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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
50日目、お爺さんなのです
736/934

『グラハ』より遠く

A,C, 27/04/14


 

 昨日の分の日記を書き終え、朝食の準備へ向います。


「分かっていますね?」

「う、うん。安静に、だよね」


 マクゼルトと戦った時と違い、私はしっかりと回復しているのです。私の【アン・ギルィ・トァ・マシュ】は一撃こそありませんけど、持続性と操作性に優れているといえます。でも、ゴホルフの件がありますから、余り多用は出来ません。


「リッカさま」

「うっ」

「多くの血と魔力を失った事に変わりはありません。良 い で す ね 」

「ふぁい」


 今日のアリスさんはパワフルです。ほっぺたを抓られてしまいました。聞き分けのない子は怒られてしまうのです。でも痛みがない辺り、アリスさんはやっぱり私に優しいと思います。


「でも……」

「レイメイさんも膝の完治までは安静です。シーアさんも魔力が枯渇したので戦闘はしない方が良いでしょう」

「じゃあ……」

「しかし、リッカさま程ではありません。いつも言っているではありませんか」


 完全に先読みされてしまいました。


 いくら私が一番怪我が多かったとはいえ、私だけ楽をして良いのでしょうか。本当に、体の調子は良いのです。


「そういう事でス。基本的には私たちに任せてもらいまス」

「お前ぇは休んでろ」


 シーアさんとレイメイさんまで……隠れて会話を聞いていたのは知っていましたけど、戦いは必定ですよ?


 色々と言いたい事はありますけれど、先ず言わないといけない事があります。


「シーアさん、ごめん。怪我させちゃった」

「え?」

「エルさんと約束してたのに……」


 チラっとしか見えませんでしたけど、シーアさんもボロボロでした。傷は見たところ残っていませんけど、痛かったはずです。


「いやいや……。リツカお姉さン、それは無理ってものですヨ。いくらお姉ちゃんでモ、私が怪我したくらいで失望とか悲しんだりとかはないでス。むしろリツカお姉さんがボロボロの方が悲しみますかラ」


 そうでしょうか……。シーアさんが言うのであれば、そうなのかもしれません。でも、悲しむと思います。後方支援であるシーアさんが傷つくなんて、ギリギリの戦いすぎました。


「お前、そんな事気にしてたのか……?」

「守るって約束、してましたし」

「十分守ってもらってまス」

(巫女さんより守って貰った指数低いんで、そんな嫉妬しないで下さ――って、今日は睨まれてませんね。 あの後何かあったのでしょうか。不覚でス。見逃しましタ)


 これ以上は意固地です。シーアさんが気にしていないと言うのですから、私からの言葉は、謝罪ではいけません。


「じゃあ、うん。もう一つの方だけ、受け取って」

「はイ」

「アリスさんを守ってくれて、ありがとう」

「当然ですヨ。巫女さんもお姉さんですシ」

「ありがとう、ございます。シーアさん」


 しつこくアリスさんを狙っていた鎖鎌を、シーアさんが弾き続けてくれました。より一層、「シーアさんを守る」という約束を遵守しようという気持ちが強くなってしまったのは、内緒にしておきます。



「レイメイさんの膝は、どうですか」

「あ? ああ、奥義はまだ俺には早ぇな。膝が壊れちまった」


 詳しくは判りませんけれど、膝への負担が大きい奥義みたいです。多用出来ないのは言うまでもありませんけど、奥義って一撃必殺の最後の手段です。簡単に見せるものは奥義とは言えません。


「膝は剣術で重要な箇所です。しっかり治して下さい」

「後遺症は残らねぇらしい。治ったら完成まで付き合って貰うからな」

「はい」


 完成させるという意気込みは伝わりました。私で良ければ練習相手になります。操られていたライゼさんを捕らえたという奥義です。殺意を込めれば、強力な戦力となります。


(睨まれるような事、言ったか? まさか朝の時間を俺に使うからキレてんのか……? 何時もの事だろうが……)

(サボリさんは睨まれてますね。理由は違いますけど、むむむ。一体どんな心境の変化があったのでしょう。気になります)



 とりあえず、重篤な怪我人は出ていない、という事で良いですね。ライゼさんの状態は後ほど聞くとして、シーアさんは私に聞きたいことがあるようです。

 

「結局、リツカお姉さんのアン・ギルィ・トァ・マシュってどんな魔法なんでス?」

「お前等には翼が見えてたって話だが」


 私も確かめながらの使用でしたけど、分かっている範囲でならば答えられます。想いの結晶、アリスさんと私だけが使える魔法です。


「えっと、私が想った効果は……私の魔力を包み込んで翼にするって感じかな。その翼を使って、活歩も震脚も出来るし、魔力砲も出来て、私の魔力を使った技を補助してくれるんだ」


 普段であれば放出されて終わりになるはずの魔力を、貯蔵、運用、再利用出来るといったものです。再利用へ移行する際減ってしまいますけど、魔力を練るという行為は全てカットです。


「使ってから判ったけど、翼が私を自動で守ってくれて、その時守りたいって想った人を守ってくれる。あの時は、アリスさんとシーアさん」


 そんな想いは、込めていませんでした。欲しかったのは相手を倒す力だったのですけど、反撃されても攻撃だけに集中出来るのは嬉しいです。何よりあの翼は、私の手が届かない攻撃も頑張って当ててくれます。アリスさんを守る力としてこんなに素晴らしいものはありません。漸く私にも、守る力が生まれたのです。


「あ、レイメイさんはですね」

「いや、護られたくねぇ」

「男の意地って奴ですカ」

「……」

「つまらない意地ですネ」

「あ゛?」


 決してレイメイさんを忘れていた訳では……いえ、素直に言います。あの時はもう、殆ど意識が朦朧としていました。アリスさんを忘れる事などありえません。そして、私の意地と約束でシーアさんが意識に残っていた状況です。レイメイさんまで気が回りませんでした。


「後は、うん。翼が無くなるけど刀に込めたり、推進力にしたり出来る、くらいかな?」

「はい。私には、そう見えました」

 

 アリスさんのお墨付きがもらえました。自分では解らないところも、アリスさんなら解ってくれます。


 問題があるとすれば、刀に”強化”を通すのも、【アン・ギルィ・トァ・マシュ】を通すのも、血が必要になるってところですか。他で代用出来るとは想うのですけど……。毎回血をつけないといけないなんて、ちょっと……困ります。


「巫女のに比べて地味だな」


 レイメイさんがとんでもない事を言いました。魔法に地味とか地味じゃないってあるんですか。


「同じアン・ギルィ・トァ・マシュでも効果は別物ですネ。地味かどうかは別にしテ、切り札でス」

「地味……」

「魔力色が見えている私達にしてみれば……地味とは程遠いですけれど……」

「ですネ。巫女さんなんテ、天使って呟いてましたヨ」

「シ、シーアさん!!」


 天使。そう評してもらえるのは嬉しいと、思ってしまいます。最近は良い印象のなかった言葉だけに、純粋な褒め言葉として受け取れたという喜びもあるのでしょう。


 でも、自分で言うのもなんですけど……私の魔力を固めた物なので、真っ赤な翼だったはずです。天使より、悪魔だったかも……。


「と、とにかく。乱用は控えるべきです。私のアン・ギルィ・トァ・マシュにしろ、です」


 先程の、レイメイさんの奥義の話にも関係しますけれど、手の内を曝すのは今後避けねば。


「ゴホルフの仕事は、全部完遂したと思って、良いよね」

「はい。リッカさまを追い詰め、リッカさまと私の戦力と行動を量り、その事実を知らせる事で縛っているのです」

 

 反応出来ない速度で斬る事で押し込みましたけど、ゴホルフは私の動きを完全に追えていました。もしあれが、マクゼルトや魔王にも適用されるとなると……。


「もし……この情報まで魔王の手に落ちていれば、大変な事に……っ」


 アリスさんの手にあるのは、ゴホルフが魔王へと報せようとしていた物らしいです。私の【アン・ギルィ・トァ・マシュ】の考察なんかが書かれています。殆ど正確な情報が書かれているだけに、阻止出来たのは僥倖でした。


 だから、せっかく阻止できたのに私が乱用してしまえば……より多くの情報を見せ付ける結果となります。ゴホルフに一回しか使っていない私の魔法。次見せるのは、魔王となるでしょう。


「航路や行動理念、戦闘様式に最大火力。どれも知られていると考えるべきですネ」

「警戒されてるとは思ってたけど、ここまでなんて……」


 相手を調べるなんて、戦いにおいては当然の行為です。でも、ここまで徹底されているなんて思いませんでした。こんなの、格下が格上と戦うときの執念です。私達の方が格下なのは確実です。でも魔王は、格上という立場で見ていません。同格、もしくは……何をするか分からないという点で、格下とすら……? 


 認識が、甘かったです。


「リツカお姉さんと巫女さん以外に魔王を倒す手立てがありませんシ、警戒するのも分かりまス」

「だがよ、メルクで会ったとかいう魔王の欠片っての相手に、全力出してやっとだろ」

「ゴホルフの言葉を信じるなら、トゥリアから警戒を始めてます。後、多分……あの時に魔力砲を最初に見せたので、警戒を生んだ可能性があります」


 まだ未完ではありましたけど、魔王の攻撃から自身を守るために使いました。その後マクゼルトとの戦いで、少しくらいなら使えるかなって物になったわけです。使えるようになってからは、ガンガン使っていましたから……研究されているでしょう、ね。


「それニ、あの時はリツカお姉さんにアン・ギルィ・トァ・マシュがありませんでしタ。今の警戒度はその時の比ではありまン。どうにか優位性を持ちたいところでス」

 

 詳細は分からずとも、多分……どこかで見られてましたよね。私が成長したのは見られてしまったと、考えておきましょう。出し惜しみはしませんけど、乱用は出来ません。成長前と変わらない戦法を取るべきですね。


「優位に立つには、リッカさまと私が分断されないように気をつける必要がありますね……」

「魔王でもお二人を相手にするのは避けたいようですしネ。こちらは分断対策を考えなければいけませン」


 私はいつでも、アリスさんは傍に居て欲しいと思っています。でも、戦いの中で我侭なんて言ってられないのです。それに、今回の様に……分断しなければいけない戦いも、予想されます。


「一番良いのハ、別れなければいけない時は巫女さんとリツカお姉さんが一緒にっていうのが良いでス」

「ライゼみてぇに操られでもしてねぇ限りは、俺とチビで対処出来るだろうがよ」


 ただ倒すだけならば、それが良いのでしょうか。いいえ……それも良し悪しです。私は斬るのが仕事です。アリスさんは、守り、治し、黒の魔法へ対処する、と多くをこなせます。そうなった時、私とアリスさんが分かれることの方が多くなります。


「それは、その場にならないと、ね」

(魔王相手での話なら、分断なんて……意地でも跳ね除ける。例え人質を取られても……っ)


 つまりは、出たとこ勝負です。魔王との戦いだけは、明確なビジョンを持っています。それ以外は、柔軟な対応を。分断だって、視野に入れています。幹部の一人を斃せたからといって、こちらが優位という訳ではありません。優位性はこれから作っていくのですから。



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