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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
50日目、お爺さんなのです
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名のない国④



 出来る事。私達がこの目で見て来た町をカルメさんに伝え、少しでも役立てて貰う、です。


「話は戻りますけれど、ミュルハデアルとミュスの問題はどうしましょう」

「姉弟喧嘩をしている所ですね。姉様と喧嘩している私には少し、耳が痛い話ではありますが……」


 カルメさんが苦笑いを浮かべ、扇子で隠してしまいました。カルラさんの事が心配なのですね。実際護衛をつけずに、今の王国に入ってしまう方です。心配なのは分かります。


「姉の方は、わらわと話せば分かってくれるでしょう。彼女は利を取りますので。何も問題はありません」


 確かに、話せば分かる雰囲気でした。ただ……”巫女”かどうかを聞かれてしまい、嘘をつく羽目になってしまったので……良い思い出ではありません……。


「問題は弟ですネ。争いを愉しんでる節がありますシ」

「はい。なのでわらわは躊躇いなく、”蠱惑”を使いますので」

「なるほド。あの粗暴者にはそれくらい必要ですネ」


 ”蠱惑”とは、人を強く魅了する魔法です。確かにそれを使えば、解決します。相手が無法者だからという訳ではありませんけど……シーアさんが粗暴者と称する人です。何より、姉弟喧嘩を続けているのは弟側……あの二つの町を見て見ぬ振りをした私には、方法に口出しする事は出来ません。


「姉様から聞いてますよね」

「はい。カルメ様の問いかけに答えると、”蠱惑”にかかると」

(姉様相手に沢山使ったから警戒されちゃったみたいなので。それにしても……結構危ないところまで話してるみたい。姉様、本当に気に入ったんですね)


 今の所、カルラさんが言う様な危険な香りは漂ってきません。カルメさんをどうして、あそこまで警戒していたのでしょう。”蠱惑”を使う事に躊躇しないのが危険なのでしょうか。


「でも普通に答えていますよ?」

「私の魔法は、私達にかかる魔法を”拒絶”します。()()()、カルメさんから敵意を感じませんから」

「……成程。流石は巫女様です。先の戦いも驚かされましたが……」


 カルメさんに深刻な問題があるようには、見えません。驚かされたというのならば、カルメさんのカリスマ性にです。”蠱惑”なんて必要ない程に人を惹き付けます。


「使う相手は極力選びますが、わらわは”蠱惑”を活用する事に躊躇いはありませんので」


 カルラさんは”蠱惑”を嫌っています。しかし、生まれ持った力を最大限活用するというカルメさんを、私が止める事が出来るはずがありません。王国の為に力を奮ってくれるのですから尚更です。


 人を操る魔法は良い物とは言えませんけど……極力選ぶという言葉を信じます。


「ズーガンやフぇルトの人達は、難しそうですけど」

「フェルトは人形製造所以外大丈夫です。ズーガンはまだ無理です……というより、あそこはディモヌ発祥ともいえますので」

「あそこから、デぃモヌ神話が始まったんでしたね……」


 この国作りにおいて、最も難しい場所となるでしょう。ズーガンを変えるには、デぃモヌを崩すしかありません。


「今はズーガン以外を正常に戻します。そうでなければ手遅れになってしまいますので」


 手遅れ……地図に書かれた、塗り潰された町の数々が見えます。今でこそ魔王は私達を潰すために動いてますけど……いつ他に目を向けるか分かりません。それに、魔王が管理出来ていないマリスタザリアも居るようですし……。


「エセフぁに居るデぃモヌ、ツルカさんとは分かり合えているのですけど……」

「だからこそ、エセファも難しいと思っています」


 ツルカさんの今を知っています。だから、デぃモヌから離れる事はないのではないかと考えられます。


「実は彼女については表側しか知りません。良ければ教えて頂けませんか?」


 カルメさんなら、解決してくれるでしょうか。金銭だけで済む問題なら良いのですけど……そうはいかないのです。


「ツルカさんは、両親を早くに亡くしてしまい、金銭的に困っていたそうです。そんな時に、角が生えて……」

「ディモヌに担ぎ上げられたのです。丁度その時、王都で戦争が起きました。そのお陰で周辺の悪意が消費され、マリスタザリアが激減したのです」


 昨日の事で、悪意は更に減っています。魔王も吸収を強めているかもしれません。そうなると、デぃモヌは更に崇められる。


「マリスタザリアが減ったのは戦争が関係していると思っていましたが……確かに、ディモヌ誕生と重なりますね。宗教らしき物はわらわが来た時からあったのですが、手を打つのが遅すぎました」

「アルツィア様のように伝説がある訳ではありませんからネ。それニ、元々は健全な宗教だったようですシ。危険視しなかったのはカルメさんの所為ではありませン」


 カルメさんが気にする必要はありません。デぃモヌの問題は……ある意味必然なのです。魔王の存在は神さまの調整阻害となり、マリスタザリアの増加が起きました。更に先代国王により、国は荒れたのです。それにより、世界に救いを求める声が増えました。デぃモヌはそこに現れた救世主。ツルカさんという伝説も出来ました。これは、必然だったのです。


「ツルカさんはデぃモヌである事に罪悪感を抱いてます。しかし、生活が困窮している事と、ディモヌが必要である事を分かっているので続けると言っていました」

「すぐにどうこうなる訳ではありません。しかし、角は切除した方が良いのですけど……」


 お金で解決出来ないのは、ツルカさんに責任感が見えたからです。詐欺に加担しているツルカさんは、デぃモヌとしての責務を果たしています。それにあの角は、病気によるものです。何れは治療しなければいけないでしょう。


「それなら……ツルカ氏は何とかなるかもしれませんね。問題となるのはわらわ達がアルツィア様を信奉しているという事だけですが、それも含めてわらわが直接出向くとしましょう」

「エ」


 私達の話で、カルメさんはツルカさんを説得する方法を見つけたようです。でも……直接?


「それは危険すぎまス。ここからだと落窪に近づいてしまいまス。貴女を危険に曝す訳にはいきませン」


 エセフぁに向う最短ルートは真っ直ぐに南下するのが良いでしょう。そうなると、大落窪が見えてきます。マリスタザリアが居なくても危険な場所です。近づくのはお勧め出来ません。


「姉様との約束なら大丈夫ですよ。ちゃんとシーアさん達は約束を果たして」

「いいエ。カルメさんを危険に曝したくないって話でス。約束の事は別の話ですヨ」

「約束だけならカルメさんを見つけた時点で果たしています。後は連絡を入れるだけなのです」

「私達は、カルメさんが心配です。戦う力がない事も知っていますから」


 友人の妹、というだけではありません。私はカルメさんに、北部の命運を賭けたのです。無事に成し遂げて欲しい。


「護衛は多めに連れていけよ。化けもんだけが敵じゃねぇぞ」

「エセファか、懐かしいな。お前を拾ったのはその辺りだぞ」

「何さらっと言ってやがる。聞いてねぇぞ」

「初めて言ったからな」


 むしろ、カルメさんにとっての敵はデぃモヌです。教祖に存在を知られれば、どんな妨害に遭うか……。


 言いませんけど、私達はカルメさんが心配なのでライゼさん達には反応しませんよ。


「……姉様にも、そう言ってそうなので」

「カルラさんも護衛を付けずにこの国に来ていたのデ、提案させて頂きましタ」

(姉様、もしかして……? そうなると……いえ、シーアさんも綺麗な瞳をしています……わらわとしても、ええ。お気に入りです。皇姫ならまだしも、わらわ達以外にこんな瞳をした人たちが居たなんて)


 カルラさんもカルメさんも、自衛手段がないというのに行動力がありすぎです……。皇姫様の特徴だったりするのでしょうか。自分の身を守る事に注力して欲しいと思います。


「護衛はしっかりとつけますから安心してください。シーア姉様」

「エ゛?」

(今何と?)


 親衛隊という方達も、国民も、カルメさんを大切に思っています。自分の身を守っていると見せるのは、国民達の安心にも関わります。これからもご自愛して欲しいと思います。


 それと……聞き間違いでなければ、シーア姉様と呼び方が変わりましたね。


「良かったね。シーアさん」

「リツカお姉さン?」

「末っ子じゃなくなったよ」

(あのー、リツカお姉さん。そういう事じゃないんですよ。これは)


 カルラさんの時も、末っ子になってしまって残念そうにしていました。ただ……カルメさんのスタイルは正直私より良いので、カルラさんもシーアさんもカルメさんの妹に見えてしまったり。


「カルラさんへの連絡は私がしても良いですか?」

「ダメでス。巫女さんだけはダメでス」

「じゃあ俺なら良いか」

「お師匠さんもダメでス。分かってるでしょウ。分かってないけど分かってるでしょウ」


 カルラさんへの連絡を巡って取り合いが起きています。シーアさんが絶対したいようで、アリスさんもライゼさんも断られています。


「サボリさんもダメですヨ」

「何も言ってねぇだろ」


 今の所全員ダメですね。私もそうなのでしょうか。


「じゃあ私は?」

「リツカお姉さんなら良いですヨ」

「え」


 断られると思ってたんですけど……ちょっと肩透かしを受けた気分です。アリスさん達と私で可否が分かれたのは何でなんだろう……? 少し残念です。


(断って欲しかったんですね。可愛らしいリッカさま)

「アハハっ! 素敵ね。わらわも姉様に会いたくなってしまいました……まだ怒ってるでしょうが」

「会えますヨ」


 カルラさんは怒ってなどいません。むしろ、気にかけていました。呼べばすぐに来てくれるはずです。そこで是非、仲直りして欲しい。でも出来るなら……北部の統治はして欲しい、と思うのは……利己的すぎますね……。


「フフ……国作りもなんとかなりそうです」

「良かったでス。お兄ちゃん……コルメンス陛下には私からも一言添えておきましょウ」

「ありがとうございます。シーア姉様」

「嬉しいような……複雑ですヨ」


 コルメンスさんにとっても、悪い話ではありません。貴族を排斥しておいて、と言われるかもしれません。でも……北部はもう、壊滅寸前なのです。北部の半分以上がマリスタザリアにより滅ぼされたんです。だったら今はすぐにでも、正しい統治が求められます。


「カルメさん。よろしくお願いします」

「お任せください。リツカさん。カルメ・デ=ルカグヤが、貴女方の献身を無駄には致しません」


 頼むしか出来ない。”巫女”の名を語らずに、遠くから見ていただけの私の言葉を、受け入れてくれます。


 私は私の”お役目”を果たしてみせます。その事が、カルメさんの手伝いになると……思いますから。



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