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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
50日目、お爺さんなのです
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『グラハ』より遠く⑥



 マクゼルトが接触を図ったヨアセムが居た、最北端の村人達。北西へと行く道すがら寄ってみるとしましょう。魔法を見ただけで襲ってくるという新情報は役に立ちます。


「森林地帯らしいからな。船は手前までだぞ」

「構いません。その村に寄った後、船に戻って北西へと向います」

「私の広域なら、近場まで行けば分かるはずです」


 嫌な予感も、きっとしてくれます。


「さテ、お二人が片付けをしている間にグラハに向いますカ」

「俺が運転してやろうか。戦いは暫く出来んが、雑用くれぇなら手伝える」

「やめろ」

「あん?」

「止めてくださイ」

「止めた方が良いです」

「睡眠薬を取ってきます。ライゼさんにはもう少し眠って貰いましょう」


 大切な船を壊すわけにはいきません。王室用の特別製ですし、まだまだ旅には必要なのですから。




 一段と黒さを増した城に、三人の姿がある。マクゼルトと少女、そして魔王だ。


「ゴホルフが死んだようだ」

「そうか」

「ごっふーまけちゃった」


 悲しげな声を上げたのは少女だけだが、空気は重い。


「何か残せたのか」

「人間の人生において、何かを残せる者は多くない」


 魔王がもったいぶる様に話す。普段ならば急かすマクゼルトだが、今日ばかりは違うようだ。


「だが、俺等はマリスタザリアだ」


 いつも出会えば口喧嘩をしていたが、人間からマリスタザリアとなった者同士という事で気の合う所もあった。


「仕込みは全て巫女に潰された、が。()()()と言うべきか、ゴホルフに伝えていなかった事は分からなかったようだ」

「抜け目がねぇな。何を仕込んだ」

()()()()()


 リチェッカ。魔王がそう言うと、座り込んでいた少女が顔を上げた。


「んー?」

「どうだ」

「”きょぜつ”ってすごいね。あなぬけだよー」

 

 少女リチェッカが取り出したのは、ゴホルフが使おうとした物と似た紙だった。魔王が指を曲げると、紙がひらりと舞い上がり、魔王の手に収まった。


「”傀儡”のついでに”投影”も拒絶したようだな。その際ゴホルフの記憶が引き裂かれたようだ。手加減のない”拒絶”の力か」


 紙を受け取った魔王が、それを読んでいく。殆ど読み取れないが、【アン・ギルィ・トァ・マシュ】を使えた事、能力が上がった事が書かれている。内容までは判らなかったようだが。


「ゴホルフの表皮を斬れる程に高めたようだな。自己強化系か。計画通り進んだ上での敗北だ。万全であれば我に届くか」

「まおーよりつよい?」

「そう考えておく必要があるだろう」


 リチェッカが立ち上がり、扉へと向う。


「何処行く」


 マクゼルトが声をかける。心配そうな、面倒くさそうな声だ。


「んー、ちょっとね」

「あん?」

「マクゼルト、良い」


 訝っているマクゼルトを魔王が止める。


「剣が折れたら帰って来い」

「はーい」


 リチェッカが闇に溶けていく。まるで近場の公園に行くかのように、無邪気に、楽しげに、ゴホルフの死すらも楽しみに変えたような、気軽さで。


「最期の最期に、愚かな」


 ゴホルフの記憶が書かれた紙を黒い炎で焼き尽くす。そして炎は、魔王に還っていった。


「命令違反するなっつったのは、アイツなのにな」


 マクゼルトは無造作に座り、頭を掻く。


 魔王は、ゴホルフが出立する際一つ命令をしていた。リツカが進化を見せたら帰るように、と。その進化は確実にお前を殺すとも言っていた。だがゴホルフは優先させた。自身の計画を信じ、魔王への手土産としてリツカの首を持ち帰る事を。


「そこで見ているがいい、ゴホルフ」


 魔王が目を閉じ、自らの闇を広げていく。城が更なる闇に染まる。悪意を放ち、より強固な場を形成する。


「直に終わる」


 隠れなければいけないはずの魔王が、自らの存在を主張する。”巫女”を待ち受けているのは――明白だった。




 睡眠薬は断られました。その代わり、大人しく甲板で周囲を見てくれるそうです。


 片付けを一通り終えた頃にはグラハについていました。元々昨日のうちに、少し近づいていたそうです。


「ありえねぇ」


 甲板に出ると、レイメイさんが断固とした決意で何かを言っています。


「仕方ないでしょウ。もう空きがないんでス」

「お前ぇのゴミの所為だろが」

「ゴミじゃないでス。ゴミだったら捨てられてまス」

「どうしたの?」


 シーアさんと言い争っているようですけど、正直いつもの事すぎて、緊迫感に欠けます。


「俺の部屋についてなんだが」

「ああ……」


 空き部屋なんてありませんし、入れそうな部屋はレイメイさんの所でしょうか。それが嫌なんですね。


「昨日一緒に寝たんですし、良いじゃないですか」

「それは仕方なくだ。今後は別けろ」

「部屋が無いのですから、諦めてください」


 一つの部屋で寝るくらい、どうという事はないでしょう。赤の他人ならばまだしも、親子じゃないですか。レイメイさんも大分丸くなり、ライゼさんの事も理解してきたと思ったのですけど……本人を前にすると照れるのでしょうか。


「俺は甲板でも良いぞ」

「怪我人が何言ってるんでス。最近寒いんですかラ、それは許しませんヨ」

「今は問題ありませんけど、夜中に痛み出すかもしれません。その際誰か傍に居ないと困ります」


 看病役はまだ要るみたいです。寝る場所くらいで諍いが起きるなんて、平和ですね。


「私の部屋でも構いませんけド、サボリさんの部屋の方が安心出来るでしょウ」

「子供とはいえなぁ」

「アンネさんも居ますしね」

「お、おう」


 シーアさんが、私とアンネさんの確執を話したようですね。ライゼさんが微妙な反応を見せました。ライゼさんが帰って来れそうなのですから、もう解決しているようなものですよ。アンネさんとの約束は果たしました。後は王都に連れ帰るだけです。


「私達が帰って来るまでに決めておいて下さい」

「ああ」

「サボリさんの部屋以外に選択肢はないですけどネ」

「絶対ぇ譲らねぇぞ」


 本人達で話し合って下さい。私達はグラハへ降ります。




 グラハは三角だったと思います。それにしても……驚きですね。電線が通っています。あれは、銅線でしょうか。


「あの線って何でしょウ」

「んー。向こうの世界の、電線に見えるけど」

「各家庭に電気を届ける役目をしているんでしたね」

「うん。でもこの世界だと」

「電化製品という物はありませんかラ、電気を通している訳ではないですネ」


 気になるところですけど、まずは感知とカルメさんです。広域は魔力を使用するので、今日は使えません。散歩がてら見て回りましょう。


「神隠しはどうしましょウ」

「別件の誘拐って可能性もあるから聞いた方が良いんだろうけど……」

「神隠しは魔王の所為、これは確実と思います。魔王に直接問い質すのが一番と、リッカさまと私で考えてみました」


 これは一応、確定事項です。魔王は色々やっているという確証も、ゴホルフから得られました。ならば直接問います。子供達に何をしたのかを。絶対に魂を、返してもらいます。


「では私もその考えを支持しましょウ。別件ならまだしモ、神隠しだと現状解決出来ませんからネ」

「怪しい時は聞くけど、今の所困ってる人や子供は見当たらないし、ね」


 今は兎に角、前に進みます。一日でも早く、です。


「じゃあ、町長さんの所に。ここは三角だから、ある程度自由に動ける、かな?」

「ボフやズーガンよりは大手を振ってあるけると思います」

(お二人の場合、丸三角関係なしに目立つんですけどねぇ。本人達も気付いてるでしょうに、各々変な所でズレてます)


 町民の一人に尋ね、町長さんの元に向います。この町、結構広いです。岩山があるのですけど、そこの奥まで家が点々とあります。これでは、時間がかかりすぎますね。少し感知範囲を広げましょう。戦闘中でなければ負担にはならないはずです。


「ごめん下さい」


 町長さんの家に着くころには、殆ど感知し終えました。残りは岩山の方です。しかし、あの山……元は森林だったはず。削りすぎて木々が枯れ果てたようです。何か鉱石が取れるのでしょうけど、残念な事ですね……。


「はいはい、どちら様ですか――」

「王国選任冒険者です。少々お尋ねしたい事があり、参りました。お時間を少々頂けませんか」

「は……はい。何でしょう」

「異国からやってきた少女を探しています。黒髪の美少女です」

「いやぁ、見てないですな……」


 後二つ、ですか。最北端にあるというケルセルガルドには居ないでしょうし、カルラさんに良い報告が出来そうにないですね……。



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