二人のギルド生活②
(タイミング悪すぎっ!)
加工場側と、男側。男側は、緊急性はないかもしれません。もしかしたら、違うかもしれない。
でも、加工場は確実に居ます。悪意の質は確実に上がっています。それが、魔王が力をつけているのに影響されているのかは……分かりません。
兎に角、今までより確実に――強い。
(アリスさんに、男側に行ってもらう……?)
男側なら、アリスさんの光の槍ですぐしょう。しかし……。
(無抵抗で、まだ疑惑の段階の人に。攻撃させる)
そんなことさせられ――。
「リッカさま」
ビクっと肩を震わせ、私はアリスさんを見ます。
「私が、加工場へ行きます。リッカさまは、リッカさまの思うままに」
「それも、ダメ。アリスさん一人で行くなんて、ダメだよ」
食い気味にアリスさんの提案を却下します。私は、アリスさんを守るために――。
「リッカさま。私は、盾です」
でもアリスさんは、厳かに、告げました。
「加工場側には人が居ます。守るための盾が必要です。私がいきます」
この声音のときのアリスさんは、折れません。
「ご安心ください。リッカさま。私は死にません」
そして、いつもの笑顔で宣言するのです。
「私は、リッカさまに守られているのですから」
「――っ分かった。私が行くまで、持ちこたえてて」
そして、お互い”疾風”の魔法を発動し、地面を駆けました。
(掌底で光を撃ち込もうと思ったけど、仕方ない)
そう思い、木刀を手に取ります。
「私の剣に光よ……!」
木刀が光り輝き、私の瞳とローブの紋様から赤い魔力光が煌きます。
”強化”はまだいらない。人を木刀で打つだけでも死に至らしめるかもしれないのに、”強化”なんかできない。
”疾風”の魔法で、高速で近づき、男の正面へ周ります。
「――なんだぁ!? てめぇ!!」
男がとっさに魔力を込めたのでしょう。少し、薄い黄色のような魔力が流れでます。
そして、男が剣を抜こうとしますが――それより早く私は、胴撃ちの要領で腹を、打ちます。
「ごっ!? ……っ」
男は、うめき声を上げ沈黙しました。
「……?」
男は意識を失ったはずなのに、男の魔力が出続けます。しかし、その色は先ほどの黄色ではなく。
「黒い、魔力……?」
魔力が色を変える?
その魔力は、男から全て出たのか、雲のような塊となり――スゥーと、消えました。もしかして、あれが……。
「あれが、悪意? ……ってこと」
どうやら予想は正しく、人間憑依型マリスタザリアは……私では、わからないようです。
(対策は、あと……。急いでいかないと)
後ろを振り向くと、王国を取り囲む様に聳え立つ城壁と同じか、それ以上の――銀色の壁が出来ていました。
「あれが、アリスさんの本気の盾……?」
あまりの大きさに、驚いてしまいます。
「とにかく、急がないとっ」
木刀を構えなおし集中します。”強化”の魔法をかけた上での最速の”疾風”で駆けつける!
「私に更なる強さを……!!」
集落の時に始めて発動した時より、さらに強い力が私の中からあふれてきます。
練習の際、確認していたことがあります。オルイグナス中、どうにかして剣を使えないかと木刀を咥えて剣を持ってみました。剣へ意識がいってしまったせいか、魔法がとけてしまったのです。
その代わり、武器を持たない徒手空拳であれば……六秒くらいなら維持できました。これだけ、分かっていれば今は問題ありません。ついた瞬間、助太刀できます。
”疾風”を発動し、駆け出します。
先ほどは、三、四メートルずつじゃなければ体が持ちませんでしたけれど、十メートルを超えても余裕があります。私の”疾風”適性では、その全てを生かしきれない程力を持て余していました。
これなら、もう着く……!
私がアリスさんたちを見れる位置までくると――すでに人々はアリスさんの盾の中に居り、守られていました。
「っ……くっ」
無理をしているのでしょう、アリスさんが苦悶の表情をしています。
そして、アリスさんの盾を叩き続けるホルスターンのマリスタザリア。集落のより、更に大きいそれが、アリスさんを蹂躙しようと、盾を叩き続けています――。
私の頭が、冷えていきます。
「私の掌に光を」
静かに、それでも心は猛々しく。私はまず、アリスさんの盾を冒し続けるあの行動を、つぶすことにしました。
私は今、”強化”を全力発動中であり、剣を使えません。なので、私は木刀を口に咥えます。
「――っリッカ、さまっ……!」
アリスさんの盾に添うように疾走し、敵と盾の間に体をいれます。
突然現れた私に、敵は驚愕することもなく……ニヤァと、あの時の……アイツと同じ顔をします。
ですが、私があの時と違うのは――私は最初から、怒っているということです。
標的を変えた敵は私に拳を叩きつけようと、全力で殴りかかります。私はその拳を撫でるように、相手の懐に入り込むようにして避け、その腕を、”強化”と”光”の魔法を纏った手で掴みます。相手の力を殺すことなく流すようにして、投げ――。
(地面に――叩きつけるっ!!)
ドォっと、そこで爆発がおきたのかと、思うほどの轟音と衝撃が周囲へ広がります。
投げた反動を使い、私は宙返りしながらアリスさんの元まで飛び退きました。
口にくわえていた木刀を離し、魔法を解きます。そして剣に持ち直し、”強化”の魔法を通常発動し、次に備えるのです。
「リッカさま、こんなに力……。っ」
「相手の力で投げたから、私はほとんど、力使ってないよ」
アリスさんを驚かせてしまったようです。でも、怒った私の頭からは、手加減という文字は消えていました。叩き付ける際に、今の全力を使い叩き付けてしまいました。
「リッカさま、頬に――っ」
そういわれて、気づきます。避けた際、ギリギリを通ったせいでしょう。擦り切れ、血が流れていました。
「……私の魔法は、防御力は上がらないから」
結構な出血なのか、地面にポタポタと落ちています。でも今は、私は二の次です。
「アリスさん、皆の避難を」
ここにこのまま居られては、第二第三のマリスタザリアが生まれてしまいます。
「治療が先ですっ!」
アリスさんが魔法を発動させようとします。
「アリスさん、今は……ダメ」
私はアリスさんを手で制して、言葉に強い意志を込めます。
「っ――わかりました。すぐ戻ります!」
アリスさんなら、これでわかってくれます。敵にダメージはなく、すでに相手は戦闘態勢であると。
「さぁ……今度は痛いよ……?」
いつでも避けれるように、剣を横に構え――対峙します。次は一撃でその首を――――。
「グモ゛……。フィ、フィア……」
「……?」
敵が、しゃべって――?