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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
50日目、お爺さんなのです
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『グラハ』より遠く⑤



 何とか、何とかいつも通りの自分に戻れました。今日の予定を完遂するには、あのままでは出来ませんから。


 食事をしながらもう少し、昨日の事とライゼさんへの聴取を続けましょう。


(……何だこの、茶色の液体は……食い物なんか……?)


 まさか、おかゆに漢方の粉末を入れるとは。ライゼさん、食べられるでしょうか。結構苦味が強いのですけど、私は美味しかったですよ。


「ゴホルフってのが伝えようとしとったのは、どんな情報だったんだ」


 逃げましたね。食べないといけませんよ。アリスさんの料理を残すなんてありえません。


「リッカさまの戦闘技術、魔法を上方修正していました。そしてアン・ギルィ・トァ・マシュについての考察です。私が見た限り、そのどれもが正確でした」


 自分を律する。その点においてアリスさんはもはや、仙人です。私よりずっと、自分をコントロール出来ますから。凛とした表情で話す姿……綺麗です……はっ。


「処分したか?」

「調理場で燃やしました。手元に置くには危険すぎます」


 私が思いっきり関係している話なのに、何を浮かれて……。切り替えないと。えっと、切り替え……どうすれば、桃色な思考から抜け出せるのでしたっけ。


「リツカお姉さんの情報ですカ。ゴホルフにはしてやられましたネ」

「知ってるからって、あんなに避けれるのか?」

「全く知らないよりは、避けられるでしょうね。それに、気付かないうちに癖が出ちゃってたみたいですから」


 ゴホルフとの戦闘を思い浮かべた事で、切り替えられました。今日の私、今までで一番だらしないです。少し深呼吸します。ゆっくり、深く、長く…………よし。


「剣士娘は実戦経験が少ねぇ。一番効率が良く、かつ自信のある戦法に寄るのは仕方ねぇ事だ」

「普段通りなら癖を見せる事なんてしないんですけど……」

「それが出来なくなる程苦しい状況だったんだと言っとる」


 確かに、追い込まれている感覚はありました。だからといって、平常心を失くす事はありません。でもそうではありませんでした。私は、苦しかったのでしょうか。


「片腕で頼りねぇかもしれんが、負担は減るだろ。頼れ」

「ありがとうございます……」

「よろしくお願いします。ライゼさん」


 戦う気満々ですけど、ライゼさんは戦えるのでしょうか。マリスタザリアのような力を持たされていたから、片手でも大丈夫だったんじゃ……。


「疑ってんな? 怪我が治ったら朝の鍛錬って奴に付き合ってやるよ」

「それは、助かりますね。私は魔法の練習に時間を割きたいと思っていたんです」


 これ以上私の癖を見せるわけにはいきません。私を研究したゴホルフは死にましたけど、魔王が同じ事をしないとは言い切れないのですから。ならば、私を見せるのは極力少なく、です。魔法を高めるために瞑想に当てます。それ以外は、体力作りです。


「いや、あんさんの疑念にだな」

「戦えるとライゼさんが言ったのですから、それ以上疑いませんよ」

「お、おう」


 ライゼさんは意地だけで戦えるなんて言いません。戦いとは命がけであるという考えの下、生き残る為の戦いをしなければいけない、というのがライゼさんの流儀です。命を捨てる事はしません。


「俺の意見は聞かねぇのか」

「基礎体力と受身や回避は様になってきてますけど、技術面は私から教える事は出来ません。既にレイメイ流を齧っているのですから、ライゼさんから教えてもらうのが一番です」

「剣士娘は力のねぇ体でいかに斬るか、って技だ。これは才能だな。普通の奴なら腰が捻じ切れる」


 それは言いすぎではないでしょうか。体の使い方には自信がありますけど、常人には出来ない動きと言われると……そう、かもしれませんね……。でも捻じ切れるは言いすぎです。


「俺等じゃ真似出来んし、説明されても理解出来ん。先読みが出来るようになったと聞いたからな。お前が出来る範囲の回転斬りを教えてやる」

「……ああ」


 ライゼさんも私と同じく回転して斬ります。ただ、私が足首から膝、腰と各関節部を回転させていき剣先に力を伝えるのに対し、ライゼさんの回転は普通の回転です。先読みと体捌きで対マリスタザリアの攻撃としています。普通の人が回転斬りなんてしたら、殴られて終わりです。


「じゃあ今度から私が戦う必要はありませんネ」

「何だ、魔女娘とも戦っとったんか」

「二戦やって、シーアさんの二勝です」


 アリスさんが飲んでいるのは、私が入れた緑茶です。ノイスで買ったものですけど、まさかこんなものがあったとは。自分で回ってみたかったですね。ちょっと後悔です。ほっと一息ついて和んでいるアリスさんを見るに、おいしく入れられたようです。ここ数日寒いですし、温かい飲み物で温まって欲しいと思います。


「ボロ負けか」


 ライゼさんがカカカッと大笑いしています。


「二戦目に関しちゃ文句しかねぇぞ」

「戦いで言い訳なんてみっともないですネ」


 今度はシーアさんが、クふふふと笑みを見せています。


「魔女娘も加われ。あんさんも近接攻撃をしてくる相手の修行してぇだろ」

「そうですネ。近づかれたら大変って昨日実感しましタ。何度お師匠さんに殺されると思った事カ」

「そりゃすまんかった。どういった操作をされとったか判らんが、あんさんを多く狙ったって事なら、あんさんを警戒しとったんだろうなぁ」


 シーアさんが天敵とゴホルフは言っていました。だとしたらライゼさんは、シーアさんを狙うように操作されていたのでしょう。


「気にしているというのなラ、お店でご飯奢って下さイ」

「財布なんか持ってねぇぞ」

「そうでしタ。じゃあ王都でという事デ」

「一万以内な」

「ええー」


 似たような光景を見たような。金額指定する当たりしっかりしてますよね。十品と言って、高級食事処で泣きを見た人が居たような。

 

「まァ、私の怪我の殆どはマリスタザリアですけどネ」

「俺に感謝しろよ」


 シーアさんをライゼさんから守っていたのは、レイメイさんのようです。シーアさんはアリスさんの”盾”に入っていても良かったと思うのですけど……もしかしたら、アリスさんに火の粉がいかないように外に出ていたのかもしれません。本当に、感謝しかありません。


「それは、ええ。感謝しています」

「こっちの言語使えや」

 

 一人加わるだけで、賑やかさが段違いです。静かな旅も好きですけど、こういった、楽しげな雰囲気が溢れた朝の時間も悪くありません。



「操られていた間の記憶はないんですよネ」

「すまねぇな……。欠片も覚えてねぇ」

「覚えてたら、こんなに簡単に返してくれなかったかも?」

「まず生かしていないと思います」


 ライゼさんから情報を取ることは出来そうにないです。傷口から、幹部の練習相手というのは分かったので……とりあえずは、良いですかね。


「ライゼさん。食べてくれないと片付けが出来ませんよ」

「い゛」

「もしかして、アリスさんの料理を残そうっていうんじゃ」

「魔女娘」

「私は食べても良いですけド、お師匠さんに出されたものですかラ」


 見た目に引っ張られすぎではないでしょうか。おかゆは確かに、私が提案したものです。しかしこちらの世界にも、リゾットのような食べ物があるとアリスさんは言っていました。苦味が強いだけで、美味しいのですよ?


「ツェッツ」

「俺はもういらん」

「相変わらず小せぇ胃だな。そんなんじゃ強くなれんぞ」

「少食で小せぇ赤いのが居るんだが」

「チッ……強かになりやがって……」


 怪我人ゆえに、多少は気を使っていましたけど、そこまでいくと私の限界というものです。


「いい加減にしないと、流し込みますよ」

「え!?」


 冗談だったのですけど、驚きの声が上がりました。しかもライゼさんではなく、アリスさんです。


「ライゼさん。早く急いでください。シーアさんの”水流”で流し込まれたいですか。早く、リッカさまが行動する前に、早くです」


 鬼気迫る、そういった感じです。やはり残されるのは悲しいものです。アリスさんの料理を無駄になんてしたくありません。


「早く食べた方が良いですヨ。あれは本気の目でス」

「みてぇだな。剣士娘め……無自覚になんて事言いやがる…………ん? うめぇな」

「下さイ」

「もう遅ぇ」


 ほら見たことですか。アリスさんが料理で遊ぶはずがないでしょう。


「食事を終えたらグラハへ向いましょう。ライゼさん、グラハについて何か知りませんか?」

「あん? どの辺だ」


 アリスさんが地図をライゼさんに見せています。ノイスまで包丁を売りにいっていたライゼさんですから、この辺に少しは詳しいかもしれません。流浪の旅と王都での冒険者活動の中でも、聞く機会があったかもしれませんし。


「ノイス以外は知らんな。というより、ノイスより北に行った事がねぇ」

「使えねぇな」

「用がねぇと行かねぇよ。ノイスにしても親父の伝手だったしな」


 ライゼさんも、北に関しては余り知らなかったようです。だから注意するように伝えるくらいしか出来なかったんですね。


「神さまの信仰がないっていうのは」

「ああ、商人から聞いた。奴等はすげぇぞ。冒険者より冒険しとるからな」

「本当にこいつは怪我人なのか?」


 カラカラと笑うライゼさんを指差して、レイメイさんが疑問を呈してきます。話の腰が……。


「ライゼさんが帰って来て嬉しいのは分かりますけど、とりあえず話をさせてくださいね」

「はあ!? 頼れとか言った癖に何も出来ねぇ阿呆に」

「もっと詳しく教えてくれませんか。あの時はまさか、本当に北に行くとは思ってませんでしたから」


 レイメイさんはとりあえず無視しておきます。後ほどゆっくりライゼさんと話してもらいましょう。


「詳しくっつってもな。魔法で荷物運んどったら襲われたらしい。そんで理由を聞いたら、神の与えた魔法に頼る異端者とか何とか」

「ハーメンで捕まってたフぉルクマーさんが言ってたのと一致するね。魔法までダメとは言ってなかったけど、神さまを嫌ってたらそうなるよね……」


 フぉルクマーさん、神さまへの愛が深かったがために暴走してしてしまった人です。私達に、自分と同じ考えの人達と対話をして欲しいと願い、今でも執行を待っています。私達は、約束を果たしているのでしょうか。デぃモヌの人達も神さまの愛が欲しかった人に含まれるのでは、ないでしょうか。


(解決に時間がかかる問題は、後にしないと……私達に後があるかは分からないけど……時間がかかればかかる程、私達の情報が流れてしまう)


 神さまによって人生を大きく変える人達は、言ってしまえば”巫女”と同じです。私の様に良い方向に行くとは限りません。むしろこの旅で会った人達の殆どが……。


 私達に後があるとするならば、出来る事が一つあります。真実を話す。全ての人にです。正しい神さまと”巫女”を、後世に紡いでもらいます。悲しき歴史はここで断つ。



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