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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
50日目、お爺さんなのです
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名のない国⑤


 

 小さい悪意はありましたけど、人が誰しも持っているものでした。これを浄化する事は出来ません。それは感情を変える行為だからです。感情を変える……悪意の感染と、何が違うというのでしょう……。


 しかし、小さいいざこざは平和の証と言います。喧嘩出来る余裕があると言い換えても良いです。


 そしてこの国では、私達の事を知っている人ばかりです。第二の王都と感じたのは間違いではありません。「もしかして巫女様?」という視線ではないのです。私達を認識して、祈ってくれます。カルメさんのお陰でしょうか。私達の事を国に周知させてくれているのかもしれません。


「この国、どうやって成り立ってんだ」

「流通とか、謎ですよね」


 教祖フゼイヒですら最近見つけたというこの国が、何故こんなにも潤っているのか。本当に凄いのです。お米、麦、お肉や野菜。お酒やお菓子といった嗜好品まであります。


「共和国の品もありますシ、行商でしょうカ」

「ノイスまで一息に行くのは難しいですから、ここで売っているのかもしれませんね。お金はゼルのようですし」


 行商としても、大口顧客のカルメさんの国はありがたいはずです。それも安定収入になりえます。商人の目利きは驚嘆に値するもの。カルメさんを見て、断るはずがありません。


「じゃあ、この国の収入も行商かな」


 お金を独自に造る事は許されません。この国でもゼルが使われているのなら、どこかで商売をしたはずです。ここで作られた物、お酒や果物、野菜や食肉あたりでしょうか。それらをノイスやエアラゲ、オルデク等に売りに行っているのかもしれません。


 でも多分、この国は自給自足出来ています。それでもお金を求めるのは、行商との関係を作るにはやはりお金が必要だからです。自給自足できているのに行商との関係が必要なのか、という話になりますが、必要です。


 カルメさんは最終的に王国北部を平定するつもりでいます。ならばお金も必要ですし、行商との関係は、必須。鎖国国家は有事の際に弱いです。マリスタザリアは魔王を倒しても完全には居なくなりません。有事はありえます。国の安定を思えば、物流を整えておくのは当然と思います。


 傭兵等の給金問題もあります。傭兵を動かすにはお金と言いますし、物で釣るのは難しいでしょう。すでに国を創る算段をつけていて、先を見据えているカルメさんです。国を創った後の事も考えていると思います。


「商売は順調のようですね。第二の王都と例えるのも納得の活気があります」

「問題は多いがな。井戸が数個あるだけで、水が少ねぇ。魔法で代用すんのも限度ってもんがある」

「チビガキが湖を作ってやりゃ良いじゃねぇか」

「私を何だと思ってるんでス。貯水施設を作れる魔法があるなら出来ますけド、ただの溜池の水なんて一月もすれば死に水ですヨ」


 水の問題は大きいですね。川はズーガン側にありましたけど……先ずはズーガンが問題なんですよね。川を引こうにも、先ずは土地作りからでしょう。



 雑談をしていると、城に戻ってこれました。夕食にはまだ早いでしょうけど、カルメさんに伝えなければいけない事が多いですから。


「お帰りなさいませ。皆様」


 セルブロさんが出迎えに立ってくれていたようです。いつから待っていたのでしょうか……。


「準備にはまだかかりますが、カルメ様は先程の部屋にて待っております」

「ありがとうございます。良ければセルブロさんも同席して下さい。カルラさんの事について、追加の情報があります」

「分かりました。では案内を」


 セルブロさんの案内で城の中を歩きます。改めて見ると、綺麗ですね。昔は向こうの世界にもお城があったそうですけど、今では殆どがなくなっています。海面上昇が著しいらしいので仕方ないそうですけど、いつか私が居た町も沈むのではないでしょうか。”神の森”があるから大丈夫?


 っと、城ですね。和洋折衷といった様相です。畳はなく、障子もありません。しかし和風の城に見えますね。どこがそうさせているのでしょう。形? 瓦の様な屋根? カルメさんの雰囲気でしょうか。


 皇国の城、なのですよね。カルメさんの趣味という可能性もありますけど、それも聞いてみましょう。カルメさんのお陰で、心の余裕が少し出来ましたから。


「城が気になって居られるのですか。後ほど、カルメ様と共に見学等されてみてはいかがでしょう」

「え。あ、はい。ありがとうございます」


 思わず吃ってしまいました。最初、王都の王宮に行った時も、そうだったなぁと……思い出したものですから。


「私も参ります」

(二人きりになどさせません)

「うん。もちろん、一緒に行こう?」


 アリスさんと離れるという選択肢はありません。アリスさんもそのつもりのようで、カルメさんと会ってからアリスさんが私の腕を抱き締めたままです。


「私も見ておきますカ。珍しい造りですシ」

「うん、皆で。ライゼさんとレイメイさんはどうしますか?」

「俺は寝とく」

「何でコイツはこんなに元気なんだ」

「言ってませんでしたっけ。操られていた間も活動をしていたから、怪我による消耗が殆どなだけみたいです」


 つまり先日戦った時と、王都でマクゼルトと戦った時の傷の分だけ消耗しているのです。その傷も命に障る程の傷でしたけど、アリスさんにかかれば問題ありません。私もこうやって、一日の活動が出来ていますから。


 ライゼさんの状態は、二十日以上床に伏せていた訳ではないので鈍っているという訳ではありません。今は、そうですね……時差呆けとも言える状態でしょう。意識がなくなっていた時と今との齟齬で、気疲れを起こしています。


「疲れはしたでしょうけど、着実に回復しています」

「おお、そうか。そんなら明日には修行でもすっか」

「私の診察次第です。もちろんリッカさまも、シーアさん、レイメイさんもです。何度も言わせないで下さいね」


 ライゼさんとレイメイさんは納得がいってないようです。いつもならば「アリスさんの心遣いを蔑ろにするなんて許せない」と言いたいところです。でも、レイメイさんの技術的な修行を一日でも多く取りたいという気持ちは解ります。


 ここが事実上の最後なのです。ケルセルガルドは魔法を使うだけで敵対されてしまう場所なので、交流すら持てないかもしれません……。素通りすら、視野に入っています。だから明日の朝が、修行出来る最後のチャンスという気持ちなのです。


「でもアリスさんの診察は受けて貰いますし、そこでダメと言われたらダメです」

(何が、でもなんだ)

(変わっとらんようで安心する一方で、リツカに感じた不安要素も変わっとらんのだろうな……。アルレスィアに話を聞きてぇが、二人は離れん。レティシアに聞くか)


「会議中申し訳ございません。到着しました」

「ありがとうございます。セルブロさん」


 セルブロさんが頭を下げ、扉をノックしました。


「カルメ様、皆様をお連れしました」

「どうぞ」

「はい。皆様、どうぞお入りください」


 扉が開けられ、私達は再びカルメさんと対面します。カルラさんの事を伝えましょう。アリスさんが、自身と似ていると称した方です。きっと、すぐにでもカルラさんの所に行く為の計画を立てるでしょう。でも私達はそれを、止めなければいけません。


「何か、お話があるようですね。先ずはそれを、聞かせて頂けませんか?」

「はイ。カルラさんの事でス」

「シーア姉様と姉様の秘め事を教えて頂ける、という訳ではなさそうですね」

「ある意味そうかもしれません」

「え?」

「エ?」


 シーアさんとカルラさんが決めた事であり、元老院に知られるわけにはいかない秘密です。もし知られると、エルさんとカルラさんが危険に曝されます。


「元老院に秘密にしないと、シーアさんの大切な二人が危険に曝されるのです」

(ア、そういう事ですカ。吃驚しましタ。大切なのは事実ですけド、巫女さんが言うと何というカ。違う意味に聞こえまス。それも全てはリツカお姉さんが意味深な言い方をしたからですけどね!)

「少し、早とちりをしてしまいました。リツカさんもお戯れを」

 

 カルメさんがくすくすと笑っています。これくらいゆったりとした心で聞いていただきたいです。



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