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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
50日目、お爺さんなのです
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『グラハ』より遠く⑦



「あの、王国選任って事は、王都から来たんでしょう?」

「はい」

「でしたら、少し話を聞いて下さいませんか」


 レイメイさんは良い顔をしないでしょうけど、依頼されたからには躊躇なんて必要ありません。時間は有限なれど、私達を必要としてくれる人には手を差し伸べたいです。


「どうしました?」

「王都の方には珍しい光景だったと思うのですが、どうでしょう。この町は」

「確かニ、銅線が張り巡らされていて驚きましたけれド」

「あれは、魔道線です」

「魔道線、ですか?」


 名前通りなら、魔法が通る道、ですね。


「その名の通り、魔法を通す効果が強い素材で出来ています」

「それは凄いでス」


 シーアさんがズイっと前に出ました。


(私達の刺繍とは、違う感じかな)

(近い物ではあると思います。アルツィア様が作った世界で、私達の様な魔法持ちが生まれました。アルツィア様の特性を持った鉱物が生まれていても、不思議ではないと思います)

(もしこの線が本物だったら、かなり使えるんじゃないかな)

(恐らく町長さんは、その事を話そうとしているのでしょう)


 もう少し、町長さんの話を聞きます。

 もし神さまの髪と同じ性質を持った鉱物ならば、魔法補助具として有効すぎます。魔法の通りを良くする。それは正直、私達も欲しいかもしれません。


「通すというト、ここからあの山まで”水流”や”爆裂”を届ける事が出来るという事ですカ」

「はい。銅線の先を対象に通しさえすれば、発動出来ました。見てやるよりは威力が落ちましたが……」

「それは対象を想う事が出来なかったからですネ。一度見たところであればいつも通りの威力でいけるはずでス。そうなると今までは何人も使って回していた場所ヤ、危険だけど仕方なくやっていた作業などヲ、下見をするだけで完璧にこなせるという事になりまス。一気に生産性と安全性を上げられますネ」


 私の森馬鹿同様、シーアさんの魔法研究には底がありません。何より、生産性安全性となると、共和国発展にも役立つ事でしょう。


「町長さんはそれを王都に売り込みたいんですネ」

「え……あ、はい。その通りです」

「私の方からお願いしたいくらいでス。もっといえバ、共和国にも流していただきたく思いまス」

「よ、よろしいのですか!?」

「はイ。私は王国選任ですガ、共和国の人間でもありまス。しっかり話を届けますのデ、是非」

「願ってもない事です!」

「ありがとうございまス。その代わりと言っては何ですけド、商品を見せていただいてもよろしいですカ。後、王国と共和国で独占したいでス」

「ええ、もちろんです! 二つの大国へ卸せるのなら!」


 商談? は終わったようです。任務には変わりありません。王都と共和国へしっかりと伝えましょう。


 シーアさんが言ったように、この魔道線には夢が詰まっています。遠距離から魔法を通す。言うは易く行うは難し、です。この魔道線。もしシーアさんの思った通りの代物なら……化けます。


 発破作業を現場でやっていて、怪我人死人を出していました。しかしこの魔道線があれば怪我人知らずです。”水流”による用水路、生活用水管理も現場に行く必要がありません。そして、これは予想ですけど……攻撃魔法にも使えます。ここから岩山の敵へ攻撃魔法を届かせる事が可能です。目視は必要ありません。A地点に大きな爆発を起こしたい。これを想い、魔道線に通すだけです。想いが届きます。


「誰よりも先に私達が見つけられて良かったです」


 シーアさんがぼそりと、私達にしか聞こえない声で言いました。


「もし連合に見つかっていたらと思うと、冷や冷やですよ」


 だからこその、独占。シーアさんは先を見ています。魔道線の重要性と危険性をいち早く気付き、自らのペースに持って行きました。流石の手腕です。


「あの、実はこの辺りの調査をしようにも地図が埋まっていなくて、困っているのです。この地図にない町をしりませんか」

「ふむ。確認いたしましょう」


 シーアさんの商談のお陰で、友好度が上がっています。今のうちに聞いておきましょう。


「申し訳ございません。ここに記されている以上の町を、私共も知りません……」

「いえ、ありがとうございます」

「お力になれず……」

「いえいえ、助かりました。それに、この魔道線は必ず王国の発展に役立ちます。そうなれば、北部の支援も行き届くと思いますよ」


 国内整備は格段に進みます。整備が進めば、支援だって出来ます。


「コルメンス陛下はエルヴィエール女王と連携して支援活動の計画を進めていまス。もう暫くの辛抱ですヨ」

「本当ですか……!?」

「はイ。必ズ」

 

 信じてくれ、というのは無責任かもしれません。でも必ずや成し遂げます。魔王さえ斃せれば、いくらだって……っ!


「……王都という事は、その」


 言いたい事は、分かります。


「ディモヌの件ですか?」

「はい……我々は、迷っています。金銭問題さえ解決できれば、傭兵を雇えるものですから」

 

 神さま信仰。私達がそうと思っていても、迷っていると宣言する。これはつまり、それほどまでに深刻という事です。


「金額は高く、壺等の詐欺紛いな購買も行われています」

「やはり……」

「しかし、傭兵に関してはしっかりと、守ってくれるはずです」


 これは、私達の想い。金額は高く、確かに苦しい……。しかし、命が第一です。


「王都の支援が届くまででも良いです。どうか、生きる為の選択をして下さい」

「神さまは、生きる事を望んでいます。例え自分が信仰されていなくとも、皆さんが生きて、人生を全う出来る事を願っています」

「迷う事はありません。生きるのに必要ならば」


 本心です。神さまもきっと、こう言います。私達が魔王を斃し、王都が本格的な支援を開始するまでどうか……。


「……分かり、ました」

(どうして、このお二人はこんなにも……。まさか……? そんなはずは……でも……ディモヌの信徒が説いた言葉よりずっと、信頼出来そうだ……)


 命を守る選択を取る。そう決断してくれました。心苦しく思います。身を削る程のお金を使わせる事に……。ですけど、耐えて下さい。必ず、成し遂げてみせます。祈りの必要ない世界を……っ!


 


 見せてもらった魔道線は本物でした。シーアさんがその場で百メートル分買った程です。船の改造をすると、スキップしそうな喜び様で言っていました。


 正直、利権問題で揺れると思われるこの世紀の大発見。元老院をどうにかしなければ共和国とは揉めそうですね。


「掘り出し物という奴でス。すみませン。持たせてしまっテ」

「ん、大丈夫。”強化”状態の私はその辺の男性の百倍だから!」

「体の耐久度は筋肉質の成人男性程にしかなりません。痣にならなように気をつけて下さい。残したりしませんけど、一応気をつけて下さい」

「う、うん」


 シーアさんのほくほく顔と共に、私達は船に戻ります。銅線とはいえ百メートル分です。私が持ってたりします。魔法を使う事に難色を示したアリスさんですけど、”強化”だけは許可を貰いました。


「値段どれくらいになるだろ?」

「使い方を間違えると、廃れそうですね。それらを解決出来れば、一メートル、七百八十ゼルは堅いかと」


 七百八十……シーアさんは百メートル……外食代や宝石代もそうですけど、シーアさんの資金ってどれ程……。いえ、気にする所はそこではありません。


「コルメンスさんとエルさんの説得は問題ないだろうけど、元老院は大丈夫かな」

「共和国発展の為に必要な物でス。許可くらいもぎ取りまス。今までもそうしてきましタ」

「元老院がシーアさんを嫌うわけですね……。理詰めで、シーアさんの方が正しい事を言うから、元老院の立つ瀬がなくなるのでしょう」

「年だけ重ねたお馬鹿だからいけないんでス」

 

 大人は立てろ。良くそういった言葉を聞きます。しかし、シーアさんが言う事が間違っているとも思えません。これは私がまだ、責任を伴わない未成年だったからそう思えるのでしょう。しかし今だからこそ、少しだけ元老院の気持ちも分かります。


 思い通りに行かない事が、世界には多すぎます。言うは易く以下略。ここでもそうです。出来ない事をやり抜く。それが出来る事の方が……少ない。でも私は、シーアさんを応援しています。元老院に負けないで欲しい。その為の手伝いもします。


 シーアさんが目指す世界はきっと、優しさで満ちています。アリスさんの世界と一緒です。だったら私は迷いません。この魔道線が、世界を繋ぎます。繋いで紡いで、平和を作り出すのです。



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