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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
6日目、私は弱かったのです
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二人のギルド生活



「まずは、準備をいたしましょう」


 そういってアリスさんは薬屋にむかいます。


「アリスさん用の薬?」


 回復魔法を自分にかけることはできません。自分自身に魔法をかけられるのは、私だけです。


 そして私は、回復魔法の適性も低かったです。


 それこそ、針で刺した程度の傷を治すのに一分以上かけてしまうほどに。


「はい。それと生命剤です」

「生命剤?」


 生命剤。聞き覚えありませんね。栄養剤……? 口に手をあて思案します。


「私の怪我は、薬で応急手当します。生命剤は、魔力回復用の薬ですね」


 応急手当ですませ、街の医者に見せるとのことです。そんなこと……させません。


「魔力回復用の薬、あるんだ」

「はい。これも補助程度ですが、ないよりはいいはずです」


 魔力の消費は、階級が上であればあるほど少なくすみます。ですけど、魔力は無限ではないので。回復薬がいると。


 備えあればー、だね。備えは大事です。でもあくまで、()()です。


「……アリスさん」

「はい、リッカさま」

「私の回復魔法は使い物にならなかったから……。だから守るよ。薬が必要ないように、絶対に」


 アリスさんの手をとり、微笑みかけます。応急手当の必要がないように、アリスさんを傷つけないように――私の全てを賭けます。


「薬買うのは賛成だけど、前衛は任せて。一歩もアリスさんには近づけさせないから」


 そのための、剣なのですから。


「――もちろん、安心しております。リッカさまなら、必ず守ってくださると」

「ですから、リッカさまも安心してください」


 私の手に、アリスさんも手を重ね、その手を抱きしめるように胸の前に持って行きました。


「私も、リッカさまを守ります。そのための、盾です」


 アリスさんと微笑みあいます。――――ここが、薬屋だと忘れて。


 店員のぽかんとした顔を極力見ないようにしつつ、用事であった薬二種を買い、店を出ます。


 つい、熱くなってしまいました。アリスさんが傷つくとこを想像してしまったからでしょう。


 そんな想像は、現実にはしません。


「では、まずは外にいってみましょう。外の家畜がマリスタザリア化しているかもしれません」


 少し顔を染めたままのアリスさんが提案します。


 マリスタザリア化しても、すぐには人を襲えないように、対応できるように、家畜などは王都内にはいません。


 全て国の敷地外に作るように厳命されています。


「わかった、いつでもいけるよ」


 戦いの予感に、私は顔を引き締めました。



 王都に来た際通った門を通ります。こちらは南門らしいです。その際、あれだけ私を疑っていた検問所の方が私たちに敬礼しています。そんな検問所の方に、アリスさんが質問をしました。


「本日は牧場のほうに人はいますか?」


 検問官は少し疑問に感じていたようですけれど。


「はい。食肉加工が今日だったはずです。人がいつもより多かったと記憶しております」


 快く応えてくれました。お礼を言ったのち、その場を離れます。


「悪意は、感じませんね」

「そうだね、でも……生まれるのは、一瞬だから」


 アリスさんが目をとじ、気配を探っています。


 馬の時の二体目は、悪意を感じると同時に私に攻撃をしかけてきました。そのズレはあまりにも短く、私が完全に油断していたら……。


「これから行く牧場は特に危険区域です」

「うん、悪意の連鎖によって……一気にマリスタザリア化するかもしれない」


 アリスさんの緊張が増します。先ほど検問官に質問した理由は一つです。


 一体生まれることで、人々の負の感情が爆発的に増え、更なるマリスタザリアを生み出します。


 本来なら一つの場所に家畜を集めるべきではないのですけど、これだけ大きな国の牧場。必要数が違いすぎます。


「迅速に、避難誘導。そして一体目をどれだけ早く狩れるかだね」


 人を遠ざけ、一体目を倒す。その姿を見て安心させ。連鎖をとめる。これしか、ありません。


「誘導は私が行います。守りを固めることで、安心感を与えることができるはずです」


 盾の魔法、アリスさんの得意魔法、”拒絶”。


「ですから、リッカさま。どうか前だけに集中してください」


 アリスさんの瞳に、力が灯ります。


「後ろは全て、私が守ります」

「……うん。よろしく、ね」


 私が始めてみる、アリスさんの戦闘。その初戦――。



 牧場に近づくにつれ、ホルスターンや、豚と思われる声が聞こえてきます。今はまだ、悪意を感じません。


「ん? お前たちは」


 そこには、武器屋で私に絡んできた男がいました。


「観光か、お嬢ちゃん」


 性懲りもなく、挑発してきます。しかし、まだ大人になりきれていない私は――。


「アリスさん、もっと奥いってみよう。ここからだと、もしものとき間に合わない」


 無視をしました。


「巫女だかなんだか知らんが、それがどれほど偉いってんだ」


 男が心底くだらなそうに、これ見よがしに肩を竦めました。この世界も一枚岩ではないようですね。どの世界にもならず者はいるようです。


「リッカさま、あちらのほうに加工場があるようです。参りましょう」


 アリスさんが笑顔で応えてくれます。少し、硬い笑顔でしたけど……それは私の怒りを感じ取ったからでしょう、ね。


「ハッ。ごっこ遊びしたけりゃ勝手にしな。ここが戦場にならねぇようせいぜい祈ってろ」


 男はそう吐き捨て、私たちとは逆にいきました。向こうにも何か建物がありますね。注意しておいたほうがいいでしょう。


「あの人、なんであんなに挑発的なんだろ」


 あまり気にしてませんし、この世界の人にそこまで会ったわけではありませんけれど、あの人は少し……凶暴すぎるような?


「……思い過ごしなら、いいのですが。しかし――」

「どうしたの? アリスさん」


 焦っているようにも感じる、アリスさんの思案顔。それに私も、同調してしまいます。


「リッカさま。マリスタザリアは動物だけではないのを、覚えていますか?」

「うん。憑依、だっけ」


 人間は姿をかえないけど、欲望に忠実になる――。


「もしかして、あの人……」


 私は振り向き、さっきの男に目を向けます。


「でも、悪意を感じなかったよ」


 ホルスターンの時もそうでしたけれど、私もアリスさんも感じ取れました。でもあの人は……。


「人間憑依のマリスタザリアを見るのは初めてですから、わかりませんけれど……」


 アリスさんは悩んでいるようです。でも、確信に満ちた目で告げました。


「人間は少なからず、最初から悪意をもっております。だから……私たちでは、マリスタザリアかどうかを、判別できないのではないでしょうか」


 私たちは、()()を感じ取っています。()()()()()()()を感じ取っているわけではありません。


「私たちは、あの人が怒りやすい、挑発的と理解はできるし、悪意も感じ取れるけど。それがマリスタザリア化しているからだとは、わからない?」


 動物に悪意などありません。人を襲ったり動物同士で争うのは、戦損本能による自然の摂理。悪意を持って人を貶めるのは、人間だけです。


 しかし、人間は負の感情を誰もが持っています、何しろ悪意は元々、人間から生まれるのですから。つまり、人間から感じる悪意がマリスタザリア化までいってるかどうか、私達にはわからないのです。


 もしそうだと、困ります。人間への対策が困難に……。


「もしかしたら、本当にただ怒りやすいだけの方なのかもしれません」


 でも……。とアリスさんが心配そうに迷います。だから――。


「アリスさん、私はあの人に”光”を打ち込むよ」


 根付いてからでは、遅い。殺さないと、いけなくなる……っ。


「ただの、怒りやすい人なら、それで怒られて終わり。マリスタザリアなら、治せる。今なら、まだ――!」


 私は選びます。 反転し、あの男性を殴りにいこうとします。物騒とは思いますが、私は”光”の魔法を手と木刀にしか付与できませんから。

 

 しかし、私の後ろ――元から行こうとしていた方から悪意が、発生しました。



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