、なるのです。


「朝ですヨ」

「ライゼさんとウィンツェッツさんは既に広場に居ますので」


 呼びに来て貰った以上、今日を開始しましょう。




 広場というのはどうやら、城の外に併設された兵士の訓練場のようです。体力作りと筋力アップがメインみたいですね。皇国式なのか、盾や鎧なんかも使っているようです。連合を見据えれば、近接戦闘も出来た方が良いですもんね。戦争になったら、連合の一人の強者に壊滅させられる危険性すらあります。


「来たか」


 アリスさんの診察はまだなのに、ライゼさんはやる気に満ち溢れています。レイメイさんは少し怠そうですけど。


「ライゼさんは二日酔いにならないんですね」

「度が強ぇからちっとばかし深酔いしとったが、俺は持ち越さんぞ」

「まァ、例の如くサボリさんはやらかしたみたいですけド」

「問題ねぇ。薬も貰ったなしな」


 レイメイさんはお酒好きなんでしょうけど、強くはないんですね。今回は薬のお陰で二日酔いにまではならなかったのでしょうか。漢方ってそんな、劇的な効能がありました、っけ? 皇国の特別製なのかもしれません。


「お酒の問題がないのは分かりました。診察しますからこちらに来てください」


 何にしても、今回は大丈夫だったようです。後は体の調子ですけど、自衛出来る位の回復をしていて欲しいです。ケルセルガルドで私は、アリスさんとシーアさんを守るので精一杯なので。

 

「ライゼさんの方は不安が残りますけど、どうしますか」

「一時間ばかし動く。近距離戦闘出来る奴は多い方が良いからな」

「腹痛かお腹に熱を感じたら止めて下さい。傷が開いた可能性がありますから」

「了解だ」


 そんなギリギリの状態でアリスさんが許可するはずがないので、ライゼさんが無茶をしないように言ったのかもしれません。お腹の傷が深刻なのは、本当の話ですけど……命に関わるような状態からは脱しています。


「俺は良いんだな」

「レイメイさんも、違和感を感じたら止めて下さい。ただ、すぐさま深刻な状態になる事はありません。今後を考えての制止である事を理解していただきます」

「ああ……」


 膝の怪我に限らず、怪我は一生物になりえます。違和感は完全に、体から発せられた警告です。これを軽視するととんでもない事態に陥ります。


 ライゼさんも、これは同様です。体の中すらもツギハギのような状態なのです。慎重な調整を願います。


「シーアさんはもう問題ありません」

「はイ。お師匠さン、私も入りますヨ」

「好し。そんじゃ先ずは、俺と魔女娘対ツェッツでやるぞ」


 深い傷はなかったとはいえ、シーアさんも大丈夫そうで良かったです。見たところ目だった傷もありません。


「リッカさまは、もう少し安静です」

「え」

「傷や魔力に問題はありませんけど、血がやはり足りていません」


 ライゼさんも足りていないと思うのです……。


「ライゼさんは……敵に捕らえられ、訓練の相手にされていたという事を抜きにしても……何故あんなにも元気なのか、私にも正直……」

「あんさん等とは体の頑丈さが違ぇんだ」


 そこはやはり、体の大きさでしょうか。私の体格とライゼさんでは、抜けても良い血の量にも差があります。私は本当に、ギリギリだったという事でしょうか。


「カルメさんとの料理教室は大丈夫ですけど、魔力を練るだけにしてくださいね」

「うん。一応、そのつもりだったから」


 本当は少し体を動かそうと思ったのですけど、安静ならば仕方ありません。朝食も鉄分を取れるものにしましょう。朝食を食べたくらいで何が変わるかといわれると……気分ですね。アリスさんのスープで元気たっぷりです。


「出発前に病院へ寄りたいのですけれど、よろしいでしょうか」

「はい。後ほどわらわが案内しましょう。セルブロはもう出立したので」

「カルメさんも忙しいのに……ありがとうございます」


 医薬品の補充をしなければいけません。それに、皇国の特別製漢方はかなり良さそうです。少量購入させていただけたら嬉しいです。


「それでは食堂に」

「剣士娘、親父の事だが」


 そういえば、今日教えるという話でした。お酒を飲んで記憶が飛んだ私とは大違いですね……。


「マクゼルトの間合い、狭いように見えて広いですよね」

「ああ。あの拳圧は厄介だぞ」

「それを相殺する術をレイメイさんには授けてますので、後で聞いておいてください。それに追加してとなると、マクゼルトの肘より内側で戦うのが良いと思います」


 自分の肘から胸にかけてを示します。


「そこも対応しとったぞ」

「外側と比較した場合、内側の方が練度が低いです。拳圧にかまけていたのでしょう。実際その間合いで戦える人は今まで居なかったでしょうから」


 攻撃のバリエーションは多かったです。アッパーにフックもありました。そのどれもが言葉通りの殺人パンチ。しかし、間合いを詰めた後はぎこちなかったのです。私があの長い刀を選んだのは間合いを離したいから。それはマクゼルトにとっては良い的であった事でしょう。でも、近くで戦えないと言った覚えはありません。むしろ近場の方が得意です。


 その距離で戦った結果。マクゼルトの隙が見えました。明らかに慣れていません。その距離でも、格闘技をやっている人ならば戦えるでしょう。しかしこの世界の体術はまだまだ発展途上です。今のマクゼルトならば、まだ対応出来ません。


「腕も人よりずっと長いですから、拳圧さえ相殺出来れば隙も多いかと」


 ライゼさんとマクゼルトを比較しても、私とライゼさんくらいの身長差があります。私とマクゼルトだと、大人と幼子です。拳圧という厄介な物さえなんとかなれば、勝機はそこにあります。


「その距離で戦えるかどうかってとこか」

「レイメイさんもかなり見えるようになっています。近くでの戦闘法を教えて上げて下さい」

「ああ。体も鍛え直したみてぇだからな。何とかなんだろ」

(癪だが、赤ぇのの言う通りに筋トレってのをやったら、体のブレがなくなったからな)


 元々重たい剣を振り回せる筋力がレイメイさんにはありました。ただ体幹が少し心許なかったのです。言いつけ通りに、暇があればやってくれていました。見違えるほどという訳ではありませんけど、どこか背中が広くなったように感じます。ライゼさんと並べば、結構な威圧感です。


「私はどうすれば良いですかネ」

「近づいて来たツェッツから逃げ切れ。ツェッツは近づく訓練からだ。俺は感覚を取り戻す為に強めに攻撃する」


 こちらは大丈夫そうですね。レイメイさんの成長を少しでも実感していただければ良いな、と思うのです。操られていたとはいえ、ライゼさんを捕まえたのはマグレではありませんから。

 


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