二人のギルド生活③
(き、きもちわるいっ……!!)
明らかに、人語をしゃべりました。
(聞いてないよっ、神さま!!)
焦りますが、私の頭はやるべきことを知っています。
(とにかく、変なことされる前に……やるっ)
血と魔力で赤く染まったローブのスカートをたなびかせて、相手の左側へ大きく踏み込みます。
(どこに避けても、届く!)
しかし、相手は私に向かって拳を振り下ろします。
「――シッ!」
体を回し、避け、その勢いで左腕を斬り落しました。
「っ……」
今までの敵より、明らかに肉質が硬く。手が痺れます。痺れに意識がいきますが、微かな悪寒とともに、視界の端で黒が揺らめきます。
(拳、ストレート。狙いは右側頭部)
相手の懐側に踏み込み、回転斬りを見舞い。大きくサイドステップで左へ大きく離れました。
左腕を切り落とされ、胸を大きく傷つけられた敵と対峙します。
(防御力も、反応も、勘も。どれも……いい)
ポタポタと血が滴り、ローブが更に赤く染まっています。
「……っ。ハァ……ハァッ」
強がって、アリスさんを下がらせましたが、消耗が激しいです。
(次で、決める)
そう、意識を切り替えます。
「グ、グモ"マ……【フィア゛マ】」
な――!? やばっ―――。
「焼き殺す」
ただ、私を殺したい。嬲りたい。燃やしたい。そんな想いしか篭ってないと、そう確信できる。言葉によって。
私の眼前が……炎の壁に、覆われました。
(――ぁ)
死――。
「私に水を纏いし強き盾を……!」
耐え難い熱風から、私を守るように……水を纏った盾と、第二の太陽かと思わず想ってしまう程の魔力を煌かせたアリスさんが、いました。
「アリ、ス……さん」
「リッカさまを、死なせたりなど――しません」
炎が収まり、アリスさんの盾も消えます。アリスさんの瞳は、銀色の怒りで光っていました。
「ほかの人は……?」
「無事です。私の盾を見て様子がおかしいと思った方が、警備の方たちを呼んでくれたようです。大きな盾を張ったのは正解でした」
アリスさんが一息に説明し、私に近づいてきます。もしかして、怒ってます?
「……無理して、こんなっ。後で説教ですよ……。リッカさまっ」
アリスさんが今にも泣きそうなほど、目を潤ませて……それでも敵から目を離すことなく、私を叱責します。
「ご、ごめん……」
私は謝ることしかできませんでした。それでも、戦うために前に出ます。
「一撃で、仕留めるから……。手伝って、ね?」
すでにあの敵は、私には勝ったつもりでいるのでしょう。私をどうやって嬲ろうか楽しみで仕方ないと言わんばかりに興奮しています。
でも、私はまだ。全然戦えるんですよ。
「リッカさま。いきます」
アリスさんが魔力を更に練り上げました。
「光陽よ拒絶を纏い、貫け――!」
三つの、拒絶を纏った光の槍が敵目掛け飛翔します。マリスタザリアは二つは避けますが、一つが脚へ当たりました。
”拒絶”が悪意を引き剥がし、”光”が悪意を浄化します。脚が、元のホルスターンへ戻っています。
光の槍とともに疾走していた私は、すでに敵の眼前です。
「―――!!」
敵は私に気づきますが、もう遅いです。
「――シッ!」
短く息を吐き、横に回転し――首を、刎ねました。